イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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 今回戦闘BGM、ゲームDDRから【B4U】推奨




40・思い通りにゃ、させねえよ

 

 

 

 

 

 クタン五型。花開くように展開したそれから3機のMSが飛び出す。

 

「ディオス、そっちは任せた! 俺とデルマは昭弘に合流して輸送艦の離脱を援護する! ダンテはハンマーヘッドのフォローを!」

「了解だ! 輸送艦離脱後は手筈通りに!」

 

 1番隊と2番隊はそれぞれ3機ずつの編成である。今回参戦したのは8機。ランディを抜かせば1機余る計算だが、その残った機体は――

 

「アヤさん、いけますか?」

「任せてください。MSはともかく撮影機材なら扱い慣れてますし」

 

 クタンに残ったその機体は獅電のようだが、妙に胸部が大きく、両肩に大型のセンサーやカメラ類を備えた風変わりな機体だ。

 【獅電偵察仕様】。戦闘に加わらず戦場を観察し情報を収集するためのものである。復座式のコパイロットシートに座しているのはなんとアヤ。彼女はオルガを説き伏せ、戦場で直接取材を敢行すべくこのような行動に出たのだ。

 

「敵がこっちに感付いたら逃げます。リアクターの出力を押さえているとはいえあり得ることですから、その辺は覚悟しておいて下さいね」

「その辺は任せます。いざというときは気にせず振り切って」

 

 言葉を交わしながら機材を操作。複数のモニターには、被害を受けた輸送艦の様子や、撃破されたダインスレイブ部隊の様子が映し出されている。

 そして。

 

「……なんなんですかあれ。ぜんぜんカメラが追いつかないんですけど」

 

 追尾機能が追従しきれない速度で飛び交う閃光。彼方で行われている戦いは、いつ果てるともなく続いていた。

 

 

 

 

 

「ちっ、なるほど、『俺の足止め』には十分すぎるってか!」

 

 舌を打って言葉を放つランディ。彼の算段は大幅に狂っていた。相対している敵――マリィは、これまでにない強敵であったのだ。

 技量だけなら自分が上回っているという確信はある。そして機体の性能はほぼ互角だ。だが『決め手』がない。張り付くように追従し、要所でガトリングガンを放ち、こちらの動きを阻害する。仕留めるにしても時間のかかる相手であった。

 さしもののランディも、この相手を放って余所にちょっかいを出す余裕はない。『勝てないまでも十分に邪魔が出来る存在』。そう言った相手を見出し育て宛うラスタルは、やはりなまなかな策士ではないと、改めて思う。

 

「正直ナメてた。やってくれんじゃねえか!」

「あははははは! そうじゃなきゃ張り合いがないだろう!? じゃあ『もう一つギアを上げようか!」

 

 狂ったように笑うマリィ。彼女は己の機体に命じる。

 

「フェイズ1。『阿頼耶識システム、接続』っ!」

 

 パイロットスーツの背中に繋がったコードが、どくりと鳴動する。く、とマリィが苦悶の声を上げた次の瞬間、モルガンがぶるりと震えた。

 背筋に奔る悪寒の命じるまま、ランディは反射的に回避行動を取った。

 だが。

 

「っ! 『俺より前に出た』!?」

 

 ラーズグリーズが機動の先。ランディの反応を越えたその先にモルガンは割り込んだ。咄嗟に蹴りがでる。が、それは相手の蹴りで相殺される。同様に刃が、盾が。全て割り込まれ弾かれた。その絡繰りを、ランディは即座に見抜く。

 

「阿頼耶識か! なるほどいっぱしの乗り手に使えりゃ俺並にもなる!」

「そうさァ! どうするどうする! この程度で終わるのかい!?」

 

 まさかだ。ランディール・マーカスと言う男がこの程度であるはずがない。

 

「はっ、上等。『ギア残してんのが、てめえだけだと思うなよ』?」

 

 がかか、と、それまでスローテンポのジャズを奏でるように操作されていたコントローラーが、ハードロックを刻むように激しく操られる。

 その瞬間、マリィは確かに『ラーズグリーズが2体に増えたのを見た』。

 

「な、にっ!」 

 

 本能の命ずるままに蹴りを放つ。手応えはあった、だが軽い。

 

「今のアタシに見切れない!? いや、これは……」

 

 ランディがなした絡繰りを、彼女もまた見抜く。

 

「『センサーとカメラが追いつけないほどの急激な軌道偏向』! それを『先行入力した』のか!」

 

 カメラ越し、センサー越し。僅かに生じる機械的なタイムラグ。そのごく僅かな合間に無理矢理軌道を偏向させる。そうすれば例え阿頼耶識を用いたとしても、パイロットからは一瞬分身したようにも見えるだろう。だがそれをなすには相手の反応を想定してからでは間に合わない。思考より先、『数瞬先の機動を先んじて入力しなければならない』。しかも『相手の反応関係なしに』。

 ほんの僅かな刹那に相手の虚を付けるだろうが、一歩間違えば自滅しかねない技術。かてて加えて瞬時とは言え、かかる慣性はイナーシャーコントローラーをもってしても15Gを越える。しかし『その一瞬があれば十分』だと、それを理解しているたランディは、あっさりと躊躇なく行動に移して示し、獣のような笑みで宣う。

 

「さあてこれで五分だ。突貫工事のピアス付きがどこまで食い下がれるか、見せてもらうぜェ!」

 

 あくまで己が強者であり挑戦を受ける立場であると、それを崩さない悪魔の態度に、マリィもまた笑う。

 

「あはははは! そうだよそうでなきゃァ! さあ戦(舞)い踊ろうぜェ!」

 

 2体のMSは、まるで嵐のように戦場を駆けめぐる。

 それはもはや、誰にも介入できない舞踏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頭おかしいどころのレベルじゃねえぞあれ!? なんであんな狂った機動についてけるんだよ!?」

 

 視界の端でランディたちの戦いを認識しているシノは、悲鳴のような声を上げた。

 ランディがおかしいのは今更として、それに食い下がれる相手がいるとは思わなかった。しかもなんか互角以上の戦いを繰り広げている。あんなキチ(ピー)が二人もいるとか世の中どうなってるんだ。半ば混乱したような考えが頭をよぎる。

 もっとも自身が追いつけないまでも、彼らの戦いを認識できる時点でシノも大分おかしいのだが、もちろん自覚はないし指摘されても絶対認めない。

 とにもかくにも。

 

「まあ……こっちはこっちでやっかいなんだけどなっ!」

 

 のたうち予測しにくい軌道で迫る蛇腹剣を、流星号の両腕に備えた得物、トビグチブレードにて弾き飛ばしつつシノは舌を打つ。

 相対している敵機。見たところランディと交戦している機体の同型機のようだが、その技量は格段に落ちる。だがそれでも自分達3機と互角に戦えるだけの腕はあり、なおかつ機体の機動性はこちらを遙かに上回る。決して嘗めてかかって良い相手ではなかった。

 さらにその上。

 

「ちっ、姐さんの所から何機か抜けてきたか」

 

 見れば敵方の援軍がハンマーヘッドに向かってきている。アミダも獅子奮迅ぶりの戦いを見せているが、流石に全ての敵機を片づけるとまではいかないようだ。

 と、そこでダンテの機体が前に出た。

 

「増援の足止めは任せろ! あのすばしっこいのは任せるぜ『隊長』!」

「……おう! 頼んだ!」

 

 電子戦用の装備を備えたダンテの獅電は、直接的な戦闘能力は低い。その分敵部隊を効率的に『邪魔する』装備を調えていた。

 

「なんだ!? モニターとセンサーが!?」

 

 迫り来ていたレギンレイズ部隊の機器にノイズが走る。大出力のレーザーを広域に照射するジャマーだ。エイハブウェーブを発するMSは通常の電子索敵が使えない。ゆえに光学系とレーザー系の索敵機構を主軸にしているのだが、高出力の特殊レーザー光波を照射することによってそれらは阻害することが出来る。もちろんGHのMSのセンサー関連技術は機密であり、阻害可能な波長を探り当てることは普通出来はしないが、ランディとマクギリスを通じそのあたりは鉄華団の知るところであった。

 かてて加えてこのジャマーは。

 

「くっ、機体同士のリンクも!?」

 

 僚機間のネットワークも阻害する。結果、連携が取れなくなりまともな攻撃すらおぼつかなくなる。

 そんなものは。

 

「良くやったダンテ! 良い狙い所だよ!」

 

 とって返したアミダの的だ。瞬く間に蹴散らされる僚機を確認し、ジュリエッタは歯噛む。

 

「あの機体! 邪魔だ!」

 

 ダンテの機体が危険性を察した彼女は、真っ先に潰すべく駆ける。しかし。

 

「させねえよ!」

 

 流星号の砲撃が的確に機動を阻害し。

 

「速くても動きが読めてりゃあなあ!」

 

 ライドの雷電号が果敢に接近戦を挑んでくる。

 それぞれの技量は自分に劣る。しかしながら連携という点に関してはアリアンロッドの兵すら凌ぐほどのものだ。己を倒せずとも、その行動を阻害するには十分すぎた。

 

「くっ! 新型を与えられてこの体たらくとは!」

 

 情けなさに涙すら滲ませるジュリエッタ。だが相対しているシノたちも、言うほど余裕はない。

 

(くそ、こいつのおかげで余所に気を回せねえ。時間が経てばこっちが不利だ)

 

 逆に言えば、自分達もジュリエッタの対処に手をこまねき、釘付けとされている状態だ。全体的に見れば敵MS部隊を翻弄し、戦局は有利に見える。だが敵艦隊は健在。それを対処できそうなランディは絶賛死闘中である。

 もし形振り構わないで艦隊を前面に押し出し攻め立ててきたら、一気にこちらが不利になってしまう。そうされる前に逃れなければならないのだが。

 

(姉さんがたの船が離脱するまでまだ暫くかかる。俺達だけだと足止めで精一杯。……教官が頼んだ『援軍』を当てにするしかねえか)

 

 ランディの企みがし損じたことは今までない。ならば今回も当てにさせて貰うしかない。少々情けねえけどなと、シノは密かに苦笑した。

 

「……せめててめえは、ここで立ち往生していてもらうぜ!」

 

 流星号がトビグチブレードを振るい、それは蛇腹剣と激しく火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次々と撃破されていく配下のMS。思わしくない戦況に、イオクはヒステリックな声を上げた。

 

「ええい! 何をやっているあの野猿と狂犬は!」

 

 少数の敵に手をこまねいている(ように見える)ジュリエッタとマリィ、二人の戦いぶり。戦況の悪さも相まってイオクを激昂させているのだった。

 実際ランディが押さえられているおかげでイオクたちは生きながらえているのだが、そんな事実など全く理解していない。ここまで来ていて目的を果たせないでは立つ瀬がないと、彼は無茶を押し通そうとする。

 

「残りのMS部隊も全て出せ! 私が陣頭指揮を執る!」

「イオク様! お気を鎮め下さい!」

「艦隊はいまだ無傷で健在です! 目の前の戦況だけに囚われてはなりません!」

 

 必死で諫めようとする側近。状況は未だ有利であると、説き伏せようとする。

 しかしながら切り札たるダインスレイブ部隊は壊滅。MS部隊は一方的に消耗していく有り様だ。このままでは目標を取り逃がしてしまう、と言うこともあり得た。

 その状況に一石を投じたのは、とても意外なことにイオクであった。

 

「ええい! であれば艦隊を二手に分け、一方を敵首魁の捕縛に向かわせろ! ここで陣取っているだけでは埒があかん!」

 

 それは一見まともな発想に思えた。いやイオクにしてはかなり的確な判断だったのではないだろうか。ともかくブリッジの部下たちは(やっとイオク様が戦術的な思考を!)と感動すら覚えていた。

 しかし。

 

「ああ、ブリッジは収納させるなよ。殻に閉じこもるような臆病者に、我等の勇姿と威光を見せつけねばならないからな!」

 

 ドヤ顔であほのような念押しがされる。鉄火場に部下を送り出すと言うことが分かっていないようだ。

 やはりイオクはイオクであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、動きだしやがったか」

 

 本拠に向けて艦隊の半数が動き出したのを見て取ったランディが舌を打つ。

 

「よそ見している余裕があるのかい!?」

 

 僅かな隙を見出し、マリィが攻め込む。左腕の盾らしきもので殴りかかり――

 その先端が、がばりとカニの鋏がごとく展開した。

 

「!」

 

 咄嗟にそれをシールドで受け、破棄して離脱。シールドはぐしゃりと鋏に握りつぶされ――

 瞬時に『何か』で討ち貫かれる。

 

「パイルバンカー! いや、『近接戦用のダインスレイブ』か!」

 

 小型化しゼロ距離でMSを粉砕するために改良されたダインスレイブ。射撃には使えないが一撃でMSを仕留められるその正体を一瞬で見抜く。その洞察力にマリィは笑みを深めた。

 

「さっすが、そうでなきゃあ!」

「好感度と殺意が正比例して高ェなてめえ」

 

 狂乱の度合いを高めていくマリィに対し、ランディの精神は冷めていく。

 ここまで食い付かれたのは久方ぶりであった。己と互角に持ってくる、そのような相手が現れたことに苦笑を浮かべた。

 

「一方的なのに慣れすぎていたか。俺様ちょっと反省」

 

 まあ『ちょっと反省しただけ』だ。何一つ懲りてはいない。

 

「そういうことで! そろそろこの場は締めにしようかね!」

 

 幅広剣を振り回し迫るモルガンの攻撃を打ち払う。そして後退して間合いを取った。その様子にマリィは期待を抱く。

 

「へえ、掛け値なしの全力を見せてくれる気になったかい?」

 

 その言葉に、ランディはぬたりとした笑みで応えた。

 

「んなわけねえだろ阿呆」

 

 コクピットのモニターの端、そこにはLCS回線によるごく短いメッセージが刻まれている。

 『ウォードッグ隊見参』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟、と減速なしで戦場に突っこんで来る高速輸送艇。そのブリッジで一人の男が言葉を発していた。

 

「へイボーイズ、良い案配だ。こっちはこのまま全速で鉄火場を抜ける。お前さん方の『プレゼント宅配』後、予定通りのコースで回収するぞ。ヘマこいたら遠慮無く置いていくからな」

「了解した。心配しないでも定刻には間に合わせるさ」

 

 冷静ながらもどこか茶目っ気を含んだ声が応える。ブリッジの男はにやりと笑う。

 

「オーライ、それじゃ派手にクラッカーを鳴らそうか!」

 

 輸送艇のコンテナが爆発するように展開する。中から現れたのは4体の鋼鉄。そのカメラアイがぎうんと光を放つ。

 

「スリープ解除。ミッションスタート」

 

 リアクターが起きると同時に4機は飛び立つ。それはGH払いおろしの旧式MS,ゲイレールのように見えた。だが脚部はブースターユニットに換装され、両腕には大型のミサイルランチャーを備えている。

 高機動宇宙戦仕様。戦艦や要塞などに対し一撃離脱で大火力を叩き込むためのものだ。それは高速で艦隊に突っこむ。

 

「エイハブリアクターの反応が4! これは……艦隊の『下』からです!」

「なに!?」

 

 艦隊の死角からの強襲。2機ずつがそれぞれ分かたれた艦隊に向かい、そして――

 

「プレゼントだ、全部持っていけ」

 

 艦隊の間をすり抜けざまに、ミサイルが全弾放たれた。それは近接雷管の反応で艦に当たる前に炸裂し、『赤黒い噴煙』を巻き散らかした。その正体をマリィは即座に看破する。

 

「『ナノミラーチャフ』かい! 最初からこいつが目的か!」

「おうともよ! ぎりぎりだったがどんぴしゃの良い仕事してくれたぜ!」

 

 良い笑顔を見せるランディ。そのことを見通しているのか、ミサイルをぶっ放してそのまま飛び去る4機――元標的艦隊所属、【ウォードッグ隊】隊長【ブレイズ】は苦笑を浮かべる。

 

「お仕事終了、と。後は任せるぜ【デイモン】」

 そして奇襲によりナノミラーチャフをもろに喰らった艦隊は、一気に混乱が生じていた。

 

「レーダーが効きません! 通信も断絶! このままでは!」

「砲撃でチャフを吹き飛ばしつつ効果範囲から脱しろ! 奴らを逃すな!」

 

 イオクの命に従いチャフを振り払おうとする艦隊であったが。

 

「な、れ、レーダー及び通信回復しません! 視界も!?」

 

 チャフの煙幕から抜け出たはずが、ブリッジのウィンドウはうっすらと赤黒く曇り、レーダーも不調のままだ。

 そう、今回使われたのはただのナノミラーチャフではない。とは言ってもこれまでのものと違う点はただ一つ。

『塗料に混ぜ込んである』のだ。

 ミサイルの爆発により霧状になった塗料は、艦体や機体にべったりと付着する。当然混入されたチャフの粒子も同時に。つまり『煙幕から抜け出ても有視界を阻害すると同時に、レーダーや通信を妨害する効果が続く』ということだ。この特製チャフの受領に手間取りウォードッグ隊は遅刻気味となったのであるが、その効果は覿面であった。

 

「一体何がどうなっている! 早く回復させろ!」

 

 がなり立てるイオクだが、部下たちとてなにが起こっているのか分からない状態で、半ばパニックに陥りつつある。勿論こんな状態で艦隊がまともに機能するはずもない。

 その状況を見て取ったランディは、名瀬に向かって告げる。

 

「旦那! 今のうちだ、とっとと逃げな! さっきの輸送艇が先導してくれる!」

「だが、あいつらを置いて……」

「あんたがここに留まってちゃ、嫁さんたちも逃げられねえだろうが! 殿は俺達がやる。任せろ」

 

 ランディの台詞に乗っかって、アミダも言う。

 

「意地張っている場合じゃないだろ名瀬。ここは素直に従っておこうじゃないか」

 

 その言葉に、名瀬は息を吐いて肩の力を抜いた。

 

「格好悪りぃったりゃありゃしねえ。……格好悪いついでに、乗らせてもらうとするか」

 

 操舵桿が操作され、ハンマーヘッドは離脱を開始する。

 

「お前ら! 必ず迎えに行くから良い子で待ってろよ!」

「アジー、帰るまで指揮は任せる。うまいこと仕切んな」

 

 ハンマーヘッドに随伴する形でアミダの百錬も離脱していく。

 

「逃がすわけには!」

 

 それを追おうとするジュリエッタ。強引に流星号と雷電号を振り切り、ハンマーヘッドを――

 そこで強烈な打撃が、ジュリアを襲った。

 

「邪魔はさせねえよ」

 

 がぎんと、狙撃モードから通常モードに変形するグシオンの頭部。なんと昭弘は、離脱する輸送艦の側からレールガンでジュリアを狙撃したのだ。流石に予想外であったジュリエッタは直撃を喰らってしまう。

 

「良い仕事だ昭弘!」

 

 間髪入れずシノが間合いを詰める。叩き込まれたトビグチブレードは、狙撃を受け大きく歪んだ左肩のシールドユニットに深々と食い込んだ。

 

「くっ!」

 

 即座にシールドをパージし、離脱。これ以上の戦闘は危険域だと判断できる理性は、まだ残っていた。どのみち目標の艦は戦域を脱しつつある。追撃しきれるものではない。

 

「追ってこないか。……倒すべき敵とも見られていないとは……っ!」

 

 敵の追撃がないことは僥倖であっただろう。だがジュリエッタは、それが無性に悔しかった。

 そして、もう一方の激戦も終幕を迎えつつある。

 

「やってくれたねェ。けどこのまま帰すと思ってるのかい!?」

 

 戦況がひっくり返されたことに動ずるどころか、むしろ楽しそうに笑うマリィは全開でラーズグリーズに襲いかかる。

 

「帰らせて貰うさ! 祭りの本番はまだ先なんだからよ!」

 

 ランディも迎え撃つ。2機は真っ向から激突――する寸前で、差し出されたラーズグリーズの左腕装甲が展開し、ぽん、と『何か』が放たれた。それは虚をつかれたマリィ――モルガンの眼前で、『炸裂し強い閃光を放つ』。

 

「フラッシュグレネード! くっ!」

 

 センサーやカメラと阿頼耶識を通して接続している以上、その効果からは免れない。視界を潰されながらもマリィは直感に従い回避行動を取る。

 強い衝撃。すり抜けざまに打ち込まれた幅広剣が、右の肩口からシールドユニットごと右腕を切り飛ばしたのであった。

 それを認識したときには、ラーズグリーズの姿は彼方。これから追いすがったとしても、まともに戦えはしない。マリィは俯き失望したように見えた。

 

「……逃……この……赦さ……」

 

 通信妨害の影響で、イオクのがなり立てる声が途切れ途切れに伝わるコクピット。その声をかき消すようにくつくつと沸騰するような音が沸き立つ。

 それは笑い声だった。暫しそれが続いた後、爆発するような勢いでマリィは天を仰ぎ、哄笑を響かせる。

 

「ははははははは! いいね、いいじゃないか! まだまだ続く! まだまだ終わらない! まだ遊ばせてくれるんだねええええええ!!」

 

 狂乱の戦鬼はただただ歓喜と狂気に酔う。

 とにもかくにも、イオクが画策したタービンズへの襲撃は失敗に終り、ハンマーヘッドとタービンズはいずこかへ逃れた。

 そしてその事実は、奈落への扉を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ片づいている頃か。後は御曹司からの連絡があれば……」

 

 イオクの作戦が失敗に終わっているなどとはつゆ知らず、ジャスレイは自室で取り巻きと共に1杯引っかけていた。

 作戦が上手くいけば名瀬を蹴落としタービンズと鉄華団の力を大きく削ぐことが出来る。その勢いをもって他の幹部たちに圧力をかけ跡目の席を確たる物にする、という捕らぬ狸のなんとやらを思い描いてほくそ笑む。もしマクマードが渋るようであればイオクの力を利用して……などと考えながらグラスを傾ける……が。

 突然、部屋の扉が蹴破られた。

 何事、と誰かが反応する前に、ぱすぱすとタイヤから空気が抜けたような音が響いて――

 取り巻きたちの頭に赤い花が咲いた。

 突入してきた何者かが、サイレンサー付きの銃を撃ち取り巻きたちを始末したのだと、一瞬理解できずにグラスを傾けた姿勢のままで凍り付くジャスレイ。我を取り戻したときには、覆面を被った数人の男たちから銃を向けられていた。

 グラスがこぼれ落ち、絨毯に染みを作る。

 

「な、な、なんだてめえら! お、俺を誰だと思っている! ジャスレイ・ドノミコルスだぞ!?」

 

 目に見えて狼狽え、それでも虚勢を張りながらジャスレイは震える声で喚く。その声に応えながら、一人の男が姿を現した。

 

「もちろん分かってるよ~。おぢさんたちゃお前さんに用があって来たんだから」

 

 現れたのはジョニー。いつも通りのへらへらした態度だが、死屍累々の状況下に置いては、その態度が不気味なものに見える。

 

「な、て、てめえ! なんの真似だ! 事と次第によっちゃあ……」

「まあそう慌てなさんな。すぐ済む」

 

 虚勢を張るジャスレイの言葉を飄々と受け流す。そうしてからジョニーは眼差しを鋭い物に変えた。

 

「お前さん、名瀬を売ったな?」

 

 底冷えのするような気配。背筋に氷柱をぶち込まれたような感覚を覚えたジャスレイは、「ひぃ」と小さく悲鳴を上げる。目の笑っていない笑顔で、ジョニーは続ける。

 

「いけねえなあ。いくら仲が悪いつっても、やっちゃいけねえ事ってのはある。反則技は御法度ってもんさ」

「……て、鉄華団だってGHと連んでるじゃねえか! 俺となにが違う!」

「ぜんっぜん違うだろぉ? 鉄華団はテイワズに儲け話を持ってきた。お前さんは身内を売った。……比べモンには、なんねえよなあ?」

 

 言いながら、見せつけるかのようにゆっくりと懐から銃を抜き、スライドさせるジョニー。ジャスレイは必死で訴えかける。

 

「お、俺が死んじまったら! JPTトラストは、テイワズは! どうなると思ってやがる!」

「なあに心配なさんな。お前さんの後釜はいくらでもいる」

「親父に! 親父が許すはずがねえだろうこんなこと!」

「その会長から伝言だ」

 

 淀みなく銃口が額に突きつけられた。ジャスレイは恐怖のあまり失禁しながら目を見開く。

 

「裏切りは許さねえ。それが何者であったとしても、だ」

 

 ぱん、と乾いた音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刃が奔り銃火が飛び交い鉄塊が火花を散らす。

 斬り込み撃ち放ち叩き付ける。出しうる全てを出し、学ぶべき全てを学ぶ。それはいつ果てるともなく続き――

 唐突に制止した。

 己の持つメイスがパイルバンカーを射出する寸前で相手の喉元に突きつけられ、相手の太刀が己の頭上ぎりぎりで留められている。相打ちではない、自分と相手の『やることが完全に重なった』。それを何となく理解した三日月は、構えを解いて得物を引く。相手も同じく太刀を引いて下がった。

 

「これで終わり? なんとなく大丈夫ってのは分かるけど」

 

 その言葉に答えを返すでなく、影は踵を返して背中を向け、歩み去っていく。同時に世界が陽炎のように歪み始めた。

 徐々に消え去る意識。その中で、三日月は『やっと気付く』。

 

「なんだ……お前だったのか、『バルバトス』」

 

 世界が消え去る中、首の上だけで振り返ったマシンフェイスは、確かに笑っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと意識が浮上する。

 真っ先に捉えたのは、涙でぐしょぐしょになったアトラの顔だった。

 

「……おはよう?」

「おはようじゃないよもう! 心配したんだからァ!」

 

 わっと泣きながら抱きつくアトラの頭をよしよしと撫でながら、三日月はコクピットの傍らで呆れた顔になってるビスケットへと語りかける。

 

「悪い。待たせたかな」

「やきもきしたよ。……でも、良いタイミングだ」

「何かあるの?」

 

 三日月の問いに、ビスケットはにやりと笑みを浮かべた。

 

「アリアンロッドに『やり返す』。そう言う話さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「アイテムなんぞ使ってるんじゃねえ!」

「バルバトスちがくない? 訓練にはなるけどさ」

 

 なんかどっかの世界と回線が繋がりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 EB-08jjc-0 レギンレイズ・モルガン

 

 レギンレイズ・ジュリアの同型機、と言うよりはプロトタイプ。

 ランディと因縁のあるパイロット、マリィ・フォルクが駆り、限界性能を突き詰めた頭おかしいチューニングが施されている。

 機体自体はジュリアとほぼ同じだが、血のような深紅に塗り上げられ、頭部に一本角のようなセンサーアンテナが増設されている。武装は右腕には120㎜ガトリングガン、左腕には相手を挟み込んでぶちかます仕様の近接用ダインスレイブが備えられており、ジュリアとは異なる戦術を想定しているようだ。

 なおこの機体には阿頼耶識システムが搭載されているが、どうにもそれだけではなさそう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 桜亜種とかいらんから、村正の実装はよ。
 はよ。
 何のために石と札取ってあると思ってんだよ捻れ骨子です。

 さ、そう言うことで更新です。名瀬の兄貴を救出&マリィさん初戦。当然のように阿頼耶識使ってきましたが、それを俺式風歩で乗り切るランディさんというやりとり。軍配はランディさんに上がったようですが、もちろんこの程度では終わらない、はず。

 そして結局イオク生き残っちゃいましたが、ケツアゴはお隠れあそばされたようです。ヒットマンが最強というのであれば、こちらから先にヒットマン送り込んだらいいじゃない。ということでジョニーさんがさくっとやっちゃった。(てへぺろ)
 まあ親分さんクラスがそういう手札を持っていないはずがありませんので、そう言う役割を受け持つ人間としてジョニーさんは設定されております。つまりネームドヒットマン。と言うことはこの作品内に置いては最強……かも知れません。適当に言ってますが。
 
どうやら三日月くんも復帰したようで、いよいよ次回は反撃開始となるのか。そしてイオクはいつまで生き延びることが出来るのか。刮目したりしなかったりして待たれよ。


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