イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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4・家族ってのは『在る』ものじゃなくて『成っていく』ものさ

 

 

 

 

 ナノミラーチャフで目くらましを行い、そこから突撃……と見せかけて、すれ違い様にMWでハンマーヘッドに飛び移り、内部から制圧する。そんな曲芸じみた芸当をオルガたちはやってのけた。

 当初名瀬は彼らを鎮圧しようと考えた。しかしマルバの言動がそれを思いとどまらせる。

 

「殺して下さいよォ! あの宇宙ネズミどもを!」

 

 その言葉から鉄華団の少年達に阿頼耶識の手術が施されていると悟った名瀬とハンマーヘッドのクルー達は、嫌悪感を露わにした。

 阿頼耶識の手術はじゃんけんに負けるのくらいの確率で失敗し、身体に障害が残る。また成人の肉体では使用されるナノマシンが定着せず、施術は未成年に対してしか行うことが出来ない。加えて施術に置いては麻酔などを使用する例も少なく、最早拷問に近いものでしかなかった。当然ながらいくらMS類の操縦が可能になると言っても、自らそれを望んで受ける人間などほとんど存在しないと言っていい。

 そんなものを受けさせられた上扱いも悪いとなれば、それは下克上の一つも考えたくなるだろう。名瀬たちに同情めいた心が芽生えるのも当然と言えた。

 それに曲芸じみたことを平然と行う度胸も手際も悪くない。頭の中でそろばんが弾かれ、結局名瀬はオルガたちを受け入れてみることにしたのであった。

 

「マルバの奴は資源採掘衛星の鉱山で、借金返すまで働いてもらうことにした。まあ色々とフカシもかましてくれたことだしな」

 

 ハンマーヘッドの応接室にオルガたちを招いた名瀬は、彼らにそう告げた。

 タービンズに依頼する際、マルバはいかにも自分が一方的な被害者でオルガたちがあくどいか、あること無いこと織り交ぜて話を盛っていた。あの様子ではもしかして財産を取り戻した後、踏み倒してとんずらする可能性もあっただろう。

 

「それに俺の『女房達』にも色目使ってやがったからなあのオヤジ。ちいと念入りにお仕置きしておいた」

 

 にやりと笑う名瀬。オルガたちは何とも言えない様子である。

 タービンズの構成員は名瀬を除きほぼ全員が女性であり、しかも過半数が名瀬と婚姻関係を結んでいる。名瀬曰く「俺のハーレムだからな」とのことだが、スケールが大きすぎてオルガたちは圧倒されるしかなかった。

 それはさておいて、名瀬は鉄華団をテイワズの本拠地、大型惑星間巡航船【歳星】へと招き、テイワズの傘下に薦めると言った。

 

「ありがとうございます」

「まだ許されるかどうかは分からないがな。ま、そいつは歳星に着いてからの話だ。取り敢えず、お前らが鹵獲した機体の見積もりが上がったから確認してくれ」

 

 名瀬から受け取ったタブレット端末を覗き込んだオルガたちは、目を丸くした。

 

「こんなに……いいんですか?」

 

 尋ねるオルガに、名瀬はこう返す。

 

「GH純正のリアクターだからな。相応の金になるさ」

 

 現在エイハブリアクターの製造技術を保持しているのはGHのみで、その純正リアクターの入手手段は限られる。三百年前の大戦、【厄祭戦】当時のリアクターをレストアして使うしかない圏外圏などの勢力にとっては、喉から手が出るほどの価値があった。ゆえに売買を行うとなればかなりの値が付くと、名瀬はそう言う。

 そういうものか。納得しかけたオルガたちであったが。

 

「これで当座はしのげるな」

「火星の本部にメールを入れておこう。きっとデクスターさんも喜んで……ん?」

 

 ふとビスケットが気付く。

 

「……あれ? ランディさんの取り分、少なくありません?」

 

 鉄華団が鹵獲したグレイズは火星地上での戦闘と軌道上で計4機。そのうち軌道上での2機はランディが撃破したものだとビスケットは認識している。そしてグレイズ改として運用している1機を除いた3つのリアクターを売り払うはずだった。だが見積もりを見てみると、ランディの取り分は1機分だけである。しかしランディは肩をすくめながらこう言った。

 

「俺が墜としたのは最初の1機だけだろ? あとのは三日月がとどめを刺したじゃねえか」

 

 だから自分の取り分は1機分だと、彼は主張する。そう名瀬に言って見積もりを出すよう頼んだのだと。それを聞いて壁際で木の実らしきもの――火星ヤシの実を頬張っていた三日月が、きょとんとした表情で尋ねた。

 

「いいの? あれ最初の蹴りでコクピットほとんど潰れてたけど」

「確実に潰したのはお前さんだ。それに他人のスコア横取りは俺も結構やってたからな。自分がやって人にやるな、ってのはおかしな話だろ」

 

 その言葉にぽかんと目を丸くするオルガたち。名瀬は「相変わらず妙な奴だ」などと呟きながら、ふっと笑みを見せた。

 ランディール・マーカスという男、敵に対しては容赦なく冷酷であったが、その一方でこのように筋が通らないことを嫌うという面もあった。そういった面がGH内でも疎まれ、結局命を狙われる羽目になったとも言えるが、本人は全く反省する気はないようだ。

 

「……あんたがいいってんなら、俺らにも異存はねえ。ありがたく頂戴させてもらう」

 

 戸惑いがあったが、ここでごねてもランディは首を縦に振るまい。短い付き合いだがそれぐらいはオルガにも分かる。ここは好意に甘えさせてもらおうと、彼は頭を下げた。

 それから細々したことを話し合った後、イサリビとハンマーヘッドは歳星へと進路を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歳星に向かう間、別に皆ぼんやりしているわけではない。

 特に火星軌道上からこっち、イサリビもMSもダメージを受けたままろくに整備もしていない。まずはそれを片づけねばならなかった。致命的な損傷はないし、歳星で本格的な整備を受けさせてもらえるという話も付いていたが、放っておいて良いものではない。そんなわけで、鉄華団の整備班総出とタービンズからの手も借りての整備補修が行われていた。

 その中にランディの姿もある。

 

「お前さんが予備機を欲しがってた理由も分かるわ。なんでえこの関節部の摩耗は」

 

 呆れたようにランディに向かって言うのは、鉄華団に残った数少ない大人の一人にして整備責任者【ナディ・雪之丞・カッサパ】――通称おやっさんである。

 ランディのシュヴァルベ・グレイズは、現在装甲の一部を取り外しオーバーホールの真っ最中だ。調べてみれば、特に膝や足首の関節があり得ないくらい摩耗している。これは彼独特の技術によるものであった。

 敵の機体を蹴りつけ攻撃と軌道偏向と加速を同時に行うという化け物じみたテクニック。この技術は機体に本来想定されていた以上の負担を与える。MSというものはとんでもなく頑強に出来ているものだが、それを摩耗させる負荷がどれほどになるか、想像に難くない。

 だから彼は予備の機体を欲していたのだ。

 

「火星や圏外圏じゃグレイズのパーツは手に入りにくかったからな。ロディ系だと反応がどうしても鈍いし、耐久性も考えたらガンダムフレームくらい頑丈なのがいいかって思ってたわけよ。滅多に見つかるモンじゃないからマルバの話は渡りに船だったんだが」

 

 タブレットとにらめっこしながら話すランディ。かれはにやりと笑いつつ言う。

 

「しかしまあ、おかげさんでグレイズの予備パーツは確保できた。まだ暫くはこいつが使えるさ」

「だからボーナス代わりに撃墜した機体をってわけかい。確かにお前さんにとっちゃ予備パーツが向こうからやってくるようなもんか」

 

 まあそいつはいいんだがなと、雪之丞は頭を掻く。

 

「あいつらすっかりハマってやがるなあ」

 

 彼が見上げるのは、傍らのグレイズ改。ひとまずの整備が終わったそのコクピット周りには鉄華団の少年達と、なぜだかタービンズでパイロットを張っているラフタとアジーの姿もある。

 集った皆の視線が集中する中、グレイズのコクピットハッチが開いた。

 

「だめだあああああ! マジ激ムズどころじゃねえぞこれ!?」

 

 吠えるように愚痴りながら這い出してくるのは【ノルバ・シノ】。鉄華団創設以前、CGS時代から最も長い古参メンバーで、その人格からムードメーカーの役割に収まっている人物だ。

 彼が挑んでいたのは機体を実稼働させなくとも操縦を疑似体験できるシミュレーションプログラム。それ自体は別に珍しくも何ともない。

 問題はそのブツが、『ランディが自分で組み上げて自己鍛錬に用いている物』だというところだ。

 前回の戦闘終了後、鉄華団とタービンズ双方から「なんであんなことできる」とランディに詰め寄る人間がラフタ中心に大勢出たのだが、そこで「だったらちょっとやってみるか?」とランディが呈示したのが件のプログラムだった。真っ先に意気揚々とそれに挑んでみたラフタが、終了してから開口一番言い放った台詞が。

 

「殺す気かあああああ!!」

 

 であったところから内情を察して欲しい。

 ともかく出鱈目に過ぎる。これでもかと無理難題を次から次へと叩き込まれる内容なのだ。具体的には初っ端からノーマル通常武装のグレイズで一個大隊(36機)のシュヴァルベ・グレイズ相手に戦えとか、そんなのが基本なのである。

 かてて加えてこのプログラム、ランディのセッティングに合わせる事を前提としていた。このセッティングがまた気が狂ってんのかってくらいにおかしい。

 ともかく操縦系がやたらと敏感でタイト。遊びが全くない上異常に反応が早い。操縦桿を撫でるように動かした程度で反応するほどだ。このセッティングで自機をシミュレートしてみたラフタが。

 

「ぬっひょわああああ!?」

 

 とか悲鳴を上げながらプログラム上で明後日の方向に吹っ飛んでいったところから察して欲しい。だがランディ本人曰く。

 

「手足ほとんど動かさなくて良いから楽なんだがなあ」

 

 なんてほざいてやがる。そんな狂人のセッティングなんか使いこなせる人間なんかいるかと思いきや。

 

「ああ、こんなセッティングじゃなきゃあんな曲芸できないか」

 

 様子見に顔を出したアミダ姐さんがあっさり乗りこなしてたり。

 

「……ん~、慣れればなんとかなるかな」

 

 三日月が結構あっさり順応しそうだったりする。

 それに刺激を受けたのか、昭弘を中心に鍛練を重ねようとする者が鈴なりというわけだ。シノを含め本来パイロットじゃない者も多く混じっているが、これはランディのオルガに対する具申が原因であった。

 

「このままだと戦闘で三日月と昭弘に負担がかかりすぎるな。予備のパイロットを何人か見繕っておいたほうが良いと思うんだが、どうよ大将」

 

 たしかに鉄華団の戦闘力は、特に三日月頼りな部分が多い。彼はこの歳で異常なまでの戦闘適正を見せるが、別に疲れないわけでもましてや死なないわけでもない。万が一がなくとも、怪我や病気で動けないなんて事もあり得るのだ。そう指摘されたオルガは納得し、ランディに「やる気のある奴をちょっと見てくれないか」と頼んだ。

 そんなわけで、取り敢えずは興味のある奴にシミュレーターをやらせてみているわけである。娯楽も少ないと言うこともあって、結構盛況であった。

 

「バルバトスが他の人間にも使えりゃもっと良かったんだがな」

「こいつはもう三日月くらいしか扱えねえ。歳星で上手いことコクピット周りに手を入れられりゃいいんだが」

 

 GHがCGSに襲撃をかけたおり、突貫工事でMWのコクピットブロックを収め阿頼耶識システム搭載機となったバルバトスだが、急場しのぎも良いところだったせいもあり調整が非常にシビアで煩雑になってしまった。阿頼耶識も汎用調整が効かず、マニュアルだけだと所々コントロールを受け付けなくなることもある。結局阿頼耶識を接続した三日月くらいしかまともに動かせなかった。ランディをして「こりゃコクピット入れ直して一からフルオーバーホールと再調整しねえと駄目だな」と言わせるほどだからかなりの難物であろう。

 

「ま、その辺も含めてまずは歳星にたどり着いてから、か」

 

 そう締めて、ランディたちは再び作業を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テイワズ。表向きは圏外圏を牛耳る大企業であるが、その実態はほとんどマフィアと言ってもいい。表裏双方の社会に広く勢力を広げ、その影響は地球圏も無視できないほどのものだと言われる。

 その本拠地である歳星は、後部に小惑星を利用した工場区画を、中央に都市区画をもつ巨大な船だ。そこにたどり着いたオルガたちとクーデリアはテイワズの長、【マクマード・バリストン】と面会を果たす。

 とても宇宙船の中とは思えない広大な屋敷にて、彼らを案内した名瀬は。

 

「親父、俺はこいつと杯を交わそうと思うんだが」

 

 と告げた。つまりオルガと義兄弟の関係を結び、鉄華団を丸ごとタービンズの傘下におさめようと言うのだ。

 オルガやクーデリア、そして三日月と言葉を交わしたマクマードは彼らをそれなりに気に入ったようで、名瀬とオルガが義兄弟の杯を交わすのを認め、さらにはバルバトスを無償で整備するよう手配した。

 一息ついた鉄華団は一時の休息を得る。オルガは主要メンバーを引き連れて繁華街に繰り出し、大いに盛り上がったようであった。その結果翌日二日酔いでダウンしたのはご愛敬であろう。

 まあ今まで気を張っていたのだ、ちょっとぐらい休ませても構うまいと気を遣ったビスケットは、彼の代わりに武器弾薬の補給の手筈を進める。

 幾度か歳星を訪れたことのあるランディの案内で、彼はとある場所に訪れていた。

 

「……加えてMS用の150㎜アンチマテリアルライフル一丁に通常弾、徹甲弾、それぞれ200発。以上確かに注文承ったね。在庫あるから出航までには用意できるよ」

 

 妙な訛りのあるしゃべり方で言うのは、中華風の服を纏い丸サングラスにドジョウ髭の、いかにも怪しい中国人風味の男であった。

 自称【ワン・チャン】と名乗るこの男は、歳星にてテイワズ直営の武器店を営む人物だ。胡散臭いことこの上ないが、商売人としてはそれなりに信用できる人物、らしい。本当に大丈夫なのかなと、ビスケットは心配せざるを得なかったが。

 

「ついでになんか他にも見ていくかね? このへんなんかお奨めよ」

 

 差し出されるタブレットを覗くランディ。その眉が顰められる。

 

「おい、このコンテナ型ミサイルランチャーだが……」

「ああそれ一番の売れ筋ね。通常の大型コンテナと全く同じ規格だから、これあればコンテナ船舶(ランチ)もあっという間にミサイル艇に早変わりよ。しかも圧搾空気式アポジモーターで付きである程度自力航行も可能。その上リモートで外部からの操作もタイマーでの作動も可能という優れものね」

 

 むふんと胸を張るワンだが、ランディの眉は顰められたままだ。

 

「これ中古のコンテナにあまりモンのミサイル詰め込んだだけじゃねえのか?」

「あらあさりバレたね。ま、そんな代物でも性能は間違いないよ。元が元だけにかなり安いしね。どう、一つ買わないか?」

 

 堂々とセールスするワンに向かってぱたぱた手を振ってみせるランディ。

 

「大型コンテナ担いで戦闘しろってか。いらんいらん……って」

 

 タブレット覗いたままだったランディの眉が、さらに顰められた。

 

「ちょっと待て、マスドライバーは武器じゃねえだろ」

 

 低重力の衛星や小惑星の採掘基地から、資材をコンテナに詰め軌道上に打ち出すための設備がマスドライバーだ。確かに基本構造はリニアレールガンと同じだから武器として応用は利くであろうが、なにぶん本来設備だからでかい。戦艦に搭載できるかどうかだって怪しい。なぜそんな代物が武器屋のラインナップにあるのか。

 

「あ、それとあるアホが艦載砲と間違えて発注したモノね。納品寸前で気付いてキャンセルしてくれたのよ。迷惑千万な話ね」

 

 おかげで倉庫で埃被ってるよと、ワンはぶちぶち文句を言った。

 

「どういうアホだよそいつぁ」

「とてつもないアホね。なんてったって折角伝手で手に入れたハーフビーク級戦艦をこれでもかって重装甲に改造した挙げ句、艦橋収納機能オミットしてしまうくらいのアホよ」

 

 どこかでケツアゴのおっさんがくしゃみをしているような気がするが、それはさておきワンはやれやれと頭を振る。

 

「それがテイワズでも結構幅効かせてるヤツだから世も末ね。ま、金回りは良いからマクちゃんも吸い取るだけ吸い取る気だと思うよ」

(テイワズも色々ありそうだなあ……)

 

 一抹の不安を感じるビスケット。その横で。

 

(このおっさん、あの親分さんをマクちゃん呼ばわりとはな。それなりに深く古い付き合いってことか)

 

 ランディは先日のことを思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルガたちとは別口で、ランディはマクマード邸に招かれていた。

 

「お前さんがリボン付きかい。一度会ってみてえなとは思っていた」

 

 恰幅の良い、和服姿の初老にさしかかった男。穏やかに見えるがランディを値踏みするその眼光は鋭い。向かいのソファーに座するランディは、彼を前にもいつもの様子だ。

 

「圏外圏でもっとも恐ろしい男に名を知られてるたあ、光栄だね」

「そんだけのことをやらかして来たってことさ。で、早速本題だが」

 

 マクマードは葉巻を一吹き。そしてランディに問う。

 

「単刀直入に聞くが……お前さん、何を企んでいる?」

 

 そう聞かれたランディは、肩をすくめすっとぼけて見せた。

 

「さて? 何の話やら」

「今まで俺が聞いた話で判断するならば、お前さんはむしろ一人で暴れ回るのが性に合ってる人間だ。GHに一発かますにしても、『やるんだったら一人でやる』だろうよ。そんなお前さんがあの小僧どもに便乗? なにかあるって思うのは勘ぐりすぎかね」

 

 マクマードの指摘に、ランディは慌てず騒がず「流石慧眼」と言ってのける。

 

「親分さん、あんたが知ってる中で、相手がGHだと分かっていて喧嘩が売れるモンがどれだけいる? 俺は自分以外にそんな馬鹿が存在するとすら思ってなかった」

 

 その武威、権力。GHは現在社会の実質的な支配者と言っても過言ではない。それにちょっかいを出そうなんぞ、テイワズですら躊躇する事だ。例外はランディのような頭がおかしい人間だけであろう。あるいは……。

 

「あいつらとバーンスタインのお嬢さん、合わせて突き進めば話は段々とでかくなる。首尾良くアーブラウとの『商談』が纏まっちまえば、さらに倍ってな。そうなりゃ一人で殴り込むよりも、もっと手痛い目をGHに見せてやれるんじゃねえかと思ったのさ」

 

 そうなりゃ奴らの面目は丸つぶれと、ランディは唇を歪めて見せた。

 

「それにあいつらがやり遂げて見せたなら、火星の独立ってのに大きく近づく。もし『圏外圏の大企業なんかが協力すれば』存外夢幻じゃなくなるかもよ? ……見てみたい、とは思わねえか?」

 

 マクマードもまた、口元に笑みを浮かべた。

 

「与太話だな」

「与太話さ」

 

 表情は笑み。しかし実態はにらみ合いが暫く続く。

 ややあって、マクマードは紫煙と共に一息吐いた。

 

「ふん、お前さんの考えは分かった。敵に回りさえしなきゃあ、俺としては文句ねえ」

 

 席を立ち、話は終わったとばかりに背を向け、窓辺に立つ。

 

「ま、これからも『よろしく』な。うちの連中とも仲良くやってくれや」

「可能な限り、期待は裏切らないようにするさ」

 

 ランディが部屋を退出してから、マクマードは大きく息を吐いた。

 油断ならない男。ランディの印象はそのような物だ。彼の言ったことがどこまで本気か分からないが、あり得る可能性だけに笑い飛ばすことも出来ない。たしかにGHは強大だが、圏外圏を含めた人類領域全体にまんべんなく手を伸ばせるかは疑問だ。事実火星支部など目が届かないことを良いことに不正のやり放題であったのだ。ただでさえ一枚岩ではない組織である。十分な用意があれば隙を突くことも出来よう。

 彼の言葉には、人を動かすほどではないにしろ揺るがす何かがある。匂わせる可能性がそう感じさせるのであろうが、もしその気になって人を扇動し始めたら本気で一大勢力を築き上げてしまうかも知れない。

 危険ではある。だが同時に。

 

「……面白いと思っちまうのは、俺も乗せられてるからかねえ」

 

 マクマードは鉄華団の少年達やクーデリアと同等の関心を、ランディに向けていた。

 一方退出したランディであるが。

 

「……ビビったあ。さっすが圏外圏一怖い男」

 

 ほっと胸をなで下ろしている。実の所彼が言った言葉は、まるっきりの嘘ではないが与太話を越える物ではない。目に見えて自分を警戒するマクマードに対して何も企んでないなどと言っても信じまい。むしろ益々警戒するだけだ。であればある程度それっぽい『企みじみた話』をすれば納得するだろうと考えを巡らした末の、半ばでっち上げである。

 漠然と言ったようなことは考えちゃいるが、実際GHをおちょくるのに全力を尽くしているというのが大半を占める。ガキに出し抜かれた気分はどう? どう? とやるためだけに鉄華団に手を貸しているのだ。最悪であるこいつ。

 まあとにもかくにも、マクマードは納得してくれたようだ。ようだがなんか関心を向けられてしまったような気もする。

 

「えらいのに目をつけられちまったなあ……」

 

 絶対あの親分さん敵に回すのは止めておこう。ランディは堅くそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こういうのも若気の至りっていうのか? 違うような気もするけど)

 

 考えているうちにも、商談は滞りなく済んだようだ。ビスケットがサインを記している。

 

「商談成立ね。……ま、テイワズ入ったなら、これからちょくちょく世話したりなったりよ。よろしく頼むのことね」

「は、はい、よろしくお願いします」

 

 戸惑いながらも頭を下げるビスケット。これから長い付き合いになるだろうが、このおっさんに振り回されなきゃいいけどと、余計な心配をするランディ。

 と、ワンがランディに向かって、手に持ったタブレットを指す。

 

「で、これ(マスドライバー)買わないか?」

「買わねーよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、歳星の会場にて名瀬とオルガの杯が交わされた。

 厳かな雰囲気の中、スーツ姿のランディは見届け人の一人として会場の端に鎮座している。

 

(カンジアートはどうにも分からん)

 

 御留我威都華だの三日月王我主だの書かれた掛け軸のようなものが掲げられているが、ランディにとってはちんぷんかんぷんであった。そもこういった場での作法もよく分かっていない。付け焼き刃でよくやるなと、オルガを見て感心するほどであった。

 それにしてもと、神妙に儀式を進めているオルガたちを見て思う。首尾良くここまでこぎ着けた彼らであるが、どうにも危なっかしいというか脆さのような物が見え隠れしている。ほぼオルガのワンマン体制だからというのもあろう。彼がいなくなれば即座に瓦解する危険性もある。

 「流れた血が鉄のように固まって、離れられない関係」とオルガは自分たちをそう表し、そんな関係を名瀬は「家族」と言った。歪だが、故に強い繋がりを持ち、同時に危うさを秘めた彼ら。テイワズの後ろ盾を得たからといって油断はならない。その行く先は苦難が待ちかまえていることだろう。

 

(GHにかますまで潰れちゃ困るからな。適度に手助けしてやるか)

 

 改めてそう考えるランディ。

 彼は自分が鉄華団の少年達に相当入れ込んでいるという自覚がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、テイワズからの仕事も受け入れた鉄華団は、ハンマーヘッドの先導の元歳星を発つ。

 往くは正規航路ではない、タービンズ御用達の裏航路。その先に待ち受ける物を、彼らはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 続くかも知れなかったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※今回のえぬじい

 

「単刀直入に聞くが、ここのBGMゴッ●ファーザーと仁●なき戦いのどっちが良いと思うよ?」

「ブラッ●ラグーンで良くね?」

 

 雰囲気は大事。

 

 

 

 

 

 

 終われです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最終回予想ー!
 1・実はマッキーが残していたトラップとかが発動。大逆転。 2・普通にバルバトス無双。 3・第三期か劇場版に続く!
 いや納得できる終わり方ならなんでもいいんですが捻れ骨子です。
 ここまで続いてしまったので、調子に乗って連載という形にしました。しかしながらいつ突然エタるか分かりません。原作が終わってからもモチベーションが保てるのか。実に不安ですね他人事か。
 ともかくこんな感じで、オリキャラの立場から本編をなぞっていく形になると思います。そのうち原作から剥離していくと思いますが、全ては本編うろ覚えで録画見直す暇もない事を誤魔化すためなのはここだけの秘密だ! すいません最初に謝っておきますがわりとふっわふわでぐだぐだでいい加減なノリで本作品は出来ておりますあしからず。
 そんなこんなで、もしも続きましたら次回もよろしくお願いします。

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