イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

47 / 65
43・祭りの始まりだ

 

 

 

 テイワズの幹部会から10日、鉄華団は地球へと発った。歳星からそれを見送るマクマードは、隣に立つ名瀬と言葉を交わす。

 

「あとは連中に任せるしかねえ。……聞いてる話じゃ勝率は高そうだがな」

「勝負は水物、何が起こるか分かったモンじゃありません。出来る限りのことはしましたが……」

「臆病なくらいが丁度いい、ってな。ごたごた考えても仕方がないと分かってったって、不安は付いて回るモンよ。……それで、タービンズの再編成はどうなってる」

「頭目直下の組織として根回しを始めているところです。俺の名代にはアジーを。補佐にビルト、クロエ、エヴァを付けます。裏の方は例の運び屋に引き継いでもらうよう調整に入りました」

「そつなくこなしてるじゃねえか。上等上等。……一つ一つやりこなしていけば、実績ってのは積み上がっていくモンだ。焦るなよ?」

「心得て」

 

 跡目を継ぐというプレッシャーに潰されるなよと、一つ言っておく。名瀬もそれを理解しているようで、迷い無く応えた。

 この様子ならテイワズの方は滞りなく次世代へと受け継がれていくだろう。あとは鉄華団とマクギリスが首尾良く事を運べば問題はないのだが。

 

(さて、あいつらは上手いことやれるかねえ)

 

 完全に親の心境で、少年たちのことを思うマクマード。

 なんだかんだ言っても、彼だって心配だったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球へと発った鉄華団だが、航路の最中でも準備を整え戦いに備えている。

 そんな中、ハッシュは『機種転換訓練』に勤しんでいた。

 

「すげぇ……全然扱いやすさが違うな。それに反応が良い」

 

 先の戦いにおいてイオクを撃破するという大金星を知らぬ間に成し遂げていた彼は、臨時ボーナスと同時に新たな機体を受領していた。それはアジーが使っていた辟邪である。

 単純に褒美としてこの機体がハッシュに回されたわけではない。彼はそこそこの技量を持ち、そして操縦に妙な癖がない。辟邪の運用データを収集するのにうってつけだと白羽の矢が立ったのであった。

 

「調子は良さそうね。この分ならすぐに慣れるわよ」

「機体が扱いやすいおかげっすよ。たしかにこれなら、そこいらの阿頼耶識付きくらい余裕で渡り合えそうです」

 

 訓練を終え機体を降りたハッシュに声をかけたのはエーコ。タービンズの再編成で忙しいはずの彼女がなぜここにいるかと言えば。

 

「出番を稼ぐため……げふんげふん。名瀬がせめてもの手助けってことで送り出してくれたのよ」

「あの、どこ向いて何言ってるんすかエーコさん」

 

 それはさておき。

 

「ともかく良い感じだからって調子に乗るんじゃないわよ? 機体は直せても、人は直せないんだから」

「うっす。気を付けます」

「まあこっちの機体は大体調整終わったけれど……」

 

 言いながら振り返ったエーコの見る先には、もう1機の辟邪。そのコクピットから降りてきたのは。

 

「よーしやっとセッティングできた。これで遅れは取らないわよ!」

 

 当たり前のように鉄華団のジャンパーを羽織っているラフタである。エーコは一応タービンズから出向してきたという形だが、彼女はなんと『タービンズを退職してきた』らしい。

 なんでまたそんなことをと目を剥くオルガたちを前に、ラフタはドヤ顔で語る。

 

「あんなでっかい借りを作っておいて、返せないってのは女が廃るでしょ? かといってタービンズの看板背負ったままじゃ色々制約あるし」

 

 エーコはまだ裏方なので言い訳は効くが、戦場に出るのであれば話は別。以前地球で機体を誤魔化したときとは訳が違うと主張する。筋は通っているように見えて強引すぎる理屈であった。

 

「そんなことはどうでも良いのよ! 今度はあたしがアンタの背中を護るんだから! 覚悟しなさい!」

「お、おう」

 

 詰め寄られてたじろぐしかない昭弘。あ、これはなんか止められない。いわゆる押しかけ女房的なあれやそれで。昭弘以外の全員が瞬時に諦めた。こうしてなし崩し的にラフタは参戦することとなったのである。

 

「そっちも終わった? 随分早く仕上がったじゃない」

「整備班の子らが頑張ってくれたからね。かなり腕を上げてるわよ?」

 

 その言葉に、エーコは少しだけ誇らしくなった。自分達の教えたことが、確かに少年たちの血肉になっている。そう言った手応えを感じたからだ。

 

「こりゃあちょっと負けてらんないわね。おねーさんとしてはひとつお手本でも見せておかないと」

 

 袖をまくりながらやる気を見せるエーコ。

 

「今から張り切りすぎると倒れちゃうわよ? ほどほどに……あ、昭弘」

 

 格納庫に姿を現した昭弘を見つけた途端、すっ飛んでいくラフタ。昭弘に窮地を救われてから、すっかり彼の方に意識が向いている。

 快く彼女を送り出した名瀬やアミダ、タービンズの面々のことを思い出し、エーコは苦笑を浮かべた。

 

「やれやれ、やっぱ賭けは本命か」

 

 大した儲けになんないわねーと、肩をすくめるエーコであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球に向かう間にも、マクギリスとの打ち合わせが繰り返し行われる。

 地球圏に到達してからだが、まずイサリビが先行しマクギリスの配下と合流、軌道上からMSにてヴィーンゴールヴを強襲。蜂起したマクギリス派と共にその場を占拠し、セブンスターズを含めた首脳陣の身柄を確保。そしてマクギリスが声明を発表した後、アリアンロッドと雌雄を決する。と言うのが大まかな予定である。

 

「ラスタルはヴィーンゴールヴに立ち寄る様子もなく、艦隊の集結を急がせている。こちらの動きを察しているのだろう」

「船籍とエイハブウェーブを誤魔化してるからと言って、俺達は連中が集まってる真ん前を突っ切れるのか?」

 

 通信ごしに言葉を交わすマクギリスとオルガ。懸念はすぐさま否定される。

 

「戦力が整っていない状況で迂闊に手を出すほどラスタルは愚かではないさ。何しろ彼らは『後がない』。戦力の小出しは控えるはずだ」

 

 決戦に際して全戦力を注ぎ込み、数の優位で押し切るつもりだ。その上でいくつか切り札を用意していることだろう。マクギリスはそう判断している。

 すでにアリアンロッドの信用は地の底だ。経済圏にはマクギリス派からリークされた情報が流れその存在を疑問視されつつあり、コロニー群では排斥の動きも起こり始めている。ここで勝たねば、いや『戦力を多く残した状態で勝てねば』叛意を持つ多くの勢力から政治的にも物理的にも袋だたきにされるだろう。もはや事はGH内の内部抗争では収まらないのだ。

 そして――

 

「私がヴィーンゴールヴを押さえ、バエルを手中に収めれば、『GHの正当性は根本からひっくり返る』。そうなれば彼らの立場は益々危ういものとなるだろうさ」

「そんなに凄いものなのか? そのバエルってのは」

「象徴という名の骨董品だよ。だがその能力ではなく、存在そのものが『GHにとってのウィークポイントとなる』。……ま、詳しくは事を起こすときのお楽しみにしておこう」

 

 言葉だけでなく実際に楽しそうな様子で言うマクギリス。その表情が引き締まった。

 

「とにもかくにも、『ラスタル・エリオン本人を討てれば我等の勝ち』だ。出来れば最上、叶わなくとも彼を追い込んでいく方針は出来上がっている。だがそう容易く首を取らせてくれる相手でもない。最低でもダインスレイヴをありったけつぎ込むくらいはしてのけるだろうな」

「それに関してはこっちも『対策を取らせて貰った』。送った資料を確認してくれ。……無駄に終わってくれれば良いんだが、そうはいかないんだろうな」

「向こうも必死さ。何しろ存亡どころか己の存在意義がかかっている。死に物狂いでかかってくると思ってくれていい。それを『出し抜けばいい』のだから、こっちはまだ気楽だろう。油断は出来ないが」

「言ってくれるよ。……そっちから送られてきた資料は確認した。概ねこの方針で問題ないと思う」

「了解だ。では何事もなければ定時に連絡を入れる。よろしく頼むよ」

 

 通信を終え、オルガは溜息を吐きながらシートに身を預ける。

 準備は整いつつある。だが不安はぬぐい去れない。どうしようもないことだと分かってはいるのだが。

 

「ホント、何考えているんだろうなあの男」

 

 未だマクギリスは最終的な思惑をぼかしていた。自分達に不利益となる事ではないとは思う。だがそれも確信はない。

 相変わらずの不気味さはある。だが彼は自分達に――いや、『GH以外の友好的な勢力』に対して、誠実に接していた。胡散臭さは払拭できないまでも、それなりに信用している者は多い。かく言う自分達も、相応の信用があるからこそ彼の話に乗ったのだ。

 いずれにせよアリアンロッドを討伐しなければならないと言うところで利害は一致している。それをなした後どうするのか……そのビジョンが全く見えてこないところに幾ばくかの不安を感じる。

 

「やつがヴィーンゴールヴを占拠した後の声明、そこで思惑を見せてくれるのかどうか」

 

 果たしてマクギリスは世界に何を知らしめるのか。新たな支配体制の設立か、それとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月軌道上。アリアンロッドはその戦力を集結している最中であった。

 旗艦であるスキップジャック内の格納庫。各機体が整備に負われる中、レギンレイズ・モルガンの前でマリィとヤマジンは言葉を交わしていた。

 

「悪いね、『例の装備』はもうちょっと時間がかかる。あと1、2回はこの状態で回してよ」

「焦らしてくれるねえ。決戦には間に合わせてくれるんだろう?」

「もちろん。それまでに死なないでちょうだいな」

 

 互いに狂気を孕んだ笑みだ。まともな人間は関わり合いになろうとするどころか近づきさえしない。

 つまりこの場に近寄るのはまともじゃない人間で。

 

「三尉! ここにいたんですか!」

 

 物怖じもせず歩み寄るのはジュリエッタ。実の所先の作戦以降、 彼女はマリィと顔を合わせていなかったりする。

 帰還した後、マリィは医務関係に押し込まれ徹底的に検診されていた。そしてやっと数時間前解放されたのだが、ジュリエッタは今まで探し回っていたらしい。

 途中で誰かに聞くという考えは浮かばなかったのか。いやそうじゃなくて、ともかく何か勢い込んでいるジュリエッタは、詰問するように言葉を放つ。

 

「あなたに聞きたいことがあります」

「なんだい藪から棒に」

「以前見させて貰った演習記録。最後まで粘っていたのは……あなたですね?」

 

 睨め付けながらの言葉に、マリィはあっさりと応える。

 

「そうだよ? 今頃気付いたのかい」

「なぜです!?」

 

 ジュリエッタが上げた声は大きく響き、近くにいた整備兵たちはびくりと身を震わせ、そのままこそこそと離れていった。そんなことに気づきもせず、ジュリエッタはマリィに詰め寄る。

 

「あれだけの技量、素質。鍛錬を積み重ねればランディール・マーカスと互角に持って行けたはず! なぜ外法なあら――」

「はいそこまで。それ以上は機密だよ」

 

 す、と人差し指でジュリエッタの言葉を押さえるマリィ。そこでヤマジンが言葉を発した。

 

「これに関しては、ラスタル閣下が直々に許可を出されたことだ。迂闊なことを口にすればあんたでも処罰の対象になる。わかるねジュリ?」

 

 ぬたりと口の端を歪めるヤマジンの言葉に、思わず押し黙ってしまうジュリエッタ。納得がいったわけではない。だがラスタルが絡んでいると聞けばそれ以上踏み込めないのが彼女であった。

 不満げな表情のジュリエッタを見て、くすりと笑うマリィ。「まあそういじめないでおくれよ」とヤマジンに言い、ジュリエッタへと語りかける。

 

「なんでかって理由ぐらいは応えてやるさね。……『まともやり方じゃ追いつけない』からさ」

 

 誰にかは言うまでもない。

 

「彼は紛れもない天才だ。アタシも自分には才能があると思っていた。だけど彼とあって身の程ってのを思い知らされたよ。……あの人はもう、存在自体の格が違う」

 

 それを理解できたのは、マリィにも図抜けた才能があったからだ。ランディール・マーカスという存在を理解できるだけの才覚があったのは果たして幸運だったのか。いや、彼女自身は『幸運と信じて疑っていない』。

 

「体が震えたよ。もし厄祭戦時代にあの人がいたならば、アグニカをも凌ぐ伝説になっていたかも知れない。アタシはあの人に追いつきたかった。あの人と同じ所に行きたかった。……けどねえ、分かっちまうんだよ。どう努力しても、『後一歩の所で追いつけない』って」

 

 常に一歩先、そこにランディがいる。単なる強さの話ではない。底知れぬ隠し札をいくつも持ち、その上で正々堂々真っ向からいかさまで出し抜く。あれはそう言った手合いだ。

 であるならば、こちらもいかさまを使うしかないと、マリィはそう判断したのだ。

 

「外法上等。どんな手を使ってでもあの人のいる高みに登る。アタシはそう決めた。だからラスタル司令の話に乗ったのさ」

 

 にい、と笑むマリィ。その瞳の奥に渦巻く狂気を見て取ったジュリエッタの背筋に、ぞっと冷たいものが奔った。

 しかし同時に――

 

「強さを求めるには、そこまでしなければならない物なのですか……」

 

 思う。自分は弱い、と。 鉄華団の少年たちにはあしらわれ、MAには手も足も出なかった。鍛えても限度があると、己の行き詰まりに悩んでいる。であればいっそ……と、そこまで考えが至ったところで。

 

「自分も(阿頼耶識の)施術を、とか考えているようだな」

 

 突如かかった声にぎょっとして振り返れば、そこにはいつの間に現れたのかヴィダールの姿があった。

 盗み聞きでもしていたのかと妙に苛立った気持ちになって、ジュリエッタはきつめの口調で言う。

 

「やめておけと、そう言うつもりですか?」

「……いや、そういうわけではない」

 

 ふうん、と面白がっている表情のマリィが、茶々を入れてくる。

 

「おやおや、アンタなら止めに入るかと思っていたんだけどねえ?」

「俺にそんなことを言う資格はないさ。いかなる手段を持ってしても目的を果たしたい、という気持ちは分かる」

 

 仮面の下の表情は分からない。だがその言葉には、なにか『重いもの』が乗っていた。

 

「しかしそれを行うのであれば、相応の覚悟が必要となる。何しろ我々にとっては禁忌、加えて上手くいかなければ廃人だ。その上でなさねばならぬほどの物を君は持っているのか?」

「それ、は……」

 

 ある、とジュリエッタは断言できなかった。ラスタルのために命を賭ける。ガランの仇を討つ。戦う理由はあった。だが『廃人となって戦えなくなる可能性』を考えると、二の足を踏んでしまう。

 戦えなくなることが怖かった。役に立てずに見捨てられることが怖かった。自覚はなかったが、彼女はそんな恐れを抱いてしまった。

 ジュリエッタの躊躇を見て取ったか、ヤマジンが苦笑しながら口を挟む。

 

「まあ、どのみち時間がないから施術出来る余裕なんかないんだけどね」

「……それを先に言って貰えませんか」

 

 文句を言いながらもどことなくほっとしたような気配を見せるジュリエッタ。分かりやすいなあと、残りの三人は生暖かい目で見守っている。

 

「とにもかくにも、君は君のままで戦うしかない。微力を尽くし自分の出来ることを、だ。そうすれば結果は付いてくる」

 

 どのような形にしろ、という言葉をヴィダールは飲み込んだ。本来であれば彼女に物申すことなどおこがましい。私事のためにアリアンロッドを利用し、我を貫き通そうとするこの自分が言えたことかと自嘲する。

 

(閻魔に舌を抜かれる、では済まないな。どちらにしろ地獄行きか)

 

 それでも、なしたいことがある。だからこの道を選んだ。

 それに関して後悔はしない。ただ。

 ジュリエッタの真っ直ぐさが、少しだけ羨ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィーンゴールヴ。セブンスターズの会議室にて、ラスタルを除く現役の当主たちが集められていた。

 

「急な呼び出しにもかかわらずお集まり頂けたこと、感謝致します」

 

 微笑を浮かべたマクギリスの言葉に、ネモが眉を顰めてみせる。

 

「まだエリオン公が来ていないようだが」

 

 その問いに、ふ、と微かに嗤って、マクギリスは応えた。

 

「ええ、彼は必要ありませんので」

 

 その言葉が放たれた途端、ばんっ、と会議室の扉が開け放たれ、武装した警務局の隊員がなだれ込んでくる。

 幕は切って落とされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三日月、俺達の目標はMSだけだ。後は金髪の手下がなんとかする」

「了解。さっさと片づけようか」

 

 シールドグライダーを破棄し、2機のMSが降下してくる。シールドと幅広剣を備えたラーズグリーズと、対艦ソードメイスを担いだバルバトスだ。

 軌道上からの強襲降下。地球外縁軌道統制統合艦隊の十八番をそのまま真似て、彼らは一気にGH本拠地へと襲いかかる。

 押っ取り刀で警備のMS部隊が対抗しようとするがすでに遅い。

 

「派手に花火を上げるぜェ!」

 

 幅広剣とソードメイスが勢いよく叩き込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一斉蜂起したマクギリス派の兵は、ヴィーンゴールヴを含む地球圏の主要拠点を一気に制圧した。兵力で言えばGH総数の2割に満たない数だが、各所の中枢を短時間で押さえたことにより効率的な占拠を行う事が出来たのだ。

 軌道上にて展開しているヘイムダル艦隊と合流したホタルビで報告を聞いたユージンは、ほっと安堵の溜息をついた。

 

「第一段階は成功、っと。問題はここからだ。……アリアンロッドはどうなってる?」

「月軌道上で集結してるみたいです。まだ動く様子はありませんね」

「監視を緩めないでくれ、頼むぞ。暫くはまだにらみ合いだろうが……」

「副団長、ヘイムダル艦隊から、指揮官が到着しました」

「お、来たか。ブリッジに通してくれ」

 

 ほどなくしてブリッジに訪れたのは数人の青年将校。その代表格に向かってユージンは軽く挨拶を行う。

 

「初めまして、ですかね。鉄華団副団長のユージン・セブンスタークです。いまうちの団長は地球に降りてまして。申し訳ない」

「とんでもない。こちらこそ忙しい中時間を割いて貰ってありがたく思っています。……現在ヘイムダル艦隊を預かっている【ライザ・エンザ】一尉です。よろしく」

 

 凡庸な顔をした青年であるが、その瞳には力強い意志が宿っているように見える。差し出された手を握り返しながら、ユージンは注意深く将校たちを観察していた。それに気付いているのかいないのか、ライザは語る。

 

「勇名を馳せる鉄華団と共闘できるとは、感謝極まりない。あなた達のおかげで我等は勝利に一歩近づいた。礼を言わせて貰う」

「……まだ気が早いですよ。勝てると決まった訳じゃない」

「ああ、これは失礼。どうにも気が逸っているようで」

 

 照れ隠しに笑うライザを見ていると、どうにも反乱などに加わるような人間には見えない。マクギリスの口車に乗せられた類じゃねえだろうなと、内心疑うユージンであったが。

 

「……今回の戦い、本来であればGH内部で決着を付けるべきだった。しかし我々だけでは力が足りない。あなた方には面倒をかけることになったが……この戦いを勝ち抜くため、どうかよろしく頼む」

 

 真剣な眼差しで頭を下げる。その様子からして、どうにもただ闇雲にマクギリスに従っている訳でもなさそうだ。

 

「……了解しました。俺達にも戦う理由はあります。気兼ねなく頼ってくれれば」

 

 ついそのようなことを口にするユージンも、やはりどこかお人好しなのだろう。相手がかなりの信用を寄せていると言うこともあったが。

 

「しかし……失礼ですが、随分と俺達を買っているようで」

 

 ちょっと信用しすぎじゃない? とか思いつつ問いかけると。

 

「信用するには十分な戦果を上げていると思うが? それに……」

 

 なぜかドヤ顔になって、ライザは言う。

 

「君たちは『あの』ランディール・マーカスが鍛え上げた戦士だ。これ以上ない助太刀だと自分は確信している」

 

 あのおっさんが原因かい。妙なところでハードルを上げられて、ちょっと頭を抱えたいユージンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘の爪痕が深く残るヴィーンゴールヴ。破壊されたMSが死屍累々と倒れている中、その光景を産み出した2体は周囲の警戒を続けていた。

 

「今のところ反応する地上勢力は無し、と。金髪の奴、上手い具合に要所を押さえたな」

 

 機体の索敵機能だけでなく、各種通信、ネットワークを駆使して現状の把握に努めるランディ。今のところ、マクギリス派の制圧は上手くいっているように見える。

 

「油断は出来ないが……と、大将か?」

 

 どうやらオルガが地上に降りてきたらしい。場合によってはヴィーンゴールヴでの籠城となることも視野に入れているため、戦力の一部を降ろしてきたのであった。何事もなければそのままとんぼ返りとなってしまうが、用心はしておくに越したことはない。

 

「おう、教官。こっちは問題なく降りてこられた。そっちは?」

「今のところ順調だ。順調すぎて疑っちまうくらいにはな」

「だよなあ。……引き続き警戒していてくれ。ミカ、お前の調子は?」

「ん、こっちも問題なし。機体も良い感じ。まるで最初からこの出来だったみたいに違和感がないや」

「そいつは結構。俺達は暫くここで警備って事になる」

「チョコの人が骨董品引っ張り出して宇宙(うえ)に上がるまで、だっけ」

「ミカ、一応雇い主なんだからファリド准将って呼んでくれ。誰に文句言われるか分かったものじゃない」

「別に構わないさ。好きなように呼んでくれ」

 

 唐突にかけられた声。オルガが驚いて振り返れば、そこには石動を伴ったマクギリスの姿があった。

 

「ヴィーンゴールヴへようこそ。まあゆっくりしている暇もないのだが」

「おいおい、あんた忙しいんだろうに、こんな所で油売っていていいのかよ」

「バエルが存在する機密区画のロックを解除するのに少々手間取っていてね。まあほどなく終わると思うが、それまでに少し時間が出来た」

 

 機嫌が良さそうなマクギリス。これからが本番だというのに緊張感がねえなあと、オルガは微妙に呆れていた。

 

「これまでは順調な流れだ。だが、いささか順調に過ぎる」

「……教官も同じ意見だ。なんかあるなこりゃ」

「アリアンロッドもそろそろ集結する頃だが、艦隊を動かせば目立つ。やるとすれば小規模な動きだろうな」

 

 少し考え、オルガが結論を出す。

 

「なら狙うのは……『ここ』か?」

「恐らく。向こうとしては私の行動を邪魔したいだろうし、決して屈しないという意志を内外に示すことも出来る。横槍を入れるなら絶好のタイミングだろう」

「戦力を降ろしておいて正解だったと言うことか。……状況は分かった。展開を急がせる」

「頼む。こちらの主力は軌道上に上げている最中だ。対応は君たちに任せる」

 

 と、そこで石動のタブレットに着信。

 

「……代表、機密区画のロックが解除されたと、連絡が入りました」

「分かった。ではくれぐれも用心してくれ」

「ああ、了解だ」

 

 ヴィーンゴールヴ内に向かうマクギリスを見送ってから、オルガは眉を寄せた。

 

「代表……? どういうこった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクギリスが機密区画に赴いてから10分も経たないうちに動きが生じた。

 

「副団長! こっちの軌道の反対側から地球に突っこむ反応が二つ!」

「ちょっと待て、なんか速度出過ぎてねえか!? あんなん下手すりゃ大気圏で燃え尽きちまうぞ!?」

 

 迎撃を防ぐためか、常識外の速度で大気圏に突入する正体不明機。シールドグライダーを2重に備え、ブースターを増設したそれらは、減速するどころか加速する勢いで真っ直ぐにヴィーンゴールヴを目指す。

 

「おいマジか。つーか正気か」

 

 ランディをしてこう言わせる無謀。しかしながらその行為は反撃を封じる。

 

「総員対ショック! やつらシールドをミサイル代わりにするつもりだ! 直撃はなくとも衝撃波が来るぞ!」

 

 相手の思惑を見て取ったランディが警告を飛ばす。迎撃をしようとしていた団員たちは、慌てて衝撃に備えた。

 ほどなくして轟音と共に爆発したような水柱が吹き上がり、衝撃がヴィーンゴールヴを揺るがす。

 いきなりのスコールがごとく海水が降り注ぐ中、三日月は舌を打った。

 

「今ので索敵がパーだ。やってくれる」

 

 どこから敵が来るか分からないと、警戒する三日月。一方ランディは。

 

「ハッハァ! ヴィーンゴールヴに被害が及ぶのもお構いなしか! となれば……」

 

 降り注ぐ海水のスコールをぶち抜き上空へ躍り出るラーズグリーズ。エイハブリアクターによってある程度慣性と重力を制御できるMSは、個体差もあるが大概飛行能力を持つ。推力過多なラーズグリーズがどれほどの物かは言うまでもない。

 

「やはりてめえか、マリィ・フォルク!」

「うれしいねえ、名前を覚えていてくれるとか!」

 

 飛び出してきたラーズグリーズに挑むのは、これまた当然のように飛行能力を持つレギンレイズ・モルガン。2機のMSは空中で激しく火花を散らし斬り結ぶ。

 

「今回はちょっとした挨拶さ! お坊ちゃんがご対面を果たすまで、ちょっと遊んで貰うよ!」

「ってこたあ……やっぱ生きてたのかよ、あの坊や」

 

 会話を交わしながらも激しくぶつかり合う2機。彼らが話題にしているもう一人は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロックが解除された機密区画。その通路をマクギリスは一人歩む。

 護衛の一人も付けないのは、『必要がない』からだ。基本機密区画にはセブンスターズの人間以外は立ち入れない。セキュリティ以上の危険は存在しないはずだった。

 途中にはだかるいくつかの隔壁を暗証番号と専用のカードでもって開き、マクギリスは機密区画の中枢に至る。

 ドーム状の広い空間。周囲を囲む壁にはセブンスターズ各家の紋章を記したゲートがあり、その中央には一体のMSが座している。

 【ガンダム・バエル】。72体のガンダムフレームが1番機。全てのガンダムが原型たるその白き機体は、ただ静かに佇んでいた。

 神像のような機体を見上げ、マクギリスは語りかけるように呟く。

 

「暫し隠遁は終わりだよバエル。今一度、その老骨を役立てて貰おうか」

 

 そう言って一歩踏みだし――

 突如響いた轟音に足を止めた。

 

「やはり来たか。……そうでなくてはな」

 

 破損した構造材が降り注ぎ、地底湖のごとく場に満たされた水面から水柱が立ち上る。それでも余裕の表情をマクギリスは崩さない。

 区画の天蓋をぶち抜き、何者かが降り来る。

 青きMS。ガンダム・ヴィダールの姿を目の当たりにして――

 マクギリスは不敵に笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

 

「名瀬の格好を真似したら、なんか周りからすごくときめいた視線を向けられるんだけど」

 

 ズカ的な意味でアジーさんの好感度が上がりまくってます。

 格好良いから仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おのれ●●●●●め●●●●●め。怨みはらさでおくべきか。
 汚物は消毒だ~でみんな燃やせたらすかっとするのになあ(危険思想)捻れ骨子です。

 マクギリス、ついに動く! の巻~。いよいよ話はクライマックスへと向かうんですが……うーんなんかぐだぐだするよな予感がするぞう? 一体いつになったら決戦が始まるのか。そしてちゃんとマクギリスの真意は明かされるのか。決して考えて無くて引っ張ってるわけじゃありませんよええ。ホントだよ?
 そして、ついでにガリガリ仮面がどうやってあの状況のヴィーンゴールヴに姿を現せたのか屁理屈ってみました。なんのこたあねえ力業です。ふつうに降りてきたら絶対三日月くんに迎撃されるはずだよなあって考えたらあんなことに。おまけにマリィさんがついてきて前哨戦おっぱじめてますが、それをよそにガリガリ仮面はどうするのか。その正体は一体何リオなのか。

 ってなところで今回はここまでとさせて頂きます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。