生まれ変わって星の中   作:琉球ガラス

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話が進みません


八意永琳

 私は今、大地の上に立っている。念願の大地である。しかし、私にその感触を懐かしむ余裕はない。なぜかというと、地上に降りるときに見た光景のことを考えているからだ。

 私は宇宙を移動できるんだから地球でもできるのでは?という考えで大気圏に突入したのだ。もしできなくても、体の周囲にエネルギーを展開してクッションにするつもりだった。その結果、普通に飛べた。私は景色を見ながらゆっくりと降りてきたのだが……。

 

「緑……だったなあ……」

 

 私が見た景色のほとんどが緑。つまり植物で覆われていたのである。

 

「文明はなくなっちゃったのかな? ……いや、まだ諦めるのは早いよね。街みたいなのもあったし……」

 

 私が降りるときに見た、唯一の街。もしかしたらそこ以外にもあったのかもしれないが、他に目立つようなものは特に感じなかった。とりあえず、その街まで歩いていくことにする。空を飛んでもいいのだが、他に街がないのかもしれないと考えると飛ぶのが怖い。

 

「久しぶりの地面なんだから……歩くのもいいよね」

 

 自分に言い聞かせるようにひとり言を呟き、街の方向へ歩き出す。その道中、気付いたことがある。

 

「このエネルギー……星の力なんだ……」

 

 地球にはエネルギーが溢れていた。雲に近づいたころにエネルギーに気が付いたのだが、地面に近づくにつれてどんどん濃くなっていったのだ。今私が歩いている地面からもエネルギーが湧いてきている。このことから、私が目覚めた小さい部屋は何らかの星に繋がる空間で、私はその星のエネルギーを吸収していたということがわかった。

 全てのエネルギーを吸収した時、どうして部屋の壁まで消えたのかはわからない。私は仮説として、星に内在するエネルギーを吸収した後に、外部に物質として存在するものをエネルギーに変換して吸収してしまったという説を提唱する。他に説を出す人はいないけど。

 

「その星のエネルギーを全部吸収したってことは……私は今星一つ分のエネルギーを体に宿していることになるんだよね……」

 

 暇つぶしにいくら使ってもほとんど減らない理由がようやくわかった。おまけに、今現在地球上にはエネルギーが溢れている。生きている星なので当然だ。何が言いたいのかというと……エネルギーが食べ放題なのだ。もちろん、生まれの星のように吸い尽くすつもりはない。道中にあるエネルギーだけを取り込むのだ。無理やり吸い取るわけではないので、多少もらっても問題はないだろう。どうせすぐに地面から湧き出てくるのだから。

 

「おぉ……見えてきた……」

 

 エネルギーについての脳内学会を終えると、街が結構近づいていた。宇宙での経験からか、行動しながら別のことを考えることが自然とできるようになっている。それに、時間の感覚も曖昧だ。歩き始めてからもう三日ほど経っている。エネルギーのおかげで不眠不休で動けるのだが、たまには休んだ方がいいだろう。宇宙にいた時は一度たりとも寝ていないので意味はないだろうけども。

 

 街の周りには壁があるようだ。上から見たときは気が付かなかった。街の中には入れるのかなと思い近づいてみると、ヒュッという音とともに矢が飛んできた。矢は足のつま先の数センチ前という絶妙なポジションに射られている。慌てて周りを見ると、私の右側の少し遠くに五人の人間がいた。四人の男性と一人の女性だ。女性だけが弓を持っているので、彼女が矢を放ったのだろう。しかし、何故?

 疑問に思っていると、その人たちが近づいてきた。よく見れば、男たちは銃のような物を持っていて、私に銃口を向けていた。怒りよりも先に混乱がくる。私は何かいけないことをしたのだろうか。

 

「ねえ、そこの貴女」

 

 固まっていると、いつの間にか弓に矢をつがえた女性が私に声をかけてきた。返事をしなければまた矢を飛ばしてくるかもしれないと思い、慌てて声を出す。

 

「は、はい!」

 

「貴女は、何をしにここに近づいてきたの?」

 

 何をしに?もしかしてここは、何か特殊な施設なのだろうか。上空から見た限りでは普通の街のように感じたのだが……。ドッキリって雰囲気でもないので、真面目に答える。

 

「街に入るためです」

 

「街に……そう。もう一つ聞きたいのだけれど……貴女は人間よね?」

 

 この女性は何を聞いているのか。まさか世界は今ゾンビが溢れ返ったりしているのだろうか。だとすればこの対応も納得である。

 

「当然じゃないですか。……もしかして、私、人間以外の何かに見えてるんですか?」

 

 不安に思い、聞いてみる。星のエネルギーにそんな効果があるとは思えないが。

 

「いいえ、大丈夫よ。貴女は人間に見えるわ。……貴女、どこからきたの?」

 

「この森の向こうです」

 

「他に人は?」

 

「いません」

 

「今までどうやって暮らしていたの?」

 

「一人で山にいました」

 

 それまで嘘にならない範囲で答えていたのだが、この質問に答えると、女性の周りにいた男たちがざわめきだした。……何か失敗してしまったか。

 

「貴女……妖怪って、聞いたことある?」

 

 いきなり女性が素っ頓狂なことを聞いてきた。

 

「はい。聞いたことはありますが」

 

「見たことは?」

 

「ありません」

 

 答えた瞬間、男たちが何事かを騒ぎ始めた。やれ「嘘に違いない」だの「信じられない」だの勝手なことを口走っている。……まさか、妖怪、いるの?

 

「貴女、本当に見たことがないのね?」

 

「え、えぇ……」

 

 真剣な表情で問いかけてくるので、ついどもってしまった。

 

「妖力も全く感じないし、嘘をついている感じでもないわ……」

 

 妖力?妖力ってなんだ?まさか妖怪のもつ力的なそれですか?

 

「ねえ、貴女、街に入りたいのよね?」

 

「は、はい」

 

「いいわ、入れてあげる」

 

 女性がそう言うと周りの男が騒ぎ始めたが、女性が「静かに」と言うとすぐに黙った。……犬みたいだ。

 

「ただし、条件があるわ」

 

「その条件っていうのは?」

 

「街の中では私と行動を共にすることよ」

 

 え……。一瞬呆けてしまった。監視をつけるとか、手錠をつけるとか、そんな感じかと思った。いや、監視なのだろうが、一人でいいのだろうか。

 

「えぇ、いいですよ」

 

「そう、じゃあいいわ」

 

 そう言うと、女性は弓を下げて近づいてくる。私は、その女性の服装を見て固まってしまった。彼女は白衣のようなのを着ていたため、その下の装いまではわからなかったのだ。それが、距離が近づいた今はわかる。上の服は右が赤で左が青、スカートは上の服の左右逆の配色をしている。こんな特徴的な服装の人、私は一人しかしらない。いや、正確には一人すらいないはずだ。コスプレイヤー以外では。しかし、彼女は確かに私の目の前にいる。三つ編みにした綺麗な銀髪をなびかせて。

 

「じゃあ、自己紹介をしましょう。」

 

 もし、彼女がその人なら、私はとんでもない勘違いをしていたことになる。だんだん心臓の鼓動が早くなってくる。

 

「まずは私からね……」

 

 この地球は、河森朝日がいた世界の未来の地球ではない。私が今いる、この世界は――――

 

「私の名前は、八意××。貴女には発音しづらいでしょうから、永琳でいいわ。八意永琳(やごころえいりん)。それが私の名前よ。」

 

 そこまで聞いて、私は意識を失った。

 

 

 

 

 

―― 永琳side ――

 

 私がその知らせを受けたのは、月への移住計画を進める書類にサインをした時だった。

 

『人間の姿形をしており、ゆっくりとした足取りだが、確実にこちらに近づいてきている』

 

 妖怪の襲撃がなりを潜めてそれなりの月日が経つ。もしかしたら人間の姿で警戒を解かせ、襲うような妖怪かもしれない。今までそういった種類の妖怪は街にこっそりと入り込み、夜の闇に紛れて人を襲うようなやつしかいなかったが、血に飢えて正面から来たのかも……。

 

 ――――私がいこう。

 

 私なら、たとえ予想外の事態が起きたとしてもある程度は対応できる。自惚れではなく、実力を考慮しての考えだ。念のため、四人の男を連れて、周辺にも索敵の人員を置く。

 

「わざわざ正面から近づいてきたのは、馬鹿な妖怪か……もしくは、本当に人間か」

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 ――――無害。

 

 それが、彼女の顔を見て抱いた第一印象だった。

 目には妖怪のような独特の鋭さがない。私はこの時点で彼女は妖怪ではないと内心で決定づけていた。しかし、男たちはまだ警戒心を剥き出しにしている。……まあ、油断をしないのはいいことだわ。

 

 実力試しに矢を放ってみる。……気づかない。足のほんの少し先に刺さってようやく気が付いたようだ。これで妖怪ですって?

 こちらを見つけたようなので、少し近づいて声をかけてみる。

 

「ねえ、そこの貴女」

 

「は、はい!」

 

 緊張しているのがわかる。まあ、横の男たちはまだ警戒しているので仕方がないだろう。

 いくつかの質問に答えてもらうと、衝撃的なことがわかった。なんと彼女は妖怪のことを知っていても見たことはなく、一人で生きていたと言う。この妖怪が跋扈する世界でそんなことが可能なのだろうか。私と行動することを街に入る条件にしたのだが、すぐに承諾された。……警戒心が薄すぎる。いつ命を失ってもおかしくない世界でこの呑気さは……もしかしたら本当に妖怪を見たことがないのだろうか。

 

 とりあえず、彼女に近づいて自己紹介でもしよう。無害なのはほぼ確信してるし、一人で生きていたという彼女自身にも興味がある。歩いて近づいていくと、だんだん彼女の目が見開かれていく。どうやら私の髪と服を見ているようだが……そんなに驚くことがあるだろうか?

 もう彼女との距離は互いに手を伸ばせば届く程度だ。近づきすぎても警戒させてしまうので、これくらいがいいだろう。彼女は今も私の服を凝視している。軽く声をかけたが返事はこない。

 

「私の名前は、八意××。貴女には発音しづらいでしょうから、永琳でいいわ。八意永琳(やごころえいりん)。それが私の名前よ。」

 

 私が名を名乗った瞬間、彼女は糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 

 

 

 

 




頭にストーリーはあるのにそこまでもっていくのが大変です。速筆の方の頭脳はいったいどういう構造になっているのか。

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