【完結】藤丸立香のクラスメイトになった 作:遅い実験
Fate/Grand Order
────それは、未来を取り戻す物語。
主人公である藤丸立香は人類最後のマスターとして人理焼却に立ち向かうことになる。
◆
藤丸立香とクラスメイトになって幾日か経った。偶然にも、なにがしかの見えざる手が働いたのかもしれないが、隣の席というポジショニングを得た私は彼とよく話すようになっていた。
人付き合いが苦手な、いや、あまり得意ではない、慣れていない、…どれが一番マシだろう、まあいいや、人付き合いが苦手な私でも彼とは話せるようなのだ。
それはきっと彼が私を拒絶しないと分かっていたからだ。…あの異質な存在を恐れるような、そんなよく見る顔を彼はしなかった。そうだろうとも。彼はゲーム本編でも出来る限り相手を尊重して、理解しようとしていた。
Fate/Grand Order。
私も前世でプレイしていた大人気ソーシャルゲームだ。え?うん、大人気だよ?
それは、未来を取り戻す物語。プレイヤーは人理焼却によって消失した人類の
そこそこ課金もしたものだ。私がプレイできたのは1.5部の新宿までだったが、それでもたくさんの英霊を手に入れ、育成してきた。
ただし、
当然、主人公たる藤丸立香もシナリオの中で多くの英霊との出会いと別れを繰り返した。
そこには本来人間に仇なす存在である反英雄も含まれるが、イベントなどを見るに彼らとも仲良くやっていけていたのだろう。反英雄より恐ろしいかもしれない
まあ、ジル・ド・レェや清姫と付き合える超絶コミュ力なんだから私なんぞ屁でもないよね!
「…
退屈で思考が飛んでしまっていたが、現在授業中である。
「おーい」
また思考が飛んでいた。小声で注意を呼び掛けてくれた、り、立香、さん、にお礼をすると黒板に向き直る。…私には名前呼びは無理そうだ。
余裕綽々で先生からの質問に優雅に答え、またもや思考の海にのまれていると授業終了のチャイムが聞こえてきたので意識を浮上させる。
ガヤガヤと騒がしくなる教室。もう昼休みか。私は隣でお弁当を取り出す藤丸さんに声を、声をかけるのだ。がんばる。
「……あ、あの」
「うん?どうかした?」
「…さっきは、ありがとう」
藤丸さんは疑問符を浮かべた顔をすると、しばらくしてから思い当たったようで。
「どういたしまして。でも、別にあれくらいならいいのに」
にこりと微笑んでから、こちらをじっと見つめてくる。なんだろう。寝癖?寝癖ついてる?
「悠月は昼食どうしてるの?」
「…えと、購買でいつもパン買ってる、よ?」
そして一人寂しく食べてるよ。
「そっか。じゃあ今日は一緒に食べない?」
…え?
◆
「ようこそ我が王国へ。そなたを歓迎しよう、盛大にな!」
誰だお前。
「やめなさい。すごく戸惑っているでしょう」
「えー、いいじゃん。最初のインパクトは大事だよー?」
じゃれあう女子二人に、なにこれ?という疑問を込めた目線で藤丸さんを見やると、困ったように眉を下げて苦笑している。
「あー、いや、やっぱり女子もいた方が気が楽かなと思ったんだけど」
確かにこの場にいるのは男女混合、いつの間に仲良くなったのか、というか中学で男女一緒に飯を食うとか空想の中の話だけだと思ってた。…ここ空想の中だったよ。
さて、挨拶をされたならば、挨拶を返さなければならない。常識だ。
「…えっと、よろしくお願いします」
そうして私は初めてクラスメイトと食事を共にして、それからは少しずつだけどクラスの皆とも馴染んでいった。
皆とは、
「初めは近よりづらかったけどね」
「俗世に興味がないみたいな人だと思ってたけど、単に人見知りなだけだったんだね!」
「大丈夫だよー、怖くないよー」
うん、仲良く、…仲良く?やれているはずだ。あと人見知りじゃないから。人と接するのが得意じゃないだけだから。
…重要なのはそこじゃない。目を逸らし続けたところで現実は変わらない。
私の初めての友達、藤丸立香。
クラスメイトとの仲を取り持ってくれた人。
お人好しの善良な一般人。
────そして、いずれ世界を救う者。
私は、彼と、どう付き合っていくべきなのだろうか?
私は、彼と一緒にいても、許されるのだろうか