提督と異様な艦娘達   作:ポン酢放置禁止区域

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 前回から期間が開いてしまいすいません。
 どうしてもまとまらずに時間がかかってしまいました。
 次はもう少し早くに投稿できるように頑張ります。
 それではおかしい所ばかりかと思いますがよろしくお願いします。

10/22 深海棲艦のセリフを微修正


第九話 貴様は……

 普通の鎮守府に同じ艦娘がいる事はよくある事でさほど気にする事はない。しかし、それは青悟の元にいる球磨が普通の艦娘であったらの話だ。

 普通の球磨はあんなに弱くないし、『』つけた喋り方もしない。

 そんな球磨が二人もいるワケがない、つまりはどちらかが偽物という事だ。

 

「ちいっ! ここもちゃうわ」

 

 ドアが轟音を響かせながら閉まる。

 龍驤は鎮守府の中を走り、艦載機からの通信を受けながら青悟を探していた。

 所属している艦娘が多い事もあり、この鎮守府はかなり広い。という事は部屋が多く、廊下も多い。

 球磨が酔っぱらって体調が優れないとすれば、行くのはおそらくはベットのある医務室か、球磨が気絶して先程まで眠っていた執務室(青悟が背負って行った球磨が本物なのか偽物なのかは置いておいて)か、はたまたそれとは別の休める所か、龍驤は考え、大体の目星をつけて探していた。

 だが、二人の姿を未だに捉える事は出来ない。

 それもそのはず、いくら龍驤が索敵能力に長けている艦載機を放っているとしても、この鎮守府には来たばかりなのだ、その内部を完全には把握できていない。どころか知らない場所の方が多い。

 異動してきてからは大体執務室にいて、移動しても食堂か、外食に行くかのどちらかであまり中を確認していなかった事もあり、軽い迷路と変わりない。

 と、走る龍驤の前に廊下の曲がり角から一人の艦娘が出てきた。

 

「あ? ああん!?」

 

 その艦娘を見て龍驤は驚き足を止める。

 全速力で駆けていたので靴が床と摩擦して甲高い音が鳴った。

 

『ああ、ここにいたんだ龍驤ちゃん、いきなり飛び出したからどうしたかと思ったクマ』

 

 角から現れたのは球磨、その言動から後から食堂に入って来た方の球磨だと思われる。

 

「ウチ、ついさっきキミを置いて飛び出したはずなんやけど何で前から出てくるん?」

 

 言いながら龍驤は警戒を強める、もしかしたらこの球磨は偽物かもしれないのだ、当然だろう。

 ちなみにこの鎮守府にも球磨はいるが、青悟と共にいる球磨と比べると全く喋り方から雰囲気から違うので一目でわかる。

 龍驤の警戒に気付いているのかいないのか、いたっていつも通りの球磨は肩をすくめた。

 

『何でって、龍驤ちゃんは知らないだろうけど球磨は鎮守府の内部は一応散歩して見て回って大体内部を覚えておいたからね、龍驤ちゃんの出てった方向にそれとなく先回りする道を選べばほらこの通りってわけクマ』

 

 実際に青悟と龍驤が初めてこの鎮守府の執務室に行った時に球磨は鎮守府内の放送を管理する部屋に行き、鎮守府全体に青悟の着任を知らせている。その時や、他の時間に適当に散策したのだろう。

 龍驤より鎮守府内の地の利がある事は確かだ。

 

『それで、青悟ちゃんに何かあったクマ? 詳しく話してくれると嬉しいクマ』

「今はそんな場合やない! ……けど球磨にも関係ある事やな、移動しながら話すで、ついてきい!」

『……それは無理クマ』

「何でや!? しょうもない理由ゆうたらげんこつ落とすで!」

 

 焦る龍驤は球磨をにらみつけて怒鳴る。

 先程から嫌な予感がひしひしとして、龍驤もイラつきはピークに達しそうで怒りの沸点は低くなっていた。

 予想外に迫力のある剣幕に冷汗をかきながらも球磨は自分の足元を指さす。

 

『龍驤ちゃんの先回りしようと思って走ったからもう足腰立たないクマ』

 

 示された膝は今にも崩れ落ちそうにがくがく震えている。

 これには怒りで煮えたっていた龍驤も思わずずっこけた。

 

 

 

 

 どうしても球磨は動けないようなので龍驤は球磨を運びながらここまでの経緯を説明した。

 

『ドッペルゲンガーって会ったら死ぬって聞いたことあるクマ、という事で死にたくないからその手を離してくれると嬉しいクマ』

「却下や、キミ、昼にもサボったやんか、運んでもらえるだけありがたいと思いや」

『ずいぶん乱暴な運び方、龍驤ちゃんはあまり遠征に行ったことないからドラム缶を運んだ事ないクマね』

 

 運搬方法は片腕を持って引きずる方法で、龍驤の艦娘としてもパワーと速度によって、時に宙に浮いた球磨は強かに床に打ち付けられたりしてボロボロになっている。

 しかし、龍驤は足を止める事は無い、今は球磨の運び方より青悟の命が最優先だ。

 

「そういう球磨も遠征に出た事ないやん」

『まあね、球磨が出たら何故か資材が増えるどころか減っちゃうから仕方ないクマ』

「なら人の事どうこう言わんといて」

『それとこれとは別クマ、もっと球磨に対しての思いやりとか真心とかをこめて黒猫とか佐川みたいな感じで運んで欲しいクマ』

「おっ? 箱詰めにされたいって事でええんやな?」

『いいよ! 大歓迎クマ!』

「ええんかい!!」

 

 軽口を交わしながらも龍驤は艦載機からの通信を受けながら鎮守府の中を探す、しかし、一向に青悟が見つかったという知らせはどの艦載機からもない。

 

『そういえば龍驤ちゃん、球磨の事を本物だと思っているみたいだけど、根拠はあるクマ?』

 

 かなりぼろ雑巾に似てきたのに平気な顔と態度で球磨は疑問を龍驤に聞く。

 確かに龍驤は球磨に対して警戒と疑いのまなざしを向けていたが、今はそんな事は無く普段と変わらない口調で話している。

 いつこの球磨を本物と判断したのか、龍驤は口元を緩めながらすぐに答えた。

 

「ない、やけど話してたら嫌でもわかるわ、この気持ち悪さは他の奴にはようだせんわ」

『ははは、それはひどいクマ』

 

 確かな証拠はない、しかし、付き合いの長い二人だからこそ通じ合うモノがあるのだろう、球磨もへらっとした笑みを浮かべ、答えに対しての追及はしなかった。

 

『それにしてもこんなに探してもいないって事はどこにいるんだろうね』

「う~ん、おかしい、こんだけ中を探してもいないちゅうことはもしかして……!」

 

 一つ、砲が火を吹く轟音が二人の耳に響いた、

 こんな時間に撃たれる砲弾、その意味はすなわち――

 

「外か! 球磨! 今から全力で走るからしっかり気張りや!」

『できれば勘弁してほしいクマね』

 

 球磨の意見はもちろん聞き入れられず、龍驤は適当な部屋に入り、開けるのも面倒とばかりに窓を突き破って外に飛び出し、音が聞こえた方へ艦載機に指示を出しながら飛ぶように走っていった。

 

 

 

 

 港で空に昇る爆炎は冷たい潮風にあおられてゆらゆらと揺れていた。

 月と鎮守府の灯りに照らされ薄明るいコンクリートに二つの影が向かい合っている。

 一人、艤装を構える艦娘、球磨、無表情に構えるその艤装の連装砲はこの場に立つもう一人、青悟に向けられている。

 

『かわされたか~、いやあ困っちゃうクマ』

「下手な猿真似はやめろ」

 

 酔い覚ましのために港の方まで出てきた二人はここに来るまでは何気ない普通の会話をしていたが、突然の砲撃によってその一時は終わりを告げた。

 その不意をつくような一撃を青悟はかわし、こうして向かい合っている。

 青悟の言葉に球磨の表情はへらへらしたモノから妖しい笑みにへと変化し、

 

『いつから気づいテイタノ?」

 

 口調が『』つけたものから人ならざる者の言葉に変わる。

 同時に肌は人ではありえない程白くなり、目も血の色の赤に染まっている。

 まさしくそれは深海棲艦、しかも変身能力を持つ新種であった。

 

「いつからも何も食堂で話しかけられた時からだ、球磨は私の事を提督とは呼ばんしそもそも雰囲気からして違う」

「ヘエ…ソウ…バレバレダッタッテコト」

 

 青悟はあの時に気づいて、その上でこの港まで二人で来たのだ。

 何故か、それはパーティーを楽しむ艦娘達に危害が及ばないように、また、鎮守府を破壊されない為にだ。

 

「フフ…ソンナコトデバレルナンテネ……コンドノニンゲンハ…ユウシュウミタイネ」

「今度の《・・・》、と言ったかやはり貴様は――」

「コタエガワカッテイルノ…ナラコトバナンテイラナイワ」

 

 青悟の言葉を遮り、新種の連装砲が火を吹く。

 それは間違いなく人間ではかわせない距離にかわせない速度の不意打ちであった。

 




 第十話 様々なたくらみ

 球磨の偽物は新種の深海棲艦だった。
 何故この鎮守府にその深海棲艦がいたのか?
 その謎が明らかになる時、この元ブラック鎮守府を取り巻く欲望が明らかとなる。 

 次回も期待しないでお待ちください。

8/15 欲望じゃなくて陰謀ですな。間違えました。

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