提督と異様な艦娘達 作:ポン酢放置禁止区域
また、行き当たりばったりの思い付きで書いているのでめちゃくちゃであります。
ご容赦ください。
厚い雲に覆われた暗い日、大本営のいくつかある執務室の一つにて、大将である佐々木は艦娘の電と面会していた。
この電は先日佐々木が異動を言い渡した尾上 青悟の鎮守府にいた艦娘であり、鎮守府の解体により、大本営への配属となった艦娘達の一人である。
「いきなり呼び出してすまんのぉ、まあそこにかけてくれ」
「は、はい! 失礼します」
電はとても緊張した面持ちで椅子に座る。先日転属して来たばかりでいきなり階級の高い人間に呼び出されたのだ、緊張はするだろう。
「そう硬くならないでもっと力を抜いていいんじゃぞ? と言っても緊張する気持ちはわからないでもないか、儂も若い頃にこんな風に呼び出されて――」
「佐々木提督、今はそんな事を話す時間じゃないですからね?」
「おおっとそうじゃな、本題に入ろうか」
佐々木が懐かしそうに過去話をしようとするのを察知した大淀がそれを制して先を促した。佐々木は優しい人間なのだが話がやたら長い事を大淀は一緒にいて嫌というほどわかっているのだ。普段の世間話だったら聞いてもいいが、今はそんな話をする場ではない。
青悟についての情報を実際に鎮守府に所属していた艦娘に聞こうとしているのだ。
先日二人がみた青悟の印象はあまり良いモノではなく不安が多かったので、艦娘に対しても二人に対してとった態度であったり、その他悪いことがないか調査し、その情報でどういう風に対処するのかを決めようというワケだ。
「君の提督だった尾上中佐の事を聞かせてくれないかね?」
「え? 提督が何かしたんですか?」
「いいや、そんな事は無いから安心してほしい、実は――」
途端に心配そうな顔になる電を安心させるように佐々木は微笑む、そして電に青悟に抱いている不安などの事情を正直に話した。
「という事なんじゃが、教えてくれるかね?」
「そういう事なら、えっと、司令官さんは確かに怖くて無愛想な人です、でもわたし達の事をしっかり見ていて、的確な指揮をしてくれるいい人なのです」
電は安心してそう話す、その顔に嘘偽りはない。
「でも、初対面の人はとっても怖がるのです、天龍さんはその……粗相をしてましたし……」
「「えぇ……」」
不安を顔に出すまいと思っていた佐々木もこれには声を漏らさざるを得なかった。
初対面の人間にそんな印象を与えてしまうのはまずいのではないか、佐々木と大淀は一度アイコンタクトを取った。これは早急な対応が必要だ、という判断を一瞬で交わしたのだ。
「そうなると問題があるのぉ、すまないね、君の慕っていた提督が危険な目に合うやもしれない」
佐々木は電に頭を下げた。過去の自分はなぜあんな方法をとったのかと自分を責める。たとえ忙しくて手が回らなかったとしても一人一人しっかり面接をしておけば、こんな事になるならいっそ自分が言った方がよかったのではないか、とまで思考は暗い方へ落ちていく。
青悟が来た時に多少強引にでも断らせればよかったのだ。それでなにか悪評が断たないように佐々木が対処すべきだった。が今や遅い。
佐々木は青悟が艦娘に殺害され、さらにあの鎮守府の艦娘達と人間の仲が悪化し、鎮守府ごと艦娘を処分という最悪な事態を予想していた。
「いえ、頭を上げてください、司令官さんは絶対に大丈夫なのです」
しかし、青悟が危険な状況だというのに電は全く心配せず落ち着いた様子だった。
「絶対……とは?」
電の様子は佐々木と大淀には奇妙にしか見えなかった。二人の頭の中を疑問が支配する。何故こんな状況でこの電は平然としていられるのか、と。
「司令官さんとあの艦娘達ならどんな事があろうと乗り越えてしまうのです、電がその隣に立つ事が出来ないのは残念ですけど」
言われて、佐々木と大淀は青悟が異動の為に提出した書類を見た。提督の異動に伴い何人かの艦娘を随伴艦として一緒に連れて行く事がある。それは特別珍しい事ではない。長年連れだって深い関係になっている提督と艦娘の為に許されている。
青悟もその制度を利用していた。随伴艦は八人。この八人は青悟の報告によると特におかしい事は無い。だが、電の言葉が本当なのだとすると何かあるのかもしれない。
どこかで雷が落ち、三人の鼓膜を揺らす。雨が降って来た。
青悟と龍驤は新しい鎮守府に着き、中に通されて執務室の方に向かっていた。
案内するのは大淀、大本営にいる者とは別人であるがその容姿はよく似ている。
艦娘は軍艦の魂と記憶を身に宿しているのだが、同じ軍艦の魂と記憶を身に宿していると容姿もそっくりになる。これが何故なのかはまだ解明されいない。
「何やろ、嫌な感じがすんな」
廊下を歩きながら龍驤はポケットから煙草を取り出し、口にくわえた。
「この状況で貴様はよくこの状況で吸う気になるな、我慢しろ、せめて執務室に着いてからだ」
「んな堅い事言わんといてよ、うち二、三日ライター買ってなくてやってないんやから……その顔は絶対無理って感じやな、いい加減禁断症状でイライラするんやけど、さっきもウノでぼろ負けしたし」
先日と同じようなやり取りで龍驤は舌打ちを一つし、ライターをポケットにしまった。煙草はくわえたままだ。
大淀は特に振り返る事は無く、静かに機械のように淡々と歩き、二人を先導する、二人の今のやり取りにも何も反応を見せなかった。
そうして、とある大きな両開きのドアの前に辿り着く、ドアの横にかけられた「執務室」の文字からここは明らかに執務室だ。
「ここが執務室です、ではわたしは少し用事があるのでこれで」
「ご苦労、また用があったら呼ぶ」
礼を言う青悟に会釈もせず背を向けて大淀は去る。龍驤はそれを見てまた舌打ちをした。
「あいつ失礼な奴やな、いくら人を好かんっちゅうても最低限礼儀を忘れんなや、嫌いやわあ」
「ここで怒ってもしょうがないだろう? 執務室で一服しろ」
「……そうさせてもらうわ」
龍驤が前に出てドアノブに手をかけてドアを開く、とその時だ――
「今だ! 撃てえええええええええ!!!!」
開こうとしたドアの向こうから叫び声と爆音、そして放たれた砲弾が爆発を起こし、龍驤と青悟を飲み込んでいった。
執務室の中にいた艦娘達は緊張した面持ちで煙の中を見つめている。
この鎮守府に人間はいらない、その気持ちで団結した艦娘達は新しく着任した提督を排除するために作戦を立てていた。
まずは大淀が執務室の前まで目標をおびき寄せる、そして第一陣として待ち伏せをしている艦娘がドアが開くタイミングで砲撃、負傷したところを廊下の両側から挟み撃ちにして逃げ道を失くして殺す。艦娘が何人かついていても数ではこちらの方が上回っているのでまず負ける事は無い。
煙が晴れた所でまた砲撃音、廊下の両側から来た艦娘達が砲撃を始めたのだろう。
執務室の中に逃げ来たとしてもこちらにはまだまだ弾薬がある、完璧な作戦だ。
作戦の主導者である艦娘、長門はしっかりと目を凝らして敵の影が現れないかをうかがっていた。
やがて砲撃音が止み、静寂が訪れる。
「やっt」
「その言葉は禁句よ」
長門の言葉は横にいた艦娘、陸奥に言葉を遮られた。
この二人は姉妹艦であり、この鎮守府でも屈指の実力者である。前任の提督がいなくなってからは二人が主体となってこの鎮守府の艦娘の心のケアをしていた。だが、数日前に大本営から来た新しい提督の着任通知に鎮守府の艦娘達はトラウマを呼び起こされ、一部の者は引きこもったり、倒れた。また、あの地獄を味わう事になるのか、嫌なら抗うしかない。そう判断し、皆を先導したのだ。
「これだけやればノープロブレムネー、確実に仕留められたと思いマース!」
外国人のような喋り方の艦娘、金剛が皆を励ますように声を上げる。この鎮守府のムードメーカーである。
ゆっくりと煙が晴れていくそして見えた廊下は砲撃によって焦げていて、青悟と龍驤がいたであろう場所には何も残っていなかった、燃え尽きたのだろう。
それを確認し、長門は笑みを浮かべた。
「やった、私達はやったんだ――ぐぁっ!」
「………え……なが、と?」
宣言する長門、それに続いて艦娘達が喜びの声を上げようとした刹那、乾いた音が一つして、長門の腹を抱えてうずくまった。
呆然とする艦娘達に声が響く。
「そうだな、貴様らはよくやった、いい作戦だったぞ、なかなか良かった、だが詰めが甘いから及第点はやらん」
男の声、艦娘しかいない鎮守府でその声が聞こえるという事はその理由はただ一つ。
「さて、落第のお前らには補習をしてやろう」
青悟が執務室に現れた。
次回予告 元ブラック鎮守府、激震 後編
人間に悪感情を抱く艦娘達によって執務室前で苛烈な歓迎を受けた青悟と龍驤、死んだかに見えた二人は生きていた。そして今、艦娘達が武器を構える時、青悟と艦娘達も動き出したり動き出さなかったりする。
果たして艦娘達に数で負けている青悟達はどんな力を発揮するのか。
期待しないでお待ちください。