炬燵で蜜柑、雑煮、お年玉、寝正月、一富士二鷹三茄子…人それぞれでしょう。そんなカルデアの正月のごく一部をご覧ください。
非力な私を許してくれ…
空き部屋
主要施設へ電力を集中させている為か、部屋の暖房はややケチっている。その為、冬季限定で廊下の気温が下がる事がある。外の冷気が流れ込み、廊下の温度は0度にまで下がる。冬を実感させる事で体内時計を調整する事が目的とされているが、実際の所迷惑なだけである。
そんなカルデアも正月を迎え、それぞれ思い思いの新年を迎えていた。
「我が食べるは温州のみかん───!」
「ははは、巌窟王はみかんが好きなんだな!」
「当然だ。私がこの手で栽培したみかんだ。マズイ筈がなかろう!」
空き部屋の一室に今回テストとして炬燵を設置した所、巌窟王がご丁寧にも温州みかんを用意してくれた。ついでに滑るように炬燵に入った辺り、相当寒かったらしい。
「しかし、炬燵とは恐ろしい兵器よ。一度入れば出ようとする者を引き止める…」
「意志無いだけじゃね?」
「それを言ったらおしまいだぞ」
やれやれと言った風に肩を竦めたが、直後に新たな客がやって来た。
「よっ!マスター、父上と共に只今見参!」
「あけましておめでとうございます。む…炬燵ではありませんか」
「モードレッドにアルトリアか。あけましておめでとう!席空いてるからおいでよ」
ポンポンと用意した座布団を手で叩くと、モードレッドは慣れたように炬燵に入った。
「あ〜…これだよこれぇ〜…」
途端に蕩け顔になる彼女にアルトリアは変な顔をした。
「そんなに良い物なのですか?」
「良いも何もスゲェ暖かいんだぞ?」
「───いえ、そこに座る物は怠惰を貪り、2度と出られなくなると聞きます。絶対に入りません!!」
「そうか?ほら、大丈夫だろ?これから雑煮作ってくるから」
俺はスクッと立つと料理をしに向かった。因みに、ぽかんとしたアルトリアが試しに炬燵に入った所、「あ"〜」と情けない言葉を吐いたという。
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食堂
「あけましておめでとう、マスター」
「エミヤか。少し相談があるんだが…」
既にエプロン姿で雑煮を作っていたエミヤ(アーチャー)に呼びかけると、用意された餅と汁を睨んだ。
「角餅が無い」
「いや、なんで丸餅はダメなんだ?」
「俺関東人なんだけど!?角餅にしなきゃ」
「なんでさ!?」
「おまけに出汁じゃなくて醤油にしようと思ってたのに!?」
「味噌仕立ての何が悪い!?」
「まーまー2人とも。マスターは角餅の醤油雑煮にすればいいじゃない」
関東人VS関西人の論争勃発寸前にブーディカが介入してくれた。ついカッとなってしまった事を詫びるとエミヤも納得してくれた。
「じゃあ、用意していた餅の半分を譲ろう。それを角餅にすればいい」
「ありがとう───おい、これ元々角餅だっt」
「あーもう!いい加減にしなさいよ〜!!!」
空き部屋
美味い汁を吸いに来たのか、マーリンやイシュタルが加わる中、雑煮を持った俺達が到着する。
「はーいお待たせ〜。関東風雑煮と関西風雑煮を用意したからそれぞれ好きな分食べろよ〜!」
「「やったー!」」
出来立ての雑煮を炬燵の上で配ると、皆仲良く雑煮を手に取って食べ始めた。
「父上の関西風も一口くれよ。オレも一口譲るからさ」
「いいですね。私も関東風に興味ありました」
2人が分け合って雑煮を食べている辺り、どっちも作って正解だったのだろう。が、この時点で俺とエミヤは気づかなかったのだ………。
「うっ────」
“餅を噛み切らずに吞むバカがいる事を”
「──!?!?」
「マーリンの馬鹿が丸呑みしやがった!誰か!なんか用意しろ!」
「えぇと!掃除機掃除機〜!」
「隙間用のがあった筈だ!用意しろ!」
─毎年必ず死者が出る「日本生まれの人類悪」…それが餅という存在の正体である。
「あったぞ!ゴルゴーンから借りてきた!」
「あいつ綺麗好きだったんだな!!!」
─七つの人類悪すら超越する、『喉詰まり』の理を持つ
「吸え!早く!マーリンがもう50回以上タップしてんぞ!」
「本当はザマァみろ案件なのですが正月早々死人が出ては困りますので!」
「クソッ!奥まで入ってる所為で吸い出せねぇ!」
「───!!!」
「なんなのこれぇ!?これが餅!?私の記憶の中にある人類悪だっていうの!?」
「こうなりゃ最終手段だ!ハイムリッヒ法をやる!巌窟王!暴れる手足を押さえてくれ!」
「よかろう!」
苦しみもがくマーリンを押さえつけ、ハイムリッヒ法…腹部上方を圧迫する応急処置が行われる。
「1!2!3!4!」
「───ゴハァ!!!」
無事マーリンが餅を吐き出した事で事なきを得た。取り敢えず、詳しい事は医者に診てもらうべくナイチンゲールが居座る医務室へと運んだ。
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「──さっきの見た後だと食べ辛いわね」
「あいつに関しては自業自得だから」
ハァと溜息を吐くイシュタルにそう声をかけたタイミングで、エミヤがやって来た。今度は熱々のお汁粉だ。先程の反省で餅は一口サイズに切っており、食べやすいだろう。
「おいしい!」
「そうか〜、俺も作った甲斐があった」
ジャックの頭を撫でてあげてから、やっと安心して炬燵に入る事が出来た。
「はぁ〜…疲れた」
キレたり慌てたり疲れたわ。ホント…
お雑煮大好き(死亡フラグ)