大冠彩る七の一   作:つぎはぎ

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投稿してから早くも感想が。皆様に最高の感謝を…!!
頑張ります。


まずは探索

  地方都市冬木。

 

  特異点Fと呼ばれるこの場所では、魔術師達の殺し合い、聖杯を巡る聖杯戦争が行われていた。

  聖杯とは聖書などで語られる本物の聖遺物ではなく、魔術により製作された、過程を省略し、結果を引き出すほどの魔力が凝縮された代物だ。これを生産、もしくは奪い合うことを目的とした戦いを聖杯戦争と呼ぶ。

  その聖杯戦争が初めて確認されたのがここ冬木の土地。この土地のこの時代になんらかの異変が発生したからこそ人類の滅亡という大事態が引き起こされている。ゆえにこの土地を調査、探索し原因を突き詰め、解決する。

 

  これが藤丸立香、マシュ・キリエライト、オルガマリー・アニムスフィアの三名とフォウの一匹と。

 

  新たに召喚されて加わったサーヴァント・アサシン───ヒッポメネスの使命である。

 

 

 

 

 

「…やっぱり、いい景色とは言えないよねぇ」

 

  冬木の中心に建設された大橋に立香達は移動していた。燃え盛る街並み、本来地方都市である冬木の街並みは現状の通り燃えているということはなく、平穏な日常が流れていた。崩れる建物、立ち込める暗雲、咽せるような熱波。周りを見渡しても人は見当たらず、生存者がいるのかすら怪しい。

  そんな景色を前にヒッポメネスはポツリと呟いた。

 

「えぇ、資料で見た光景とは大きく違います。ドクターにも確認してもらいましたが生存反応は…その」

 

「そっか。…それは仕方ない、か」

 

「ちょっとアサシン! ちゃんと前を見て歩きなさい!」

 

  移動するにあたりアサシンが最前列、立花とオルガマリー所長を守る為にマシュが近くで寄り添う形で歩いている。色んな所を眺めながら歩いている姿にやる気を見て取れないせいか、所長はヒッポメネスの背中に叫んだ。

 

「ごめんごめん、でも今のところは大丈夫だから安心してよ」

 

「…あなたは前衛なのです。いつ敵対する者が現れてもいいよう注意を怠らないでください」

 

  ぶすっとした表情ですぐに顔を背ける所長。あまり友好的とは言えない態度にマシュと立香はハラハラしているが当の本人であるヒッポメネスは気にした様子は見られなかった。

 

「すいませんヒッポメネスさん。…所長は、その」

 

「いやいやこれも仕方ないって。期待して召喚したサーヴァントがこんな二流じゃ不安で一杯さ」

 

 

 

  これは三十分と少し前のことだ。立香は召喚に応じてくれたサーヴァントに対して、最初の声かけ、ファーストコンタクトが、まあひどかった。

 

「え? 誰?」

 

「せ、先輩!」

 

「フォー!」

 

  ヒッポメネスはギリシャ神話に置いてメジャーな英雄ではない。ぶっちゃけマイナーな英雄だ。純潔の狩人と名高き女傑アタランテの婚姻騒動に登場し、あまり褒めらない方法で彼女と結婚したのだ。

  現代一般人である立香は英雄なんて精々ヘラクレスやジークフリート、アーサー王という大英雄クラスしか知らない。

 

  例え知らなくても召喚に応じたサーヴァントに対して失礼な受け答えをした立香だったが、上には上がいた。

 

「なによ! なんで雑魚サーヴァントなんて召喚しているのよおおおおお!!?」

 

「しょ、所長!?」

 

  チキンハートだがプライドの高い所長が初対面で中指を立てる所業に近い咆哮をかました。

  魔術の名門だけあって神話や逸話に詳しい分あってヒッポメネスの名にすぐ辿り着き、武芸の武もない逸話の英霊に外れと叫んだ。

  ダブルで失礼な言動を発する二人に挟まれたマシュが哀れである。あわあわと慌てた様子で堂々と侮辱されているヒッポメネスを見るのだが。

 

「ん〜、なんかごめんね?」

 

  特に怒っている様子はなかったのでマシュは安堵のため息を吐いた。そのあと立香はすぐにヒッポメネスに謝り、所長は嘆き続けていた。

 

 

 

「ほっ! せいっ!!」

 

「やぁっ!!」

 

  移動中に襲いかかってくる人のなりの果て───スケルトン達をヒッポメネスは小剣と槍で捌き、マシュは大楯で砕く。

  軽々と敵を屠る姿に立花は所長から雑魚の烙印を押された彼の評価を改めた。強い、この一言に尽きる。小剣と槍の変型武術こそ珍しいとは思ったがまさかここまでやるものとは。

 

「そう言って貰って嬉しいけど、僕は普通に弱いよ?」

 

「え? そうなの」

 

「比較対象がマシュちゃんだけだからだね。あの子はまだ成り立てのサーヴァント、戦いにはまだ不慣れなのさ」

 

  カルデアの実験の一つ、英霊との融合、デミサーヴァントを作り出す実験体の一人が彼女、マシュ・キリエライトだ。マシュは過去に英霊との融合を果たしたがサーヴァントは彼女に憑依してから表に出てくることはなかったという。しかし、彼女本人と立香が危機に瀕した時、彼らを助ける為にマシュと完全に融合してサーヴァントととしての能力を全て譲ったのだ。

  その為、マシュはサーヴァントと人間の両側面を持つデミサーヴァントとして生まれ変わった。英霊という超越した的能力を有しているにも関わらず、戦闘経験が不足している為に戦いにぎこちなさが見え隠れしている状態だ。

 

「すいません先輩…。私が戦闘訓練を増やしていれば」

 

「こんなことになるなんて誰も想像つかないよ。マシュのせいじゃない」

 

「先輩…」

 

  互いにフォローし合う新人マスターと新人サーヴァント。初々しい桃色空間にヒッポメネスはほっこりする。

 

(僕もあんな風にアタランテとできたらなぁ)

 

  思い人、というか生前の妻に対して想いを馳せる。生前は夫婦という関係なのだが夫婦らしいことをできなかった為、あの様な初々しい経験は皆無だった。

  そんな悲しくももしかしたらな未来を想像しながら前へと歩き続けて

 

  首筋に、冷たいものが流れる感覚に立ち止まる。

 

「みんな! 周囲警戒!!」

 

  一喝に皆が足を止める。所長と立香はすぐにマシュの元に駆け寄り、マシュは盾を構えて周囲を見渡す。

 

『どうしたんだい!? 周囲には敵性反応は───』

 

「いや、いる! こちらに殺気を飛ばす誰かが…っ!」

 

  言葉を突如切り上げ、小剣を振り下ろす。小剣から一瞬火花が散ると同時に鋭い音が鳴り響く。

 

「コレはコレハ…、マサカ我が隠密ガ破ラれルトハ…」

 

『これは、サーヴァント反応!? 突然現れて…まさか!?』

 

「…なるほどアサシンのサーヴァントか」

 

  気配遮断、アサシンクラスが保有する文字通り己の存在感を消すスキル。

  スキルランクが高いほど気づかれにくく、攻撃の瞬間まで気配を察知できなくなる。

 

「な、なんでサーヴァントがここにいるのよ!?」

 

『…そうか! そこは元々聖杯戦争が行われていたんだ! 特異点Fは何もかもが狂った状態、マスターが必要なサーヴァントも独立して動けているんだ!!』

 

  ロマンの推測に緊張が走る。戦闘が必要な場面があるとは予測していたがまさかサーヴァントを相手取ることになるとは、皆が固まるなか、ヒッポメネスだけが冷静に見据えていた。

 

「ロマンさん、確認してほしいのだけれど他のサーヴァントの反応は…」

 

『…サーヴァント反応、二体確認!! 君たちの後方から急接近しているぞ!!』

 

「なるほど」

 

  この状況から察するにそのサーヴァントが味方である確率はほぼ皆無。目の前のアサシンと思われるサーヴァントと同じくこちらに敵意を持っているだろう。

 

「マスター、どうする?」

 

「え?」

 

「いきなり押し付けるようで悪いのだけれど、僕は矛であり、盾だ。振るうのは君。この状況を打破するのには僕が単独で判断するより君が判断した方がいい。どんな決断だろうと、僕は君の判断に反対しないし、糾弾はしない」

 

  厳しいようで、責任を押し付けているようだがサーヴァントとはそういう存在だ。主人の為に戦う兵器。彼らはその為に召喚されている。

  それを再確認させた上でヒッポメネスは反対しないし、糾弾しないと言葉にした。

 

  それはすなわち、自分が死ぬ前提の作戦でも従うと、言っている。

 

「…っ!」

 

  その言葉で、改めて立香は思う。

  これが、マスターとなることか。

  人の命を預かる。そも、サーヴァントととは死人、現世に現れた稀人。命とはマスターの魔力そのものなので気負うものではないのだが、立香はそう簡単に命の尊重を切り捨てられるわけがない。

 

  でも、判断しなければ、死んでしまう。

 

  何もしなくては生き残れない。死ぬか生きるかの臨場。極限的状況で自分ができることはサーヴァントの指示だけだ。

  その事実に息を呑むが、視線をずらせば恐怖に震える所長、こちらを信じて盾を構えるマシュ、そして敵対するアサシンから間合いを取りながら構えるヒッポメネス。

 

  ───やろう、やらなきゃ、ダメなんだ。

 

「マシュとヒッポメネスは急いでアサシンを倒して! 倒したらすぐに走って、追ってくる二人を倒そう!!」

 

  生きる為に、戦う。生きる為に必要なことを立香は選んだ。

  彼のサーヴァントである二人は頷き、突撃の構えを取る。二対一だというのに焦りの一つも見せないアサシンのサーヴァント。

  戦いの火蓋がすぐに切られる。どちらが先に動くかという一瞬の時間に、両者が同時に足を踏み出した。

 

 

 

「へぇ? いいじゃねえか坊主。そういう姿勢は大好きだぜ」

 

 

 

 




作者の絆Lv10はアタランテ、アルトリア(剣)、スカサハ(槍)。

…そろそろイベントでアタランテに出てほしい。

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