Fate/EXTRA 虚ろなる少年少女   作:裸エプロン閣下

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ドラマCD、買いたいけど高いんだよな……。やっぱ高校生の懐にとって3000てのはでかい。しかもオフィシャル送料が高いんだよ……。いっそアニメ化しろよエクストラ。

しかしそう考えると寿司屋で40皿×3人分奢ってくれた友人はすごいと思う。
あの時は正直すまんかった……。


真名看破

「次!」

 

 出会い頭に会ったレベル4の平面上の薄っぺらいエネミー、INSPIRE(インスパイア)、を切り捨て、曲がり角でさらにもう一体のインスパイアを切り捨てる。順調ではあるが、その先には朱い防壁が道を阻んでいる。壁とは色が違うから、おそらく慎二が設置した物だろう。

 

「そのまま走れ!」

 

 しかし式はその防壁すらも切って捨てた。切られた防壁は一瞬陽炎のように揺らぐと、元からなかったように消えていた。式の言葉を信じて速度を緩めなかったため、一切のロスなく走り抜ける。

 

「右に道がある」

 

 すぐ隣りを走る式が、見えない通路を見抜く。確かにそちらの方向には別の道があった。態々透明になっていたということは、これも慎二が細工したのだろう。だが、

 

 ――慎二がこんな手前に隠すはずが無い。もう少し奥だ!

 

 自分はあえてそれをスルーする。慎二は捻くれているから、前過ぎず、しかし後でもない、中盤辺りに隠すはずだからここではない。無論、あとでこちらも探索するが、今優先すべきことは相手の、ライダーの情報だ。それ以外は二の次だ。

 

「分かった。信じるぞ!」

 

 信じる――式が言ったその何気ない一言に、つい笑みが零れる。思い返せば式に信じると言われたのは今日が初めてだろう。それだけで心が温まり、頬が緩む。

 

「何にやけてるんだ。気持ち悪いぞ」

 

 そんな自分を見て式は不審そうな顔でそんなことを言ってくる。自分はいつか式にも分かるさ、と軽口で返しておく。

 

「そんなもんか? と、新手か。少し待ってろ」

 

 一瞬だけ不思議そうにし、エネミーを確認してすぐさま顔を引き締めた式に言われ足を止める。視線の先には紫色の、牛をモチーフしたようなエネミーがいた。端末のエネミーファイルの名前欄には、CLUSTER(クラスタ) HORN(ホーン)と記されていた。レベルは8と、結構高い。

 

 止まった自分とは違い、式は迷うことなく進んでいく。クラスタホーンは敵を撃退しようと頭の左右に生えた、蟷螂の鎌のような角を式目掛けて振り下ろす。見た目に反して動きは早く、そして式はそれを避けようとしない。

 

「遅い」

 

 二つの角が式に当たる直前、式の姿がぶれたと思うと、次の瞬間にはクラスタホーンの背後にいた。クラスタホーンは両足を切り落とされたため、体勢を大きく崩しもたついており、その隙に式が振り向きざまに背中を一突き。それだけでクラスタホーンは消滅した。

 

 そのこれまで以上の圧倒的な戦闘力に思わず脱帽し、口元から感嘆の息が漏れる。やはり自分の身体にドリルやノコギリを入れた甲斐はあったのだ。これだけで救われる……っ!

 

「莫迦なこと言ってないで、さっさと行くぞ」

 

 と、その通りだ。いつ慎二の気が変わって回収されるか分かったものではない以上、ここで足踏みしている訳にはいかない。呆けて開けていた口を閉じて、再び走り出す。

 

 そしてレベル5の魚と蛇が混ざったような姿の新エネミー、VIPER(バイパー)を倒し、分かれ道で迷うことなく右を選ぶ。選んだ理由だが、単純に右なら曲がることなく進めるからだ。

 

 それに、どちらかが行き止まりだったとしても、自信家である慎二は、情報の隠匿や回収よりも自分を倒そうと行動する。先の戦いで自分の強さを見せつけるように戦いを仕掛けてきたのがその証拠だ。

 

 もっとも、サーヴァントが慎二を説得して情報の回収を優先させることも決してないわけでは無いが。そう考えると少し迂闊だったかもしれない。今更ながら少し心配になってくる。

 

「その心配はなさそうだぜ。ほら」

 

 式が速度を緩めていく。自分もそれに合わせて速度を落とし、並び立つ。目元を緩ませた式の視線を辿ると……両脇の部分を損壊したかなり大型のガレオン船と、その中にある二つのアイテムフォルダを発見する。

 

 なるほど……確かにぱっと見しただけでは分からない場所だ。おそるおそる壁の外へと踏み出すと、たしかに床が存在する。そのままどんどんと進んでいき、船の内部へ入る。こちらは迷宮の固くも柔らかくもない床と違い、踏むとギシリとした音と木独特の固さを感じる。学校や迷宮の固い床に慣れていた自分の足にはその感触が心地よかった。

 

 少々感動を覚えつつ、重要そうな物が入っていそうな、オレンジ色の光を発光するアイテムフォルダに手をかける。パカン、と安っぽい音とともに開かれたアイテムフォルダの中にあったのは、一冊の本だった。

 羊皮紙で出来た年代物の手記で、ほとんどの文字が消えかかっていた。おそらく慎二が消去しようと試みたが、あまりに強いプログラムで組まれていたため消去しきることができず、仕方なくここに隠したのだろう。

 

 所々かすれており、碌に読めなかったが『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』という船の名前や、いくつかの島の名前、襲った船の積み荷などを読み取ることができた。

 

 これで、情報は揃った。

 

黄金の鹿号――それは一五七七年に建造された、イングランドのガレオン船。

「そしてそれを私掠船として用いたのは、」

「「フランシス・ドレイク」」

 

 人類で初めて生きたまま世界一周を成し遂げた英雄にして海賊。海賊にして商人。商人にして冒険家。冒険家にしてイングランドの艦隊司令官と、様々な立場を持った英傑。今日(こんにち)イギリスが世界に名だたる大国としてその名を広く轟かせているのは、彼女が当時最強と言われた太陽の沈まぬ国と言われた大国、スペインを破ったからであろう。

 

 そしてその真名に強敵である、と舌を巻くのと同時にどこか安堵する自分がいた。確かにフランシス・ドレイクは世界に名を轟かす英傑ではあるが、それは成した事柄によるものであって、強靭無比な武威によるものではない。先の戦いの敗戦を忘れたわけでは無いが、式の言葉を信じている自分は橙子さんによって強くなった式にとって、決して勝てない相手ではないと確信している。

 

 手に持った手記から、覗き込むように覗く式へ視線を移す。すると同じようにこちらに視線を向けようとしていた式と目が合い、互いに自然と破顔する。無事に情報を手に入れることができたことで、自然と気が緩む。

 

「――慣れ合いも、その辺でいいかな」

 

 だがそれも一瞬。聞こえた声に咄嗟に振り向く。見ればここから出る唯一の道を塞ぐように、慎二とそのサーヴァントが陣取っていた。

 

「まさかこんなところまで探しに来るとはね。随分必死だったじゃないか。ま、その苦労も水の泡になるんだけどね」

 

 しまった……、と心の中で舌打ちする。どうやら浮かれすぎていたらしい……。先ほど自分でも情報の隠匿や回収よりも自分を倒そうと行動すると考えたはずなのに……。なら情報を取られたら奪い返しに来るということも十分予想できていたはずだ。自分の見積もりの見解の甘さに思わず自分を殴りたくなる。

 

 それにライダー、フランシス・ドレイクは決して勝てない相手ではないが、今この場で勝てるかどうかと問われると、まだきついというのが自分の本心だ。できれば慎二が油断している隙に鍛錬を行い、もう少し互いの差を埋めたかったが、こうなってしまっては仕方ない。

 

 ――式、いけるか?

「ああ、いつでも」

 

 自分の問いに素早く答え、式が一歩、自分を庇うように前に出る。その姿に怯えは一切なく、むしろ絶大的な自信に溢れていた。自分の弱気だった心も、それに喚起されるように奮い立つ。

 

 英雄の傍で戦う戦士たちも、きっと今の自分と同じ心境だったのだろう。

 

「おいおい、まさかまた勝負を挑もうってんじゃないだろうな。ついこの間のこと、もう忘れたわけ?」

「言ってろワカメ。お前如きに手古摺る気はもうない」

「ワカ……ッ!?」

「たしかに……言えてるねえ」

 

 式の口から飛び出した罵倒に慎二は絶句し、ライダーはまじまじと慎二の髪を見つめ、納得したと言わんばかりににんまりとした笑みを作っている。 

 

「……あっそう、そんなにここでやられたいわけ? こっちも歯ごたえない敵には、いい加減飽きてきたところだし、ちょうどいいや」

 

 慎二は全身と声を怒りと恥辱で震わせながら、目を伏せて低い声でそう呟いた。

 

「やっちまえライダー!! 格の違いってやつを見せつけてやれ!!」

「了解ィ! 今度は出し惜しみなしだ! 海の藻屑にしてやるよ!」

 

 そして上半身を上げると同時に、千切れるのではないかとも思える勢いで腕を振り、怒鳴るような大声でライダーに指示を下す。上げた額には青筋が立って、かつてないほどに慎二は怒り狂っていた。

 

 傍らのライダーも、それに応えるように、先の戦いとは段違いの闘気を発している。その人知を超えた力に、マフラーをしていてもなお涼しいほどの空間にも関わらず、汗が二滴、三滴と額から垂れていく。これが、ライダーの全力だろう、情けない事に少したじろいでしまう。

 

 しかし、自分の隣には式がいる。勝てるかどうかは分からないが、自分だけでないという、些細な事実が心強かった。

 

「身ぐるみ剥がれる覚悟はいいかい?」

 ライダーが引き金に指をかける。

 

「そっちこそ、これから殺される覚悟はいいか?」

 式が懐からナイフを取り出す。

 

 次の瞬間、互いの獲物が放たれ、弾きあう音が開戦の銅鑼となり、空間が赤く染め上げられた。

 

 

 ※※※

 

 

 今回先手を取ったのはライダー。以前までの様子見とは違い、式の進行方向を塞ぐようにばら撒かれた弾丸の一発一発に明確な殺意があった。救いがあるとすれば、自分を狙うような気は今のところないらしい。どれほど優れたサーヴァントも、魔力供給がなければ動けないのだから。

 

 先の戦いでの式の捩じるような避け方を防ぐためだろう。弾丸の合間に人一人が入り込む隙間は無い。

 

「――甘い」

 

 式はそう言い放つと、自分に迫っていた10を超える弾にたった一本のナイフを構え、クラスタホーンの時同様、その姿がぶれたと思うと既に弾幕の壁を突破していた。

 

 後に残されていたのは、両断されて力を失った銃弾と、アリーナの壁にぶつかり弾かれた弾丸の山だけだった。

 

「ちっ、技量は完全にそっちが上か……。だったらこれならどうだい……!」

 

 苦々しげな表情で舌打ちを零し、両手の拳銃を式へ向けて放つ。先ほどと同じ攻撃にも思えるが、今度の狙いは精確で、切り伏せるという動き事態を阻害するような撃ち方だった。

 

 迂闊に切り伏せようとすれば腕に怪我を。

 かといって防がなければ致命傷を。

 

 どちらも不利な一択を強る、敵ながら惚れ惚れするほど的確な戦い方だった。

 この攻撃に対して式はどう動くのか。ジワリと滲んだ手汗をマフラーで拭う。

 

「だから、甘いんだよ!」

 

 式が床に足を叩きつける。すると踏み抜かれた床板が持ち上がり、それが盾の役割となり銃弾を防ぐ。2、3発は板を貫き式に迫るがそれも難なく切り伏せる。

 

 その突飛でいて最善な行動に、自分も慎二も、そして相対するライダーも驚愕を隠せない。

 

 そのまま板はライダーに向かって投げつかれられ、それをライダーが右の手で払う。

 

「貰ったぁ!」

「チィッ!」

 

 すると板の影に入るように迫っていた式がライダーの首を切り落とさんとナイフを振るう。式の一撃を銃撃では止められぬと咄嗟に判断し、左の銃を消して腰に差してあったカトラスを手に取り刎頸の一撃を防ぐ。それでも僅かに遅れたのか、首筋から血が垂れている。

 

「やっぱり一皮剥いたら化物か……っ! 様子見なんかせず、そのまま倒しちまえばよかったさね……っ!」

「へえ、お前みたいな奴でも後悔はするんだな……っ!」

 

 互いに譲らぬ鍔迫り合い。ここだけとっても前回とは大違いだ。橙子さんの実力はやはり本物だったらしい。今の式のステータスは十分にライダーと並び立てている。

 

「確かにアンタは強い……っ! それだけは認めてやる。だけどあんたは、まだまだ……、実戦経験が薄い!」

「何――ッ!?」

 

 ライダーが渾身の力で一歩詰め寄ると、式の足を踵で踏みつける。ライダーの靴はハイヒールのようで――しかも『刺す』よりも『砕く』ような四角い踵だ――力が集中しやすい。

 さすがの式も突如走った末端部分の痛みには耐え切れず、体勢を崩す。そしてその隙を逃す相手ではなく、すぐさま腹部の中心に右の銃から追い撃ちの弾丸が放たれる。避けようと体を捻るが、避けきれず脇腹に弾丸が命中する。

 

「シンジィ!」

「分かってるよ! くらいな!」

 

 ライダーの叫びに慎二の方向を見てみれば、いつの間にか慎二はホロウィンドウとキーボードを出しており、何やら操作をしていた。未熟な自分には、慎二がどんな改竄をしたのかは分からないが、こちらに不利なことは間違いない。

 

「よぉし! 野郎ども、砲撃用意!」

 

 そしてライダーの命令と共に現れる砲台。それも4門。それらすべてが式へ向けられている。セラフの介入が近いとみて一気に決めるつもりだろう。

 

 戦闘能力のない自分には式を助けることができない。むしろ出て行っても邪魔になるだけだ。今更ながらその事実に、どうしようもない歯がゆさを覚える。マフラーを力強く握りしめ、撃たれた脇腹を抑える式に今まで以上の魔力を送ることで能力を急増させる。考えなしの魔力供給は、長時間の戦闘では悪手だが、今はこの一撃を防ぐことのみを考えればいい。

 

「さあて――藻屑と消えな!」

 

 そしてついに、大砲が火を噴いた。

 

 

 

 

 砲弾が炸裂した場所を中心に、煙がまき散らされる。あまりの衝撃に、余波で吹き飛ばされそうになるが、必死にその場に止まる。眼に突くような痛みを無視し、マフラーで口元を塞ぎ式がいた方向を見やる。

 

 煙が晴れた先には、ぽっかりと大穴があいており、式の姿は無かった。胸中が恐怖に染まり――すぐさま安堵に変わる。

 

「――バカな!?」

 

 ライダーの信じられないと言わんばかりの叫び。そしてその背後で、ライダーの足を切り付け、今まさに胸を穿たんとナイフを振り下ろす無傷の式がいた。

 

 勝利を確信した式のどこか恍惚とした表情。膝を突き、未だに驚愕で彩られたライダーの疑念を抱いた表情。

 

 かくして、ここで一度目の戦いが、七日目を迎えることなく終わりを迎えようと――

 

「……ちっ」

「……ふぅ」

 

 ――しなかった。限界まで赤く染められた空間にセラフの介入を察知し、式は弾かれるように飛び退いた。

 

 

 ※※※

 

 

「な……何やってんだよライダー!!」

 

 以前とは正反対の勝敗に、金切り声が響く。

 

「……そう騒ぐなよ慎二。船長ってのはいつでも冷静でなきゃいけないよ」

 

 返すライダーの軽口にも、覇気はない。未だに膝をついたままで、満身創痍であることが窺える。

 

「僕は力の差を見せつけろって言ったんだぞ! なのになんだよこの体たらくは!? お前遊んでたんじゃないだろうな!?」

「それこそまさかさ。アタシは言った通り、命ごと貰っていくつもりだったさ」

「そっか……て、尚更よくないじゃないか!」

 

 そうして、地団太を踏みながらライダーを責め立てるように散々喚き散らした後、慎二は『これで勝ったと思うなよ! 僕は最強なんだ!』と礼呪を誇示するように見せつけ、威勢のいいセリフを吐き捨ててアリーナから撤退した。

 

 そしてそれを見送り十秒ほど時が流れ……、

 

「ようやく帰ったか……」

 ――つ、疲れたな……。

 

 慎二の気配が完全に消えたことを認識し、自分も式も崩れ落ちるように座り込む。

 式は戦闘で、自分は魔力供給による疲れでもはや一歩も歩けない状態だった。改造されて効率はかなり良くなったがやはり本気の戦闘はまだ辛い。

 

 ――それに……。

 

「あいつが怒ってて、こっちを舐めてて助かったな……」

 

 そう、ライダーが全力で戦っていたにもかかわらず、慎二はこちらを格下と見て終始侮っていた。サーヴァントの実力はマスターのサポートがあって初めて出し切れるものだ。それを慎二は怠り、自分たちは結果的にライダーとの戦闘で限りなく勝利に近いものを得ることができた。だがその替わりに、彼我の正確な戦力差を計ることが出来なかった。

 

「本気で当たるとしたら……勝率は半々ってとこだな」

 

 式が自信なさ気にそう呟く。普段はあんな様子の慎二も、魔術師としての腕前は際立って高い。アバターの改造だけでなく、アリーナの一部を消したり、防壁を作ったりできるのだからそれは確かだ。もし慎二が本気になれば、こうも簡単にはいかないだろう。

 

「だな……。やっぱもう少し鍛えるしかないか……」

 

 汗ばんだ浴衣をはだけさせ、中に空気を入れる式。その仕草に、艶っぽいなどと思いつつ、違和感を感じた。

 

 見た目はいつも通りなのだが……式の身体を構成する霊子構造が、どこか甘く感じた。よく見れば、顔色も少し悪い気がする。自分の気のせいかもしれないが、どうにもそのことが気がかりで、確かめるようにじっと見つめる。

 

 根気強く、式を凝視すると、段々と式の情報がこちらへと流れてくる。自分はその感覚に、一層瞳を凝らして細部を確認しようとすると、

 

「ばっ、こっち見るな!」

 

 式の見事な拳によって、撃沈される。

 顔面にめり込んだ一撃を見舞われて遠のく意識の中、はだけた胸元を両手で覆い頬を染めて恥じらう式の姿に愛くるしさを覚えた。

 

 ――なんだろう、式って動物で言うと……うさぎ? いや、猫だな。

 

 

 ※※※

 

 

「なるほど……。つまり私の霊子構造に違和感を感じたから、それを調べるためだったのか」

 ――イエスマム。

 

 本日二度目の正座&事情説明。違う点は床が木材であることと、観客がいないこと、式も正座していること。

 

「……その、疑って……悪かった」

 

 そして素直なところ。同じネコ科でもタイガーとは大違いだ。これだけでも今日の改造やらタイガーやらライダーとの戦闘やらで荒んだ心が癒される。まさしく心のオアシス。

 

 とまあ、そのことは置いといて、実際のところ調子はどうなんだ、式。

 

「……概ねお前の言うとおりだ。今のオレの身体は張りぼてみたいなものだ。お前から受け取ったエーテル、というか霊子を受け取って最低限動けるようにしただけだからな」

 

 ――それはつまり……。

 

「中身はスタボロのまま。結構あぶな、イテッ!」

 

 式を咎めるような目で睨む。

 何故もっと早く言わないのか。思わずチョップを叩き込んでしまったが、自分は悪くない。とにかく、そういうことなら今日の探索はこれで打ち切って、あとは療養に専念しよう。

 

「……いいのかよ、それで」

 

 どうせ二層は今日解放されたばかりだ。明日にでもまた来るとしよう。タイガーに頼まれたみかんも、今日中とは言われていない。

 

 ところで、自分から受け取った霊子、というのは?

「うん? ライダーの砲撃を受ける前に来てたけど……」

 

 砲撃前……確か自分はマフラーを握って式に魔力を送ったが……。

 ああ、なるほど。このマフラーは鳳凰のマフラーという礼装だ。おそらく式に魔力を送る際、このマフラーが効果を発揮したのだろう。さしずめ、エーテルの欠片などと同じ効果だろう。

 試しにマフラーに魔力を通し、式に何か感じたかを聞くと、

 

「ああ、いま回復用の霊子が来た」

 

 少し顔色を良くして、体の感覚を確かめるよう掌を開けたり閉めたりする。

 

 どうやら礼装とは、魔力を通すことで効果を発揮するものらしい。しかも鳳凰のマフラーは近付かなくても即時回復ができる優れもの。さすがに自分の魔力では使える回数に限度があるが、それでも戦略の幅が増えた。

 

 一先ず、リターンクリスタルで校舎へと帰る。

 ライダーの情報と礼装の使い方、そして実戦経験という、3つの成果を持ち帰り――。

 

 

 ※※※

 

 

[Matrix]

CLASS:アサシン

マスター:岸波白野

真名:両儀式

宝具:直死の魔眼

キーワード:?

      ?

 

筋力:D

耐久:E

敏捷:D

魔力:D

幸運:E

 

 

 ※※※

 

 

 マトリクスレベル:3

 現資金:1306PPT

 




ランクが高いのは改造したのが橙子さんだからです。青子の十倍だとこのくらいでしょうかね。

幹也は式をうさぎみたい、と例えましたが正直私はうさぎに詳しくないので……。あと、『うさぎ系彼女』で調べたら猫系彼女が私の好み(スレンダー)どストライクだったので。まあ、うさぎ:ねこ=4:6くらいの割合にしていきたいです。

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