Fate/EXTRA 虚ろなる少年少女   作:裸エプロン閣下

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祝・連載2周年! いや執筆状況を考えるとあんまり祝えないけどねw

今回はセリフが少ないのでことさら淡白な感じ出てる……

それと関係ないですが、拙作とシルヴァリオヴェンデッタのBGMがなんかマッチしてる感ある。
似てる要素、あまりないんですがね……あ、獲物か。ゼファーと一緒だし。


一触即発

 屋上を後にし、やや軽やかな足取りと晴れやかな気持ちで階段を下りていく。隣りの式も自分と同様に、ある程度体を動かしたからなのか来た時に比べれば適度に硬さが取れた、滑らかな動きをしているのが目に見えて分かる。

 

 互いに心身ともに解れたようだ。そのことにいま一度、心中で凛に感謝を告げる。

 

 そうして一人の少女のことを思っていると、不意にもう一人の少女――ラニのことも思い出す。

 肌の色に纏う雰囲気。印象的な要素は多々あるが、それ以上に強烈な印象を叩きつけられた当分忘れることはないであろうあの少女。遺物も集め終えたし、一度三階へ寄って話をしようかと考えたが、空を見ると言っていたことを思い出す。

 

 その言葉が意味することはおそらく占星術――星の動きを眺め、それを持ってあり方を問う魔術。強力なれど星辰の位置などに作用するため、使用時期が限られた技。そして彼女が言った三日後が、その()なのだろう。

 それを考えると合理性を重んじる彼女はまだいないと確信し、階段を緩やかに降りつつ二日後の再開を心待ちにする。

 

 階段に差し込む強い日差しに、ふと窓の外へと視線を向ける。時刻はまだ1時をやや過ぎた程度。日は中天に。勢いは未だ衰えず。アリーナの環境が校舎側とリンクしているわけではないが、これから潜るというのも如何なものだろうか。

 

 余力のない自分たちは魔力消費は抑えるべきであり、おまけに凛との談笑である程度回復したといっても昨日の疲労も未だに抜けきってはいない。さらに先ほど凛に言われたことも踏まえて胸の内を整理したいところでもある。そのためにも一度、マイルームで休息を取るべきだろう。

 

 他に予定がないことを確認し、二階へ辿り着いたところで階段から離れて廊下へ移る。

 幾度となく通った道であり、目を瞑ったとしても戸惑うことはない順路だ。そのはずだ。

 

 だが――何故だろうか。もはや慣れたはずの空間であるはずなのに、強い違和感を感じる。ふと周囲を見渡せば、式もまた同様に違和感を感じ取ったのか、怪訝そうに薄目になって周囲を見渡して疑念の正体を探り始める。そして違和感の正体に対して長考することなく、ほどなくして口を開く。

 

 ――人が、いない……?

「変、ですね。いつもなら数人はいるはずですのに……」

 

 多くの人間が厳しい現実に打ちひしがれていた、あの二回戦開始直後でも何人かは居たというのに、今は誰もおらず耳鳴りすら起きそうなほど静寂に満ちていた。無論、あの時とは時期も事情も違うが、それにしたってあまりにも歪が過ぎる。明らかに不自然だ。二人だけで占めるには広すぎる空間は、まるで自分たちだけが世界に取り残されたような気持ちをもたらしてくる。

 

 しかしそんなことがあるはずはない。それにこの校舎は比較的音が響きやすい空間になっているのだ。仮に二階とその廊下に誰もいないにしても教室内にいたり、一階あるいは三階に人がいれば何かしらの動作音が響いてもいいのだ。にも拘わらず――。

 

「それがないってことは、どこにも人がいない……?」

 ――……マスターが校舎にいなくなる時なんて、夜中か。あるいは……

『巻き込まれることを、恐れている?』

 

 両者互いに同じ結論に達し、意識を切り替えすぐさま戦闘態勢へと移行する。

 自分は礼装を端末から召喚して身に纏い、式はナイフを構えて周囲の警戒へと移行する。

 そんな自分たちを『ようやく気付いたのか』とせせら笑うかのように、濃厚な殺気が自分と式を――いや正確には自分だけを絡めとる。

 

 うなじを這う蛇のような感覚に怖気が走る。

 

 心臓が跳ねる。引かれるように身もまた跳ねる。

 

 急激な変化に思わず、膝を屈して吐きそうになる。

 

 どうやら相手はサーヴァントではなく、マスターである自分にのみ狙いを絞ったらしい。

 

 自分に向けられたあまりにも強すぎる殺意は式も感じ取ってはいるが、やはりその矛先はあくまで自分。漠然としか感じられないようで、相手の位置を絞れていないのか間断なく、忙しなく四方へ視線を向ける。

 

 姿が見えないとなれば必然、相手の明確な意思(さつい)を感じ取っている自分が的確な指示を出す必要があるのだが――。

 

「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」

 ――分かってる! 分かってる……けれど……。

 

 今までとは違う、直接的かつ驚異的な殺意。

 恥ずかしながら、己は完全にそれに飲まれていた。

 

 手足が震え、呼気も荒い。

 

 全身からじっとりと汗を流しながらも、背筋は凍りついたかのように冷えてしょうがない。

 

 激しい胸の鼓動が思考を遮るように響く。

 

 過呼吸のように荒々しく喉を鳴らして息を吸う。

 

 両手で全身を抑えてなければ、悲鳴を上げて叫びたくなる。

 

 戦う覚悟はあった。必然、殺される覚悟もあった。実際に人が亡くなるのを目にした。

 

 だが、しかし――ここまで濃厚な殺意を向けられたことはなかった。

 

 ここにきて露呈する実戦経験の乏しさによる臆病(よわ)さ。

 未知のものに対する恐怖。命を狙われているという危機感。

 実体験の伴わない、生半可な覚悟など所詮、この現実感(リアリティ)溢れる濃厚な殺意(さつがいよこく)の前には吹けば飛ぶような脆さでしかない。

 

「――くそっ! 一旦アリーナまで行くぞ!」

 

 ――まともに指示が出せる状態にない、と判断したのか式は自分の腕を掴んで階下へと走り出す。突如手を引かれたことに加え、未だ震え続けていたがため大きく体勢を崩し、危うく転びそうになる。それを何とか空いていた片手で以て、とにかくがむしゃらに立て直す。

 

 そんな自分を式は腕を通して感じていたのか、こちらを振り向くことなく、階段を一気に飛び降りると速度を一切緩めず――むしろ加速すらして――廊下を駆け抜ける。自分に強いるにはあまりにも酷すぎるその動きに不満を漏らしそうになる。

 

 しかし戦闘時以上に切羽詰った、前を行く式の苦しげな横顔に、思わず口を噤む。荒々しいが、式なりに自分を守ろうとしての行動なのだ。

 

 たたらを踏む足を整え、式に並ぶ――ことこそ出来ないが、せめて足を引っ張らぬように努める。そうして不恰好ながらも廊下を走り抜け、扉を押し開け、飛び込むようにアリーナへと突入した。

 

 

 ※※※

 

 

 アリーナへと侵入し、自分が纏わりつく生々しい殺意が若干ながらも緩んだことに気付くと、ようやく式は足を止めた。そしてそのまま、睨むように視線を前方へ向け続ける。

 

 対して自分は入った時の勢いによって大きく足を踏み鳴らし、慣性に引かれて式よりも二、三歩前へ躍り出て、膝に腕を立てて上半身を支える。急な全力疾走に、心臓は先ほどとは違う意味でばくばくと悲鳴を挙げ、緩急の差に戸惑った全身が溜まった疲労と共に痛みを主張する。そして同時に、恐怖に縛られていた思考が柔軟性を取り戻す。震えこそまだ治まらないが、それでも先ほどに比べれば雲泥の差と言える。

 

 ――あい、ては……居る?

「ああ、確実に。ただ場所までは掴めない」

 

 断続的に息を吐き、全身のクールダウンを試みながら式へ気配について尋ねる。先ほどより緩まったからといって相手から遠ざかったとは思わない。それどころか、自分はむしろここからが本番だとすら考えていた。殺気が消えていないのは居るということを主張しつつも、居場所を特定させないためであり、事実式から帰ってきた返事もそれを肯定するものだった。

 

 何しろ校舎内とアリーナ。敵サーヴァントにとって、どちらが戦いやすいかといえば後者に違いない。校舎での戦闘にはペナルティがあるし、なによる相手のサーヴァントのマスター、ダン・ブラックモアはだまし討ちをよしとする人物ではない。そのため、相手は事態の発覚につながる校舎での行動は最小限に済ませることを念頭に置いていたのだろう。

 

 そしてサーヴァントが一人、アリーナへ入ってしまえばマスターが単独で迂闊に入るわけにはいかない。あとはサーヴァントが帰ってくるまで待つしかないというわけだ。

 

 ……つまるところ、自分たちは見事に嵌められたというわけだ。

 しかし自分は別段、そのことで式を責めるつもりはない。あの場で立ち尽くしているのに比べれば何倍もましな判断ではあるし、こちらにもメリットがないわけでもないのだ。

 

 まずはアリーナの形状――それは校舎や一般邸宅のようにちゃんとした考えと設計に基づいて作られたものではなく、多分に遊びが込められた低レベルな迷路のような形状になっている。そして自分たちはこの階層のマッピングを終えている。つまり、相手がどこで奇襲を仕掛けてくるか、が把握できていること。

 

 そして次に――相手がマスターの支援を得られない、ということだ。

 たとえ単独であろうとも、自分たちを優に超えるだけの実力を誇っているのは確かだが、彼我の実力差を思えばこれは絶好の機会である。

 

 このような展開、二度もあるとは思えない。

 今回で何としてもサーヴァントの実力を測り、クラスを暴いておきたいところでもある。

 三日目にしてマトリクスが一つもないという状況は痛いし、それにこちらがどんな状態であろうと、決闘の時は必ず訪れるのだ。ならばこそ、挑むしかない。逃げに徹して勝利はない。

 

 覚悟を決めて、未だに荒ぶる心肺を落ち着かせるために深く、深く、なお深く空気を吸い――そして入れ替えるように溜めていた物を吐く。

 

 その大げさ、ともいえる動作で無理やり全身の動きを抑え、先を見据えて身動ぎ一つしない式へ念話で作戦を告げる。式はこれが嫌いだが、我慢してもらう。

 

 顔を顰めているであろう式に、内容を告げ終えると控えめに視線がこちらへ向けられる。その視線に籠っていたのは、不安。

 

 それは、本当に自分でいいのか、というこちらの信頼に対しての。

 それに対して、自分は力強い首肯でもって答える。

 

「……いいのか?」

 ――ああ。

 

 さらに紡がれる式の不安。対して自分は余計な言葉を挟まず、確固たる意志のみを、前面に押し立てる。

 

「……わかった」

 

 そう零し、顔を逸らす式。ぶっきらぼうな口調ではあるが、それは照れ隠しの面もあるのだろう。事実、微かに捉えた彼女の頬は僅かながらに赤みを帯びていた。

 が、それも一瞬。瞬きをしたかと思うとすぐさま自分の隣りへと歩を進める。覗く横顔に恥じらいはなく、そこには久しく見ていなかった凛とした姿があった。自分も改めて緑色に染まるアリーナへと目を向けて、PDAを開く暇も惜しんで地図を思い浮かべて襲撃地点を予測する。

 

 行き止まりに続く道で待ち構える意味はなく、また多くの道と面する場所も必殺を期するには難しい。かといってただの一直線なら左右からの攻撃を注意しなくてもいい。

 もし自分が相手の立場なら、選ぶのは障害物がなく、また八方から攻撃できる位置だ。そしてさらに欲をかけば退路の確保も難しくない地点。となれば――。

 

 ――中央の広間かな。

「妥当だな。それでも他の場所で待ち構えてる可能性もある。気は抜くなよ」

 ――わかってるよ。式のほうこそ、油断は禁物だよ。

 

 答え合わせの後、念のため手の中にリターンクリスタルを忍ばせる。

 

 そして視線だけをこちらに向ける式へ向けて首肯。

 ――途端、ナイフを正面に構えた式が、風を切るように駆け出す。それに続くべく、自分も式の後を疾駆する。

 速度は平素の持久力を考えたそれではなく、速さを意識した疾走だ。

 それはかつて、シンジとライダーの二人を相手に競争した時のように。

 差異があるとすれば、今回は式が前に立ち、自分が後から追従する点だろう。

 敵の攻撃を意識する必要がなかったあの時とは違い、今回は前方からくる殺気にも意識を集中させる必要がある。

 

 碌な休憩のない全力疾走に次ぐさらに過度な運動により、全身が悲鳴を上げる。

 本来ならば慎重さが求められるこの状況下において、実力に劣る自分たちが何故このような暴挙とも呼ぶべき行動に出たのか。当たり前だが自暴自棄などではなく、明確な理由がある。

 

 相手のクラスがどうであれ、相手が奇襲及び暗殺に卓越した腕を持つのは確かだ。

 それは宝具やスキルという意味でもだが、それ以上に技術の腕が、だ。

 磨き上げた技術というのがどれだけ驚異的であるかは、自分もまた判っている。

 

 何しろ、他ならぬ式がそれだ。

 

 脳裏に甦るのは決戦場で戦う式の姿。

 一回戦、最低値のステータスということで終始押されてはいたが、それでも技術という点では圧倒していた。

 

 もし相手に宝具を使わせることなく、式が全力でその技術を披露できる場を用意できていたのならば、おそらく劣勢に追い込まれることはなかっただろう。

 多少贔屓してる面はあるだろうが、それを抜いたとしても結果はきっと変わらなかったと思う。式の技にはそれだけのものがある。

 

 そして――相手のサーヴァントもまた、奇襲暗殺にそれだけの技術を誇ると見ていい。そうでなければさすがに姿と気配を消していようと、強力な毒があろうと、マスターが気を抜いていようと。英霊の守護を容易く抜いて暗殺できるはずがない。

 

 ではそんな技量を誇る英霊を相手に、どう奇襲を避けていくべきなのか。

 ――考えるまでもない。相手の思慮に乗らないことだ。少なくとも、相手の思惑に乗って莫迦正直に行けば、まず助からない。かといって一つ二つの小手先程度でも同じだ。故に方向性は違えど、同じく高い技量を誇る式に相手の一撃(きしゅう)を凌いでもらう。

 

 障害物がない中央で待つというのは、相手にも隠れる場所がないということであり、それは一撃で仕留めるという自負とも取れる。とはいえ、相手のサーヴァントが騎士道やら誓いやらといった誠実さから外れた存在だ。それ以外の状況に関しても頭の中で対策を講じておく。

 

 

 

 

 そして道を塞ぐ何体かのエネミーを倒し、ついに中央の広間へ足を踏み入れる。敵サーヴァントの視認も、覚悟の確認も、僅かばかりの減速もすることなく、駆け抜けるような勢いで走りぬける。

 

 緊張しないわけではない。恐怖を忘れたわけでもない。自棄(やけ)になったのかと問いには否定を。

 ただ自分は信じているだけだ。両儀式という、自分の相棒を。

 そして迷いがないのは相手の居場所と、奇襲地点の両方が推測できるからだ。

 

 居場所は、透明なアリーナの壁越しに見つかることのない奥の方。左右から狙うよりも、正面から狙うほうがよほど命中率は高く。背後から狙うのであれば、一本道で狙ってくる。それらを踏まえて、奥からくるとの判断だ。

 

 そして、奇襲地点。この広間にいるエネミーは六体。内四体が四隅に位置し、残りの二体が中心のスイッチを守るように周囲を浮遊している。スイッチ自体は既に起動しているが、守る二体の守備範囲は広く、奥へ進むには最低でもどちらかを相手にせざるを得ない。故にそのどちらかを相手にする一瞬の隙をついてくる。

 

 式が選んだのは左側のエネミー。

 決断したその瞬間、ほんの極僅かに速度を落とし、爪先を僅かにこれまでの進行方向から逸らす。それを伝わる思念で察知し、その上で動きに注視したとしてもまるで分らないほどの微細な変化。

 見逃すことなく集中し続けたとしても、見抜けるとは思えない。

 

 ――その目にも止まらず、知ったとしても分からない一瞬を、やはり英雄(サーヴァント)は狙ってきた。

 

 ピッ、と引き絞られた物が元の位置へ戻ろうとする張力による、風を切る音がした。

 

 

 来た、と。そう思った。自分にできたのはそれだけで。

 

 

「――そこかッ」

 

 そして対応を任せた式は、確かにそれに反応した。

 視界内の式の腕が一瞬ぶれる。そして同時に甲高い音とエネミーの撃破音が響く。

 

 その一瞬後、半ばで切り落とされた矢が離れたところで地に堕ちる。連結部分を絶たれたエネミー、MEBIUS(メビウス)が宙に溶ける。

 

「――チッ! やるなぁ……!」

 

 加えてそれだけに留まらず、さらに反撃すら行ったのか。

 姿を現した緑衣のサーヴァントは、左腕の肩口を抑えており、そこから血を滲ませている。

 普段の飄々とした笑みもなりを潜め、想定外だといわんばかりに苦い顔を見せている。

 

 確信を抱いて彼を見据える。先ほどの射撃技術は間違いなく、アーチャークラスのそれだと。

 

 奇襲を防ぎ、情報を得、すべてが順調だった。

 

 さて、あとは――。

 

 ……空いた左腕で熱を帯びる二の腕を抑える。麻痺した手からリターンクリスタルが零れ、砕け散る。

 

 ――どうやって、撤退するか。

 

 

 ※※※

 

 

「――チッ! やるなぁ……!」

 

 必殺の一撃を切り払い、反撃の一撃として放ったナイフが緑衣のサーヴァント――アーチャーの左腕を貫いた。

 死線を断ったわけでもなければ、死点を穿ったわけでもないために大した損傷ではないが、無意味というわけではない。少なくとも、謎を一つ解く鍵となった。

 

 見えなかった霊体化。その謎は背景との同化だった。

 見えなかったのではない。見えていたのにそれをアーチャーだと認識できていなかったのだ。

 

 恐らくこれは宝具の効果。厄介なものだと心の中で毒づき、ナイフを逆手から順手に構え直す。

 宝具とその性格を鑑みて、今ここで倒すべきだと判断する。幸いにしてアーチャーは負傷しており、マスターの支援も見込めない。

 

 そして何より、こいつは彼を狙った。

 強い苛立ちを抱いて魔眼を開く。狙うは心臓近くの死点。

 肘を曲げてナイフを抱え込む。姿勢を獣のように低く、足に力を込める。

 爪が食い込むほどに握りしめた掌から流れる血が、刃へと伝って滴り落ちる。

 奇襲の腕は見事なものだが、裏を返せば戦闘に自信がないということでもある。

 ならば容易い。時間は掛けない。宝具を使う間もなく――殺す。

 周りのエネミーなどは意にも返さない。高揚はなく、あるのは冷徹な殺意のみ。

 

「やる気か? ま、そりゃそうだな。大したものだぜ、まさか奇襲のタイミングを読み切って、反撃までしてくるとはな」

 

 軽薄な笑みを浮かべながら賛辞を投げる。しかしそれが癪に触って仕方がない。

 この不利な状況下でアーチャーは、腕の痛みこそ響いているがまるで動じない。

 この男は手の内が尽きたからと言って、潔く死を選ぶような人間ではない。

 まだ何か仕掛けているのだろうか。その可能性に頭が僅かに冷える。

 果たしてどうなのだろうか。意見を尋ねるために彼に意識を――。

 

「だが――反撃の分は取っておくべきだったな。迂闊だったぜ」

 

 一転して冷淡になったアーチャーから送られる冷ややかな声に、ガラスが割れたような音。

 その音に、眼前の男から視線を外す危険性すら忘れ、反射的にそちらを見やる。

 

 視線の先には脂汗を流して膝をつく彼。抑えた右腕には、制服を裂いて一条の傷跡が刻まれていた。

 




もはや何度目になるかも分かりませんが、やはりろくにプロットも練らずに予定外のことをするべきではありませんね。特に私は綿密に練って構成する知略型ではなく思いついたらパパッと書いてしまう本能型の執筆者なので尚更に。だからマトリクスとか所持金表記も消えていく……。
ただそんな展開を微塵も考えていなかった時からそれらしい伏線要素が意外と散らばってたのはさすが本能型。

それはともかく、Dies iraeのアニメ化プロジェクト。始まりましたね。そして速攻お金集まりましたね。やはり爪牙に不可能はなかったんや!

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