提督と異様な艦娘達   作:ポン酢放置禁止区域

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はっきり言ってタイトルで内容が分かってしまいますね。
それはそうと読んでくれてありがとうございます。
おかしい所しかないかもしれませんが楽しんでくれたら幸いです。
冒頭にちょっぴりエッチでコメディな話を挟もうかと思いましたが失敗したので消えました。



第四話 決めるのは自分

 着任式から時は経ち、次の日、執務室では、青悟が書類にペンを走らせている。

 

「ん? もうこんな時間か、気づかなかったな」

 

 時計を見ればマルサンマルマル、青悟が早起きなわけではない、寝ずに書類仕事で徹夜しただけだ。

 

「少し眠るか、その前に……」

 

 少し伸びをして椅子から立った青悟は執務室から廊下に出た。

 長時間のデスクワークの間、一度もお手洗いに立っていなかったので、生理現象、尿意を催したのだ。

 暗い廊下は静まりかえっている、草木も眠るなんとやら、不気味さがある。

 青悟についている艦娘達は今ここにはいない、一人の足音が廊下に響いている。

 その途中、まっすぐ続く廊下の一つの分岐点、左への曲がり角が見えたあたりで青悟は足を止めた。

 

「そこにいるのだろう? 出てこい」

 

 角の方を見て青悟は声を出す。

 暗くて、何も見えないが、青悟はその向こうにいる気配を感じ取っていたのだろう、数人の艦娘が姿を現した。

 いずれも怒りを宿した視線で青悟を見ている。

 その中には執務室でやられた天龍と龍田の姿もあった。

 手に手に武器を持った艦娘達は青悟の前に立ちふさがる。

 

「天龍、龍田、摩耶、比叡、霞、睦月、長月、か」

 

 その容姿を見て、青悟はこの鎮守府にいる艦娘のリストを思い出して誰が誰かを判断し小さく呟く。

 天龍が手にした刀の切っ先を青悟に向けて口を開く。

 

「今ならお前を守る艦娘はいねえ、フフフ、怖いか? 泣いて懇願しても許さねえ」

「口はいいからかかってきたらどうだ」

「言われなくても!!」

 

 天龍が飛び出し、それに続いて他の艦娘達も向かってくる。

 突進力の乗った突きを繰り出す天龍、喉を狙って放たれたそれを天龍は確実に入ったと思った。

 

「貴様等が反発する事を私が予想していないと思ったか?」

 

 思っている時には天龍の視界から青悟は消え、懐に入られていて、みぞおちに拳が入っていた。

 突進の勢いも利用され、骨の折れる音が響く。天龍

 

「な、あっ」

「当たり前だろう? 艦娘を制圧できなくて提督はやる事は出来ない」

 

 振りぬかれた拳で吹き飛ばされた天龍は龍田と霞を巻き込んで倒れた。

 それを躱して摩耶が飛ぶ、殴りかかる。

 

「ぶっ殺してやる!」

「温い攻撃だ、遅い」

 

 が、青悟は回し蹴りを食らわせ、摩耶を壁にたたきつけた。

 摩耶が動かなくなったのを見てから、残った二人、長月と比叡に視線を向ける。

 二人は瞬間の内に制圧された仲間達を見て足を止め、艤装を展開し、砲撃を構えを取っていた。

 

「気合! 入れて! 行きます!」

「いい気合だが中身が伴っていないな」

 

 撃とうと照準を定めようとした時、青悟が素早く横に飛び軍服の懐から拳銃を抜き撃つ、乾いた音が数回、残りの二人もその場に膝から崩れ落ちた。

 

「麻酔弾だ、死にはしない」

 

 懐に拳銃を戻しながら青悟は言い、少し軍服の埃を払うかのように叩くと、倒れる六人を通り過ぎる。

 

「夜間に寮を抜けた罰だ、そこで寝ていろ」

 

 言い捨て、六人を置いて青悟はその場を去った。

 

 

 

「というような事があったな」

「おやおや、それはそれは、へっへへ、怪我はありませんでしたか? 修理しておきますか?」

 

 ヒトロクマルマル、執務室で青悟は遅めの朝食をいただいていた。

 ソファに座り、サンドイッチを持つ青悟の正面にはピンク色のおさげの艦娘、明石。

 不健康そうな顔色と目の下に刻まれたクマ、そしてセーラー服の上から着ている白衣は普通の明石と全く違う。

 不気味な笑いを浮かべる猫背の明石は、白衣の内ポケットから紫色の錠剤の入った透明なパッケージを取り出し、青悟に差し出した。

 

「一昨日作った新鮮な新作ですよ、消費期限が切れない内に使ってくださいね」

「特にけがをしていないから使う事は無いと思うがな」

「あってよかった明石印の修復剤、ですから」

「ありがたく貰っておこう」

「いえいえ、いつもお世話になっていますから、うひひ」

 

 普通の艦娘の明石と言えば、工作艦として傷ついた艦娘を修理したり、装備を強化したりするが、この明石はそれらが出来ない、その代わりに調薬の技術はあった。

 ちなみに青悟が使った麻酔弾に込められている麻酔薬も明石特製だ。

 薬を懐にしまい、青悟はコーヒーを一口に飲み干して立ち上がる。

 

「他の奴らはどうした」

「利根と筑摩はどっかいったで、球磨と川内はまだ寝とる、まるゆは知らん、うちはここにいるで」

「若葉もだ」

「当たり前ですけど、うひひ、わたし、明石もここにいますよ」

「まるゆはいつも通りここにいる、大丈夫だな、ありがとう」

 

 軽く見まわすと執務机に腰かける龍驤が手を上げる、それに続いて若葉と明石も手を上げる。

 確認して一つうなずくと青悟は執務机の椅子に着いた。

 そして、書類を取り出して仕事にとりかかろうかという時、ドアをノックする音が響いた。

 

「来たか、誰だ? まあいい入れ」

 

 青悟はそれを聞き、少し笑みを浮かべながらドアの向こうにいる誰かを呼んだ。

 ドアが開く、その向こうにいたのは、昨日にも顔を合わせた見覚えある艦娘、陸奥だった。

 

 

 

 

「質問があるなら来いって言っていたから来たわよ」

「そうか、昨日の今日でよく来れたな」

 

 執務室の中に入り、執務机の前に立った陸奥に突然プレッシャーが襲い掛かる。

 龍驤と若葉が陸奥にただ視線を向けていた、それだけで陸奥は一瞬身震いをして冷汗が噴き出す。

 が、冷静に務め、背筋を正す。

 

「怒りを、憎しみを受け入れるって言っていたでしょ? あのくらいの事は流してよ」

「………いい冷静さだ、夜中に襲ってくる誰かとは大違いだな」

 

 その答えに青悟がどう思ったのか、表情からはわからないが、プレッシャーが消える、陸奥はへたり込みそうになったがこらえて青悟を見据える。

 

「いきなりこれってずいぶんな挨拶ね」

「貴様等の挨拶と比べれば可愛いモノだろう? まあいい、座れ」

 

 青悟が手で陸奥の後ろを指す。

 見るといつの間にか後ろに椅子が配置されていて陸奥は驚き目を見開くが、気を取り直して椅子に座った。

 

「それで、質問とは?」

「いくつかあるのだけどいいかしら?」

「かまわないぞ」

「そう、じゃあまず一つ目から」

 

 陸奥は深呼吸を一つした。

 昨日、あの着任式が終わった後、すぐに食堂で会議が行われた。

 普通の利根ではありえない謎の力で平伏せられ、青悟の話もあり、艦娘達の心は乱れに乱れていた。

 力を求める艦娘、やはり人間を信じる事は出来ない艦娘、青悟に恐怖を抱く艦娘、意見は割れ、会議はかなり白熱し、ついにはやってられないと飛び出す艦娘も出てきて大騒ぎになったが、最後には青悟という男の人間性を見極めてからまた会議を開く、という事でそのために青悟にする質問を募り、今この場所にいる。

 この質問の答えのいかんによって自分たちのこの先を決めていくのだ、その答えを一番最初に受ける陸奥が緊張しないわけがない。

 

「力を求めるなら力を貸そう、と言っていたけれど具体的には何をしてくれるのかしら」

「貴様等の練度に合わせた演習や出撃の計画を立てて鍛える、もちろん龍驤達にそれと知識を与える為に私が自ら授業を行おう、それがいらないなら書物をいくらか取り寄せよう、大本営もこの位なら融通してくれるであろう」

 

 まるで質問に対して元から答えがあるかのような即答を青後はする。

 青悟の表情からは読めないが、少なくとも嘘はついていなさそうだと陸奥は判断した。

 というより陸奥は人間に怒りを感じているものの、昨日の青悟の行動だったり、言動を見て、陸奥はこの人間は一応信頼しても大丈夫な人間だと判断していた。前任と比べてだが。

 

「次、もう戦いたくない、出撃したくないっていう艦娘もいるんだけどその娘達はどうするの?」

「戦いたくないなら別の仕事を回そう、事務業務だったり、食事当番だったり、掃除だったり、部屋に引きこもって何もしない奴を養う程私は優しくはない」

「人間に心を傷つけられて引きこもっている娘もいるのだけど?」

「心が傷ついているからってニートを容認するわけにはいかない、多少問題を起こしたとしても外に出す、鎮守府内は修理すればいいしな」

 

 またしても即答。

 人間社会でも、引きこもって何もしなくても生活できるのは世話をしてくれる人間がいるからで、働かざる者食うべからずという言葉にもある通り、傷ついている者には厳しい事だがこればっかりは世の理だ。

 

「じゃあ、次、だけど……」

 

 陸奥は一つ息を吐く、次にする質問は陸奥にとっても、艦娘達にとっても大事な質問なのだ。前の質問は陸奥の中でもある程度予想できるものだ。信頼しても大丈夫と思った時点で予想できる。次が大切なのだ。陸奥自身、この答えのいかんによってこの男を提督と認めるかどうかを決めようとしていた。

 

「あなたは艦娘を人間と見ている? それとも兵器として見ている?」

「……」

 

 ここまで即答していた青悟がここで少し黙って、陸奥の顔を見つめた。

 これが大事な質問だという事が直前の陸奥の反応でわかっているのだろう。

 しかし、本当に少しだけ黙っただけで、青悟は口を開く。

 

「それは私に聞く事ではなく貴様等が決める事だろう? 艦娘は艦娘だ、どちらか、とかいう問題ではない、兵器のような力を持った人間か、人間の容姿をした兵器か、その選択は自分でやる事だろ? 私はそれを受け入れる」

「………そ、そう」

 

 陸奥は予想外の答えに思考が停止したが、一応相槌を返した。

 しかし、考えればそうだ。陸奥は、艦娘達は、提督に従って戦い、生きてきた。だが艦娘は自分の意思を持っている。なのに自分の存在を他人にゆだねるのはおかしいのではないか。

 その後も質問は続いたが、陸奥はこの答えで青悟に対する態度を決めた。

 

「ありがとう、質問はこれで終わりだわ」

「そうか、それならよかった」

 

 質問を終えて立ち上がる陸奥はドアを開く、そして振り返り、

 

「昨日は言っていなかったけれど、これからよろしくね、提督(・・)

 

 そう言って執務室から出て行った。




次回予告 第五話 求めるか求めないか、あるいは……
決断の時が迫り、思い悩む艦娘達。悩む間にももちろん時間は過ぎ、決断の時がやってくる。艦娘達はどんな判断を下すのか。食堂に青悟が来る時、艦娘達の答えが出される。

次回も期待しないでお待ちください。

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