可愛いユウキちゃんはここにはいないのでそういうのを見たい方は悲しい気持ちになる前に帰りましょう。
ユウキちゃんは死に瀕している、弱い体、孤独、とか闇堕ちさせやすい要素けっこうあるよね(適当)
「あーあ、やられちゃったのか。でも関係ないよね。彼も、生きてるもの」
ラフィン・コフィン討伐作戦も佳境に差し掛かったころ、それは突然現れた。この場に不釣り合いな少女の可愛らしい声は乱戦状態となったこの場において不思議なくらい響いた。
「だってボク達はいっぱいいっぱい殺したんだ。それだけ、その数だけ生きていける、その数だけ命を増やせる」
とても無邪気に……それでいてその内容は支離滅裂で。デスゲームと化したSAOにおいてはそんなリセット思考なんてものは通用しないと、初日に茅場が教えたというのに
「そう、ボクらはネバーダイだ」
少女は当然といったように、おとぎ話を信じる子供のように無邪気に、無邪気にそう言ってのけた。
◇◇◇◇◇
ボクには忘れられない出会いがある。
ボクは生まれつき病気を患っていてボクの家族も病気でなくなってしまった。
どうやらボクにはみんなと同じように普通に生きることは難しいみたいでみんなと同じように学校に通う事も、外で遊ぶ事もできないみたいだった。
お医者様は辛い辛い闘病生活にあたるボクの苦痛を少しでも減らそうと試験的ではあるがメディキュポイドというものを使ってくれた。ボクの体を使って実験してるということだがそれでもボクの事を考えてくれているお医者様には感謝の気持ちしかない。
だけどメディキュポイドはまだ開発途上のためかひどくつまらない世界だった。もちろんそれがぜいたくなのは分かっているしそれをお医者様に見せる事はなかった。
そんな事を思っていた時の事だった。あの銀色の髪の子供にあった。
「あら、兄さま。私達以外にも人がいるみたい」
「そうだね、姉さま。夢の中なのに不思議だ」
四六時中メディキュポイドに繋がっているボクがその二人と出逢った理由はわからない。いくら繋がっているからといってボクの脳も休める必要はある。もしかしたらボクも夢を見ていたのかもしれない。もしかしたら現実で彼らに会ったのかもしれない。でもまあそんなことは大した問題じゃないよね。
夢も現も、大差ないんだからさ。
「君達は?」
「夢の中でそれを聞くなんて、少々無粋じゃないかしら、ねえ兄さま」
「ボクらにとって君はただの夢の世界の住人、君にとってもボクらは夢の世界の住人。それでいいじゃないか」
それもそうだ。彼らがボクの頭が生み出した架空の存在だろうと、ボクを迎えに来た天使だろうと……関係ない。
「ここじゃあまり遊べそうにないわね」
「でもここならあいつらの顔色を伺う必要もないや」
二人は少し残念そうな顔をしたあと少し無邪気に笑って言った。うーん、せっかく来てくれたのになにも歓迎できないのは悲しいな。
「なら話をしよう。君達の話を聞きたいな。ボク、外の世界の事、なにも知らないから」
ボクの世界は無菌室の中と、メディキュポイドの中にしかない。ならこの奇妙な新しくできた友達の話を聞くのもいいだろう。きっと、ボクの知らない世界を教えてくれる。
それからというもの、ボクは度々彼らと会う機会があった。その度に彼らとたくさんの話をした。彼らはボクの知らない事をたくさん知っていた。無菌室の外の世界は優しくなんてない事、彼らが生きるためにしなければいけなかった事、
彼らが人殺しだと言うこと。
不思議と恐怖は抱かなかった。彼らが話す内容に気持ち悪くなることはあったが、彼らがその容貌に似合わない凶悪な殺人者だろうと彼らを忌避する事はなかった。
彼らの境遇に同情したから?彼らが自分と同じくらいの子供だから?彼らが孤独の身だから?
その答えがわからぬままけっこうな時間が過ぎた。そして二人いたはずだった彼らがある日一人になった。
「あれ、どうしたの?今日は一人なんだ」
「うん。まあそういう時もあるわ。少し離れているの」
そんなこともあるのかと。そもそもがよくわかんないのでそうだと言うならばそうなのだろう。
「ねえ、たまにはユウキの話が聞きたいわ。いつも私達が話してばかりじゃない」
そう言って彼女はボクに近づいて来た。この夢か現かわからない世界でボクの隣に腰をかけ、ボクに持たれるようにそう聞いてきた。
「そうは言ってもボクのできる話なんてそんなにないよ」
「いいの。ユウキの事、知っておきたいの」
そこまで言うならボクも語ろうかと思った。だから全部語った。彼らのする話のように面白い話はないけど、話に山も谷もないけど、自分の話せる事を彼女に全部話した。
家族の事、病気の事、自分の世界の事。
……死の事。
彼女は黙って、時に頷くような仕種を交えて聞いていた。
「ふぅん、ユウキは死んじゃうんだ。そうだと思うわ」
「うん、そんなに永くはないだろうね」
「ユウキは生きたい?」
「……うん。生きたい。君達とまだお話したいしもっといろんな世界を知りたいよ」
ボクの訴えに彼女は悪魔のような……実際彼女達のしてることは悪魔みたいだが、優しい声でボクにそっと囁いた。
「なら殺すの。ユウキ」
何を言ってるかわからなかった。でも彼女はそのまま続ける。
「殺して殺して殺して殺して殺すの。」
「殺した数だけ生きることができる、命を増やせるの」
「そう、それは永遠(ネバー・ダイ)、永遠(ネバー・ダイ)なのよ」
呆然としたボクをおいて彼女は消えていった。その日以来ボクは彼女に会うことはなかった。
しばらくしてお医者様が気遣ってボクに最新鋭のVRゲームをプレゼントしてくれた。
◇◇◇◇◇
新しい世界がそこには広がっていた。SAO、それはまさに楽園だった。いままで見たことない景色、見たことない楽しみ。ボクはすぐに虜になった。
ログアウトができなくなったのもボクにとっては些細な問題だった。むしろみんながボクのところまで来てくれたようにも感じた。
そんなSAOで三日くらいたった時、事件は起きた。切羽詰まったプレイヤーがボクに襲いかかって来た。リソースに限りがあるなら他人から奪う……ということだろう。
不覚にもボクは彼らにやられそうになった。その時にあの言葉が頭によぎった。
(ネバー・ダイ)
ボクは襲いかかって来たプレイヤーに切りかかる。吹き飛ばされた相手は命乞いをする。VR空間に潜っている時間が違うよ。ふふ、怯えてるね。でも君がいけないんだ。君がボクを殺そうとするから。君がボクから世界を奪おうとするから。
「天使を呼んであげるよ。天国は……良いところだって聞いてるよ」
ボクは初めて人を殺した。彼は死に、ボクは生きてる。ステータスも上がり彼の少ないながらもドロップアイテムも得た。なるほど、そういう事だったんだね。
「永遠(ネバー・ダイ)。いい言葉だね」
ふふ、そうでしょ、ユウキ
これでユウキの命は増えたんだよ。焦る事はないさ。時間はたっぷりある
君達も生きてるんだね。それもそうか、ボクより殺している君達がそう簡単に死ぬわけないもんね。
◇◇◇◇◇
「絶剣……」
「閃光や黒の剣士に名前を覚えてもらって光栄だなー」
目の前の年端もいかない少女、プレイヤーネームユウキはまるで圏内で世間話をするようにそう言った。
「貴女はどうしてこんな事をするの!!」
その姿に耐えきれなくなったようにアスナが叫ぶ。やめろ、ソイツと話すな。
「あはっ、あはは、おかしいよ」
「何がおかしいのっ!!」
笑い続けるアイツにアスナは声を荒げる。
「そうしたいから。そうしたいからだよ。殺したいから殺すんだ」
「理由?あったさ。生きるため、生き続けるため、他の世界に生きるみんなが妬ましいから、このボクの楽園を終わらせないため」
「だけどそんな事より、殺したいから殺すんだ。だってそれが」
「この世界(アインクラッド)の仕組みだからさ」
そのあまりにも狂った答えにアスナは呆然とする。その圧倒的な隙を見逃してくれるほど絶剣は甘くない。
「あはっ、隙だらけだよ」
「生憎、彼女を殺されるのはまだ困るかな……狂気の少女よ」
俺の反応が遅れ、アスナが餌食になる、そう思った瞬間アスナと絶剣の間に乱入した男がいた。
「ヒースクリフっ!!」
「話は後だアスナ君。あれは直視するなっ」
「へー、団長さんも相手をしてくれるんだ。ボクはいっこうに構わないよ。楽しくなりそうだ」
絶剣の楽しそうな声音に反してヒースクリフはその顔に怒りを滲ませながら返した。
「なら来るがいいさ。君の宗教の教義にしたがってな。もっとも、世界はそんなに簡単ではないと教えてあげよう」
絶剣の口角がニィっと上がった。
ユウキ
メディキュポイド使用中に夢の中にて双子に出会いネバー・ダイの思想を知る。当初は理解してなかったがデスゲームとなったSAOでPKされかけて覚醒。中途半端にゲームだった事も災いしネバー・ダイを理解してしまう。しかしこれも一時の夢と察しているのかいずれ現実に帰れるプレイヤーを妬ましくも感じている。
双子
元凶。ブラックラグーンのあの双子。夢というご都合主義でユウキの前に現れ強烈な種を植えていった。あとは原作どおり
キリト、アスナ
特になし
ヒースクリフ
自身の描いた世界を悪意渦巻く曲解をしてこの世界を停滞させているユウキを敵視している。一方で狂気に身をやつしたユウキをあわれんでいる