俺のスタンドの暴走によって消し飛ばされた三日間があるが、ベルがゴライアスを解体した日とあまり変わりないので、どうかッ! 許してほしいッッ!!
リリルカとベルのラブコメは各自脳内補完で頼むッ!
俺が、ガネーシャだッ!!(土下寝)
あと今回、若干一名のキャラが大幅に崩壊しているので注意。
………いやぁ、お酒の力って怖いね。
オラリオに来て七日目。リリと交わした契約によれば今日でリリと行動を共にするのは最後の日だ。
野暮用で早く切り上げた三日前のあの日からこの日まで、自分だけでもおよそ210万ヴァリスは稼げることができた。丁度半分で山分けをしているので、リリも同じくらいだ。リリが居なければ此処まで稼ぐことは出来なかっただろう。【
―――七日間。リリと冒険を共にし、食事を共にした。知らない仲とは言えない。誰にも言わせない。彼女の弱音を引き出し、彼女の問題も知った。リリを助ける決意をして、本人の知り得ぬことだがもう
ギルドの前で山分けをして、適当なところで食事をして。その帰り道。
酒場があつまる区画。店から魔石灯の光が漏れる人通りのない街道でリリと対面する。
「………本当に、本当に駄目でしょうか?」
「ダメ。契約を延長して、リリを雇うつもりはないよ」
『今はまだ』という言葉がつくが、敢えて言わない。
頭を横に振って、リリは嫌だという。
「でしたら! 契約金なんて要りませんっ。リリの報酬も無くても良いです! ですから―――」
「それは出来ない。リリ、そんな自分を安売りしちゃダメだ」
「だってっ………だってッ!」
「確かにそこまで言ってもらえて嬉しいけど、………でも、リリにはリリの人生がある。それに、まだリリの問題は解決していないんでしょ?」
「それは………!!」
歯を食いしばるように、リリはうつむく。………白々しい、とはこのことだろう。少しだけ悪戯が過ぎている気がしてくるが、だからと言って自分がリリを縛りつけたくはない。
でも、流石に自分も辛くなってきた。
「実はあるファミリアの女の子からクエスト? を受けちゃって。そっちを優先しなくちゃいけないんだ」
「っ!? だからですかッ! ベル様のすけこましっ………!! やっぱり女の子なんですねッ!?」
「ぅぐ………。ま、まぁ、最後まで聞いてよ。もう報酬を受け取ってるんだ。報酬の前金だけでもおよそだけど100万ヴァリスの宝石。だから断ることが出来ないんだ」
「………。へぇ、誰なんですか。そんなお金持ちの知り合いが居たとは、リリは驚きです」
言葉尻に棘があった。目尻には涙が溜まっている。………苛めすぎたかもしれないと顔に出ないように反省する。
「15歳のパルゥムの女の子でね。随分と悪いことをしてきたみたいで。………でも、人生をやり直したいって。誰にも後ろめたいことがないよう、生きたいって泣きながら言われちゃったら聞くしかないじゃないか。―――『【ファミリア】を退団したい』って、涙ながらに言ってたよ」
「―――え」
リリも流石に見当がついたのだろう。
「………で、これが三日ほど前に貰った前金の報酬」
「そ、それは………」
荷物の中からリリが持ってきたノームの宝石が入った袋を取り出す。リリが態々持ち運びやすいように換えてきたものだ。
「だってさ、ノームの宝石だっけ? 持ち運びやすいようにこうして、わざわざ交換してきてくれたんだから。聞かないわけにはいかないよ。リリが何と言っても、僕は彼女を助けるよ」
そう自分が―――ベル・クラネルが決めたのだから。
堰き止めていた涙は、我慢がしきれず流れ落ちてしまう。
「ずるいです、そんな。ベル様はどうして………」
「どうしてって言われても。前にも言ったけどリリのこと、僕は本当に助けたいんだ」
「だからっ、それがズルいって言ってるんです!!」
―――ベルのことを探した日。いや、もっと前からその感情は芽生えていた。名前の知らない感情の正体が解って、より一層この日を遠ざけたくあった。………だというのに、この人はそんな自分を知らないかのように振舞って、弄ぶ。悪戯好きな子供のように振る舞いつつ、自分の事を考えてくれている。「助けたい」だなんて一度も言われたことが無かったのに、この人は何度も何度も自分に投げかけてくる。
八つ当たりのように殴っても只々、受け止めてくれる。
―――………嗚呼、リリはこの人だから―――
「それじゃ行こう、リリ。あとは依頼主を主神に会わせて『改宗待ち』にするだけなんだ」
それでも、差し伸べられた手を取ってもいいのか躊躇する。本当に自分なんかが、この手を取っていいものだろうか。
見かねたように、手を取られた。
「………っ」
「この前、言ったよね。退団出来たらどうしたいかって。もしなかったら考えておいてって。………全部終わったらでいいから、聞かせてね」
「………はい。リリは」
「それは後で、ね」
本当に、ずるい。
Ξ-Ξ-Ξ-Ξ
手を繋いで恥ずかしがるリリを連れてやってきたのは【ソーマ・ファミリア】の
「え、えぇ!? 正面から行くんですか!?」
「大丈夫。話は通してるから。お邪魔しまーす」
返事がない、ということは良いと言う事だろう。この時間に訪れることは伝えているので居るに違いない。
「あの、ベル様! どうしてこの場所を!」
「ん? まぁ、三日前に来てるし。聞き込みしたら親切に教えてくれた人が居たのは助かったよ」
「そうではなく! そうではなくっ!! ちょっとベル様、待ってぇ!」
ちなみにモルドさんではない。酒造をしているらしい、というのは街の人からも聞けたので、卸していそうな酒場を訪ねてまわったのだ。一発目に訪ねた豊饒の女主人で教えてもらえたのは僥倖だった。一番高い料理を頼まされはしたが。
そうこうしていると、この【ファミリア】の主神であるソーマの部屋の前まで来れた。
「ソーマさん、来ましたよー」
「あの、ベル様、ソーマ様は酒造りにしか………」
『―――? ベルか。入って来ても良いぞ』
「………うそぉ」
リリが唖然とした声を出しているが、理由が不明である。確かに酒造りに狂っていると初対面の時に思ったが、あれは造る以上に無類の酒好きだ。
中へ入ると長い髪を後ろに纏め、顔を出したソーマが
「いらっしゃい。ほら、まずは駆けつけ一杯」
「したいところですが、酔っぱらう前にお願いします。―――リリルカの『改宗』を」
「だが断る!」
この野郎、と思わざるをえない。話は既に通したはずなのに、どうしてそうふざけるのか。殴ってやろうか、と柄にもなく思った。
「………じゃあ一杯だけ」
受け取った盃を呷って、中身を飲み干す。先ほどからソーマと自分に視線を行ったり来たりさせてたリリの瞳が大きく見開かれる。
「よし、許す。………というか、私にはこんな
「ご馳走様です。ええ、居ました。居たんです。………勝手に失望して、見限って、放り出した貴方の眷族の中に。………先に出ますので、リリの『改宗』はしっかりお願いしますよ」
「ああ、わかった。また一緒に飲もう、ベル」
「ええ、機会があれば。また何処かで」
唖然としたままのリリの手を離して背中を押す。ソーマが頷いたのを見て、部屋を出た。
忌々しい『神酒』の芳醇な匂いが漂う中、自分はベルにソーマと二人きりにされた。
「………リリルカ、来なさい」
「………はい」
誰か事情を説明してくれ、と心の中で懇願する。
何故、ベルがソーマと仲良くなっているのか。そもそも、何故ソーマが人と関りを持ち、会話が出来ているのか。ベルが『神酒』を飲んでも平気なのかは、わからないでもない。あの人は上級冒険者なのだから、当然と言えば当然だ。
「不思議そうな顔をしているな」
「はい。………どうしてなのですか」
「だが、断るとは言えない。流石に、この程度の空気は読める。………さて、何から話したものかな。まずは私が『神酒』を配った経緯を説明しようか」
「………」
ソーマは盃を呷る。
「初めはそう、普通の【ファミリア】だった。私が【ステイタス】を与え、私のために頑張ってくれる
独白のようにソーマは語る。それは自分との会話ではない。饒舌にしゃべるその雰囲気は酒場に行けばよく見る光景を見ることが出来る。ソーマはもう一度酒を呷る。
「酒に弱い、強いは個人差がある。それは酒の神である私が一番知っていたはずだった。今なお、神も嗜む酒だ。
「………後悔なさってるのですか?」
神に後悔しているか、などと問うのは無粋なのことだろう。それは自分でもわかっている。だが、ソーマの独白を聞き、黙ってはいられない。自身の両親が死に、自分が一人で生きてこなければならなかったのは、この
「ああ、しているとも。全知零能の身に落し、神の権能によって造る酒を人の身で再現できた。そのことに慢心した。私は神の酒を作れはするが、その能力は人と変わりない。未だ全知全能であると慢心した。全知零能であることを忘れ、人の身に近づきすぎた。酒造りしか能のない神に、人と交流する能力は皆無だった。人に近づいたが故に、人を知ろうとはしなかった。………本当にお前たちには申し訳ないことをした」
ソーマは『神酒』を飲んでいると自分には思えないほど、正気を保った声で言う。しかし、どこか自分を見ていないようでもあった。
「………こうして、お前と話せているように見えるが、私には判断がつかないのだ。私は誰に話しているのだろうか。誰に向かっているのか。………いや、確かにお前はリリルカ・アーデなのだろう。だが、それ以上に私には嘗て私の元に居た
それは男神が女神に対して行っているのを見ることができる、極東における土下座と言われるものだった。ソーマが頭を伏せ、自分にむかって謝罪をしている。もっと早くその言葉が聞きたかったと思う。だが、それは許さない理由にはならない。
「正直、リリは困惑してます………どうして、早く気付いてくれなかったのか。どうして、もっとリリたち眷族に向き合ってくれなかったのか。言いたいことは一杯ありますが、今はぐっと飲みこみます。………リリは、
頭を上げてソーマが語る。
「―――嗚呼、本当に二日酔いから醒めたような気分だ。それもこれもベルのお蔭か。あの男は凄いな。
―――酒は飲んでも、呑ませるな。
―――酒は飲んでも、呑まれるな。
―――お酒はやっぱり皆で飲んで楽しくないと。
―――こんなに美味しいお酒が勿体ない。
ダンジョン探索を早々に切り上げ、ベルが行方をくらましたあの日。この
「だから、あの時―――」
ベルと再会した時、気のせいだとは思ったが、少しだけ『
「さぁ、あまりベルを待たせてはいけない。臆することなく【ステイタス】の無い、ただの人の身でありながら神に刃を向けることのできる男だからな。………おお、こわいこわい」
「………あの、今何とおっしゃいました?」
「うん? おお、こわいこわい、と言ったのだが。………ああ、酒が足りずまた不器用になっていたか。やはりダメだな、私は。こうして酒の力に頼らねば、人と満足に話すことも出来ない」
そう言ってまた呷る。違う、そうじゃない。
「あの、そうではなく。その、ベル様に【ステイタス】が無い、とかなんとか。ちょっと信じられない話なんですが………」
まさか、そんなバカなことがある筈がない。だったらあのゴライアスを一瞬で解体したのは何だったのだ。ソーマも他の神々と同じように、酒が入るとこんな冗談を言うのかと呆れる。
「ん? 確かにそう言ったぞ。………ああ、これは秘密だったか。まあ、いい。酒の席でベルが愚痴をこぼしていてな。三本目くらいだったかを空けた頃だ。お前に【ファミリア】に入ってないということが今更言えないとな。………どうした?」
呆れたかった。
「早く『改宗』を、ソーマ様」
「あ、もう良いのか? 『神酒』は飲むか?」
「飲みません!! 神酒を使って機嫌を取るのは懲りたんじゃないんですかっ!!」
「ぐっ………そうだった。すまな」
「いえ、いいですから。早くリリの『改宗』を」
「あ、ああ………」
おお、こわいこわい。ソーマは冗談抜きにそう思った。
喋り上戸ということで、一つ。
こわいなー! お酒こえーなぁ!