生まれ変わって星の中   作:琉球ガラス

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スキマの友達と月の姫様

 妖怪の山を出て、一人道を歩く。

 山にも十数年留まり、鬼や天狗たちと交流をもった。

 

 萃香や勇儀とのコミュニケーションは大体殴り合いか酒だった。能力を使って酔いを軽くしているだけだと言っているのに、毎日どちらかから飲み比べを持ち掛けられた。おかげで私の体からはしばらく酒の匂いが取れなかったほどだ。

 

 山を出るときはたくさんの妖怪が送迎会として宴会を開いてくれた。勇儀、萃香はもちろんのこと、たくさんの妖怪や鬼に天狗、果ては天魔まで参加する大宴会となった。

 山での思い出は闘ったり酒を飲んだりしたようなのしかないが、思い出すだけでも楽しい気分になれるので善しとすることにした。

 

 山から出て数日。とことこ歩いていると、円が変な反応を感じ取った。

 

(これは……、空間の歪み?円が揺らいだ所に急に現れた。いや、それにしては違和感が……)

 

 ぶつぶつ考えていると、その反応があった空間が裂けた。裂け目の両端にはリボンがついていて、中からは多数の目玉が覗いている。

 

(ま、まさかこれは……!)

 

 驚いていると、裂けた空間から一人の妖怪が出てきた。金髪ロングの髪に、毛先をいくつか束にしてリボンで結んでいる。白と紫で彩られたドレスが特徴的な美少女。

 私の前に降り立ち、扇で口元を隠す。お芝居ような仕草だ。

 

「初めまして、河森朝日さん。私の名は八雲紫(やくもゆかり)と申します」

「あ、あ……」

「ふふふっ、どうしました? あの鬼と殴り合った貴女が、まさか怯えているわけではないでしょう?」

 

 口を開いて固まっている私に作り笑いで挑発(?)する紫。だが、その言葉は私の頭に届いていなかった。唐突な遭遇でパニックに陥っていた私は、反射的に言葉を発していた。

 

「あの、その……」

「?」

「わ、私と、友達になりませんか!」

「!?」

 

 予想外だったのか、私の言葉に目を見開く紫。

 これが、私と妖怪の賢者とのファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 八雲紫とは、東方の中でも私が特に好きなキャラクターの一人である。謎が多くミステリアスで、胡散臭い雰囲気を纏う。幻想郷を創った張本人で、境界を操るという能力を持ち、おまけに滅茶苦茶強いというパーフェクト妖怪。まさかここで会えるとは思わなかった。

 

「……それで、私に式になってほしいと……」

 

 強力な式神となれるものを探す。それが、紫が私に接触してきた理由だった。探している途中、山の鬼と互角に闘える私を見つけ、紫の式神に勧誘しに来たということだった。

 

「ええ、そういうことよ。鬼と正面から互角に渡り合うのは並の神や妖怪では到底無理なこと。それをあなたは余力を残してやりとげた。鬼の奥義をその身に受けてすぐ復活するなんて、瀕死の状態じゃ無理ですもの」

「私は回復には自信があるんです。再生の力も持ってますし。神としての素の回復力にそんな力までありますから、私を殺すのは難しいと思いますよ」

「回復だけではないわ。互いに本気ではないとはいえ、圧倒的な力を持つ鬼の攻撃を貴女は無傷でやり過ごし続け、あまつさえ反撃までして見せた。それは、反撃をできるだけの余裕があるということに他ならないわ」

 

 ……すっごい褒めてくる。嬉しい。嬉しいけど、そこまで真面目に褒められると流石に照れる。

 

「あらあら、顔を真っ赤にしちゃって。そんなに嬉しかったかしら?」

「え、いや、その……。……はい、嬉しかったです」

「! ……正直者ねえ、貴女」

「あ、ありがとうございます?」

 

 思ったままに答えると、親が子ども見るような、そんな温かい目で見られてしまった。嘘をついてもすぐに見破られそうだから、とは口に出せない雰囲気だ。

 

「それで、式の件だけれど……」

「……申し訳ないですけど、お断わりします」

「はあ……やっぱりねえ。一応、理由を聞いても?」

「さっきも言いましたけど、私は紫と友達になりたいんです。だから、主従関係にはなりたくない。それが理由です」

 

 紫は扇で口を隠すのも忘れて驚いている。勇儀たちも固まっていたけど、友達になってほしいと言うのはそこまで驚くようなことなのだろうか。私はこれ以外の友人の作り方を知らないのだけれど。

 

「……出会い頭に言ってきたのは、冗談ではなかったのね……」

「驚きすぎて、欲望がつい口に出てしまったんです」

「ふふっ、なによそれ……」

 

 見惚れるような笑みを浮かべる紫。これは作り笑いではない、心からの笑みだと直感した。

 

「それで、どうです?式神のことは断っちゃいましたけど……」

「ダメ元で聞いてみただけだから、気にしなくていいわよ。……友人の件は、ぜひお願いするわ」

「! ……ありがとう!」

「何度か話すうちに自然と友人になるものはいたけど、初対面で友人になったのは初めてだわ。……普段であれば警戒するのだけれど、貴女には不思議とそういう気がしないのよ」

 

 多分だけど、癒しの力で警戒心を解いてしまったのかもしれない。……言ったら話が拗れそうな気がするから、黙っておこう。

 

「私はすることがあるから、もう行くわ。……それじゃあね、私の可愛い友達さん?」

「! ……うん、わかった。次に会うときは、名前で呼んでよ? 私の友達の紫ちゃん!」

「!?」

 

 紫の軽口に反撃すると、見事に成功した。「ちゃんは止めなさい!ちゃんは!」と言いながらスキマに潜っていく紫に笑う。

 

 

 

 

 

―――― 紫side ――――

 

 ……不思議な()だった。

 初対面では人間、妖怪、神と関係なく私を警戒するというのに、友達になってほしいとは……。

 

 先ほどまでのやり取りを思い出し、思わず笑顔になる。

 思えば、あそこまで気楽に他人と話したのはいつ以来だったか。

 

「彼女となら、心を許せる友人となれるかもしれないわね」

 

 きっとなれる。心の奥で確信しながらも、口には出さずにスキマを開く。

 スキマから出るその時まで、口元から笑みは消えなかった。

 

 

 

 

 

―――― 朝日side ――――

 

 紫とのファーストコンタクトから既に数年。私たちは並んで川に足をつけて涼んでいた。

 

 紫は普段どこにいるかわからないので、私は紫の方から来るのを待つしかない。長い時を生きる妖怪だから一年に一度くらいは会えるかなと思っていると、意外にも月に一度は私に会いに来てくれた。嬉しく思いながら紫と会話をしているうちに、私は紫の愚痴を聞く仲になっていた。

 そんな仲になったきっかけは私の能力である。

 

 とある日に紫と話していると、少し疲れたような雰囲気を感じた。いつもなら微笑みながら遠回しな発言でからかってくる紫の初めて見るそんな雰囲気に、お疲れならば少し癒してあげようと能力を使うと、いきなり紫に抱き着かれたのだ。

 

 後で聞いたところによると、心が弱っている時に私の能力を使われると心地いい癒しに身を任せてしまい、心の壁が取り払われやすくなってしまうのだとか。

 初めて会った時にすぐ打ち解けられたのは能力のおかげだと思っていたが、そんな効果まであったとは知らなかったので急に抱き着かれた時は驚きすぎて声も出なかった。

 

 他の妖怪から軽く見られないよう、普段から笑みを浮かべている紫は胡散臭く、油断できない奴と思われやすい(実際それも狙っている)。そんな中で、私のように友好関係を結ぼうとするのは珍しいという。

 初めは何かを企んでいるのではと警戒してたとか色々懺悔のようなことを言われたが、今では私を数少ない友として大切に思っていると言われたことで全て吹っ飛んでしまった。

 

 そんな今何をしているのかと言うと、定期的に開かれる紫のお悩み相談会である。

 

「それでねー……、私は、妖怪と人間との共存を目指しているのよ……。」

「大きい夢だねえ」

「ええ。でも、思った以上に難しくてね……」

「うんうん」

「話を持ち掛けても胡散臭いとか言われるし、心が折れそうで……」

「紫は頑張ってるよ。私が知ってるからねー」

「朝日ぃ……」

 

 見よ。今私の腰に腕を回して泣きついているのが天下のスキマ妖怪である。

 何を考えているかわからず、胡散臭い雰囲気を纏う紫(仕事モード)もいかにも大妖怪っぽくて好きなのだが、愚痴をもらして甘えてくる紫(息抜きモード)も大好きだ。何というか、私だけが見れる紫という特別感がある。

 

 愚痴を吐き出す紫を慰めながら、能力を使って心と体を癒す。しばらくそうしていると、心労持ちのお疲れ妖怪からやる気漲る大妖怪へ復活するのだ。

 まだまだ理想の実現は遠いようだが、いずれ幻想郷を創ってくれると私は信じている。私自身は手伝えることがないので、こうして慰めることしかできないのだ。

 

「ふー……、スッキリしたわ。いつもありがとう、朝日」

「いいよいいよ。友達なんだから、遠慮しないで」

「ええ、私はいい友人をもったわ……。いつか、朝日にも私が創る世界を見せてあげるわ」

「うん。楽しみにして待ってるよ」

 

 スキマの中に消える紫を見送った後、目的地を目指して歩き出す。

 

 山を出た私は、村から村へと渡り歩いて人を癒すという野良医者のようなことをしている。妖怪との戦闘で負った大怪我から転んでできた擦り傷まで何でもござれだ。

 私の癒しと再生を併用すれば、失った腕の再生や動かなくなった足の復活に病の治療など、どんな重症でも治すことができる。そうした行為を繰り返し、私の名が広まり、私に信仰が集まって力が増すというマッチポンプである。

 

 最近では、いずれ癒しと再生の神として私を祀る神社でもできないかなーと思っている。老人や怪我人の参拝が途絶えないだろう。そうすれば何もしなくても信仰が集まる。

 文明が発達していない今は普通の怪我でも死に繋がる厳しい時代だ。だからこうして怪我を治し、少しでも人が多くなるように願いながら活動している。

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 人を癒し続けて早数百年。

 

 最近では人の発展も著しく、村が増え、人口が増え、都という現代で言う首都のような場所もできたらしい。

 人が多い場所には妖怪がいる。であれば都には何かしらの妖怪がいるのではないか。私は一応神であるわけだし、追い出されることはないだろうと目指すことにしたのだ。

 

 その道中で一つ、決意したことがある。

 

 私は、命蓮寺(みょうれんじ)などの人たちとは交流をもたないことにした。

 命蓮寺とは東方に出てくる舞台の一つで、妖怪と人との共生を望んだものたちが人間によって封印されてしまい、幻想郷にて復活した時に建てられた寺の名前だ。

 

 もし、地上にいるその人たちと仲良くなってしまったら、封印されないようにと絶対助けたくなる。

 私は知識で知っている幻想郷を見たい。私の我が儘かもしれないが、誰かが来ないことで思いもよらない危機が迫るかもしれない。そういったことを回避するためなのだ。

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 心を決めてやってきました、都です。到着して早々に、私はキャラに関係してる可能性大の噂を耳にした。曰く、絶世の美女がこの都に現れ、高い地位にいる者がこぞって求婚しているのだとか。これは竹取物語として有名なかぐや姫ではないか。

 と、いうわけで私はこの女性に接触することにした。東方にはかぐや姫をモデルとした人物がいる。私は彼女のこと知っているので、もし東方の人物であるのなら少し手助けしたい。命蓮寺のように、助けることで歴史が歪むようには思えないのだ。それだけならば幻想郷に入らないということもないだろう。

 

 都に着いたその日の夜、私は早速屋敷に忍び込んだ。庭から侵入して屋敷を探索していると、縁側に座っているかぐや姫と思しき少女を発見した。少女は何やら憂いを帯びた表情で月をじっと眺めている。

 見たところ十二、三くらいのように見えるのだが、この時代ではこのくらいで結婚するのが普通なのだろうか。確かに美少女ではある。後数年もしたら絶世の美女となるだろう。

 

 私は気配を消して近寄り、少女の横から目の前へ躍り出た。少女は突然現れた私に驚いている様子だ。しかし、少しも声も出さないとは、結構肝が据わっているのかもしれない。

 

「……あなた、だあれ?」

 

 ようやく動き出した少女が、そんなことを口にした。どうやら叫び出したりする様子はないので、少女の隣に腰かけて自己紹介をすることにした。

 

「私の名前は河森朝日。神様だよ」

「……神様?」

「そう、神様」

 

 訝しげに私を見つめる少女に微笑む。すると、少女は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。こんな屋敷にいるのだから、あまり人と関わりをもっていないのかもしれない。

 

「あなたの名前も、教えて?」

「……蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)

「輝夜か、いい名前だね。私のことは朝日って呼んで」

「わかった。……朝日、どこかで聞いた名前だわ」

「そう?こっちではあまり活動していないのだけれど」

「……そう」

 

 その言葉を最後に会話は途切れ、少し気まずく感じた私はじっと月を見つめていた。ちらっと横を見ると、輝夜も同じように月を見ていた。

 一時間ほどが経ち、夜も深くなってきたので屋敷を出ることにした。

 

「それじゃあ、私、帰るね」

 

 すると、輝夜が私の目を見つめてくる。……帰ってほしくないのだろうか。恥ずかしがっているのかもと思い、私の方から口に出してみる。

 

「次の週も、ここに来ていい?」

「……! ……うん、来て」

「わかった。それじゃあ、またね」

「うん、さよなら」

 

 屋敷を出て、どこか野宿できそうな所を探す。今日はあまり話せなかったので、明日からは団子でも持っていこうかと思った。

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 輝夜との初対面から数年。輝夜はすくすくと成長し、ついには帝までもが求婚にやってきたらしい。

 あれから週に一度は夜に輝夜の屋敷を訪れており、今では互いに親友と呼べるまでになっている。世俗からほぼ隔離状態になっている彼女にとって私の話は貴重な楽しみらしく、会うたびに何か話してとせがまれた。

 

 そんな彼女は最近、少しずつ憂鬱な表情を見せるようになった。おそらく、月の使者が来る日が近づいているんだろう。

 輝夜は、未だ私に月の姫だということを打ち明けていない。普通だったら信じられないので、話そうかどうか迷っているのだと思う。何度か話そうとする素振りは見せているし。

 

 今日も輝夜と会う日だが、日に日に輝夜の雰囲気が暗くなっていて、私も話しかけ辛い。

 月の使者がやってくる前には打ち明けてほしいと思いながら、私は輝夜の屋敷に忍び込んだ。

 

 

 

 

 

―――― 輝夜side ――――

 

 やっとこの日が来た。この一週間、ずっと待ち望んでいた日が。

 今日は、私の親友に会える日。縁側で座りながら彼女を待つ。彼女と始めて出逢った、この場所で――――

 

 

 

 彼女との出会いは突然だった。

 

 私は月でとある重大な罪を犯し、罰として穢れた地上へと堕とされたという経緯をもつ。私はそれを罪だとは思わないし、後悔もしていない。それどころか、今では地上へ堕としてくれたことに感謝すらしている。なにせ彼女と出会うきっかけとなったのだから。

 

 私は月の住人の中でも突出した美貌を持っている。それは地上でも同じらしく、どこで話を聞きつけたのか、まだ幼い私に結婚を申し込む輩が出てきた。

 毎日のように送られてくる貢物に、結婚を申し込んでくる使者。うんざりする私とは反対に、私を拾ってくれた老夫婦は日に日に増える財に目が眩み、ついには私を屋敷の奥へ閉じ込めるようになった。

 

 本当は違うのだが、荒んでいた私にはこんな捉え方しかできなくなっていた。

 

 一日の間に会うのは食事を運んだり私の世話をする女中だけで、老夫婦にはたまにしか会えない。そんな日々を過ごしていくうち、一度も会話をしない日も増えてきていた。

 会話がなく、日が過ぎるにつれて閉じていく私の心。世間ではそんな私を、言葉の少ない恥ずかしがり屋と噂していた。

 

 変化のない退屈な日常。そんなある日、彼女が現れた。

 私の灰色の世界に色をつけてくれた、私の親友が。

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 ある日の夜、縁側に一人座っていた私は、月を見ながらこれからのことを考えていた。

 このままでは、いずれ誰かしらと婚約させられてしまうだろう。誰かに人生の相手を決められるなど、私はそんなのごめんだ。老夫婦への恩はもう十分に返せたと思うし、もう出ていこうかと本気で考えていた、その時。

 

 

 

 

 

 ――――私の横から、一人の少女が飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 驚きすぎて、声もでなかった。周りに誰もいないはずの今、夜の静寂の中を足音もなく私の眼前に現れた人物。

 

 

 背中にかかるように伸ばされた黒髪は月の光を反射し、黒い宝石のように輝いている。

 

 空のように青い瞳は私をじっと見つめ、まるで魅了されたかのように動けなくなる。

 

 雪のように白い肌は闇の中で照らされているかのように光を放っている。

 

 

 私の前にいる、目を惹きつけて離さない少女は、一体誰?

 そのことだけを知りたくて、喉を震わせて声を絞り出す。

 

「……あなた、だあれ?」

 

 必死に発した声はとても小さかったが、彼女には届いたようだった。

 すると、彼女が突然私のすぐ隣に腰かけてきた。

 

 初対面のはずなのに、まるで恋人であるかのような距離。心臓が高鳴り、意味もなく目が泳ぐ。緊張しているはずなのに不思議と心が落ち着き、心なしか甘い匂いもするような気がする。

 どこか安心する雰囲気を持つ彼女のそばにいると、冷えていた心が温まるような感じがする。

 

 私が奇妙な感覚に酔いしれていると、彼女が口を開いた。

 

「私の名前は河森朝日。神様だよ」

 

 少女らしい、少し高めの声がするりと耳に入ってくる。

 しかし今、彼女はとんでもないことを言わなかったか?

 

「……神様?」

「そう、神様」

 

 念のために聞き返してみると肯定された。いや、今まで地上で見た人の中でも特に綺麗な朝日であれば神様であってもおかしくはないのではないか。神は美形が多いと聞いている。

 私が彼女をじっと見つめながら考えていたことに気づいたのか、私に向かって微笑んできた。

 

 その時から後は、何を話したのかわからない。

 おぼろげな記憶の中で、なんとか自分の名を名乗れたことはわかるが、その後はほぼ黙っていたような気がする。

 

 すると、朝日が立ち上がって「それじゃあ、私、帰るね」と言った。その瞬間、熱くなっていた頭が急速に冷えていった。

 

 待ってほしい。帰らないでほしい。もっと私のそばにいてほしい。

 そんな気もちで朝日を見つめるが、なぜか声がでてこない。彼女に迷惑かもしれないという考えが、私の発言を許さないのだ。

 

 すると、私の想いを察したのか、朝日の方からまた来たいと言ってくれた。

 朝日が去って行った後、縁側で彼女のことを考える。

 

(……なぜ、私はここまで彼女のことが気になるのだろう)

 

 まさか恋ではあるまいし。しかし、彼女と話している時は心と体のどちらも安らぐような、そんな気分になった。

 心が浮つくような、不思議な感覚のまま寝床に着く。

 

(また会えば、何かわかるかもしれない)

 

 そのまま微睡に身を任せ、いつしか思考は途切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、朝日本人から能力のことを聞き、その能力のせいで危うく魅了されかけたと暴露することで朝日を盛大に驚かせることに成功した。

 

 

 

 

 




朝日の癒しの能力の副産物のようなものがわかりました。
他人の警戒心を解きやすくなったり、仲良くなりやすくなったりですね。

しかし、心が弱っている人が影響を受けるとそのまま依存してしまうかもしれない、麻薬のような力もあります。輝夜危機一髪でした。

ガールズラブタグが発揮されることは今のところないと思います。今のところ。

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