イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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 今回推奨戦闘BGM・ゲーム【アーマードコアVD】イメージソング【Day After Day】



53・王手を打つか、打たれるか

 

 

 フェアラートの轟沈とエイロー隊の壊滅。アリアンロッドの最先鋒を潰した形となったその結果、反逆軍優勢へと流れが変わっていく。

 エイロー隊と交戦していた鉄華団とスカーフェイスがフリーになった。彼らが空いた穴から進撃を開始する。

 同時に、この老人が動く。

 

「ふむ、好機だが……あのレーザー砲が沈黙したと見せかけて、こちらを引き込むぐらいはやるか。……各MS部隊に通達。攻勢に出た坊主どものフォローに回れ。ただし深追いをさせるな。件のレーザー砲の照射範囲に留意し、敵部隊が不自然な動きを見せたら迷わず退かせろ」

 

 ケストレル艦長アンダーセン。彼は配下のMS部隊に積極的な行動を控えさせていた。

 彼ら標的艦隊の面子が全力を出せば、ラスタルの首まで届くかもしれない。しかし今の彼らはあくまで傭兵であり援軍。反乱軍本体を差し置いて手柄を得るような真似をする気もなく、またそれが自分たちの役目ではないと自覚している。

 ゆえに配下にはアリアンロッド戦力の『削り取り』を徹底させていた。目に見える戦力低下ではなく、熟練したパイロットたちを消耗させる戦術。パイロットの育成には当然ながら手間と金がかかる。仮にアリアンロッドが勝利を収めたとしても戦力の補充に手間取るくらいに戦力を削っておけば、後々『やりやすく』なるだろう。色々と。

 そう言ったわけで、地味だが後になって効いてくるボディーブローのような戦いを続けている。そして流れは変わってきたが、それに乗じて積極的な攻めを行うつもりなどない。

 かつて出自を理由に疎まれ、閑職に押し込まれて才能を腐らせていたアンダーセンは、本来ラスタルに匹敵するであろう戦術家としての才能を持っていた。ランディとの出会いによってその才能は開花したが、いかんせん遅咲きに過ぎたと自己判断している。

 故に彼は自己の判断を過信しない。有利な状況こそ落とし穴があるものだと自戒していた。戦場の動きには呼応するが、流れに乗って果敢に攻め入るような真似は『できない』。

 だが彼のような人間こそ戦場には必要だ。自分を抑え、状況を見極め、いつでも味方の窮地をフォローできるよう備えられる。そのような人物だからこそマクギリスは彼を指揮官として招聘したのだ。

 老獪なる軍人は確かに遅咲きだろう。何しろ表向きには隠居となったところを引っ張り出されたのだから。

 しかしその才は、確かに花開いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数の剣戟が火花を散らす。

 方や二つのランスを豪快に振り回す紫の機体。

 方や二本の剣を巧みに操る純白の機体。

 大重量の槍を木の棒のように振り回すキマリスも大分おかしいが、それと互角に切り結び一歩も退かないバエルもおかしい。双方ともに機体も乗り手も異常な力を見せていた。

 

「オリジナルに近い阿頼耶識! やはりデッドコピーとは違うと言うことか!」

「システム的なことを言えば、そちらの方が優れているだろうな。惜しむらくは真似をしたいものではないと言うことだ」

 

 激情をたたきつけるガエリオ。飄々といっても良いほどに余裕を見せるマクギリス。

 技量ではマクギリスが勝っているが、阿頼耶識TypeEによってその差は埋められていた。それはシステム的にキマリスの方が上回っているという証明だ。

 だというのに、いや『だからこそ』マクギリスは笑わずにはいられない。

 

「しかしやっとこの領域とはね。外法を行うのであれば、余裕でこちらを上回るくらいはしてほしかったものだ」

「外法を良しとするか! 手段を選ばぬ貴様らしい物言いだ!」

 

 火花を散らしてランスを退けながら、マクギリスはかぶりを振る。

 

「違うな、ガエリオ。そういうことではない」

「なに?」

「分からないか? ……300年、300年だ。厄祭戦から300年で、やっとオリジナルの阿頼耶識に等しいシステムが出来た」

 

 戸惑いが、わずかに動きを鈍らせる。だがマクギリスはそこで追撃するような真似はしなかった。ただ語り続けていく。

 

「これまでの歴史であれば、300年もあれば様々な新しい技術が生まれていただろう。だが現実は、やっとかつての技術に追いついただけだ。それも外法の手段を使った焼き直しにすぎない」

 

 誰もが気づかなかった。いや、気づいていても問題視していなかった。そのような疑問をマクギリスは語る。

 

「阿頼耶識だけではない。この300年、『技術的にはほとんど進歩していない』。厄祭戦時のフォーマットがそのまま使用され、当時から放置してあったMSが少し手を入れた程度で現役として使用可能になるありさまだ。他にも医療、農業、工業……何一つとして発展を見せていない。それがどういうことか。なぜなのか」

 

 言葉とともに刃を突きつける。

 

「すべてはギャラルホルンに原因がある。諍いの芽を潰し、表向きの平穏を維持してきた結果、『人類が発展する余地を根こそぎ奪った』。向上心、闘争力。それらは確かに争いの種になるだろうが、同時に進化の原動力ともなる。それらを否定し仮初めの平和を築き上げた結果がこれだ。秩序を維持するための暴力装置が、人々の歩みを止める枷となったのだよ」

「それは一方的なものの見方だ! 厄祭戦の事実を知り、その技術が脅威であると理解すれば、誰でも慎重になる!」

 

 その反論はGHを擁護したと言うことではなく、マクギリスに反発したかったからと言う気持ちが多かったのだろう。それを分かっているのかマクギリスは冷静に続けた。

 

「ならばなぜ、『阿頼耶識に取って代わる技術が生まれなかった』? 危険であり、禁忌であるとするならば、それより安全で、便利で、使い勝手の良い技術を生み出そうと考えるものがいてもおかしくはないだろう」

 

 現実的には禁忌とされていても、『阿頼耶識システムの使用を禁ずる法はない』。もちろん法整備したところで使う輩は出てくるが、それにしたところで取り締まりがあるのとないのとでは流布の規模が違う。ではそれをしなかったのはなぜなのか。

 

「思うに『阿頼耶識であればGHが対処できるから』、だろうな。禁忌としながらも研究を続け、同時にデッドコピーが流通するのを留めない。安易に誰でも手が出せるのであれば、多くはそれ以上の性能追求などしないし、その上で自分たちは優位を保てる。GHが最も恐れるのは、阿頼耶識を超える技術――『自分たちが対処できない技術が現れること』に他ならない」

 

 これはマクギリスの私見に過ぎない。だがあながち外れてもいないだろうという思いがあった。

 現在の科学者、技術者の中には『突出した技術を研究、開発しているものはいない』。独自にMSを開発していたテイワズですらも、既存の技術を超えるものを生み出してはいないのだ。(バルバトスの阿頼耶識は偶然の産物に過ぎない)

 阿頼耶識を含めた過去の技術を禁忌とし、発展を妨げてきたのはGHの働きによるものだ。その上でエイハブリアクター――『現在のエネルギーインフラの根幹をなす技術』を独占して他の干渉を認めない。技術が停滞する土壌はこうして作られ、そして今日に至るまで押さえ込まれ続けた。あるいは裏で新たな技術が生まれようとするのを封殺してきたのかもしれない。現在のGHのあり方からすればあり得ることだとマクギリスは考える。

 

「進化が止まり停滞を続ければ、その先に待つのは緩やかな衰退だ。今のGHが行っているのは、『遠回りな人類の自殺行為』と言ってもいい」

「……そうか。マクギリス、おまえは秘匿された技術を公開し、経済圏同士の競争心を煽ることで『世界の技術レベルを発展させようとしている』のか!」

 

 それこそがマクギリスの真の目的だと察するガエリオ。

 

「その過程でどれだけの犠牲が生じると思っている! それこそ貴様が主張する、GHが踏みつけにしていた人間たち以上の悲劇が起こるぞ!」

「……そうかもしれない。人類はそれほど賢くもないし、信用できないものなのかもな」

 

 マクギリスは未だ他人を本当に信用できないと思っている。人の心は移ろいゆくもので、状況が変わればすぐに旗色を変えるものだ。

 だが、それでも――

 

「だからこそ、罪は罪であると知らしめ、罰せられ、記録に残していかなければならない。例え世界の支配者であろうと間違いは正され、相応の報いを受けるのだと知らしめ、人々の心に楔を打つ。たやすく悲劇を起こさせないために」

 

 期待を裏切られ、道を違えても人を信じ、前に進んでいかなければならないという言葉を飲み込む。それは己が言うべき言葉ではない。そう語るにふさわしい人間は他にいる。だからマクギリスは自分の中で育ちつつある『本心』を封じた。

 

「早々思い通りに行くとでも!? 一度たがが外れた人類がどれほどのものか、厄祭戦を見れば分かるだろうに!」

「何度も同じ過ちを繰り返すようならば……それこそ人類など滅びてもかまわない。そう思わないか?」

「驕るな! マクギリス!」

 

 再びの剣戟。激しく火花を散らして切り結ぶ2機は、徐々に戦場の最中で位置を変えていく。

 それは双方の軍勢に確認されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マクギリス! 前に出すぎだ!」

 

 イサリビのブリッジで、オルガが腰を浮かせながら叫ぶ。

 主戦場から離れて戦っていたはずのマクギリスが、徐々に最前線へと戦いの場を移しつつあった。まだ戦いの終着点が見えていないうちに彼を失うのは拙い。通信の状況が悪い中、声が届くことはないと分かっていてもオルガは言わずにはいられなかった。

 彼の言葉に応えるのは、別な方向から。

 

「いや、『代表はあれでいい』。我々は前線を維持しつつ、機会を窺う」

 

 声をかけたのはライザだ。彼は旗艦で指揮を執りながら、マクギリスの状況を認識していた。

 彼の言葉に、オルガは顔をしかめる。

 

「だが、今アイツが倒れたら……」

「……覚悟の上だよ。代表も、我々も。だからこそ代表は我々に後を託した」

 

 その言葉は重く響く。

 

「自分の存在を利用して敵を引きつけるつもり、か」

「それもあるだろう。だがそれ以上にここで決着をつけておきたいのだよ代表は。個人的にも、反逆軍を立ち上げた責任者としてもね」

 

 命を捨てたと言うよりは、己の命を利用し尽くす覚悟。そういったものがマクギリスにはある。それを最大限に生かすには指揮を執る立場は邪魔であると、そういった大胆な判断すら躊躇いなくやってのけるのだ。

 

「我々はその覚悟を尊重し、そして代表が作った機会を最大限に利用しなければならない。でなければこれまでのすべてが無駄になる」

 

 確かにマクギリス自身が前に出てくるとなれば、アリアンロッドの軍勢は無視することは出来まい。あの戦いに割って入るなどと言うことは簡単にできないだろうが、隙あらばと機会は窺うだろう。あるいは交戦している相手とまとめて、そう考えてもおかしくはない。

 首尾良く敵の一角は崩した。その上で相手がマクギリスに意識を持って行かれるのであれば、確かに都合が良い。色々と思うところはあったが、オルガは乗ることにした。

 

「……分かった。こっちは準備に入る。出来ればスキップジャックの正確な機動パターンの割り出しをしたかったところだが……まあ完全な一発勝負ってわけじゃねえ。できるだけ戦力を釘付けにすりゃ2、3回かませる時間も稼げるだろう」

「了解した。こちらでも戦力を引きつける。焦らず用意を頼む」

 

 ライザとの通信を終えたオルガは、改めて回線を開いた。

 

「ビスケット、そっちはどうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「観測機を飛ばして2点から座標を割り出してるとこ。やっぱりシノたちを送り込めなかったのが痛いね」

 

 阿頼耶識にて艦の姿勢を微調整しつつビスケットは応えた。

 密集した艦隊に対し正確な位置座標を割り出そうとした場合、単なる目視とセンサー類による測定だけでは微妙に誤差が出てくる。これは艦の発する重力波が干渉し合って、光や電波がわずかに捻じ曲がるため精細な光学測定が出来ないのと、艦隊が微妙に機動して位置をずらし続けているからである。

 足を止めて砲雷撃戦をしているように見える双方の艦隊だが、実際は相手の砲撃に当たらないよう移動を続けている。特にアリアンロッド艦隊は密集しているように見えて、僚艦が撃破されても被害が他に及ばないような位置取りをを保ち続けている。

 それでも単純に艦の座標を特定するだけならさほどの苦労はしないが、ビスケットたちは『ある理由』により精密な位置座標を必要としていた。

 と、そこに。

 

「状況は、どうなってる?」

 

 パイロットスーツのままのダンテが現れる。ビスケットは振り向かないままに応えた。

 

「今スキップジャックの機動パターンを割り出してる。こっちからの測定だからちょっと手間取るかな」

 

 それを聞いたダンテは頷き、空いているシートに座って作業を始めた。

 

「だったらスキップジャックの推定機動限界と、艦隊のフォーメーションから絞り込みをかける。光学測定と組み合わせればかなりの精度が出せるはずだ」

「出来るの!?」

「ああ、こんなこともあろうかと俺の機体で観測を続けてた。途中でデータは吹っ飛んだが、こっちに送ってたバックアップでいける」

「分かった、任せる。……各員に通達。本艦はこれより『砲撃準備』に入る。各作業の繰り上げ、および中断の後、耐衝撃態勢に移行。艦内重力と居住区画の電源を一時停止。リアクターの出力をアイドリングからミドルパワーへ。『切り札』に電力供給開始」

 

 館内放送と同時に慌ただしく艦内の人員が動き始める。居住区画の明かりが次々と消え、リアクターが唸りを上げていく。

 ざわつく中、ビスケットは再びオルガとの回線をつなぐ。

 

「オルガ、座標確定の目処がついた。早速立ち上げをやってる。……ダンテ、どれくらいでいけそう?」

「10……いや、7分くれ」

「聞いての通りだ、7分で準備が出来る」

「分かった。可能な限り敵を引きつける。それとサカリビに幾分か回すぞ」

「いや、補給と修理が終わった機体を直衛に回す。下手にこっちに戦力を集中させたら感づかれるかもしれない」

「……それもそうか。だが向こうが先にそっちを狙うようなら、かまわず戦力を回す。それでいいな?」

「頼むよ。俺は艦の指揮になれてないんだ。ぼろが出ないうちに終わらせたいよ」

 

 下手な冗談に双方とも笑みをこぼす。笑えるならまだ余裕がある。そして油断もない。細工は流々、流れも悪くない。慌てず騒がず、勝ちに行く。

 鉄華団は一丸となって、王手をかける準備を着々と整えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクギリスの存在を確認したラスタルは、思案する。

 

(好機だが……誘いである可能性も否定できんな)

 

 反逆軍首魁であるマクギリスを討てば流れは大きく変わるだろう。しかし相手もそれは分かっているはずだ。であれば何らかの罠を仕掛けてきた可能性もある。迂闊な手出しはするべきではないと判断する。

 『マクギリスが討ち取られても、反逆軍は機能を保ち、勢いを損なわない』。その事実を知らないラスタルは深読みをせざる得なかった。まあ、ワンマン体制を敷き己がいなくなれば機能不全を起こしてしまう組織構造を、半ば無意識的に作り上げてしまったラスタルには理解の範疇外であっただろう。

 

(あの戦いに割っては入れるのはフォルク三尉だけか。……だが彼女にはランディール・マーカスを討ち取ってもらう役目がある。呼び戻したところで素直に応じることもないだろう。であるならば……)

 

 思案の末、ラスタルは口を開く。

 

「第3艦隊から第5艦隊に通達。敵艦隊中央に砲撃を集中。中央から切り崩していくぞ」

 

 彼の言葉にオペレーターが狼狽える。

 

「しかし攻撃範囲にボードウィン卿の機体が……」

「彼ならばなんとかするだろう。それに先ほどから膠着状態に陥っている。援護にもなるはずだ」

「りょ、了解いたしました」

 

 慌てて通達を行う部下を尻目に、ラスタルは戦況を睨み続けた。

 

(これで討てるとは思えんが……罠であった場合何らかのリアクションがある。さてどう出てくるマクギリス)

 

 もはやマクギリスが戦況とは関係がなくなりつつあるなどつゆ知らず、ラスタルは次なる策を巡らそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『それ』に気づいたのは、マクギリスが先であった。

 

「艦砲射撃がこちらに集中している? ラスタルめ。俺をガエリオもろとも始末する気か」

 

 同時に最低でもエクスカリバーはまだ使用可能な状態にないと推測。使えるのであれば、どのような犠牲を払ってでも自分を照射範囲内に留めようとするだろう。それをしないと言うことは今のところ使えないと言うことだ。

 しかし最前線にいる自分を無視できるものでもない。生半可な兵力の投入は単に損耗するだけだと見たのか、艦砲射撃の集中による火力であわよくばと考えたのだろう。罠を警戒しているだろうし選択としては悪くない。

 

「こちらに注視してくれれば好都合。しかし砲撃を避けながらガエリオの相手は少々面倒だ。……ん?」

 

 モニターの端に『あるもの』の姿を見つけ、マクギリスは軽く笑む。

 

「ちょうど良い。あれを盾に使わせてもらおう」

 

 それは轟沈したフェアラートの残骸。ほぼ真っ二つになっているものの、艦体はまだ形を保っている。デブリと化した破片も合わせれば、十分に砲撃に対する盾となる。そう見たマクギリスは機体を翻した。

 

「逃げるか! マクギリス!」

 

 集中砲撃に気づいていないのか、それとも些末ごとと無視しているのか。ガエリオは周囲の状況にかまわずマクギリスのバエルを追う。

 

「急くなよガエリオ。邪魔が増えたので場所を変えるだけさ」

 

 残骸の影に入ったところで、スラスターを吹かし四肢を派手に振り回して機体を振り返らせる。

 

「さあ続きだ。存分にやり合おうか!」

「そうやって、お前は、いつも!」

 

 ぎしりと歯を噛み鳴らし、ガエリオは打ちかかる。打ちかかりながら激白する。

 

「お前はそうやって! 『すべての物を置いていく』! カルタの想いも! アルミリアの想いも! 俺たちすべてをかなぐり捨てて!」

 

 嵐のように打ちかかるランスを捌きながら、マクギリスは返す。

 

「当然だ。最初から俺はそういうものだった」

「違う! そうじゃない!」

 

 吠えるガエリオに、マクギリスの眉が寄る。

 

「お前には出来たはずだ! 『拾い上げることが』! お前ほどの才覚があれば、人望があれば! カルタを、アルミリアを、俺たちを! 言葉を尽くし理解し合い、ともに歩むことも出来たはずだ! そうでなくとも、偽りで騙したとしても! 味方に引き入れることは出来たはず!」

 

 言葉とともに打ち込まれたランスが、受け流しきれなかったバエルを弾き飛ばす。

 

「必要な物以外すべてを無駄だとお前は斬り捨てた! カルタの! アルミリアの! 俺の思いを無視して! 「友になる資格などない」などとどの口で言う! その資格をかなぐり捨てたのはお前自身だ!」

 

 その言葉に、わずかに目を見開くマクギリス。

 

「……聞こえていたのか」

「急所を外してくれたおかげでな! ……そんなお前が! 誰よりも奪われることを知っているお前が! 俺たちから信頼と希望を奪った! それはラスタルと、お前が否定したギャラルホルンと何が違う!」

 

 みし、と僅かな音がした。それはマクギリスが奥歯を噛みしめた音。

 

「……お前が言うか」

「なに?」

「お前が言うか! ガエリオ・ボードウィン!」

 

 それは今までにない、マクギリスの咆吼。その剣幕に、今度はガエリオが眉をひそめた。

 

「何を言って……」

「セブンスターズの一員でありながら現実を見ることをせず、偽りの光景と偽りの言葉で満足していたガルス・ボードウィン! そして俺を盲目的に信用してきたお前! その立場と人脈を使えばもっと違う形で改革も出来た! だが俺という存在がなければGHの歪みにさえ気づかなかっただろう! イズナリオという男の本質を見抜けなかった時点で底が知れる!」

 

 がっ、とランスが弾かれた。今度はバエルが攻勢に出る。

 

「そしてアルミリア! お前たちは10にも満たない幼子を、俺のような男に押しつけた! 家同士の繋がりを強めるという理由で!」

「それは! お前を信じて……」

「話を急く必要はなかった! イズナリオの言葉に踊らされ、たいした考えもなく賛同したろうが。俺からは断りにくいと踏んだ上でな! これが長子であったら簡単にはいかなかったはずだ。カルタのように!」

 

 勢いに乗せて左のランスを蹴り飛ばす。すぐにキマリスが剣を引き抜くが、その動きは僅かに精彩を欠いている。

 

「己の家族を、子を、家のための道具としか見ていない! 悪意を持ってではなく、『それが幸せと信じ疑うことすらしない』! 相手が野望を胸に秘めていようと見抜くことすら出来ずに! それはヒューマンデブリなどと呼ばわり子供たちを商品として売りさばく者たちと、俺のような孤児を食い物にした者たちと! どこが違う!」

 

 そう、マクギリスは実のところ、イズナリオと同等以上にガルスに嫌悪感を覚えていた。

 確かに彼は善人だろう。だが『それだけだ』。能力的に秀でたところがあるわけでもなく、セブンスターズの一族として生まれたからという理由だけでその席に収まっている。そして性善説を信じているのか、表面に出ない悪意や野心に対して非常に無頓着だ。人の上に立つには非常に不向きと言わざるを得ない。

 それでいて、愛娘を平気で一回り以上年の離れた相手に押しつけるような真似をする。もちろん本人はよかれと思ってやっているのだろうが、ただでさえ周囲から色々と陰口をたたかれていたのだ。幼きアルミリアですらそれを耳にして心を痛めていたというのに、都合の悪いことは耳に入らない質なのか、一向に気にした様子もない。

 かてて加えて押しつけた相手がこれだ。人を見る目がないどころではない。もし娘の幸せを本当に願っているのであれば、相手を調べるくらいはしても良いはずだ。ガルスの立場であれば、調べる手段は事欠かさなかったであろうに。

 表面上の物事しか見えない、善人という名の愚物。マクギリスはガルスをそう断じる。

 

「マクギリス……お前は」

 

 マクギリスが抱く思いの一端を、ガエリオは悟る。

 彼のアルミリアに対する思いは愛ではない。『同情』だ。かつての自分と重ね合わせて彼女を見ている。だからこそ最後まで冷たく拒絶することが出来なかったのだ。

 キマリスの挙動が目に見えて衰える。それを好機と、自分の思いを押し殺しマクギリスは剣を振るおうと――

 ずぎん、と痛みが走った。

 

「な、に……?」

 

 阿頼耶識によって緩和されているはずの痛覚。それが生じたのは右手――『アルミリアによって傷つけられた』右手だ。

 まるで悲鳴のようなその痛みに、マクギリスは思わず苦笑する。

 

「……まったく、困った女だ」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけの停滞。

 それが運命を定めた。

 絶え間なく続く砲撃。その一つが偶然フェアラート残骸の内部に飛び込み、残っていた弾薬庫に直撃する。

 発火。誘爆。結果予期せぬ大爆発を起こす。そしてそれは残骸の近くで交戦していた2機に容赦なく襲いかかった。

 

「なっ! しまっ……」

 

 突然のことにガエリオは焦る。残骸にあまりにも近づきすぎた。爆発の衝撃と飛来する破片は、巻き込まれればMSとてひとたまりもないだろう。そして回避するにはあまりにも遅すぎる。

 だが、『突然の衝撃が、機体を強引に吹き飛ばした』。

 

「ぐあっ!?」

 

 吹き飛ばされる中、ガエリオは見た。『蹴りを放った態勢のバエル』を。

 そしてマクギリスは自身の行動に驚愕していた。なぜ咄嗟に、このままで2機とも巻き込まれると判断した瞬間に、『キマリスを逃すように蹴りつけてしまったのか』。

 

「そうか、俺は……」

 

 すべてを悟ったかのようにマクギリスは目を伏せ――

 爆煙と破片の雪崩の中に、バエルは飲み込まれた。

 その光景を唖然と見るガエリオ。僅かな間硬直していた彼だが、やがて身を震わせ、絶叫する。

 

「マクギリスうううううううう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ほぼ同時刻――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電力、電圧、正常値」

「重力制御による疑似カウンターウエイト、準備OKです」

「艦の姿勢制御、各サポート問題なし!」

「測定誤差プラマイ10メートル。これが限界値だ」

 

 各所からの報告を聞いたビスケットは、伏せていた目を開ける。

 

「鉄華団および反逆軍総員に通達。これより本艦は砲撃態勢に入る。戦線に展開している機体は射線想定範囲より速やかに離脱。各員と本艦周辺の機体は衝撃に備えろ」

 

 指示が飛び、サカリビ正面の空域が空く。その彼方、望遠で捉えるのはスキップジャックの姿。

 揺らめくように動く。その動きは正確な砲撃を難しい物にしていた。しかしサカリビの照準は、そのブリッジを的確に捉えている。

 

「サカリビ、砲撃態勢へ! 全システムオールグリーン!」

「コントロールをビスケット艦長代理に。カウント入ります! 30,29,28,27……」

 

 数字が刻まれる短い間、ビスケットは深く息を吸って、吐く。

 

(これは俺一人の『敵討ち』じゃない。俺たちにいろいろな物を預けた、すべての人たちの想いが乗った一撃だ)

 

 カウントがゼロを刻まれ、眦を鋭くしたビスケットが吠える。

 

「目標スキップジャック艦橋! 【ストーンヘンジ】、撃(て)ー!」

 

 改装によりサカリビのコンテナ下部に増設された物。左はジェネレーターからの電力を変換するコンデンサシステム。そして右には長大な電磁加速レール。ワンの店で埃を被っていたマスドライバー。それに手を加え、無理矢理艦載に仕立て上げた長距離砲撃用大型レールキャノン、ストーンヘンジ。

 終焉を呼ぶ火矢が、強い反動と衝撃を生み出して放たれた。

 弾殻は細長い輸送コンテナ。それは途中で分解し、中から巡航ミサイルが飛び出してさらに加速。

 それはダインスレイブに匹敵する速度で宇宙(そら)を駆け、そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バエルの反応、ロスト! 詳細は分かりませんが、撃破した可能性があります!」

 

 興奮したようなオペレーターの報告に、喜色を隠せないラスタル。

 

「そうか、ボードウィン卿がやってくれたか! ……全軍に通達! この機を逃さず……」

 

 彼が新たな指示を下そうとする前に、オペレーターの一人が焦った様子で報告をしようと振り返る。

 『そこで終わった』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リモート信管が作動。それに従い巡航ミサイルは爆散。

 弾頭はクラスター爆弾と硬化レアアロイのニードル散弾。

 それらは容赦なくスキップジャックの艦橋を襲い、爆発四散せしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「そりゃお前、こんな一回り以上差とか、周囲からも色々言われるやんか。俺完全にロリ扱いやし」

「や、その、正直すまん」

「まあロリなんは否定せんけどな」

「せんのかい!」

 

 要約(違)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 もうスイッチ諦めてスチームにしたよ俺。
 それなりに高いグラボの力を見るがいいふはははは捻れ骨子です。

 はいそんなわけでマッキーガリガリ決着編&サクッと始末されるラスタル氏の巻~。
 半分はガンダム名物戦いながらの論戦をやってみたかっただけの話でした。で、感づいた方もおられるかと思いますが、捻れ骨子は鉄血作中でガルスを一番嫌っております。お前某ヘルなシングんとこの英国無双見習えよ。まだ肉おじのほうが心情分かるわ。ということで大分彼をこき下ろす雰囲気に。まあそれらも含めて筆者が思ってたことをマッキーに代弁させた感じですね。大分屁理屈してますが。
 そして決着はあんな事に。かなり前からこれは決まっていました。うちのマッキーは覚悟ガンギマリですが、同時に原作以上に情が捨て切れていない部分がある……と思うのですがいかがだったでしょうか。結果的にキマリスがほぼダメージを受けていませんけど、果たしてそれがどのようなことになるのか。

 あとラスタル。ホントあっさりしすぎていますけれど、Gレコの黒幕とか見下げ果てた先輩とかあんなモンでしたよね。そういう感じを狙ったのです。てめーの命なんざあっさりと消えるんだぞ、と。
 まあ実のところストーンヘンジレールガンを使いたかっただけなんですがね。そしてビスケット君に撃たせたかった。あ~やっと伏線回収できたわ。つまりラスタルの最後含めてかなり最初から決めてあったり。長かった長かった。

 そんなこんなで今回はこのあたりで。

 酷く厳しい状況が続いていますが、皆様体調の方はいかがでしょうか。
 まだ予断は許しません。気を引き締めて健康管理に努めましょう。

 それではまた次回。

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