刺さる風   作:タツマゲドン

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収穫

「これは何処から来ているのだろう。」

 

 食べる時常に思い浮かぶ事だ。

 

 この星の生態系の頂点に立つその生物がその頂点に立った理由でもある。

 

 何時からか、少なくとも物心付いた頃から、それはあった。

 

 当時は自分も生態系の下っ端の肉食動物だった。

 

 だが、それは常に自分の前に現れた。

 

 肉だ。

 

 胃袋に丁度収まるサイズの肉を齧り付き、満腹となった。

 

 しかもまた空腹になった時、今度は以前よりも一回り大きいサイズの肉が出現する。

 

 食べる度に出現し、出現する度に食べる。

 

 繰り返す内に、その生物の体はみるみる内に巨大化した。

 

 巨大化した体なら他の敵に狙われる心配も無いし、寧ろこちらが取って食らう番だ。

 

 もっとも、何時も出現する肉は常に量を増し、変わらず現れ続けているので飢える心配も無いのだが。

 

 こうなると生活が暇になってしまう。

 

 その為なのかどうか知らないが、その生物はこの星で最も高度な知能を持つ事となった。

 

 あらゆる事を考え、暇を潰した。

 

 しかし、幾ら考えても目の前に出てくる肉の事だけは全く分からなかった。

 

 それでも体は大きくなる。

 

 ある時、その生物は道具を生み出した。

 

 更に考えは進歩した。

 

「自分で動かすのも面倒だ。何かエネルギー源でも......そうだ。」

 

 その生物は何時も現れる肉の事を思い浮かべた。

 

 タンパク質や脂質の燃焼を利用しようという訳だ。

 

「でも自分が食べる分は大丈夫かな?」

 

 そう心配したのもつかの間、なんと肉は道具の稼働に必要な分が出現したのだ。

 

 何時もは生命維持と成長の為に使っていた肉が道具使用の為のエネルギー分増え、更に贅沢な生活が出来る様になった。

 

 もはやその生物に心配事は無かった。

 

 生命が脅かされる危険性は無いし、自分が動かなくても楽な生活が出来るし、生態系の頂点に立ち自然界を操り、自分が好きな事だけやって生きていける。

 

 その生物の体は更に成長し、知能は更に磨きを掛け、際限無く続いていく。

 

 でも常に現れる肉の事だけは理解出来なかった。

 

 そしてその生物はある疑問を持ち始めた。

 

「このまま体が膨れ続けたらどうなるのだろう?まさかその為に肉が与えられるのか?」

 

 分からない、考えても考えても結論が出ない。

 

 ところがある時、突然何時も出てくる筈の肉が現れなかった。

 

 幸いにも脂肪が大量に自身に蓄積されているので暫くは空腹を凌げられる。

 

 だが肉は何時まで経っても現れる事は無い。

 

 待つのも飽きたし、久しぶりに獲物を狩ろうかとこの巨大な脂肪だらけの体を動かしてみようか。

 

 歩いてみるか、そう思って後足を動かした時だった。

 

 足を蹴ったというのに地面から押し返される反動が無い。

 

 今度は前足も一緒に動かし、もがいてみる。

 

 何も触れた感覚がしなかった。

 

 どういう事だ?と思って脂肪に包まれた首を動かし、辺りを見回した。

 

 地面が無かったのだ。

 

 ならば歩けないのも理解出来るが、一体何故大地が消えたのか。

 

 今度は別の方向を見る。

 

 自分が住む星から見えていた衛星が輝いていた。

 

 驚くべきはその距離、なんと鼻先にまで迫っていた。

 

 だというのに衛星は自分の顔面にも満たない大きさだった。

 

「自分が星だ......。」

 

 気づいた時は遅すぎた。

 

 その生物が食べていたのはこの星そのものだったのだ。

 

「これから自分は飢えて死んでゆくのか......。」

 

 そう悟り、悲しげに呟いた。

 

 その時だった。

 

 自分よりも巨大な姿の生物がこちらを見下ろしていた。

 

「しっかり育ったな。今日は良いステーキが食えるぞ。しかも使えそうな技術も生み出したらしくて良いな。」

 

 自分よりも巨大な生物はその手に握る銃の形状をした物体をこちらに向けた。


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