紫煙を薫らす   作:柴猫侍

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二十一話

 

 そもそもが八つ当たりのようなものであったのかもしれない。だが、どちらが悪いかと問えば大多数の家臣たちは自分を支持してくれるだろう。それだけ瀞霊廷の掟は破ってはならぬものであると、紫音は考えている。

 世界観が違えば、掟の有す力というものもまるっきり変化する。更には現世の者達と一人の生きる年月の差が激しい故に、価値観を捻じ曲げるということも容易いことではないのだ。

 

 遂にそれらは固定観念となって、傍から見れば異常とも取れる風習が身に染みていき、衣服に染み込んだ垢のように落ちなくなってくる。

 掟を遵守することと、掟に懐柔されることの違いは一体なんなのだろうか?

 世間一般の目から見ても反感を覚えるような法があっても、組織はそれに従わなければならないのだろうか?

 

 成程、組織の一部として動くのであれば上に立つ者の言葉を『是』と捉え、何も反感を抱くことなく動くことが正しい形であるのかもしれない。となれば、この尸魂界という唯一無二である魂の故郷は、愛に真っ直ぐ生きるには少々窮屈な世界だ。

 今一度、『貴ぶ』という言葉の意味を吟味したいところであったが、幾ら考えたところで諦めた自分に機会が巡ってくることはない。それが正しいと懐柔したのだ。己の選択が間違っていたとは露ほども思わない。

 

 それでも、人間とはなんと数奇なものであろうか。

 

「刀を抜け」

 

 己が周りの中で最も掟を重んじるような男が、それを破ろうとするとは。

 斬魄刀の鋒から放たれる殺気は、鼻の先を突くかのごとく研ぎ澄まされている。以前とは比べ物にならない程の覇気。彼の一挙一動が、自分を打ち砕く為の布石に見えてしまう為、気を張らねば既に平静では居られなかっただろう。

 

「……そうか。それが其方の(こたえ)か」

 

 一月前の新月は、巡り巡って満ちては欠けていき、あの時と同じように“無い”という存在感を示している。

 一月考えたのだろう。その吟味の果てに、再び自分を呼び寄せて刃を交えようとしている。本気だ。『以前負けたのが悔しい』とほざくタチでもないだろう。となれば、残る選択肢は限られている。

 

 しかし、長い御託は剣戟を終えた後でいい。

 

 フッと柔らかい笑みを浮かべる紫音は、殺伐とした目つきで斬魄刀を引き抜く。

 同時に重苦しい霊圧が六番隊舎裏の修行場を覆い尽くしていく。副隊長と五席が本気で放つ霊圧は、地に転がる小石を震わせ、生える雑草を騒がせ、木々に留まっていた小鳥を恐怖でこの場から追い立てていく。近くを流れる小川も水面に円を刻み、水中を泳いでいた小魚をも身震いさせる。

 ビリビリと張りつめる空気。実戦でもこれほどまでの緊張感を覚えた事は無い。

 それはとどのつまり、実戦において己の格上と戦ったことがないということになるが、今更どうこう言ったところで状況が改善するとは思えない。

 

(いずれ、こうなる予感はあった)

 

 初めて会った時から、白哉とはどのような形になれど本気で刃を交える予感はあった。それが当時、色恋沙汰で交えることになろうとは思いもしなかったが、それもまた一興と口角を更に吊り上げる。

 

 文字通り、白哉との真剣勝負。

 

 銀嶺がこの光景を見たらなんと言うだろうか気になるが、今はこれから始まる戦いに全身全霊を賭けよう。

 中々踏み込まない両者は、石像であるかのようにピクリとも動かない。

 

 接近戦では白哉に、遠距離では紫音に軍配が上がる―――そう単純なものでもないのだ。

互いの戦い方、斬魄刀の能力。それらを互いに知っているからこそ動けない。だが、瞬きをする時間さえも惜しまれる緊迫した空気の中、先に動き出したのは白哉であった。

一瞬にして掻き消える白哉に対し、霊圧知覚を研ぎ澄ませる。

昔、“瞬神”に弄ばれるようにして鍛え上げられた腕は相当。但し、“共に鍛えられていた”という条件を鑑みるのであれば、その限りではない。

 

 瞬時に後ろを向くよう振り返り、背後からの刺突を一閃を以てして退ける。甲高く擦れ合う音が鳴り響き、余りの勢いに火花さえ散った。

 

「開幕“閃花”とは、随分な仕打ちじゃあないか」

「案ずるな。急所は外すつもりだった」

「それはつまり、魄睡と鎖結は避けても刺すつもりだったということだ。末恐ろしいことを平然とやってくれるな」

 

 鍔迫り合いのような状況になっている二人は、互いの顔を見遣りながら軽口を叩く。

 “閃花”―――瞬歩で相手に肉迫し、通り過ぎ様と魂魄の急所である魄睡と鎖結を突き砕くという恐ろしい技。白哉の瞬歩の速さも相まって、一般隊士であれば視認不可能な程の斬術であり、何とか剣閃を逸らした紫音もタラリと冷や汗を流した。

 

 此奴は本気だ。

 

 以前、雌雄を争った際とは訳が違う。擦れ合う斬魄刀から伝わる感覚で分かる。昔ならここで『少し頭を冷やさぬか?』とでも言って、何とか刀を退かせようとしただろう。しかし、発破をかけたのが自分である手前、ここで『はい、負けました』と敗北宣言する気概が生まれてこない。

 いいだろう。昔、白哉との鍛錬における試合で二連勝を飾ったことは一度たりともない。ならば今こそ二連勝を飾り、今度こそ緋真から手を引くよう真正面から伝えよう。

 その為には否応なしに勝ちを掴まねばならない。

 

「縛道の九・『撃』」

 

 真面な接近戦では白哉に分がある。だからこそ自分は鬼道という搦め手を使って、勝ちを手繰り寄せようではないか。

 低級の縛道を唱える紫音。その様子にすぐさま瞬歩で距離をとる白哉は、左手を翳して固く結ばれている口を開ける。

 

「破道の三十三・『蒼火墜』」

「其方も好きだなあ……―――破道の三十三・『蒼火墜』」

 

 白哉の左手から爆ぜる蒼炎は紫音を呑み込もうとするも、それを相殺すべく紫音も斬魄刀の鋒から『蒼火墜』を放つ。二つの『蒼火墜』は二人の中央で激突し、そのまま爆発する―――と思いきや、中央の空間にねじ込まれるようにして、一切の爆発もせずに視界から消え失せていった。

 その光景を見た白哉は思い当たる事象を即座に口に出す。

 

「反鬼相殺か」

「明答」

 

 同質・同量の鬼道を逆回転で放つことによって、相手の放った鬼道を相殺するという高等技術“反鬼相殺”。昔より鬼道は優れていた紫音が、白哉が昔から好んで行使していた『蒼火墜』を反鬼相殺することなど、十分想定の範疇であった。

 故に動揺は見せない。見せる必要もない。

 

 見物人でも入れば、固唾を飲んで見守る光景。再び膠着状態に入る二人であったが、同時に斬魄刀を構える。

 

「散れ―――『千本桜』」

「妖かせ―――『朧村正』」

 

 始解。途端に白哉の周りには凛とした空気が渦巻き始め、逆に紫音の周囲には妖しい空気がズンと張りつめていく。この衣服に水気が染みて体が重くなるような感覚を覚えるは、既に朧村正の術中であること他ならない。

 しかし、自覚があるだけまだマシだ。これから起こるであろう奇怪な現象には全て朧村正が関わっているということなのだから。幻の中に隠される現を見抜き、現のみを断ち切る。今日白哉は、そのような気概で赴いているのだ。

 

 何が来る? 見るだけで汗が噴き出る、灼熱の溶岩地獄か。それとも寒さで骨の髄まで凍え付きそうな極寒地獄か。はたまた、身の毛もよだつ悍ましい光景か。

 何が来てもいいように、“明鏡止水”の心構えは崩すまいと心がける。

 

 そんな白哉に紫音が差し向けるのは、

 

「―――『金剛爆』」

 

 『赤火砲』とは比べ物にならない程に巨大な火の玉。それを朧村正の鋒から解き放つ紫音に、白哉は平静を装いながらも予想していなかった手に一瞬の逡巡が生まれた。

 見たことも聞いたことのない術。鬼道の教本に載っているのを見たことがない術―――つまり、紫音独自の鬼道だろうか。鬼道衆の優秀な死神達は時折、自己流の鬼道を生み出すというが、それらと同じ類なのだろう。

 問題なのは威力。少なくとも五十番台には匹敵しそうな威力に窺える。

 避けるか? 受け止めるか? 否、圧し通す。

 

「破道の七十三・『双蓮蒼火墜』」

 

 『蒼火墜』の上位互換である破道。両手を翳して解放すれば、白哉目がけて突進してきた火球を呑み込む。

 凄まじい爆発は、暴れ回る竜のような様相を見せた。赤と青の竜が互いを喰らい、呑み込み、噛み砕いていく。最期には自壊して霊力を吐き出すようにして散っていく。

 その衝撃で周囲には風が吹きすさび、黒煙が足元を駆け巡る。

 それらを邪魔だと言わんばかりに白哉は千本桜の花弁を奔らせ、直線状に佇まっている紫音を斬るよう仕向けた。

 

 だが、風の如き迅さで奔った千本桜は紫音の体を貫くものの、彼の姿は一瞬にして靄へと崩れていく。既に幻覚だったか。確かに、あれほどの霊力を込められた鬼道の激突の中、霊圧を極限まで抑え込むか鬼道で隠したのであれば、流石の白哉と言えど見抜く事は不可能だ。

 それでも何の考えも無しで千本桜を奔らせるほど白哉も阿呆ではない。

 空を斬った千本桜は、滝が逆流かのような動きを見せて空に昇ったかと思いきや、そのまま白哉の頭上に移動し、丸い檻を作るかのように主人の下へ帰っていく。

 “無傷圏”は知られている。であれば、幻覚で騙している間に肉迫してくることは明瞭だ。

 

 ならばそれを逆に利用してやろうではないか。無傷圏の範囲を知られているのであれば、その限限までに花弁を密集させた後に―――。

 

「しっ!」

 

 風切り音が響いたかと思えば、白哉を中心として放射状に千本桜は舞い散っていく。てっとり早い朧村正の―――否、幻覚系の能力を突破する全方位攻撃。

 刹那、どこかで何かが裂けた音がした。

 

「そっちか」

「くっくっく……蜘蛛の糸が蜘蛛自身を絡めとらぬような意を感じさせる千本桜の能力。それを生かしての攻撃とは肝を抜かれた」

 

 踵を返した白哉の目に映るは、頬に刻まれた裂傷から流れる血を指で擦り取り、ペロリと艶やかに舐め取る紫音の姿。

 

「だが、如何せん密度が足りぬな」

「了承済みだ」

 

 しかし、紫音の言う通り、今の攻撃には相手を倒し切るには密度が足りない。一本の刀身が千の刃に分裂しているのが千本桜だが、幾ら刃が一千あるとしたとて、四方八方撒き散らせば攻撃の密度が落ちる。

 

「所詮は刀一本分。攻防一体型の斬魄刀と言えど、私の鬼道を防ぐには些かか弱いということを、身を以てして教えてやろう」

「……なに?」

 

 途端に朧村正を回し始める紫音。その姿に十三番隊副隊長が斬魄刀を扱う際の独特な槍術が重なるが、向こうが周囲に水気が満ちていくのに対し、今目の前からは冷気が漂ってくる。

 思わず身震いしてしまうかのような冷気。一瞬にして全身の鳥肌が立つかのような冷気は、紫音の周囲に満ちていく白い煙によって顕著なものとなる。

 

「―――『氷牙征嵐』」

「っ!!」

 

 刹那、朧村正の鋒から放たれる冷気の渦を前に、白哉は周囲に散らしていた千本桜を自身の目の前に密集させた。

 雪崩を思わせる怒涛の冷気の渦は、白哉を千本桜ごと呑み込まんと唸りを上げる。瞬く間に『氷牙征嵐』の射線上に在る物体は凍えていく。石、草、水分、そして千本桜の花弁さえも。

 余りの冷気に直接喰らっていないにも拘わらず、白哉の身に纏う衣服が凍りついていく。ここで気を抜いて霊圧を緩めたとしたのであれば、この途轍もない冷気に肌が裂け、血まみれになってしまうだろう。

 

「どうした? ウンともスンとも言わぬではないか。既に氷像となったか?」

「……これが本気か?」

「くっくっく、今にも凍りつきそうな男の言う言葉ではないな。たかが刀一本で、この術を防げると思ったか」

「……これは」

「私が編み出した独自の術……と言えば嘘になる。私の父が編み出した術の受け売りだ。本来の威力の二分の一も出てはおらぬだろう」

「っ……!」

「そうだ。その半分の威力も無い術に其方は氷漬けにされるのだ」

 

 これで半分の威力もないという事実に、白哉は瞠目する。

 下手な氷雪系の斬魄刀よりも威力のある鬼道だ。恐らく上級鬼道に匹敵するであろう威力だが、それを受け止めるには始解の千本桜では余りにも拙い。既に花弁の幾らかが凍え付き、砕け散っていきそうだ。

 

―――呑まれる

 

―――凍える

 

―――だが……

 

 氷が幾らか張り付いている腕。無理に手を開けば、ブシッと皮膚が裂けて鮮血が舞う。だがそれで良かった。それだけで良かった。

 手を放したことによって地に向かって一直線に落ちていく千本桜の柄は、そのまま吸い込まれるように地面へ溶け込んでいく。

 

 瞬間、重苦しい霊圧が辺りを覆っていた氷を軋ませ、悲鳴を上げさせるように砕け散らせていく。

 

 

 

 

 

 卍解

 

 

 

 

 

「散れ、『千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)』」

 

 暗い闇を幻視する。

 同時に、地面から複数の巨大な刀身が突き上げてくるのも目に入った。

 

「なん……だとっ……?」

「……兄が氷嵐を生み出すのであれば、私は桜吹雪を以てそれらを呑み込むのみ」

 

 地から伸びる刀身が風に巻かれるようにして、無数の花弁に舞い散っていく。千や万では数えきれぬ億の花弁。始解とはまるで違う密度の桜吹雪は、紫音の繰り出す『氷牙征嵐』を呑み込むように進軍していく。

 

「くっ……!?」

 

 『氷牙征嵐』に送る霊力を多くしようとも最早手遅れ。既に桜吹雪は紫音の周りに渦巻き始めていた。

 雌雄は決するだろう。

 唸り声を上げる千本桜景厳の花弁を前に、白哉は友の風流めいた言動を真似るように呟く。

 

「散らすまい。私が胸の内に咲いた……―――この桜を」

 

 

 

 ***

 

 

 

「―――まったく、ここまでズタズタに人の衣服を切り裂く奴があるか」

「……済まぬ」

「私にこのまま半裸で帰れと言うのか。成程、私は今日中に半裸で瀞霊廷を歩く変人と言われるようになってしまうのか。それは光栄だな」

「……済まぬ」

「済まぬと言えば済むと思っているのか」

「済ま……ぬ」

「一瞬躊躇った癖に言い切るな」

 

 ズタズタに切り裂かれた衣服を脱ぎ、上半身半裸のまま己の回道で回復に努める紫音は、グチグチと姑のような言い草で白哉に愚痴をたれていた。

 戦いはあのまま紫音の敗北で終わり。尤も、卍解に始解で勝てという方が無理な話だ。当然と言えば当然の結果なのだろうが、愚痴を言わずには居られない。

 だが、それよりも重要な案件がある。

 

「……卍解してまでくるとは、本気だったか?」

「無論だ。手を抜くつもりは―――」

「違う。緋真のことだ」

「っ……ああ。私は……アレを妻にしたい、と……」

 

 歯切れの悪い物言いだが、白哉が本心から緋真を愛しているということは伝わった。

 どれほどまでに邂逅を果たし、どれだけの逢瀬を重ねたのかは分からないが、卍解を習得させてきてまで掴みとりにきた発言は重厚な重みがある。

 

「成程。流魂街の者を貴族の家に入れる。それも将来は朽木家の当主ともなろう者が、掟を破ってまで彼の女を正妻に加えると言うのだ。私が助言したにも拘わらず掟を破ると言うのだ。私の初恋の女を奪ってな」

「っ……!」

「掟を守ろうとした友の言葉を無視して、自分は愛の道に生きようというのだ。しかも、友が諦めた女を娶ろうとしてな。これはイケない。これを限りに其方とは縁を切るしかあるまい。私は今日という日を忘れるまい。来年の今日も、再来年も、一生だ。私は今日という日に涙を流して月に曇りをかけようではないか。今日という日の月に曇りがかかれば……白哉、その時は私が悲恋の果てに友に裏切られた事実に涙を流していることを思い出せ」

「……済、まぬ」

 

 怒涛の口撃に、只でさえ口下手な白哉は言葉を詰まらせながら最上級の謝罪の言葉を口にする。あれこれ言い訳をしても見苦しいだけだ。

 ならば、友のありのままの言葉を受け止め、後生彼の言葉を胸に秘めつつ生きよう。

 そう考えた白哉は、影を落とした顔で俯く。

 

「冗談だ」

「……なに?」

「はぁ……初恋云々は兎も角、他は冗談だと言っている。現世の書物の一場面を引き出し、少しばかり捩っただけでそれほど落ち込むとは思わなんだ」

「……私は……」

「ふんっ、どうせ叶わぬ恋であるならば、其方の妻であった方が気楽に会える。従兄弟の妻となるのだからな。寧ろ、そちらの方面になるよう手を貸してやる」

「なんだと?」

「其方の妻となった後、余りにも見ていられなくなったならば私が寝取る。それでよいか? ん?」

「待て。聞き捨てならぬ事を言わなかったか、貴様」

 

 先程とは一変、軽くなった場の雰囲気。

 白哉に長ったらしく述べた冗談は勿論、緋真が紫音の初恋の女性であること、紫音が自身の従兄弟であること、緋真が妻となること前提で『寝取る』宣言。

 まず訊くのは、

 

「兄が私の従兄弟とはなんだ?」

「何? まだ銀嶺殿や蒼純殿に聞いていなかったか。私は蒼純殿の姉君の子だ。父は朽木響河。母は朽木翠蓮だ」

「……初耳だ」

「父上は大罪人。故に母上は自ら勘当されることを望んだが、それを良しとしない銀嶺殿が説得し、妥協という形で分家の柊家に嫁がされたのだ」

 

 あっさりと色々ぶっこんでくる。従兄弟ならば早々に話せばいいものをと思ったが、今更過ぎる内容であるが故にヘヴィな内容であるにも拘わらず呆れしか出てこない。

 当の本人も、それほど気にしなくていい内容であるかのような雰囲気でペラペラと語った後は、ふぅと大きな溜め息を吐いた後に、気が抜けた様子の白哉を見遣る。

 

「で、妻に娶りたいと言うのだ。婚儀は何時予定しているのだ? まさか、貴族の立ち振る舞いも覚えていない緋真を連れてきてそのまま婚儀という訳にもいかぬだろう。それなりの立ち振る舞いとやらを覚える期間を―――」

「いや……」

「……なんだ?」

「言い辛いのだが……」

「なんだ、言ってみろ。これ以上其方の言い辛い案件があるとは思えぬが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……未だ告白もしておらぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十秒の沈黙。

 いたたまれなくなった紫音は、生気を失った瞳を浮かべながら、徐に腰帯に差していた斬魄刀を手に取る。鞘付きのまま握り、そのまま白哉の背後に回ったかと思えば―――。

 

「ふんっっっ!!」

「ぐっ……!」

 

 全力のケツバット。

 引き締まった白哉の臀部に、全力で振りかぶった鞘付きの斬魄刀での一撃が命中する。余りの威力に白哉は汗を垂らしながらその場で悶絶しているが、その背後では阿修羅の如き怒気を含んだ紫音が斬魄刀を担いで仁王立ちしている。

 

「……告白もしておらぬと言うか。どの面を下げて決闘に来た? せめて緋真に合意をとってから来るのが筋というものではないのか? どういう了見をしているのだ、其方は。んっ? 反論があるなら言ってみろ。んっ?」

「……済まぬ」

「其方はな、もう少し要領を考え―――」

 

 この後、紫音はめちゃくちゃ説教した。

 


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