【完結】藤丸立香のクラスメイトになった   作:遅い実験

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藤丸立香のクラスメイトになった

 

 「今日からよろしくね」

 

 隣の席でにこりと笑う、日本人には珍しい綺麗な青い瞳をした少年を呆然と見つめながら、こういうパターンもあるのかと私は妙な感慨を抱いていた。

 

 その日、私は藤丸立香(主人公)と出会った。

 

 

 ◆

 

 

 私はまあ、簡単に言えば転生者である。もちろん宗教的な話ではなく、よくある創作で出張っている方の、である。

 死んだ理由とか前世での人生とかどうでもいいので割愛するが、私は物心ついた時から私としての自我があった。教えてもいない知識を持ち、妙に落ち着いた言動をする私はそれはそれは気持ち悪い子供であったのだろうと思うが、図太いのか懐が深いのか、両親は然程気にすることもなく受け入れてくれていた。

 

 まああくまで両親は、だが。人間とは元来自分とは違う存在を迫害するものであって、小学校の時分には友達が一人もいなかった。いじめられていたというわけではなく、怖がられていたというのが正しいだろう。私としても今更子供らしく振る舞うなどごめんだったので丁度良かったとは言えるかもしれないが。

 

 そんなわけで一人でいることが多く、また小学校の授業など簡単過ぎて、物思いに耽っている時間が多くあった。

 そこでふと思い立ったのである。私はどうして記憶をもったまま生まれ変わっているのだろう、と。今更とか言わないで欲しい。私だって今までと何もかも違う生活が大変だったのだ。

 

 前世で『物語』を大いに嗜んでいた私はすぐにこれが転生というヤツではないかと思い当たったが、白い空間で神様とは遭遇していないし、もちろんチート能力など片鱗も感じない。私を転生させたものはいささか不親切に過ぎると憤慨しながら、生き残るための調査を開始することにしたのである。

 

 生き残るとは大袈裟でもなんでもない。私が転生したこの世界が創作でもなんでもないなら最上で、ラブコメなら勝手にやっていればいいが、殺伐とした人の命がたんぽぽより安い世界だった場合は対策を立てねば不幸一直線。…対策してもどうにもならないことはあるが。

 

 両親がいない隙にパソコンを奪取し、ネットを駆使して情報を収集する。

 ふむふむ、私の前世より過去だということは分かっていたが、…株取引とかで一儲けできないだろうか?おっと思考が逸れた、命あっての物種だぞ。

 

 よく二次創作で使われる地名などを検索していると、首尾よく発見することができたわけだ。

 

 

────冬木市、という名を

 

 

 私はショックで漏らしそうになったが、なんとか持ちこたえた。まだ慌てるような時間じゃないぜ。

 

 TYPE-MOON世界か。一瞬死を覚悟したが、冷静に考えてみれば当たりかもしれない。

 そも魔術は秘匿されるもので一般人たる私には関係のない話であり、冬木とここは大分離れている。

 念のために帰って来た両親に、魔術との関わりや引っ越しの予定があるかなど探りを入れてみたがどちらもなさそうであった。

 

 一安心した私は小躍りしつつ、生暖かい目でそれを見守る両親を無視して自室でゆっくり睡眠をとったのだ。

 まあ、巻き込まれる時は巻き込まれるものだろうが、そんなのは事故のようなものであり、心配しても無駄にしかならないと割り切る。魔術と関係ない一族だから対策の立てようがないしね。

 

 

 

 そんなこんなで、成績優秀者として表彰されたりしながら私は中学生になった。

 

 新入生代表の挨拶とかかったるい入学式を終わらせて、指定されたクラスへと向かう。

 

 特に周りの同級生たち(モブキャラ)に興味もなかった私は、自分の名前があった席に座ると、分厚い本を取り出して読書を始めた。

 知人には美人が無表情だと威圧感があると忠告されたが、そんなのは知ったことじゃない。むしろ小学生相手に美人とか言っちゃう彼の方が気を付けるべきだろう。逮捕とか。

 

 周囲を威圧しているらしい私には遠巻きに眺める人はいても話し掛ける奇特な人はいなかった。

 

 

────彼が来るまでは

 

 

 ◆

 

 

 回想終わり。いつまでもそうしているわけにもいかない。挨拶されて無視するようでは私の世間体に関わる。

 

 「…よ、よろしくお願いしましゅ」

 

 噛んでない。噛んでないから。別に緊張したわけじゃないし。最近人と話してないから口が回らなかっただけだし。…やっぱり緊張してたことにしよう。

 

 彼は目をぱちくりさせると、

 

 「そういえば、入学式で代表挨拶してた人だよね?」

 

 聞かなかったことにしつつ人を安心させるような笑みを浮かべながら話題を作ってくれた。ありがたい。流石主人公。

 

 私はさっきの醜態はなかったことにして、そうだよと肯定すると自己紹介をした。

 

 彼はそれに目を見開き、失敗したというように頭をかいた。

 

 「そうだった。まずは自己紹介だよね。オレの名前は藤丸立香。…改めて今日からよろしく」

 

 数多の英雄を虜にできたのも納得できるような朗らかな笑顔で、彼は自らの名前を告げた。

 

 

 

 

────それが、私と彼の始まりだった

 

 

 


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