――――あれから、数千年の時が流れた。
私は何百万、何千万年もの間宇宙を彷徨っていたので、このくらいの時間では何も感じなくなっていた。私に人間としての感覚は残っているのだろうか。もう妖怪になっていると言われてもあまり驚かないと思う。
私は焼けた土地の真ん中に家を建てた。初代の家はボロボロの掘立小屋だったが、何百年と改良を繰り返してきた私の家はもはや立派なログハウスになっている。ちなみに二階建てだ。
私が残ったこの地は、ほぼ再生が終っている。焼け野原になった土地に住み、消失したエネルギーが再び大地から湧き出るように癒し続けたのだ。しかし今では、特に意味はなかったんじゃないかと思っている。なぜなら今、外は氷に覆われているからだ。
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永琳たちがいなくなった後、世界が氷に覆われたり、巨大な隕石の衝撃が地表を駆け巡ったり、恐竜が生まれたりしていた。正直、いつに何があったとかは詳しく覚えていない。
その間、エネルギーで保護したログハウスにこもって、自己鍛錬をしたりしながら、新たな人類が出現するのを待っていたのだ。私の能力で家を癒し続けているので劣化もしない。体の不老、植物や大地の活性、家の維持と、意外と使い勝手の良い能力だ。
人類が出現するまで暇かと思っていたけど、意外とそうでもなかった。前世で読んだ本などを思い返したりするのが意外と楽しく、もうとっくに忘れてるだろと思っていたものでも思い出せたのだ。
東方projectやその他のアニメなどの知識は宇宙時代に覚えなおしたが、まさか大昔の前世の記憶を未だに思い出せるとは思わなかった。
つくづく高スペックな体である。
恐竜がいた時代には、狩りをした。
罠を仕掛け、木で槍を作って本格的な狩りごっこにいそしんだ。家の地下には犠牲となった恐竜の骨が標本となって全て飾られており、エネルギーで保護してある。これは私の宝物にするのだ。
そうして、世界をエンジョイしていた私に、とうとう待ち望んでいた時が来た。
――――人類が出現したのだ。
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この頃になると、私は遠出をしていた。行く先々で動物を従え、背中に乗せてもらって各地を転々としていたのだ。その時に、人類の集落を見つけた。
――――人類は、すでに地上にいたんだ!
私は歓喜したが、今はまだまだ発展途上。他の場所にもいるかもしれないと、さらに色々な土地を巡ることにした。
私は世界を巡った。その道中で人を癒し、動物を癒し、自然を癒し、時には神話の戦いで傷ついた神を癒したりした。そんなことをしてたら、いつの間にか崇め奉られ、神様の仲間入りを果たしていた。
……いや、なんでさ。
確かに、助けるたびに信仰はされたし、時が経つに連れて謎の力が高まっていくのも感じていた。しかし、まさかそれで神様になるとは思わなかったのだ。
――――曰く、度重なる生存競争に疲れ果てた人類に癒しをもたらした女神。
――――曰く、不治の病に罹り、死ぬしかなかった家畜に生の癒しを与えた女神。
――――曰く、神の怒り(噴火)によって焼けた山を癒し、自然を取り戻した女神。
――――曰く、神と神との闘いに颯爽と現れ、傷ついた神を癒し、どこかへ去っていった女神。
人類が進化していく世界を練り歩いて能力を使用していくうちに、私は『癒しの女神』となり、信仰を集め、神と成ったらしい。
・・・
遠い未来、様々な神話に登場する同名の癒しの女神、ラサフィ(朝日)が同一神であるかどうかで議論が持ち上がることなど、朝日は知る由もない。
・・・
おまけに、神と成った時、程度の能力とは別の、信仰によって得られる力を手に入れた。私自身の神としての力ということだ。
生き物の傷を多く癒してきたおかげか、神の力の効果は『再生』だった。癒しとはまた違った効果を持つ能力で、私の力の利便性がさらに高まった。
もはや私に敵はいない。星のエネルギーの盾で身を守り、たとえ傷を負っても癒して治し、腕や足を失ってもピ〇コロさんが如く再生して生やすことすらできるのだ。……しかし、私は油断しなかった。
かつて、共に鍛錬した綿月姉妹。いつか彼女らを越えるため、私は今でも自己鍛錬を行っているのだ。世界を巡るついでに、たくさんの武術を観て、実践し、技術を盗むということを繰り返していた。物覚えがいい今の体だからこそできる荒業だ。
東方の世界でも上位の強さを持つ依姫にはまだまだ届かないだろうが、今よりもっと技術を磨き、完成させればどうだろうか。
目にも止まらぬ速さで繰り出される、不可避の速攻!神と成った今では不可能ではないと思う。目標は高い方が目指す方も気合いが入るしね。
殺伐とした妖怪の世界では力が必要だ。
この世界を生きるため、私は今日も腕を磨く!
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と、少年漫画の修行編のように決意を新たにしたところで、私は家に戻ってきていた。家と言うのはもちろん、ログハウスである。なぜ戻ってきたのかと言うと、やり残したことを思い出したからだ。
かつて雑草すら生えてなかった大地はとっくの昔に復活し、今は立派な草原となっている。私がこの土地に住み着いたのは、荒れ果てた土地を再生させようと思ったからだった。そして、同時に思ったことがある。
ここ一面を花畑にしたら、めちゃくちゃ綺麗なのでは――――と。
もちろん、一気にやるつもりではない。ただでさえ広いこの場所を花で埋めようというのだ。途方もない年月がかかるだろう。しかし、朝日は実行する。まだ見ぬ花畑に思いを馳せながら。
雑草を抜き、種を植える。世界巡りをしていた時、ついでに持ってきた花の種だ。いずれこの場所は、世界中の花が咲き乱れる世にも珍しい土地になるだろう。そうなるのが今から楽しみだと、うきうきした気持ちでひたすら種を植えていった。
ちなみに、この土地に人間はいない。なぜなら、朝日がエネルギーで壁を作っていたからだ。まだ人々が神がいると信じているこの時代。何をしても壊れない透明な壁を見た人類は、この先には神様がいるとして、無理に入ろうとすることを禁じていたのだ。
人間は壁の近くに小さい祠のようなものを作り、食物を捧げた。それがまた朝日神に対する信仰となって神の力を高めているのだが、そんなこと露とも知らない朝日は笑顔で花の種を植えていた。
――――そして、時は流れる。
結果的に言えば、花畑は完成した。コツコツと種を植え続けた朝日の努力は実り、色とりどりの花が咲き誇る楽園となった。特に美しいのが
太陽の光を浴びて、黄金色に輝く花弁。気がつくと、朝日の花畑で一番多い花は向日葵になっていた。
朝日は懸命に花を世話した。前世で植物を育てたのなど、小学校でのアサガオが最後だ。それでも、花を育てるのを止めはしなかった。暇つぶしに始めた園芸もどきを、いつしか心の底から楽しんでいたのだ。
そんな朝日の想いを汲み取ったのか、種は枯れることなくすくすく育って花を咲かせてくれた。中には冬の間も咲き続ける花まであった。明らかに何らかの影響を受けているが、別に毒を撒いたりしているわけではないので、放っておいた。
逆に、いつでも綺麗な花を見れると喜んだくらいである。
次の年から、ほとんどの花が一年中咲くようになった。
――――――
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広大な土地一面に広がる花畑。理想を実現させた朝日は満足し、花畑が荒らされないようエネルギーの壁で囲って、再び旅に出た。
朝日がいなくても、花は咲き続ける。
春夏秋冬関係なく、一年中花が咲き乱れるその場所は、誰にも触れられることなく存在し続けていた。
朝日が花畑を出ていくとき、一つだけ願い事をした。
どうか、この場所が荒らされることがありませんように――――と。
その願いは、確かに叶えられた。
――――とある花妖怪が、その場所に住み着いたことによって。
主人公が神になりました。
再生の力を手に入れたことで不死じみてきましたが、頭を潰されたりしたら死ぬので、一応不死身ではありません。めちゃくちゃ死ににくいだけで。