イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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35・狩りの、時間だ

 

 

 

 

 

 クリュセ市街、アイゼン・ブルーメ商会本社では、鉄華団から情報を受けたクーデリアたちが対処に追われていた。

 

「関係企業各所に連絡を! 保有するシェルターを民間に開放するよう呼びかけて下さい!」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばすクーデリア。もともと火星の各都市には、希に起きる大規模な砂嵐(ストーム)対策としてシェルターが備えられている。それを解放し住人を避難させるよう、彼女は働きかけていた。

 MAがどれほどの脅威か、まだ彼女らに実感はない。しかしながら、あの傍若無人なランディが最大限に警戒していたと言う事実が、否応なく危機感を募らせる。

 焦ってはいけない。しかし出来る限り多くの人間を安全に避難させなければならない。時間との戦いを制するために、彼女たちは可能な限りの手を打つ。

 

「……はい、ええ。オルガ団長からは許可を得ています。いざというときには『例の地下道』を使うことなりそうですから、その時は市民の誘導をお願いします」

 

 クーデリアが連絡を取っているのは、鉄華団本部に残っている団員。本部を改装した際発見された厄祭戦時代の地下坑道。クリュセ市街まで続くそれはいざというときの脱出経路として密かに整備されていたが、それを逆にクリュセ市街から市民を脱出させるための経路として使わせて欲しいと頼んでいたのだ。一応鉄華団の機密ではあるが、背に腹は代えられないとオルガも同意している。使わなければそれに越したことはないのだが。

 

「ではクーデリア社長、私は庁舎へ向かいます」

「お願いします」

「はい、吉報をお待ちになって下さいね」

 

 一分の隙もなくスーツを着こなしたイアンナが、クーデリアと言葉を交わし足早に出掛けていく。彼女が向かうのはクリュセ代表首相の元である。今回の件でアーヴラウに繋ぎを取った彼女は、ラスカーから名代として市民の避難誘導に協力するよう命じられたのであった。いきなりの大役であったが、むしろ望むところとばかりに勢い込んでいる。

 待たせていたタクシーに乗り込んだイアンナは、混乱こそ起こっていないものの緊張感に満ちてざわつく町中の光景を見やりつつ、懐からタブレットを取り出す。

 

「さて、向こうはどうなっているかしらね。……ハロー、アヤさん。状況は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 MA対策仮設陣地。忙しく準備を整える団員たちをカメラで撮影しながら、アヤは左の頬と左肩で挟んだタブレットに向かって受け答えしていた。

 

「今鉄華団のMS部隊が準備を整えつつあるところです。後はGHの部隊が……来たようですね」

 

 ハシュマルに察知されないよう、大回りして地上をホバー移動してきたマクギリス率いる部隊が姿を現す。跪かせた機体から飛び降りるように降り立ったマクギリスは急ぎオルガたちの元に駆け寄る。

 

「すまない、遅くなった」

「いや、十分間に合ったさ。……あんたの頼み通り、ジャーナリストを連れてきた。彼女だ」

 

 オルガに促され、アヤはマクギリスに会釈する。

 

「初めましてファリド准将、アヤ・アナンダ・アレンです」

「ああ、よろしく。今回は無理を言って済まない」

「ですがよろしいのですか? MAとはGHの最高機密だと聞いていますが」

「それについてはかまうことはない。今回の戦い、細大漏らさず記録していただく。もちろんすぐに公開して貰うわけにはいかないが、必ずその働きに報いると約束しよう」

 

 マクギリスは第三者の報道関係者であるアヤに今回のことを記録して貰うよう頼み込んでいた。その思惑は分からないが、アヤにとってはまたとない機会である。一も二もなく即座に話に乗った。

 それはさておいて、彼らは早速作戦の打ち合わせを行う。

 

「予想通り奴はこの渓谷地帯を通過するようだ。渓谷の奥まった所、ここで迎え撃つ。我々の部隊は上空からレールガンにて制圧支援、私と石動、そして君たちの中から何人かで直接戦闘。残りの人員で奴を誘導し追い込む。このような感じだ」

「それでいけそうだな。うちで直接戦闘に加わらせるのは昭弘と、間に合えばシノ。そして誘導に回すミカを合流させる。頭数よりも少数精鋭で行く」

「ガンダムフレームをぶつけるか。対MA戦のセオリーと言っても良い。君たちの技量であれば問題なく対処できるだろう」

「よし、早速始めるぞ。ミカ、作戦に変更はない。ハッシュとライドをつれて先行して……」

「団長! MAに接近する機影が1……いえ、渓谷内にもう1機! どちらもGHの機体のようです!」

「なんだと!?」

 

 突然の横槍に、オルガは顔を顰める。モニターを覗き込んでレーダーの画像を確認したマクギリスは、小さく呟く。

 

「あいつか……単騎でMAに挑むつもりとでも?」

 

 画面の中で、一つの光点がMAへと一直線に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホバリングというより地面すれすれを飛行しているのはガンダムヴィダール。それを駆る仮面の男は、一人呟いた。

 

「さて、寄り道した分働いておかなければな」

 

 数々の強権執行に対し猛烈に抗議を入れてくる火星支部の対処をイオクの部下に任せ、彼は火星に降り立った。その際マクギリスの所在を確認してしまったため、矢も楯もたまらず彼らの前に姿を現してしまった。やはり自分は感情的で単細胞なのだろうと自嘲する。

 ともかく今は動き出してしまったMAを何とかするのが最優先だ。並のMSであれば一蹴されるであろうが……ヴィダールとその愛機には『切り札』がある。そもガンダムフレームとはMAと戦うために産み出された物だ、勝算はあると踏んでいた。

 

「見えた、あそこか」

 

 大地を割る亀裂――渓谷部の上面が見える。その狭間からのぼる土煙はMAの所在を示していた。

 

「上空から一撃離脱。奴の間合いへ無闇に踏み込みさえしなければ」

 

 状況を最大限に生かした戦術を持って、ヴィダールはハシュマルへと挑みかからんとする。

 しかし、渓谷の上面から一撃を食らわそうとしたところで異変が起こった。

 

「『システム』に異常!? なんだこれは!?」

 

 ハシュマルに接敵したところで警告音が鳴り響く。ガンダムヴィダールに搭載された機構、それが突然作動不良を訴えたのだ。

 

「ちぃっ!」

 

 舌打ちしてフルスラスト。強引に機体を制御し離脱しながらヴィダールは臍を噛む。

 

「これではまともに戦えん! 『外法のシステム』ではこいつと対峙する資格はないということか!」

 

 切り札が使えない。さすがにそれで戦い抜けると思うほどヴィダールは楽観的ではなかった。口惜しいがここは引くしかあるまいと、後ろ髪引かれる思いで戦場を離れる。

 

「機体からの干渉……ヤマジン主任も予想外だったろうなこれは。こうなってはやつらに任せるしかないが……」

「ヴィダール! こんなところでなにをしているのです!」

 

 撤退するヴィダールの前に現れたのは、ジュリエッタの駆るレギンレイズ。彼女はヴィダールに次いで火星に降下したが、GPSの一時的なフリーズがおこり、大幅に降下地点をずらされたのであった。幸いにしてGPSはすぐに復帰したが、MAの再起動に間に合わなかったようである。

 

「すまない、機体に異常が生じたようだ。MAとの交戦は無理だな」

「こんな時に! 欠陥品ですかその機体は!」

「返す言葉もない。クジャン公の部隊も壊滅状態だし、この状況では撤退するしかないだろう」

「何をのんきな! 私一人でもMAを仕留めてみせます!」

「あ、おい!」

 

 止める間もなく、ジュリエッタは機体を翻してMAの元に向かう。ヴィダールは舌を打った。

 

「今の戦力でまともに戦える相手ではないというのにっ!」

 

 一方ジュリエッタは、勢いのままMAに立ち向かおうとしていた。しかしその先で。

 

「MAが方向を変えた? ……イオク様か!」

 

 MAが方向を変えた渓谷の分かれ目。その先ではイオクのレギンレイズが煙を吐くレールガンを構えたまま佇んでいた。

 

「一矢報いたぞ。……我が部下たちよ、これでお前たちも浮かばれるであろうか……」

 

 一発当てただけで感慨にふけり、一筋の涙を流すイオク。己の意志を込めたその一撃が、MAに痛打を与えた物と彼は信じて疑わなかった。

 当然ながらそんなはずもなく。

 くか、とハシュマルの頭部が顎を開くかのように展開する。現れるのは帯電した砲口。そこから光の奔流が迸った。

 

「……え?」

 

 棒立ちのレギンレイズに向かって、ビームの奔流は迫り――

 

「なにをやっているのですイオク様!」

 

 あわやと言うところで飛び込んできたジュリエッタのレギンレイズが、イオクの機体を横抱きに抱えその場を離脱する。その直後にビームは渓谷を貫いていった。

 そこから少し離れた岩場で、ジュリエッタはイオクの機体を叩き付けるように降ろす。

 

「あの程度の攻撃が、MAに通用するはずがないでしょう!」

「馬鹿な、レギンレイズの最大出力だぞ!?」

 

 そんなことも分からないのかと苛立ちを覚えるジュリエッタ。MAの装甲はMSよりもさらに頑強に出来ている。条約に違反しない程度の威力に押さえられたレールガンごときでは、まともにダメージも入らないだろう。

 

「ともかくイオク様はここで大人しくしておいて下さい! MAは私が倒します!」

「! そうか、お前は私の部下の敵を取ってくれるというのだな!」

「……はあ?」

 

 何を言っているのかこの男はと、一瞬状況を忘れて呆れるジュリエッタ。イオクは構わずむせび泣きながら言う。

 

「その決意、覚悟に敬意を表する! これで部下たちも浮かばれよう!」

 

 付き合っていられない。ジュリエッタは早々に会話する努力を放棄し、機体を翻してその場から飛び立つ。

 

「頼むぞ! 部下たちの無念を晴らしてくれ!」

 

 後ろでイオクが何やら言っていたが、すでにジュリエッタに耳には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本隊から先行しハシュマルの侵攻を阻害しようとしていた三日月たちは、目の前の渓谷を貫くビームの奔流を見て一時足を止めていた。

 

「……手間が省けた、かな?」

 

 がらがらと崩れる渓谷。元々周囲を崩して道をふさごうと考えていた三日月は、呟くように言う。

 

「三日月さん、この先には農業プラントがあります」

「避難するように言われてるはずだけど……ハッシュ、一応様子を見てきて。もし逃げ遅れてる人がいて被害を受けてるようだったら救助を頼む」

「了解です!」

 

 散々しごかれた末、こういった周囲に気を配るような事も出来るようになった三日月である。このあたりに成長が窺われた。

 それはともかく、三日月は機体をビームが放たれた方向へと向けた。

 

「俺達は奴を追い立てる。ライド、援護よろしく」

「うっす!」

 

 バルバトスと獅電が大地を滑るように駆ける。ほどなくしてハシュマルとプルーマーの群れが発する土煙が目に入った。

 

「崩れてるのもお構いなしでこっちに向かうつもりか。農業プラントに気付いた?」

「こっちでもっと壁を崩します! 三日月さんは奴を!」

「ん、了解」

 

 ライドの獅電が両肩に構えたバズーカーを放つ。次々と起こる爆発が渓谷の壁面を崩していく中、バルバトスはシースメイスを構え渓谷に飛び込んだ。そして上から一撃を食らわそうとして――

 

 どぐんっ!

 

「くっ!?」

 

 心臓を鷲掴みにされたような衝撃が、三日月の体に奔る。同時に脳を書き尽くさんとするかのような情報の奔流が阿頼耶識を通して流れ込み、機体の出力が勝手に上昇していく。

 

「まずいっ!」

 

 一瞬の隙。それをついてハシュマルのテイルブレードがバルバトスを襲う。鼻血を垂らしながらも身体を襲う不都合を無理矢理ねじ伏せて、三日月はテイルブレードを弾き飛ばしその勢いを利用して渓谷の上へと後退する。

 

「三日月さん!?」

 

 泡を食ったライドの機体が傍による。三日月は油断なく渓谷の方を見ながら呟いた。

 

「奴も下がったか……進路を潰されたからか、こいつの『これ』に反応したのか」

 

 ハシュマルからはなれたせいか、バルバトスの異常な反応は収まっていく。アクシデントはあったが一応の目的は果たした。だが、新たに生じた問題は、とても見過ごすことなど出来そうにない。

 

「ライド、一旦陣地に戻る。……どうにもやっかいだな、これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陣地にて事の報告を受けた一同は、驚愕しながらもともかく事の原因を探ろうとバルバトスの調査を始める。

 その結果分かったことは。

 

「これ機体の方の制御プログラムが原因っすね。MAに接近すると自動的にリアクターの出力リミッターが外れて、機体が超過駆動モードに入るみたいで。それがどういう訳だか阿頼耶識を通じてパイロットの生命維持に干渉するらしいっす」

 

 原因を探り当てたのは整備を担当していたザック。意外な人物の意外な能力に、周囲は目を丸くする。

 

「ザック、お前結構すげえ奴だったんだな……」

 

 半ば唖然とした顔で言うユージン。ザックはへへ、とまんざらでもなさそうな顔で応えた。

 

「俺これでも学校では優秀な方だったんすよ」

「お手柄だザック。……でだ、もしかしてグシオンも」

「あ、はい。多分同じようなことが起こると思うっす。このままじゃガンダムをMAの前に出すのは危険っすね」

 

 ザックの言葉に一瞬考えるオルガ。僅かな思考を経て、彼は三日月たちの方を向く。

 

「ミカ、昭弘。『マニュアルでいけるか』?」

 

 その言葉に2人は頷いた。

 

「やれるよ、任せて」

「ああ、教官にしごかれたのは伊達じゃねえってところを見せてやる」

 

 阿頼耶識を使わずにマニュアルでMAに立ち向かえと言われても、2人に動揺の一つもない。その程度のことなど障害にならない、それだけの物を積み上げてきたという自負があるからだ。

 

「よしおやっさん、バルバトスとグシオンのマニュアル変更を頼む」

「15分、いや10分くれ! ザック、おめえにも手伝ってもらうぞ」

「へ? あ、いやおやっさんちょっと引っ張らないで……」

 

 早速作業が開始される。同時に天幕からビスケットが顔を出した。

 

「遅滞戦闘にシフトを変えたよ。……ファリド准将が矢面に立つって」

「そう言うところはGHの士官だな。大人しくしておいてくれってのは無理な相談か。……ごちゃまぜ、じゃなかった三番隊をフォローにつけてやってくれ。先鋒の頭はチャドだな?」

「無茶はしないと思うけど、地球支部の事でちょっと責任感じてるところがあるからね。釘は刺しておく」

「いざとなったら形振り構っちゃいられねえが、あんなの相手に死に急がせるわけにはいかねえ。重々自重するように言っておいてくれよ?」

「了解。幸い渓谷って言う限定された空間だ。やりようはあるさ」

「よし。10分だ。10分稼げばミカと昭弘が往く。あんな旧世代のがらくたなんぞに俺達は負けねえ! とっととカタぁつけるぞ!」

 

 オルガの発破に団員たちはおお、と気勢を上げる。

 誰も彼もが臆さない。その光景をアヤは然りと記録していた。

 これは本当に、歴史に残るかも知れない偉業に立ち会ってしまったのかも。彼女は興奮を覚えながらも機器を操る手を止めない。

 当然ながら彼女は鉄華団が敗北するなどと欠片も思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと侵攻するハシュマル。その足をさらに遅らせるため、鉄華団とヘイムダルの混成部隊は果敢に挑みかかっていた。

 

「そら、こいつはどうだよ!」

 

 先鋒の指揮を任されたチャドの駆る強襲型ランドマン・ロディを筆頭とした部隊が、正面から相手取る。チャドの機体が投げつけたナタは、本来インパクト時に威力を増すためのロケットモーターから火を吐きながら、高速回転しつつハシュマルへと迫る。

 しかしながらそれは、テイルブレードに容易く弾かれる。そしてお返しとばかりに開いた砲口から、ビームが放たれた。

 それをチャドは後退しながら回避……したりせずに、真正面から受けてしまう。

 

「熱ちィ! これがビーム兵器か。だが!」

 

 閃光の奔流がやんだ後も、ランドマン・ロディは健在。元々装甲が厚い上に、ビーム兵器はナノラミネート装甲に対し効果が薄い。よほど長時間照射されなければランドマン・ロディには有効打を与えられないだろう。

 

「話に聞いていた通りだ! こいつのビームはランドマン・ロディには通じねえ! 俺達で前を押さえる!」

 

 それを確認するためにわざと攻撃を喰らったのだ。チャドの言葉を聞いたランドマン・ロディ乗りが、次々と前に出てハシュマルに対し威嚇と牽制の射撃を浴びせる。

 それを受けるハシュマルの方は、プルーマーの群れを前面に押し出し数を持って圧倒しようとする。

 だがそれは、渓谷の上空から降り注ぐ砲撃に妨げられた。

 次々と粉砕されていくプルーマーの姿に、チャドは思わず口笛を吹いた。

 

「さっすがファリド准将の部下だ。良い仕事してくれるぜ!」

 

 滞空装備を備えたヘイムダルのMS部隊が、上空から支援射撃を行う。その攻撃に反応しハシュマルが上空に向かってビーム砲を放とうとするが、スタークグレイズの群れは即座に散開しそれを妨げる。そう言った行動の一つ一つがハシュマルの侵攻を遅らせていく。

 対峙しているものたちは、決してテイルブレードの領域に踏み込まない。それは同時にハシュマルに対して有効打を与えられないということであるが、時間を稼ぐだけなら十分対抗できる。

 もしハシュマルが感情を持っているのであれば、苛立ちという物を覚えていただろう。全力を出せない状況、しかも敵は自身の特性を知り迂闊に攻め込んでこない。精神的なプレッシャーはかなりのものとなる。

 しかしながらこの殺戮機械に感情という物はない。ただ本能(プログラム)に従い、黙々と破壊活動を繰り広げるだけだ。確実に速度を鈍らせながらも、ハシュマルはただ無機的に反撃しつつ機会を待ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦が想定されたポイントで、マクギリスたちは緊張感を漂わせ待ちかまえていた。

 ほどなくして。

 

「……来たか」

 

 爆音と振動、そしてもうもうと立ち上る土煙が敵の接近を示す。

 最初に土煙から飛び出してきたのは後退しながらマシンガンやグレネードランチャーを撃ちまくるランドマン・ロディの部隊。

 僅か数分であるが、彼らは確かにハシュマルの足を遅らせ、プルーマーの数を減らして見せた。

 

「よくやってくれた。後は我々の仕事だ」

「ああ、任せる!」

 

 渓谷の出口に向かい防衛線を張るチャドたち。それを背中で見送ってマクギリスは気を引き締め直した。

 

「さて、今の私でどれだけのことが出来るか」

 

 ゆらりと土煙から姿を現すハシュマル。それに続きプルーマーが次々と飛び出してくる。大分数を減らされ、しかも戦闘中のため再生産することは不可能のはずだが、よほどの数をため込んでいたのか、その勢いはまだまだ衰えたようには見えない。

 

「死力を尽くすしかあるまいな。石動、往くぞ」

「はっ!」

 

 どう、と大地を蹴って2機のMSが駆け出す。それに向かってプルーマーの群れが一斉に襲いかかった。

 奔る剣線。

 一つは双剣。2刀を持った青いスタークグレイズが、舞うようにプルーマーを斬り刻んでいく。

 一つは轟剣。身の丈を越えるほどの大剣を振り回すヘルムヴィーゲが、飛びかかって来るプルーマーを纏めて断ち割り吹き飛ばしていく。

 柔と剛。まるで協奏曲のような剣舞は天使の舞羽根をことごとく蹴散らしていくが。

 びゅお、と野太い風切り音が響く。

 

「ほう」

「むう」

 

 土煙の中から襲いくるテイルブレードに弾き飛ばされた。いや、受け流した2機はそれぞれ左右に散った。

 

「これは確かに見切りにくい。なるほど、本分はビーム兵器による広域殲滅なのかも知れないが」

「『それを行うために、敵を寄せ付けないこと』。開発者はよほど性格が悪いと見えますな」

 

 ハシュマルという兵器の特性を見抜いた2人は、不敵に笑みを浮かべて得物を構え直す。その眼前で、ハシュマルはずしりと両足を地面に降ろした。

 ぞう、とマクギリスの背に悪寒が走る。

 

「石動!」

「心得て!」

 

 声を掛け合った2人が脱兎のごとくその場を飛び退き散る。ほぼ同時に『ハシュマルの姿がかき消えた』。

 轟音、打撃。

 青のスタークグレイズの背後に回ったハシュマルが回し蹴りを放ち、同時にテイルブレードがヘルムヴィーゲを襲う。常識外の速度、そのからくりを、攻撃を受け流したマクギリスは見て取った。

 

「『高出力に物を言わせた慣性制御』か! 機体の機能が回復しつつあると!」

 

MA本来の能力を取り戻しつつある。時間をかけるわけにはいかなくなったと判断するマクギリスの元へとプルーマーが殺到し――

 雨霰と降り注ぐ射撃に阻害される。

 

「雑魚は任せろ! あんたらはその化け物を!」

 

 エンビ率いるごちゃまぜ隊を筆頭としたMS部隊、そして上空からヘイムダルの援護射撃がプルーマーを押し止める。それに脅威を感じたのか、ハシュマルはビーム砲を展開して充填を始める。

 

「ランドマン・ロディ以外だと直撃は拙い、各機回避を――」

「任せて」

 

 放たれる閃光の奔流。しかしそれは突如割って入った『何か』に妨げられ、割り砕かれた。

 四方に散る閃光が爆煙を上げる光景を背後に、その機体は悠々と立つ。

 焦げ臭い煙をたなびかせながら振り向かれるシースメイス。モニターアイを紅く輝かせるバルバトスの中で、三日月はいつも通りの調子で飄々と言った。

 

「お待たせ。遅れた分は働くよ」

「ああ、頼りにさせて貰う。まずは――」

「おいおい良い所じゃねえか、俺も混ぜろや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長距離用試作ブースターが切り離される。

 大気圏突入の摩擦熱で紅く染まる楔形のシールドグライダーが、蹴り飛ばされ回転しながら真っ直ぐに落下していく。

 それは再びビームを放とうとしていたハシュマルを強かに打ち据え、大きく体勢を崩した。

 地面に突き刺さるシールドグライダー。熱風が、砂埃を巻き起こす。

 

「はは、当たるモンだ。盛り上がってるかおめえら!」

 

 響き渡るは悪魔の声。

 鋼の刃がごとき4基のスラスターバインダー。左手にはエッジの効いた盾。右には大口径のショットガン。

 黒と蒼に染められたその機体は、滞空しながらモニターアイを光らせる。

 

「メビウス1、エンゲージ。進んでやり合いたい相手でもねえが、精々派手に往こうか!」

 

 計画を破壊する宿業を持った死の女神が、火星の大地に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

 あなた達は次にこう言う。「余計なことすんなジュリエッタ」と!(ドーン)

 ↑奇妙な冒険っぽく指さす筆者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

STH-18sr ラーズグリーズ

 

 

【挿絵表示】

 

※図はイメージです

 

 イオフレームと同時に開発されたエウロパフレームをベースに制作された機体。

 元々テイワズの技術によってガンダムフレームを再現するというコンセプトの元設計された高性能のフレームに、MAのリアクターを載せ大出力のスラスターユニットと新型の慣性制御機構を備えた高機動仕様機。

 そのスペックは全力を出せばパイロットを殺しかねないほどの物で、またバランスが完全に無茶苦茶なため、リミッターをかけて機体の安定性を計っている。それでも基本性能はシュヴァルベ・グレイズを上回り、レギンレイズ・ジュリアとほぼ同等である。

 その外観は図の通り、フレームアームズ『ゼルフィカール/ナイトエッジ』ほぼそのまんま。最大の差違は背中にMA用のリアクターを収め左右に冷却システムを備えたバックパックを背負ってるところ。あとカラーリングが黒と蒼を基にしたものとなっている。

 

 なおなんでゼルフィカールなのかと言うと

 1・機体のコンセプトとレイアウトがジュリアと似てる。

 2・頭部の形状がどことなく悪魔っぽい。

 という理由により採用された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 おのれ台風21号! おまえのせいで私の住処は破壊(ガチ)されてしまった!
 ということで強制的に引っ越しとなります捻れ骨子です新居探さなきゃ。

 そんなこんなでかなり更新が遅れてしまいましたが、ハシュマル戦続き。そしてお待たせしましたやっと登場ラーズグリーズ。ふふふまさかこいつが来るとは夢にも思うめえ。ということで正解はフレームアームズからの出典でございました。なお図は捻れが作ったキットの写真をイラスト風に加工した物でございます。くくくこれでキットの粗が目立たないぞ。
 とにもかくにも、役者は揃い、次回で決着……なのか。楽勝ムードが漂っているような気がしますが、果たしていかなる顛末となるのでしょうか。

 ……と、匂わせておいて何ですが、これから暫く引っ越し関係で忙しくなり更新は遅れに遅れることになると思います。申し訳ございませんが、少々お待ち下さいませ。


 なお今回ランディさん登場シーンBGMですが。
 正統派ガンダム的登場の場合、日笠 陽子で『RHYTHM DIMENSION』。
 悪魔だ、悪魔がやってきた! の場合、アークエネミーで『アイダレトレス』。
 お好きな方をどうぞ。

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