提督と異様な艦娘達   作:ポン酢放置禁止区域

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毎回読んでくださって、さらには評価までつけてくださりありがとうございます。
少し遅くなってすみませんでした。
今回は変なところできってしまいましたし、毎回おかしなところしかないかもしれませんがよろしくお願いします。

9/21 若葉の戦闘シーンを少し訂正しました。
   明らかに山城と比叡の艤装の大きさで横並びになると若葉のダブルラリアットは届か   ないと思ったためこうなりました。すみません。



第六話 徹底的に骨まで残さず

 勝利を確信していた反逆者は唖然として立ち尽くした。

 確実に爆破したはずなのに生きて無傷、しかもその腕に一緒に巻き込まれた大淀を抱えている。

 後ろに並ぶ八人の艦娘達ももちろん無傷、川内に至っては眠そうにあくびをしている、まるで爆発なんてなかったかのような振る舞いは死んだと思っていた艦娘達に衝撃を与えた。

 

「敵とは口は利かない、か、いい心がけだ」

 

 声も出ない爆破の犯人達を褒めるような口ぶりの青悟、しかしその表情は敵に対して向ける殺気立ったモノで、相対した艦娘達は、反逆者でない者でさえ震えあがり、気の弱い艦娘が卒倒する。

 青悟の後ろに並ぶ八人の艦娘も同じくそれぞれの感情を含んだ視線を敵になった艦娘達に向けた。

 その視線に先頭に立っていた天龍と龍田は思わずたじろぐ。

 

「力の使い方を今ここで見せてやろう、敵対したくない艦娘は巻き込まれたくないのならスペースを開けろ」

 

 静かに青悟が言うと艦娘達は黙って従い迅速に食堂の端に避けた。

 それによってできた輪の中には明らかに選択を間違えた愚か者が残された。

 

「天龍、龍田、摩耶、曙、山城、夕張、衣笠、祥鳳、大井、霞、比叡、睦月、長月、瑞鶴、翔鶴、だな、覚えたぞ」

 

 顔を見て、名前を呼び、明確に敵と認めながら青悟は大淀を床に降ろした。

 大淀は色々と起こりすぎて思考停止したのか、固まっている。

 

「どうした? 艤装を展開しろ、敵なんだろう?」

 

 青悟に言われてやっと天龍達は我に返る、その体が光に包まれ、青悟に言われた通り艤装を展開し始める。

 そうしている間に青悟の前に八人の艦娘達が並んた。

 

「ひい、ふう……青悟、何人いるんや?」

「十五人だ」

「十五人やと八人で割ると足りないなあ」

『じゃあ球磨はパスしていいクマ? あんなに強そう艦娘に勝てる気なんて全然しないクマ』

「いやいや、おバカちゃんがどうとか言うてたやろ」

「わたしは姉さんにつくから譲ってもいいですよ」

「それやと一人余るなあ、まあそこはほっといても誰かがやるからええか、二人ずつでええな?」

 

 緊張感のない打ち合わせをしながら各々の艤装だの得物だのを取り出して、敵が艤装を構えるのを待った。

 その艤装の展開速度からして、練度の違い、力の差がわかる。

 

「あ、あの、聞いてもよろしいですか?」

「何だ?」

 

 腰が抜けて立てない大淀が、青悟を見上げて、おずおずと質問する。

 それを受けて青悟が大淀に視線を投げた。

 

「あの娘達はどうなるんですか?」

「徹底的に潰す、敵なら骨すら残さん、敵なら、な」

 

 光が消え、艤装を構えた敵に向かって八人の艦娘達は一斉に飛び出した。

 

 

 

 

「全航空隊、発艦!」

 

 敵である翔鶴の号令と共に瑞鶴と祥鳳も合わせ、三人の艦載機が放たれる。

 対し、八人の艦娘の中で唯一の軽空母、龍驤は艦載機を放たない、どころか飛行甲板になる大きな巻物は紐で固く結ばれており、それを肩に担ぐように持っていた。

 向かってくる艦載機に対し、飛んだのは川内だった。

 艦娘にしても異常な脚力は艦載機を余裕で飛び越え、艤装としては召喚されないはずの忍び刀を取り出して天井に刺し、掴んでぶら下がる。

 そして今度は天井を蹴り、艦載機を踏みつける、軽い身のこなしで艦載機を踏みつけながら、砲撃、さらに艦載機を瞬く間に撃墜していく。

 砲撃の間に黒い何かも飛んで行くのも見える。

 

「あれは何ですか?」

「クナイだ」

「クナイって言うとあの忍者が投げる……あれ? え? どういう……」

 

 川内はニンジャである。

 とある鎮守府で改二となった彼女はとあるアイドルな妹に「忍者みたいでかっこいいね」と言われ、忍者とは何か、調べた結果、ニンジャに憧れを抱き、志し、ニンジャとなった。

 ただの艦載機ごときでニンジャを落とせるわけがなく、その疾風の動きについて行けず全ての艦載機が撃墜される。

 さらにはクナイが翔鶴達の手にある艦載機を放つための弓の弦を切り無力化した。

 

「気合! 入れて! 行きます!」

 

 空母以外の艦娘達は砲撃を行う。

 直進してきている七人に砲撃を当てる事は容易だ。

 

「頭が高い、と前にも言ったぞ?」

 

 だが、利根と筑摩を狙って放たれた砲弾は届かず、途中でおかしな軌道をえがいてあらぬ方向に飛んでいく。

 まともに砲撃を受けたのは残りの五人だが、

 

「痛いな、だが悪くない」

 

 若葉は受けても平然としている。

 

「痛いです~」

 

 まるゆは涙目になるがどこにも損傷がない。

 

「でぇりゃあ! どっせい!」

 

 龍驤は持っていた巻物を振り回し、砲弾を打ち返す。

 明石と球磨は直撃して吹き飛ばされる。

 が、明石はボロボロになりながらも懐から黄色い液体の詰まったアンプルを出して首に刺して注入して立つ。

 その体の傷が逆再生でもしているかのようにみるみる治っていった。

 

「うぇひひひ、キタキタキタあああああ」

 

 その目は完全に薬物中毒者のイっちゃっている目になっているが。

 球磨の方はというと服は焼けているがあまり傷は深くないようで、ゆらりと立ち上がる。

 

『いやあ、あってよかった少年ジャンプ、球磨の命を救ってくれるとは有能クマ』

 

 その手には焼け焦げてボロボロになった週刊漫画誌、当たり前だがそんなもので砲撃を防げるわけがない。

 

「何や! こんな豆鉄砲効かんわボケ! 死にさらせ!」

 

 龍驤が巻物を投げる、それを避けようするか、撃ち落とそうとするか、どちらにしろその間に七人が敵の元へ到達する。

 巻物を頭に受けた摩耶が衝撃で脳震盪を起こして膝をつく、そこに巻物をキャッチした龍驤が追い打ちで膝蹴りを食らわせて完全に意識を飛ばした。

 そこを狙い打とうとする比叡と山城の砲撃は射線に立ちふさがった若葉によってさえぎられた。

 戦艦の高火力の砲撃を食らって若葉の制服は破けるが、吹き飛ばされる事は無く、仁王立ちのまま微動だにしない。

 

「まだまだ、もっと来い!」

 

 どころか腕を広げて挑発してくる、

 

「言われなくても、撃ちます!」

「主砲、よく狙って、撃てえーー!」

 

 何発も何発も砲弾が撃ち込まれる、だが若葉はかわす事は無く、受け続ける。

 さすがに戦艦の力に少しふらつくが、若葉はその場から動かない。

 

「っ! 弾薬がもう!」

 

 撃ち続ければやがて終わりがやってくる、逆に言えば駆逐艦であるはずの若葉が戦艦二人の攻撃を受けきったという異常な防御力を示している。

 山のごとき不動の意思に周囲の艦娘達は息の飲む。

 防御が終わったなら次は攻撃をする番。

 若葉はしかし、攻撃をせず、まず両腕を突き上げ、ぐるりと肩を回す。

 

「わ・か・ば! わ・か・ば! わ・か・ば! わ・か・ば!」

 

 その雄々しい姿に観客と化した艦娘達は自然と若葉の名前を叫んでいた。体も艤装も小さい駆逐艦が大きな戦艦を打ち砕く、その光景に在りし日の日本の姿をみて、軍艦の魂を持つ艦娘達は興奮したのだ。

 その歓声を受けて若葉は目を見開く。

 

「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 普段は冷たく静かな若葉の雄たけびが食堂の中に響き渡り、若葉は飛んだ。

 距離を一気に詰め、巻き付くようなラリアットを比叡に床に倒す。

 大きな艤装が邪魔になり、反応が遅れた山城が振り向いた瞬間に強烈なジャンピングニーバット、たまらずふらついたところを比叡の横に引き倒した。

 だがまだ終わらない、着地した若葉はさらに倒れた二人に振り返らず飛ぶ。

 艦娘の脚力で高い中空に身を躍らせた若葉は体をひねり、空中で頭を下にして二人を見定める、その芸術的なカーブを描く体に艦娘達は真昼なのに夜空に浮かぶ月を見た。

 高さは威力となり、動けない二人に襲い掛かる。

 ムーンサルトプレス、比叡と山城はやられたが、こんなに美しい技でやられたのだ、幸せだったであろう。

 

 立ち上がった若葉が腕を上げる。

 

 熱をはらんだ大歓声と拍手が食堂というドームを満たした。

 

 

 

 




次回予告  第七話 最後の選択
若葉の活躍により、艦娘達の心は青悟側に傾いた。
圧倒的な力を見せつけられて蹂躙される天龍達はしかし、執念により、八人の艦娘の間に隙を見て、青悟を殺そうと狙う。
運命の時、青悟の、反逆した艦娘達の運命はいかに

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