ブラック・ブレード 黒の刃 作:豆は畑のお肉
そこかしこに乱雑して建てられた高層ビル群のその一角、屋上で一人佇む男がいた。
時刻は深夜。辺りはもちろん道路にも人影は無く、男の周囲を照らすのは月明りのみ。不審感を抱くには十分な
人としての厚みが明らかに足りていない細い胴体に手足。百九十を上回りそうな身長と、細い縦縞の入ったワインレッドの燕尾服がより一層男を細身に見せていた。そして、ただでさえ今いる場所に不釣り合いな服装に、トドメと言わんばかりに舞踏会用の
全身で怪しさを表現している男は、約束の時間になっても待ち人が現れないことにやれやれとため息を吐くと携帯電話を取り出す。コールすること数秒、電話が繋がると同時に男は言葉を投げかける。
「小比奈、何をしている。もう集合時間は過ぎているよ」
「でもパパ、まだ探し物が見つかってないよ?」
通話相手の返答を受け男は浮かんだ疑問をそのまま口にした。
「それは目的の物が見つからないのかい?もしくは
それに対してはただ一言ううん、と否定の返事を返される。こちらからは見えないのに、通話の向こうでは頭を横に振りながら答えているのが男は容易に想像できた。
「パパの言ってた場所に向かったら、
通話から時折混じる何かをぐちゃぐちゃと物色するような音から察するに、どうやら絶賛捜索中の様だ。しかし小比奈のことをよく知っている男は小比奈とは違う結論に達していた。
「いいかい、愚かな娘よ。そのガストレアはハズレだ。おそらく前回遭遇した感染者の一人だろう」
「そうなの?」
「ああ。小比奈、ガストレアを始末した後どうやってケースを探していた?」
「えっと・・・たくさん斬って、細かくして、身体の中に無いかなって」
まだよく理解できていないという風な小比奈の口調に、男は言葉を続ける。
「
そこまで言ってようやく理解したのか、小比奈はあっと呟きを漏らす。
「そういうことだ。そこまで細切れにしたのにも関わらず、ケースが姿を見せないならば答えは明白。そいつは初めからケースを所持してはいなかった」
元々その可能性を考慮していた男に落胆の色は少なく、既に次の潜伏場所の特定を要請していた。
「そいつがハズレなら仕方ない。小比奈、かくれんぼは続行だ。引き続き二手に分かれよう。場所の指定は追って連絡がくるはずだ」
「うん!わかった」
普段に比べ、ややテンションの高い小比奈に先の事を思い出し、釘をさす。
「言っておくが愚かな娘よ。今度は斬ることに夢中になり過ぎて時間に遅れたり報告を怠ったりしたら暫く斬るのは禁止にする。いいね?」
「うぅ・・・・パパァ」
駄々をこねる時の様な声を出す小比奈との通話を終え、男は月明りを飛び出し、暗闇の街に溶け込んでいった。
亀更新にも程がありますが一先ず更新。時間が作れれば近日中にもう一話投稿出来るようにしたいです。