生まれ変わって星の中   作:琉球ガラス

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二柱の神

 花畑から旅立って数週間。

 飛べばどこへでも行けるのだが、それではつまらないので歩いて移動している。森を越えて山を越えて、それなりに遠くまで来た。

 

 それにしても、この世界では動物にめちゃくちゃ好かれる。

 すれ違う動物がみんな私に寄って来るのだ。初めはハイテンションになったのだが、30日も経てばさすがに慣れるし、野生の動物にたかられると流石に獣臭い。

 もしかすると私の能力の影響なのかもしれないと思い、普段は周囲に垂れ流しにしている癒しの能力を抑えてみた。すると、動物たちはするするっとどこかへ行ってしまった。これはこれで少し悲しいものがある。

 

 そのままゆるゆると歩いていると、木にお札のようなものが貼られていた。不思議に思って指で触れてみると、バチィッ!と大きい音を出して消えてしまった。

 

「も、もしかして……何かの封印とかじゃ『ねえ』……え?」

 

 急にどこからか聞こえた声に驚いて周りを見ると、視界がくるんと回る。ハッとしたときには私は体中を蛇に拘束されていた。

 とっさに体にエネルギーを纏ったので怪我はない。蛇もその気になれば簡単に振りほどけそうだが、なんとなくされるがままになってみる。

 

 蛇に身を預けてじっとしていると、どこからか声が聞こえてきた。

 

『ねえ……あんた、どこから来たのさ』

 

 幼い少女のような、高い声が森に響く。

 

「……私は、森の向こうから来ました」

『へえ……何をしに来たの?』

「ちょっと、旅をしてる途中です」

『ふうん……ま、大丈夫そうかな』

 

 声がそう言うと、私を拘束していた蛇がするすると離れていった。体には特に異常もないので、すっと起き上がれた。

 

「こんなこと聞くのもあれですけど……いいんですか?あのお札のこととか」

「いいんだよ、別に」

 

 後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこには一人の少女がいた。金髪のショートボブに、青と白を基調とした服。白のニーソックスを履き、二つの目玉がついた市女笠をかぶっている。

 この時点で少女の正体には見当がついているが、黙っておくことにした。

 

「いやあ、いきなり蛇をけしかけて悪かったね。結界が壊されたから敵だと思ってさあ」

「あのお札、結界だったんですか!すみません!壊しちゃって……」

「いや、さっきも言ったけど別にいいよ。いつでも作り直せるし。それよりもさあ……」

 

 急に少女の雰囲気が変わる。

 

「あなた……どこの神?」

 

 さっきにまでのにこやかな雰囲気は消し飛び、重苦しい空気になる。嘘をついたら恐ろしいことになる気がする。つくつもりはないけど。

 

「私は、向こうの方にある花畑からきた神ですよ。……あの、やっぱり何かしでかしてましたか?」

「いや、そうじゃない。結界に反応があったから来たんだけど、あれは神とか妖怪とかをはじくものなんだよ。それなりに強力なやつを設置しあったんだけど……一瞬で消し飛んだようでね」

 

 ああ、確かに私が触ると音をたてて消えたな。私が頷くのを見ると、少女が説明を続ける。

 

「あれは相手の強さ……妖怪だったら妖力、神だったら神力とかね。そういうのに反応するのさ。さっき言った通り、結界はそれなりに強力だったから、それが消し飛ばしたやつはかなりの力を持っていることになる。だから警戒してたんだ」

「な、なるほど……私って、そんなに神力ってやつがあるんですか?」

「なんだい、自覚してないの?」

「いえ、力があるのはわかるんですが……。比較する相手がいなかったもので、自分自身の力がどれほど強いのかはわからないんです」

 

 そういうと、少女はあきれたようにため息をはき、「なんだそりゃ……」と呟いた。

 結界を壊したり、あきれさせたり、迷惑をかけてばかりで申し訳なくなる。しかも、相手の見た目は幼い少女である。情けなさ過ぎて涙目だ。

 

「あのー……すみません、私、またなにか……」

「いや、別に……、なんで泣いてるのさ!?」

「いえ、その、久しぶりに他人と会ったのに、なんだか迷惑をかけてばかりで申し訳なくて……」

「ああ、もう。気にしなくていいって言ったのに……」

 

 ぐすぐすしてると、少女が袖で涙を拭ってくれた。

 

「あー……とりあえず、うちに来なよ。ここら辺の説明もするからさ。泣いてるのを放置しちゃうと、私の寝覚めが悪いからね」

「あ、ありがとうございますぅ……」

 

 私は泣きべそをかいたまま、少女の家にお邪魔することになった。

 

 

――――――

――――

――

 

 

「でっかい……」

「ふふん、すごいでしょう!」

 

 確かにすごい。少女の家は階段を上がった先にある神社なのだが、想像していたよりもかなり大きかった。

 

「ちょっと待っててね。もう一人いるから、今呼んでくるね」

「え、いえ、いいですよ!お邪魔しているのに」

「いいからいいから。久しぶりのお客だからねえ。きっと喜ぶさ」

 

 そういって少女はどこかへ行き、広い和室にポツンと残されてしまった。手持ち無沙汰になり、エネルギーで球を作ってお手玉をしてると、足音が聞こえてきたので慌てて球を消す。

 襖が開くと、少女と一緒に女性が入ってきた。二人が向かいに座ったので、頭を下げる。

 

「初めまして。河森朝日と言います」

「あー、いいよ、堅苦しいのは」

 

 真面目に挨拶をすると、少女に止められてしまった。

 

「そういえば、まだ名前言ってなかった。私は洩矢諏訪子(もりやすわこ)って言うんだ。土着神だよ。よろしくね、朝日」

「私の名前は八坂神奈子(やさかかなこ)。諏訪子と同じ神だよ」

 

 少女の名前が洩矢諏訪子で、女性の名前が八坂神奈子。私が思っていた通りだった。

 

 神奈子の髪は紫がかった青のセミロングで、サイドが左右に広がっている。瞳は茶色に近い赤眼。冠のようにした注連縄を頭に付けていて、右側には、赤い楓と銀杏の葉の飾りが付いている。特に目立つのが、背中に装着している複数の紙垂を取り付けた大きな注連縄を輪にしたもの。一度見れば忘れられない格好だ。

 

 諏訪子も神奈子も東方に出てくるキャラクターで、確か大昔に戦争をしたんだっけ?今一緒にいるということは、既に戦争をして、決着がついた後なのかもしれない。

 

「んで?諏訪子、どうして朝日を連れてきたのさ」

「いやーその、朝日は自分の神力を計れないらしくてさ、どれくらいなのか教えてあげてほしいんだ。私よりも神奈子の方がわかるでしょ?」

「そういうことか……。朝日、手を出して」

「は、はい」

 

 手を出すと、神奈子が私の手を握って目をつむる。そのまま数分すると目を開いたが、少し汗をかいている。そんなに大変なことなのだろうか。

 

「驚いた……。朝日、あんた、随分と信仰があるみたいよ」

「え、そうなの!?でも、朝日なんて名前の神は聞いたことがないよ」

 

 私もそう言われるほどに信仰されているとは予想外だ。世界巡りの良い副産物だな。

 

「あの、私が活動していたのは海を越えた所にある国なので、多分そこでの信仰だと思います」

「海の向こうかい!そんなに信仰されるなんて、活躍したんだねえ」

「私の能力で傷を治したりしてたんですよ。それでいろんな場所を巡っていたらいつの間にか信仰されてました」

「へえ~、楽しそうなことしてんだねえ。……ねえ、朝日。今日は泊まってきなよ!海の向こうの話を聞かせて!」

「え、いや、でも……」

 

 急な誘いに戸惑っていると、諏訪子が神奈子に詰め寄り

 

「神奈子もいいでしょ?ね?ね?」

「私は別にいいわよ。反対する理由もないし」

 

 と、許可を出されてしまった。いや、嬉しいんだけど!会って間もない人のことに泊まるのは緊張しちゃうよ!二人とも美人だし!

 

「朝日も、いいでしょ……?」

 

 上目遣いで聞いてくる諏訪子。少女の容姿をフル活用している。計算してやっているのだろうが、それでも私には大ダメージだ。

 

「わ、わかりました……。よろしくお願いします……」

「やった!今日は夜通し話そうねえ!」

「ほどほどにしときなよ、諏訪子。困ってるじゃないか」

 

 神奈子が助けを出してくれるが、ハイテンションになっている諏訪子は止まらない。本当に眠れなさそうだとガックリする反面、久しぶりの他人との交流で嬉しくなる自分もいた。

 

 

 

 

 

―――― 神奈子side ――――

 

 杯を傾けながら、目の前で眠っている少女神に目を向ける。透けるような白い肌に、サラサラの黒髪。軽く撫でてみると、くすぐったそうに身じろぎする。

 

「そんなに朝日が気に入ったのかい?」

 

 隣に座っている諏訪子が聞いてくる。

 

「ふふっ、私との飲み比べにここまで付き合ったやつは初めてよ」

「まったく、神奈子は単純なんだから……。もしかしたら、能力で酔いを癒してたのかもねえ。それでも追いつかなかったみたいだけど」

 

 ケラケラ笑いながら諏訪子が言う。からかうような口ぶりだが、諏訪子もそれなりに朝日を気に入ってるのはわかっている。でなければここまで連れてこようなんて思わないだろう。

 

「癒す能力なんて、随分と優しい力じゃないか。この子には合ってるのかもしれないよ」

 

 夕食を食べた後、三人で話している時に聞いた朝日の能力。ふわふわとした雰囲気の朝日には、癒す程度の能力は丁度いいんじゃないかと思った。戦うための能力を持ってても、朝日には宝の持ち腐れだろう。お世辞にも前衛に立って戦うようなタイプには見えない。

 

「話が本当なら私たちよりも長く生きてるらしいけど……。この寝顔じゃそうは見えないねえ」

 

 暇つぶしなのか、朝日の頬をつつきながら諏訪子が言う。ふるふるしてて柔らかそうだ。

 

「そうだね。あれは、ただの少女の表情だった」

 

 話をしている時の朝日を思い出す。海の向こうを旅した時の楽しそうな笑顔に、旅立つ前に管理していた花畑のことを話すときの心配そうな顔。表情が豊かで、見てて飽きなかった。あれはまるで、自分が母親になったかのような感覚だった。

 

「意識しないと癒しが垂れ流しになってしまうらしい。この子のふわふわとした、害意の欠片もない雰囲気は能力の影響か、もしくは生まれつきか……」

「生まれつきなら恐ろしいねえ。将来はすごい人たらしになってしまうかもしれないよ」

「朝日の優しさに惹かれるようなやつなら、問題はないわね」

 

 朝日の雰囲気は人に安らぎを与え、空のように青く澄んだ瞳は人を惹きつける。

 純粋だが、しっかりとした警戒心もある。ほぼ初対面の私たちの前で無防備でいられるのも、私たちに悪意や害意がないことを感じ取ったのだろう。

 

「しばらく泊めてやろうかねえ。まだまだ聞きたいこともあるんだし」

「ふふっ、それもいいかもね」

 

 諏訪子の言葉に冗談交じりに賛成する。諏訪子の行動に振り回される朝日の姿が目に浮かんで、つい笑ってしまった。

 

 

 

 

 

―――― 朝日side ――――

 

 神奈子と酒の飲み比べをさせられて、酔って寝落ちしてしまった。翌朝、片付けもせず眠ってしまったことを謝ったら笑って許してくれた。

 会って一日だけども、だいぶ気楽に話せるようになってよかった。これが酒の力か……!東方で異変後に宴会を開くのもわかる気がした。

 

 一人で納得していると、諏訪子から連泊のお誘いがあった。即答でオーケーした。

 旅を続けるのもいいけれど、諏訪子たちと一緒に話したり食べたりするのも楽しい。そう言うと、諏訪子は少し頬を赤くして照れていた。可愛い。

 

 その日も二人と酒を飲んだ。昨日は吞み潰してしまったから、今日はゆっくり飲もうという神奈子の提案だ。

 二日酔いになっていたら反対してたけど、私に酔いは残っていない。朝起きた時に少し頭痛がしたが、能力で癒すとすぐに消えた。体調不良にはもってこいの能力である。

 

 朝に神奈子と料理をして、昼に諏訪子と遊んで、夜に二人と酒を飲む。

 そんな生活をしていると、いつの間にか十年が経った。

 

 二人には色々教えてもらうことがあった。神力の使い方とか、戦い方とか。依姫とは近接戦闘が多かったけど、二人と戦う時は遠距離でするのが多く、学ぶことも多々あった。

 

 十年も経てばさすがに旅を再開させねばと思い、二人に話した。そんなわけで、今は二人との最後の酒宴中だ。

 

「朝日が行っちゃうのは残念だねえ。遊び相手がいなくなっちゃうよ」

「寂しいって言えばいいのよ、素直じゃないんだから」

「面と向かって言えるわけないだろお!恥ずかしいじゃないか!」

 

 私の目の前で諏訪子が叫ぶ。だいぶ酔いが回って、私がいることにもお構いがない。聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるが、神奈子はそんな私に気づいていながらも諏訪子に話しかける。

 

「あんたもわかってたでしょ?いつか朝日が出ていくって」

「そうだけどさあ……。やっぱり寂しいよお~……」

「くくくっ、もう言っちゃってるじゃないか」

「か、神奈子さん……、もうその辺で……」

 

 諏訪子をからかう神奈子を止めようとすると、二人の矛先がこちらに向いた。

 

「朝日も、いい加減に呼び捨てで呼びなよ」

「そうだよぉ~、もう十年も一緒なんだから、最後くらいはねえ~」

「うっ……、も、もう慣れてしまって……」

「そんな言い訳、聞かないよぉ!」

 

 そういうと、諏訪子が腰に抱き着いてきた。勢いのまま倒れこんで寝転がる。そんな私たちを見て爆笑する神奈子。

 その後も飲まされたり脱がされたり、逆に脱がしたりと色々あったけど、最後には三人で一緒に眠ることになった。

 

 

――――――

――――

――

 

 

「それじゃあ、行くね!」

「また遊びに来てよ、朝日!絶対にねえ!」

「いつでも帰ってきなよ。ここはもう朝日の家でもあるからね」

 

 二人の声を背にして歩き出す。相変わらず目的地はないけど、私の直感が指し示す方へと。

 

 歩く先には、巨大な山があった。

 

 

 

 

 




出会いは書きますが、そこからはカットします。

書きたいことかくと話が全く進まないうえにガールズラブタグが過労死してしまうから、しょうがないね。

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