【完結】藤丸立香のクラスメイトになった   作:遅い実験

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藤丸立香の決意

 

 

 七つの聖杯、七つの特異点を巡る旅。

 

 それはいつだって薄氷の上を歩くような勝利だった。誰かが一歩でも道を踏み外せば終わりを迎えてしまっていたかもしれない旅路。

 

 だからこそ、異物(わたし)はできるだけ排除されるべきだと分かっているのに、私なんかが何かを変えられるわけがないと楽観視してしまっている。

 

 もし魔術王がカルデアに来訪する以前の立香の記憶を『視』てしまったら、そこにいる私の記憶を読んでしまったら。そんなことが可能なのかは分からない。しかし。

 彼の『計画』は失敗する、他ならぬ藤丸立香その人によって。

 私はそれを知識として知ってしまっている。もしこの記憶を知られてしまったならば、魔術王はその全能をもって私の初めての友達を叩き潰すだろう。

 

 ありえない可能性だとは分かっている。仮定に仮定を重ねた悲観論だとも分かっている。

 

 いや、こんな考えこそが、彼と共にいたいと願う私が生み出した幻想ではないのか。

 

 悲観論?世界の存亡が、彼の生命が懸かった戦いだ。ならば仮定に仮定を重ねた結論だったとしても、藤丸立香が終わる可能性が欠片でもあるならば、できるだけ私は彼から離れるべきだ。

 

 なのに。

 

 

 ◆

 

 

 「そうだ。海に行こう」

 「まだ6月だけど…」

 

 ここでの生活にも随分と慣れた中学生二度目の初夏。突拍子もない提案に定評のある藤丸さんは唐突にそんなことを呟いた。彼と隣の席になることが多いのは幸運なのか不運なのか。

 

 ちなみに現在歴史の授業中である。

 

 「…藤丸くん、廊下に立っていますか?」

 「いや、違うんです」

 

 穏やかそうな笑顔を伴った中年の男性教諭の言葉に、彼は慌てて首を振る。

 先生の目は笑っていない。怖い。

 

 藤丸さんは歴史が苦手みたいだった。英語に関しては私よりも喋れるのに。頭の回転は早いのに単純な暗記は不得手だ。これは多分勉強どうこうではなく性質の問題だろう。藤丸立香考察ファイルより抜粋────

 

 「…最上(もがみ)さん?仲良く廊下で並びますか?」

 「いや、違うんです」

 

 藤丸さんのせいで私まで怒られた。そしてクラスの皆に笑われた。くそぅ、真面目キャラで通しているのに。

 ジト目で睨む。両手を合わせて拝んでくる彼からぷいと目を背けた。

 

 

 

 授業が終わり休み時間。結局何が言いたかったのだろうと彼を眺める。

 

 「放課後にさ、一緒に海を見に行かない?」

 「え」

 

 この学校から海に向かうには電車でだいたい一時間はかかるし、そもそも海水浴シーズンにはまだ早い。なにがしたいのだろう?

 

 「いや、ただ海を見ようと思って」

 

 私はまだ何も言っていないのだが、そんなに分かりやすいのだろうか。近所では無表情少女として名高いのだが。

 

 「うん、けっこう」

 「え」

 

 まあそれはいい。横に置いておく。

 

 海、海か。

 FGOで海を見に行くと言えばロリっ娘トリオが思い浮かぶが、はて。

 そういえば、私が私として生まれてから海に行ったことはなかったかもしれない。

 初めての友達と、初めての海。

 

 ────夢の終わりには、なかなかに魅力的だ

 

 「…いいよ」

 「うん?」

 「海、一緒に行こう」

 

 

 ◆

 

 

 ガタガタ、ガタガタと電車に揺られて幾世霜(いくせいそう)。暗色に変わっていく空を眺めながら彼と何気ない話をして過ごす。

 そろそろ目的地に到着する。こんな時間さえ名残惜しく感じてしまう。

 

 「じゃあ、行こうか」

 「…うん」

 

 てくてくと彼と並んで歩いていく。短い影が伸びて道を黒く覆っている。

 

 

 きっとこれで終わりにするべきなのだ。

 

 彼と一緒にいる時間は。

 

 楽しかったこの時間は。

 

 

 

 真に藤丸立香を想うのならば、

 

 

 

 

 

 

 ────風が吹いた。

 

 

 

 「ほら、着いたよ」

 

 

 その言葉に初めて、私を下を向いて歩いていたことに気付いた。

 そっと顔を上げる。

 

 

 「────わぁ…!」

 

 

 海だ。

 

 橙色の海がそこには広がっていた。

 

 夕焼けの濃いオレンジ色と、海に反射した淡いオレンジ色が綺麗なコントラストを描き出している。それは写真で、テレビでよく知った景色の筈だった。

 

 でも違う。違うんだ。

 

 震える手を抑えながら、私はただ黙って海を眺め続けた。

 

 

 

 

 「…どう、綺麗でしょ?」

 

 隣に立つ彼が何故か誇らしげに尋ねてくる。事実には違いないので頷いてふと思い立ったことが口からこぼれた。

 

 「どうして私を連れて来ようと思ったの?」

 

 彼は恥ずかしげに目を逸らすと、決心したようにその宝石のような瞳で私を射ぬく。

 

 

 

 

 「…最近、何かに悩んでたよね?」

 「──────」

 

 「オレじゃ頼りないかな」

 「……」

 

 「私は…」

 

 「うん」

 

 「…あなたは、もしも私がこれからもあなたと一緒に遊んだり、一緒に勉強したりしていたら、世界が滅ぶかもしれないとしたらどうする?」

 

 「…おおう、随分とスケールが大きい…。でも、そうだな。悠月はどうしたいの?」

 

 「────私は、…私は、分からない」

 

 「そうか。オレは一緒がいいな。だってオレは親友だと思ってる。ならそれを失いたくないと思うのは当然だろ?」

 

 「──────」

 

 「これからも一緒に遊びたいし、今度はちゃんと海水浴に行くのもいいな。勉強だって悠月がいないと困るな。教え方が上手だから────」

 

 「それは世界が滅んだとしても?」

 

 「…なら約束するよ。君が何を知っているのかは分からないけど、オレは君と居続けるし、世界だって滅ぼさせない。無責任に聞こえるかもしれない。でも信じて欲しい。きっと嘘にはしないから。…これが今のオレの答えだ」

 

 

 

 

 

 ああ、なんて────

 

 無責任な言葉だろう

 /無責任な私だろう

 

 世界だって救って見せると

 /世界なんてどうでもいいと

 

 現実感も無いのに

 /未来(げんじつ)を知っているのに

 

 想い(こころ)を込めて

 /私のこころが

 

 約束してくれたのだ

 /想ってしまったのだ

 

 (あなた)の為に

 /(あなた)の為なら

 

 

 

 

 私は、 

 

 

 「そっか…、り…」

 

 

 息をのむ。深呼吸をする。

 

 

 「…り、立香、これからもよろしく」

 

 「…おう!」

 

 輝くような笑顔で彼は応えた。

 

 

 

 これからは私と立香の平穏で楽しい日常編が始まる…といいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家まで送ってもらって、ふと気付く。

 私すごい恥ずかしいことしてない?

 現在中学二年生。

 

 完全に中二病だこれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、それにしても、前世で私が見た海はあんなに綺麗だっただろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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