提督と異様な艦娘達 作:ポン酢放置禁止区域
今回もおかしい所ばかりですがよろしくお願いします。
ちょっと前回の次回予告と内容が違うかもしれません、すいません。
10/22 新種の深海棲艦のセリフを微修正
不意打ちの砲撃は青悟に直撃する前に二人の間で爆発した。
衝撃と爆風で青悟は吹き飛ばされ、地面を転がったが服が汚れた程度で特に負傷なく立ち上がる。
「青悟ぉ! 生きとるか!?」
響いてきたのは龍驤の声、深海棲艦と青悟の間に割り込んだ影は龍驤に投げられたらしい球磨だった。
『青悟ちゃん、助けに来たぜ……って言いたいところだけどちょっと寝るクマ』
ズタボロになった球磨はそのまま白目を剥いて何回か痙攣した後、死んだかのように動かなくなる。
ここまで龍驤に引きずられてきて、さらには砲弾を食らったのだから当然と言えば当然だろう、この日二度目のやられ姿だった。
続いて龍驤の艦載機が飛んでくる音がする、
「シトメソコナッタ…カ……ウンガイイネ」
艦娘がやってくる事を知り、新種の深海棲艦は一瞬眉間にしわを寄せたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「ジャマガハイッチャッタワ…マタアイマショウ……コンドハシズメテアゲル」
「……今は見逃してやろう、だが、次があると思わない事だ」
小さく手を振り、新種は跳躍して海の中へ飛び込んでいく。その姿は飛び込む際にまた別の姿に変わっているようだが、海に飛び込んで水底まで潜っていったので何になったかは分からなかった。
この闇の中、深海へと潜った敵を追うのは難しい、しかも新型の力がどの程度のモノなのかもわからないし今ここには動ける艦娘はいない、揺れる海から目を外して青悟は気を失った球磨の元へ寄り、具合を見るのだった。
『あ~今日はとっても疲れたクマ、でもよく寝てた気もするクマ』
無様なやられ面はどこへやら、いつもの笑顔を顔に張り付けて球磨はグラスに注がれたコーラをストローで吹いて泡を出す。
パーティーはすでにお開きとなって、青悟はいつもの執務室にいた。
青悟の他にいるのはあの謎の深海棲艦に遭遇した龍驤と球磨、そして夜になると活発になる川内と不気味さが増す明石の四人、若葉とまるゆは執務室と扉一つ挟んだ提督用の寝室で寝ていて、利根は酒の飲みすぎで酔いつぶれ、筑摩はその看病に当たって割り当てられた艦娘寮の部屋にいる。
そのほかの艦娘は明日から始まる生活に不安や期待を抱きながら眠りについているだろう。
傷も汚れもさっぱり消えた制服に多少飛んだコーラを気にせず、球磨はストローから口を放して手に飛んだコーラを舐めた。
「それであの偽物は何やったん? 球磨の格好して何がやりたかったんかは知らんけど」
「この鎮守府に新しく来た私や貴様等の様子を見に来た新種だろうな、艦娘そっくりに変身するとはなかなか厄介だ、おそらく私達が着任する前からこの鎮守府に潜り込んでいたのだろうな、これを見ろ」
言いながら青悟は執務机の上に資料の束を置く。
龍驤はそれを手に取り、中身を見た。
そこには資材の数や艦娘の状態、海域の状況など、青悟がこの鎮守府に入って来る前の報告書のデータの一部が記されていた。
「あー? ん? これがどうしたん?」
あくびをこらえながら龍驤はデータをぱらぱらと適当にめくって目を通していく。
だが特に何の変哲もない、と言ったらおかしいが不正を行っている鎮守府のデータだ。
遠征で回収した資材をわざと少なく報告し、隠した分を他の鎮守府に裏で売り渡して私腹を肥やす、虚偽の艦娘の轟沈を報告し、いない事になった艦娘をまた売りさばいたり、他の欲望やストレスのはけ口にゴミを捨てるように本当に沈める。
そんな悪行の数々が浮かんできて龍驤は思わず顔をしかめた。
その書類を明石は後ろからのぞき込む。
「ん? この提督って少し前に新人だけど優秀で、っひひ、人気もあるって青葉新聞で見たことありますね」
「え? こんなん出とった?」
青葉新聞、それは重巡洋艦の艦娘で、ゴシップ好きな青葉という艦娘が発行する新聞で、全国の鎮守府の青葉から情報が集まり、どこかの提督のインタビューからちょっとした日常のほのぼのした事件、はたまた恋のスキャンダルまで様々な話で彩られる週に一度のお楽しみだ。
明石はその新聞の読者であるらしく、そこで見た記事と、報告書に載っている提督の写真が同じ人物であることに気付く。関係ないが龍驤は活字を追うよりもっぱら漫画欄を読んでいるので覚えていないのは当然である。
「善良な人物だったのにこんな事になって、それで新種の深海棲艦……うひひ、ハニートラップか、それとも力をちらつかせたか、どちらにしろ何かされたのは確かですね」
「そうだ、私もこの提督の評判は聞いていた、そしてあの深海棲艦、謎はすぐに解けた」
「はあん、あいつらもこずるい事するようになったちゅうワケやな」
海から来て、島を襲い、泊地にして拠点を増やし海域を制圧するのが従来の深海棲艦のやり方だった。それと比べて今回の新種の鎮守府の内側から艦娘と人間の間に不和を起こさせる作戦は新しい。
ブラック鎮守府を増やし、艦娘達を人間と敵対させるなんて事をしてくるなんて今の海軍の提督達は予想をしないだろう。
しかもあの新種なら艦娘に化けて鎮守府に侵入し放題、むろん情報も引き出し放題だ。
「急ぎで大本営に報告書を提出しなければならないな」
「もし新種が大本営に侵入したら……うひひひひひ、大変な事ですねえ」
最悪の状況を想像しながら明石は青悟の座る机にコーヒーを注いだカップを置く。
「なにわろとんねん……まあええわ、あの深海棲艦についてよーくわかったわ、そんでどうするん? 放置するんか?」
「どこにいるかわからない現状は放置せざるをえない、それならこの鎮守府の経営と艦娘達の鍛錬が先だ、明日からしっかりとあの艦娘達を鍛えてもらうぞ」
「はいはい、わかっとるって、んじゃ、今日はもう寝るわ、ほな、おやすみ」
「ああ、ゆっくり休め」
『ぐえっぷうう、球磨も寝るクマ、龍驤ちゃん、一緒に寝る?』
「キモイ事いうなや、頭おかしくなったんか? それとも飲んだコーラがコークハイやったんか?」
大体の事情を聴いた龍驤はあくびをしながら執務室を出て、球磨もそれに続いてゲップをしながら執務室から出ていく。
ドアを閉めた後も漫才のような会話を続けながら龍驤と球磨は艦娘寮へと歩いて行った。
おしゃべりな二人がいなくなると執務室は静かになる。
部屋に残ったのは机に向かい報告書を書く青悟、怪しい笑いを浮かべながら青悟を手伝う明石。つまらなそうに髪をいじくる川内。
静寂は廊下から響いてくる龍驤と球磨の漫才と足音が聞こえなくなるまで続いた。
しばらくして青悟はペンを置き、息を一つ吐く。
「川内、盗聴の気配は」
「ないよ、盗聴器の類は仕掛けられていたけどね、ほら」
マフラーの下から川内は小さな機械をいくつか取り出した執務机に置く。
それを叩き潰し、完全に壊した後、青悟は川内を見る。
視線を向けられた川内はにやりと笑った。時間は深夜、夜行性の川内のテンションは高い。
「川内、貴様に任務を下す」
「いいよ、どんな事でもこなすよ、夜だしね」
まだ任務の内容を聞いてもいないにも関わらず、二つ返事で川内は了承する。
どんな任務でも命を賭してこなす、主に忠誠を尽くすのも忍者故か、それとも青悟を信頼してのモノか。ただ単に夜の海に出たいだけか。
返答を危機、青悟はポケットから小さなタブレットを出して執務机に置き、静かに川内に差し出した。
画面には赤い光が一つ、少しずつ画面の中で移動している。
「泊地を見つけろ」
「御意、殿の為に命を投げてでも任務達成をする所存……なんてね、それじゃあ出撃するよ」
「うひひ、川内、これを持っていって、新しく調合した丸薬、うへへへ、忍者なら丸薬だよね、それと眠気覚まし、朝になったら使って」
「ありがと、明石」
巾着袋入りの丸薬と、三角に折った紙に包んだ何包かの粉薬を明石から手渡され川内は笑顔で握手をする。
そして青悟に振り返って片膝をついた。
「それじゃ、行ってきます」
「無事を祈る」
青悟にもちらりと笑顔を見せた後、川内は真剣な顔になり、音もなくその場からいなくなった。
それを確認し、青悟は温くなったコーヒーをすする。
明石は自分で注いだコーヒーにポケットから取り出したビニール袋に入った粉を入れていた。
「ふふへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへ~~~~♪」
自分で作ったそれを飲み、ソファでくつろぎながら、小さな声で歌い、足でリズムを刻む。
静かな二人きりの執務室に怪しい歌と足音だけが不気味に繰り返される。
はたから見たら不可思議な光景だろう、どこかおかしい笑顔のセーラー服の少女と、眉一つ動かさずにコーヒーの飲む軍服の男のツーショットは。
「貴様にも一つ頼みたいことがある」
歌の中、青悟が声を発する、その言葉を待っていたと言わんばかりに歌をやめ、明石はとびっきりの怪しい笑顔を浮かべた。
次回予告
始まる艦娘達の新しい生活、それは青悟達にとっても新しい生活の始まりであった。
力を求める者、求めない者、どちらもその先に過去が立ちふさがる。
青悟は、青悟と八人の艦娘達は、心に傷を持つ艦娘達を導く為に何をするのか
第十一話 最初の試練
期待しないでお待ちください