ブラック・ブレード 黒の刃   作:豆は畑のお肉

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不審者と幼女

ーーーー西暦2021年。目覚ましい技術の発展と共に、地球が深刻な環境汚染に悩まされていた頃、“それ”は突如現れた。

 

 

 

“ガストレア”

 

 

ガストレアウイルスにより遺伝子を書き換えられた生物。鮮血の様に赤くなった目。強靭な肉体と強力な再生力を併せ持った巨躯。人間を捕食しながらそのウイルスで感染者を増やし、驚異的な速度で増殖していく。

 

世界中に出現したガストレアたちは、瞬く間に人類を侵略していった。人類側の決死の抵抗も虚しく、二度の大戦を経て世界と人口の多くはガストレアに奪われてしまった。

残された人類は僅かばかりの土地に逃げ、その周りを唯一ガストレアの再生力を阻害できる金属、“バラニウム”で囲うことによってなんとか生存を許されている。

 

だが、失った土地は膨大で、それは日本も例外は無く、国土を東京・大阪・札幌・仙台・博多の五つのエリアに分断された。

 

 

 

 

 

それから10年の月日が流れーーーー。

世界は元通りとはいかないまでも、ある程度の文明的な暮らしを取り戻しつつあった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー西暦2031年。

 

千寿夏世は戸惑っていた。彼女は10歳という年齢に反して突出していると言ってもいい、類い稀な頭脳を保持している。だが、そんな聡明な彼女を持ってして、今起こっている現象を表現できる言葉が出てこなかった。

 

いつも通り布を纏って床で横になって眠っていた彼女は、不思議な音に目を覚ました。液体の様な物が床に飛び散る音と、何かを激しく衝突させる音。

空間把握に長けている彼女はそれが自分の部屋の、洗面所から聞こえてくる音だとわかった。

 

(将監さん、今日はやけに早起きですね。いつもはもっと遅く起きてくるのに。)

 

寝起きがあまり良いとは言えない自分の相棒を思い浮かべながら、夏世はもぞもぞとくるまっていた布から身体を起こすと、それをきちんと畳み部屋の隅に置く。元々は物置部屋のため、自分が寝るスペース分くらいしか面積が無いが、部屋を与えられているだけマシだと夏世は思っている。

部屋を出て、とりあえず件の音がする洗面所にトコトコと歩いていく。と、そこで夏世は自分の知覚した情報に少なくない違和感を覚える。

どうやら彼は蛇口から流れてくる水を手で掬い取った後、それを後ろに撒き散らしながら自分の顔を叩いているようなのだ。

 

(顔を洗って……いるわけではなさそうですね。水は殆ど床に落としているみたいですし。常々脳みその代わりに筋肉を詰めてしまってるんじゃないかとは疑ってはいましたが………よもや冗談が信憑性を帯びてしまうなんて…。)

 

わりと失礼なことを考えながら夏世は、日頃の将監の筋肉信仰っぷりを思い返し、新しい筋力トレーニングの一環なのだろうか?と適当な理由を頭に浮かべる。

 

いくら考えたところでしょうがない。自分も顔を洗いたいし、話しかけると怒られそうなのであまり気は進まないが、一声かけて場所を譲って貰おうとドアノブに手をかける。

 

ドアが半分ほど開き、その先に映る光景を目撃した夏世は、慌てて中に入ろうとしていた自分の身体を引っこめる。

そうして今度は、半開きになったドアの隙間から中の惨状を窺う。

 

そこには、手を蛇口から流れる水で清めながら、己の顔を平手で一心不乱に叩き続ける相棒(プロモーター)、伊熊将監の姿があった。

 

 

 

千寿夏世は戸惑っていた。脳が高速で稼働し、自らの目に映る景色を理解しようとするも、考えれば考えるほど困惑してしまい、思考がエンストしてしまう。かろうじて口から紡がれた言葉は「将監、さん…?」と彼の名を呟くだけである。

将監が取っている行動の真意を探ろうにも、意図がまるでわからない。

 

(まさか、感染した!?)

 

一連の行動は何かの昆虫の習性なのでは?一瞬最悪の事態が頭をよぎるが、すぐにそれを否定する。昨夜寝るまではいつも通りであったし、深夜から早朝にかけて襲われたのなら気がつくはずだ。ガストレアは基本的に巨体であり、隠密行動には向いていないのだ。

 

(感染しているわけではない………。ですが先程からの仕草には、一定のパターンがあります。手で水を掬い、それを後方に投げ、手の勢いはそのまま殺さずに顔面へ……。自身の顔を叩くことに注意が向きがちですが、本命は背後に溜まっている水?もしかして、下の階に住む住人の部屋の天井から雨漏りを狙って…………………)

 

元相棒で現在は不審者へとジョブチェンジを果たした男を放置し、あれこれ思考を巡らせていた夏世はふと、顔を叩く音が止んでいることに気づく。ハッとして視線を洗面所に向けると、睨んでいるかの様な目つきの悪い双眸が、夏世の姿を捉えていた。




全く話が進まない。

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