イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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15・さあて、火花散らそうか!

 

 

 

 

 

 ガエリオを伴ってマクギリスが訪れたのは、某所にあるGHの研究施設であった。

 そこに至る道筋で、マクギリスはアインを延命させる手段について説明していた。その手段とは。

 

「阿頼耶識だと!?」

「ああ、あのシステムであれば、肉体の欠損を補う事が出来るし、体が動かせなくともMSを操縦することすら可能となる」

「だがあのシステムは!」

「我々GHにとって禁忌……『ということになっている』。だがね、それは厄祭戦後に意図的に広められたものだよ。過去の技術……厄祭戦を引き起こしたそれを危険視するあまりの愚行と言っても良い」

 

 施設に着いたマクギリスは、話を続けながら迷い無く通路を進む。

 

「本来阿頼耶識は、単なるマン・マシーンインターフェイスにしか過ぎない。禁忌とされたおかげで現在は不完全な技術のみが残り、流通している。だから施術に関してあれほどの危険性があるのさ。それも施術の環境を整えてやるだけで、成功率は格段に上がるものだ」

 

 厳重にロックがかかった隔壁を開ける。そこは広大な格納庫であった。その中央に鎮座していたのは。

 

「これは……」

「EB-AX。グレイズをベースとした阿頼耶識システムの研究機。危険な禁忌の技術に対抗するためという名目で、阿頼耶識の研究は密かに続けられていた。これはその成果の一つだ」

 

 言葉も出ないガエリオに、マクギリスは鋭い視線を送りつつ言う。

 

「この機体に搭載されているシステムと接合可能であれば、アイン・ダルトンの延命を計ると同時に相応の力を与えることが出来るだろう。今のところそれ以外に彼を助ける手段はない。いや、命を繋ぐことは出来るだろうが、それだけだ」

 

 確かに、『アインを戦わせ続けるのであれば』、これしか手段はない。選択肢を突きつけマクギリス語外で問う。「どうするのか」と。

 ぎ、とガエリオは歯噛む。

 その目は迷いに揺れていた。しかし。

 彼は、選択した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GHが現れたことによって、鉄華団は寝る間も惜しんで対応に追われていた。

 

「なんであいつらすぐに襲ってこないんですかね?」

「夜戦で罠仕掛けられてると厄介だからだろ。弾もただじゃねえ、無駄撃ちはしねえだろうさ。……おっし、基本設定はできた。後はぶっつけで仕上げるか」

 

 機体のセッティングを一応終わらせ、ランディはコクピットからはい出る。彼の機体は両太股に備えられたスラスターユニットと足首そのものが交換されており、地上での高速ホバー移動が可能となっていた。しかし正式な換装ではないため、細かいアジャストは結構煩雑である。だがどうやら戦いながらそれをやるつもりらしい。

 今更この人が何やっても驚かないけどと、調整を手伝っていたヤマギは肩をすくめた。

 

「さて、こっちはよしとして大将はどうしてる?」

「今作戦を詰めてます。なんでも蒔苗さんの邸宅に仕掛けを施すとか」

「贅沢にいくねえ。となると陸戦隊をハメて、揚陸艇を強奪ってところか」

「上手くいきますかね、それ」

「いかせるのさ。多分向こうは朝駆けで仕掛けてくる。それまでにできることはやっておくさ」

 

 そう言ってランディは、後は任せると言い放って身を翻した。

 向かった先は宿舎。その会議室でオルガたち鉄華団の主要メンバーと、クーデリアが対策を練っていた。顔を合わせたときには互いに何か言いたそうなオルガとビスケットであったが、すぐさまそんなことをしている場合ではないと気を取り直す。これからどうするにしても、この場を切り抜けなければ話にもならない。故に彼らは気持ちを切り替え知恵を巡らす。

 

「……モンターク商会はこちらの要求通りに動くそうです。早速偽装した輸送船を向けるよう、手筈を整えると」

「となれば、後は首尾良く俺達が脱出するだけか。MS部隊をどれだけ引きつけられるかが勝負所だな」

「それなんだがよ大将、今回は俺にMSの指揮を預けちゃくれねえか?」

 

 姿を現した途端、そう言うランディ。今までもかなり好き勝手やってきた彼だが、指揮権をねだる事はなかった。今更なんだと訝しむオルガは問うた。

 

「構わないが……どういう風の吹き回しだ?」

「今回は多分MS同士の乱戦になる。お前さんがMWで指揮を執ってたら巻き込まれちまう可能性があるからな。悪いがちょっと遠慮しといてもらいてえ」

 

 鉄華団はほぼオルガのワンマン体制の組織だ。それは今後改善していかなければならない問題だがひとまず置いておくとして、ともかく今オルガを失ってしまうことは絶対に避けなければならない。用心はしておくに越したことはないとランディはそのように説明した。

 

「海岸線での攻防になると踏んでいたんだが、そんなに侵攻されるってのか?」

「なに、地上の奴らだけならそうなったんだろうが、連中『上から降ってくるぞ』」

「上から!?」

 

 ビスケットが驚きの声を上げる。

 

「大気圏突入用の装備をもって直接MSで現場に降下する、そう言う訓練も受けてるんだよ連中は。まず間違いなくこっちの陣のど真ん中目指して突っこんでくるさ」

「無茶すんなオイ。……確かにそりゃあ知らなかったら不意打ち喰らってたかもだ。助かるランディさん」

「礼はここを切り抜けてからだ。このあいだの戦闘から見て連中の錬度は高ェ。決して油断ならない相手だと肝に命じとけ」

 

 これまでにない強敵だと、他ならぬランディに言われて固唾を呑む面々。激闘の予感が背筋を凍らせるようだった。

 そんな中でも変わらぬものがいる。

 

「どっちみちなんとかしなきゃならないんでしょ? だったら今までと同じだ」

 

 いつもの調子で言い放つのは三日月。彼にとっては例えGH全軍を目の前にしても同じ事なのだろう。出来るか出来ないかは悩まない。ただやらねばならないのであればやる。どこまでも彼はぶれない。

 そんな三日月の様子に目を丸くするオルガたち。ややあってオルガがぷっとおかしそうに噴き出した。

 

「やっぱすげえな、ミカ。そう言ってのけるのはお前だけだよ」

「そうかな? ランディも言いそうだけど」

 

 自然体な三日月の様子に、緊張した空気が和らぐ。たいしたもんだとランディは内心思う。

 鉄華団の頭を張っているのはオルガだが、その原動力はもしかしたらこの小柄な少年なのかも知れない。頼られるのでも支えるのでもなく、しっかりと立って背中から押す存在。あるいは結構な大物になるかもだと、そんなことを考えた。

 ともかく方向性は決まった。不安は多くあれど、少年達は微かな光明を頼りに突き進む。

 何とかなるかも知れない。いや、『何とかする』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。LCS中継用のドローンが無数に舞い、戦いは始まろうとしている。

 装備を手にして次々と仲間が配置に付こうとする中、三日月は少しだけ悩んでいた。

 

「う~ん……これ一本じゃ心細いな」

 

 軌道上の戦闘で、今までの主要武装であるメイスは失われた。以前なら回収できたのだが、流石にそんな余裕はなかった。残されたのは太刀一本。

 ランディと違い別に三日月は銃器が苦手というわけではない。MSに有効なダメージを効率的に与えられるのはMSでぶん殴るのが一番効率がよいから鈍器を愛用していたと言うだけの話である。太刀もそれなりに使えるようになってきたという自覚はあるが、やはり使い慣れたものの方が安心感があるし、太刀一本だけというのはどうにも心許ない気がする。

 これがあと数本予備の太刀があれば変わったのであろうが、生憎今持っている一本のみ。折れるとは思わないけれど不安に思ってしまう。

 と、彷徨っていた視線が解放されたコンテナの端に留まった。

 

「なんだ、いいのあるじゃん」

 

 コンテナの端に転がっていた 『それ』を手に取る。角張った無骨な、いかにも鈍器でございと言う代物。【レンチメイス】と言う名のそれを2、3度素振りして、三日月は頷いた。

 

「ん、いけるな」

 

 太刀を背中にマウントし、バルバトスはレンチメイスを担いで所定の位置に着いた。

 浜辺から見える海上に、数隻の戦艦の姿がある。島の表側に3。裏に2。基本的には表から責め立てると見せかけて裏から上陸部隊を送り込む体制に見える。しかしながら事はそう単純なものではない。

 

「降伏勧告に対する反応、ありません。まもなく作戦開始時刻となります」

「想定通りか。さて、ここから先もそうなればいいが……期待はできんな」

 

 海上に展開する艦隊の指揮を執っているのは【コーリス・ステンジャ】三佐。以前火星にてCGSの襲撃に参加し、撃破された【オーリス・ステンジャ】の兄である。

  地球外縁軌道統制統合艦隊地上部隊に配属された当時は尊大な性格であったが、彼もまたカルタの影響を受け自身を鑑み改めた人物だ。この作戦に対し油断を見せていない。

 

「愚弟とは言え弟の仇。もののついでに討たせて貰おうか。……全艦武器使用自由(ウェポンズフリー)。飽和砲撃で敵の目をこちらに引きつけろ」

 

 まず始まったのは表側に陣取る艦からの砲撃。砲弾とミサイルが雨霰と海岸線に向かって叩き込まれる。狙いもなにもあったものではない、しかし密度の濃い攻撃はまるで海岸線そのものを削っていくかのようだ。

 

「早々当たるもんじゃないが、それはこちらもか。……昭弘、そっから狙えるか?」

 

 弾雨の中回避行動を取るでもなく構えていたランディは、小高い丘の上に陣取るグシオンの昭弘にダメ元で問うた。その問いに「む、やってみる」と答え、昭弘は両手に装備する滑空砲を構えさせた。

 撃つ。しかしその砲撃はあっけなく外れる。

 

「なんか、感覚が違うな」

「バカ、なにやってんの」

「地上じゃ重力と大気の影響を大きく受ける。そのあたりの修正をしないと当たらないよ」

 

 射撃の感覚に戸惑う昭弘に、ラフタとアジーがそう声をかけた。彼の様子を見た三日月は、ふむと頷いて昭弘にアドバイスする。

 

「さっきの感覚覚えてるだろ? それに合わせて撃てばいいんだよ」

「む、こうか?」

 

 勘で補正。だいたいこんなもんかと当たりをつけトリガーを引く。

 今度は見事に命中した。

 

「あれま。当たっちまったよ」

「勘だけで照準補正をやるなんてね」

「……やっぱ阿頼耶識ってずっこい」

 

 阿頼耶識付けてない組は感心したり拗ねたりだ。

 割りとのんきな鉄華団だが、当てられた方はそうはいかない。

 

「左舷前方、格納ブロックに被弾! 浸水、止められません!」

「く、あの位置から当ててくるとは、やはり一筋縄ではいかんか。予定より早いがMS部隊を出す! その後に総員退艦、指揮権を僚艦リヒトに移行。同時に残りの艦は後退し敵の予想射程範囲から離れろ。急げよ!」

 

 戦闘継続が不可能なほどのダメージをいきなり与えられ、泡を食って退艦を進めつつ後退する。その代わりとでも言うかのように、次々とMSを出してきた。

 

「は、長々と留まるほど間抜けじゃねえな。……ようし諸君、巣から鴨どもが飛び出してきたぞ。丁重にお出迎えしようじゃないか。各員予定通りで敵を島の中に引きずり込む。数が多いから囲まれないよう注意しろ」

 

 応だの了解だのそれぞれの返事が返ってくる。そして本格的な戦闘の火蓋が切られた。

 海面上を滑るようにホバリングで高速移動してくるグレイズの群れに対し、まずは300㎜の洗礼が襲いかかった。大口径で精密射撃が出来るものかと高を括っていたパイロット達の一部が、まず犠牲になる。

 一度コツを掴んだ昭弘の射撃は正確無比であった。脚に、肩に。いくつかの命中弾がグレイズを海面に叩き付ける。ホバリングでの高速移動、おまけに海上というシチュエーションがさらに拙かった。ただでさえ安定感の危うい高速移動でバランスを崩し転倒すれば相応の損傷を与える。海面でのそれは地上と遜色ないし、そのまま海中へと没してしまう。地上であればダメージの具合にもよるが立て直しは可能だろう。だが一回海中に没してしまえば再起はかなり難しく、場合によってはそのまま海の藻屑だ。

 

「なんという技量か! 総員、全力で回避行動を取れ! 避けねば当てられるぞ!」

 

 泡を食ってMS部隊は散開する。これにより、上陸までの時間を少しだけ稼ぐことが出来た。

 

「お手柄だ昭弘。……さてこれで連中はバラけて上陸してくる。昭弘はそのまま上から支援。俺と三日月で前に出て連中を引っかき回す。残りの三人は撃ち漏らしの相手だ。適当に『苦戦してみせろ』よ? あまり用心されたら話にならん」

「面倒な注文だねえ」

「一気に片づけたらいいのに」

 

 不満げなアジーとラフタに、ランディは苦笑で返す。

 

「俺に関しては用心しまくってるだろうが、お前さんらはノーマークだ。出来るだけ戦力を低く見積もっておいて貰った方が向こうを『引っかけやすい』。まあやつらを引き込むまでは堪えてくれや」

「ま、今の指揮はあんただ、やってやるよ」

「後でなんか奢ってよね!」

 

 安月給に無茶を言うと、ランディは忍び笑う。まあ彼女らなら問題はなかろう、ああ見えてタービンズで鳴らした凄腕だ。

 

「さてさて、ほんじゃ往くとしますかね」

 

 悪魔のごとき男に率いられ、無法者達は戦場に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壊滅的被害。控えめに言ってそう表現するしかない惨状であった。

 まず最初にグシオンからの砲火をくぐり抜け上陸が叶った集団は、シュヴァルベ・グレイズとバルバトスの2機による強襲を受ける。鬼神のごとき2機に正しく一蹴と言った感じで2個小隊規模があっという間に蹴散らされた。が、その間に部隊の残りは迂回し散り散りに上陸を試みる。

 こちらは散開した漏影2機と流星号にそれぞれ迎え撃たれた。ランディや三日月のように化け物じみた戦闘力を持つわけでもない3機は、海岸沿いの樹林に身を潜めるようにして細かく移動を繰り返しつつ迎撃してきた。さほどのプレッシャーもなく、火力も並となれば、与しやすいと見られても仕方がないだろう。事実数機がかりで襲いかかれば、揃って反撃しつつも後退を始める。

 上陸し足を踏み入れた森林地帯。そこには地獄が待ちかまえていた。

 なんのことはない。MSの全高に匹敵する高さの樹木が密生する森の中に、これでもかとトラップの類が仕掛けられていただけである。本来であればそれは警戒してしかるべきことなのだが、ランディが前に出てきたことで逆に警戒心が薄れた。つまり『最大戦力をもって水際で殲滅戦を挑む』と見たわけだ。それにモンターク商会との接触を知らない攻め手から見れば、鉄華団の物資はさほど余裕がないように見える。夜陰に紛れての局地的なものならともかく、森林地帯全域に渡って大規模な罠を展開する余裕はないと踏んでいたのだ。ゆえにランディが前に出たと、そう誤解を誘われたのである。

 実際補給があったとはいえ、派手にMSを撃破できるような罠を用意するのは時間的にも難しかった。しかし『動きを阻害する程度の罠』であれば、そう物資も労力も必要としない。

 まあ簡単に言えば、『草を結んで脚を引っかける程度の罠』が、『無数に』配置されているだけのことだ。

 この場合、それが致命傷となった。

 

「しまっ!」

「貰ったよ!」

 

 派手に転倒した機体のコクピットを、アジーの漏影が叩き潰す。

 

「と、投網!? こんなもので!」

「隙ありってね!」

 

 手足に絡みついた投網が動きを封じた一瞬、ラフタが胸部を強かに蹴りつける。

 

「あらよっと!」

「なっ!?」

「ぐわっ!」

 

 流星号が引いたロープの先に仕掛けられた罠に引っかかって、数機のグレイズが巻き込まれて転倒する。

 逃げ回ると見せかけて3機は敵を森の中で引っかき回し、少しずつ打撃を与えていく。この期に及んで全力を見せないことが、相手を術中に誘い込んだ。逃げ回り罠に頼らなければ戦えない弱兵だと、心のどこかにそういった驕りが生じたのだ。そのような相手に好きにやられていると、兵達から冷静さが失われようとしている。

 指揮権を移した艦でコーリスが現状を把握したときには、ほぼ手遅れの状態であった。

 

「1個大隊の半数が喰われただと!? 地上戦でこれかあの化け物は!」

 

 いや、と激昂しそうな感情を抑え、コーリスは考えを巡らす。

 

「地上ではリボン付きの悪魔と言えど、その機動力は落ちる。であればこれは奴一人の戦果ではない……?」

 

 そこではっと思いつく。

 

「鉄華団! 新規の民兵組織と見せかけて、『奴の口利きで腕利きの傭兵を集めたか』! ならば想定以上の手練れが揃っているはず! 先の狙撃で気付くべきであった!」

 

 勘違いである。まあアジーとラフタは確かに手練れだし、三日月以下鉄華団の少年達も相応に鍛え上げられていた。しかしながら下地があったとはいえ数ヶ月で一流の域に手が届くパイロットを育て上げたなどと想像するより、そう考えた方が納得は出来るので無理もない。

 

「残ったものたちに伝えろ! 無理に交戦せず時間稼ぎに徹しろと! カルタ司令が参られるまで奴らを足止めするのだ!」

 

 そう指示を出しながらも、壊滅は免れないかも知れぬとコーリスは覚悟を決める。

 

(すまぬがカルタ様のために、奴らを少しでも疲弊させ、死んでくれ)

 

 お前達の犠牲は無駄にはしないと、非情の判断を下す。

 ほどなく彼の予感は、現実のものとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の1機を屠って幅広剣を一振り。そうしながら周囲を警戒しつつ、ランディは指示を出していく。

 

「おっし、今のうちに補給できるモンはしておけ。昭弘、弾は残ってるか?」

「いや、もうそんなに残ってねえ」

「なら長物を破棄して適当な得物を持っていけ。そろそろ来るぞ」

 

 言いつつ機体を上向かせる。頭部が展開し、グレイズ系の特徴的なセンサーユニットが顔を出した。ぎゅいいいと音を立てて回転する球状のユニットが、天空にきらめく反射光を確認する。

 

「来たか。……あと20秒! 急げよ!」

 

 彼らが今展開しているのは、島の中央にある飛行場。中型までの航空機が発着するに十分なスペースがあり、MS部隊が戦闘出来るくらいの余裕があった。そこでランディと鉄華団の少年達が駆る『4機』のMSは即座に戦闘態勢を整え、降り来る敵を待ちかまえる。天に記された点は即座にその大きさを増し、やがて。

 

「サーフボード!?」

「大気圏突入用のシールドグライダーだ。あれで盾としちゃ優秀だし、ぶつけられたらぺしゃんこだぜ?」

 

 高速で飛来する敵の姿に目を丸くするシノをたしなめるランディ。そうこうしている間に相手から銃撃が浴びせられた。

 

「うおっとお!」

「あの速度から当てにくるか! 散開しながら回避だ! ぬかるなよ!」

 

 スラスターを吹かし地面を滑るように回避行動を取る4機。そのままばらける彼らを追って弾雨は降り注ぎ、その直後、次々とグライダーが地面を穿つ。

 

「我等地球外縁軌道統制統合艦隊!」

『面壁九年! 堅牢堅固!』

「治安を乱さんとする無法者どもよ! 我等が鉄の裁きを受けよ!」

 

 咆吼しながら銃を乱射しつつ、次々と着地するグレイズリッターの部隊。その数16機。

 1個中隊と1小隊。ランディを相手取るにはあまりにも心細い数であるが、着地しながら銃撃しまくる技量は相当のものだ。回避するランディ達が隙を突くことが出来ない所からそれは伺える――

 

「頭はこいつか」

 

 迷い無く三日月が行った。銃撃をすり抜け地を這うようにバルバトスを奔らせ、最速で中央のカルタ機に向かって駆ける。

 

「貴様! カルタ様を――」

「構うな! イッヒ隊はランディール・マーカスを! 残りは他の機体を押さえろ! こいつは私が相手をする!」

 

 制止しようとする部下に構わず、駆け出して真っ向からバルバトスを相手取るカルタ機。駆ける最中に手に持つアサルトライフルを破棄し、腰からバトルブレードを引き抜く。そのままの勢いで2機は激しく激突し――

 カルタのグレイズリッターが全力で振り抜かれたレンチメイスに弾き飛ばされる。が。

 

「!? なんだ?」

 

 妙な手応えを感じた三日月は眉を顰める。妙、と言うか手応えが『軽い』のだ。

 

「まともに入っていない……のか?」

 

 対するカルタは危なげなく着地し、剣を構え直す。

 

「あの得物であの鋭い打ち込みか。奴が引き連れているのは伊達ではないわね」

 

 打ち込みの衝撃に逆らわず、打撃に合わせて『飛んだ』のだ。これによりダメージはほぼ受けていない。が、それで楽勝と思える相手でもなかった。

 再び激突する2機。今度はカルタが仕掛け三日月が受ける。早く鋭い打ち込みは容易く防がれるが、さらに斬り返しで2撃、3撃と連続して打ち込みが入る。三日月は器用にレンチメイスを盾のごとく使ってその全てを凌いだ。

 

「こいつ、速い!」

「良く凌ぐ! 真っ先に仕掛けてきただけはある!」

 

 一瞬の隙を突いて振り抜かれるレンチメイスを、カルタの機体は後退して避ける。そして互いに油断なく相手を見据え、じりじりと間合いと機会を計りだした。

 目の前の相手は、強敵だ。それが相対する二人の共通した見解であった。

 そして昭弘とシノの元にも敵は殺到する。

 

「んじゃ、気張るとしますかね!」

「……来い!」

 

 アサルトライフルとマチェットを備えた流星号が、大型のアックスと専用のシールドを構えたグシオンが、それぞれ迫り来る敵に相対する。

 ほぼ1個中隊が二手に分かれ、数機がかりで襲いかかる。対する二人の対応は、正反対であった。

 

「だーれがまともに相手するかってーの!」

 

 左右にスラロームしながら後退する流星号。実は地味だがかなり高度なテクニックである。後方を見ずにホバリングしながらそれが出来るのは、さほど多くはない。

 

「やる。が、技術だけでしのげると思うな!」

 

 追いすがるグレイズリッターは流星号を包囲しようとその後を追う。その内の1機が足止めしようと流星号に打ちかかり――

 

「はいそこォ!」

 

 突然『足下の地面が爆発した』。

 

「なっ!?」

 

 バランスを失った機体にマチェットが叩き込まれる。まともに喰らった機体は吹っ飛び地面に転がるが、最早それには目もくれず流星号は次に獲物に狙いを定める。

 

「くっ、センサー反応式の地雷か! 各機足下に注意を払え。地雷が埋設されているのなら必ず違和感がある!」

 

 敵も然る者、対処が速い。ホバリングでの高速移動を捨て、センサーで地面を確認しながらの移動に切り替える。それで速度が落ちることは百も承知。しかしながら器用な立ち回りで地雷を避けつつ流星号に追いすがっていく。

 

「流石に無策で突っこんではきやしねえか。ならこんなんはどうよ!」

 

 コンソールに追加されたリモートコントローラーが操作されると、空港周囲の森林からミサイルが放たれる。

 

「うおっ!?」

「まだこのような仕掛けが!?」

 

 泡を食って回避行動を取る敵に対し、シノは流星号にて襲いかかる。

 

「オラオラ! まだこんなモンじゃすまさねえぞ!」

 

 戦場になることを前提として、空港の周辺にもトラップが仕掛けてある。その操作はシノに預けられていた。そういった目端が利くとランディに判断されたからである。その判断は間違っていなかったようだ。

 一方昭弘のグシオンはと言うと。

 

「おおっ!」

「ぐうっ! なんてパワーだ!」

 

 獅子奮迅、とはまさにこのことだろう。巨大な斧を振り回し、数で勝る相手に対し果敢に挑む。機体の出力に物を言わせた、型も何もない強引な攻め。だが猪だと侮ることは出来ない。バトルアックスの一撃は、まともに食らえば剣が折れかねない勢いであるし、シールドもただの防御手段ではなく時折鈍器のように振るわれる。一撃一撃が鋭く、重い。まともに打ち合うことを許さぬほどに。

 

「これがガンダムフレーム。だがな!」

 

 2機のグレイズリッターが、正面からグシオンに挑みかかる。それに対してアックスとシールドを振るうグシオンであったが。

 が、と言う耳障りな金属音が響く。

 

「む?」

「止めたっ!」

「今だ!」

 

 バトルブレードが大きく欠け機体の間接が軋み火花を放つ。しかしそれでもグシオンの動きは僅かながらも阻まれる。その隙を突いて、背後から2機のグレイズリッターが襲いかかった。

 

「これもお役目! 覚悟!」

「なん、のお!」

 

 グシオンの背中に突き出た、一対のブースターポッド……らしきものから何かが飛び出して打ち込まれたブレードを弾き飛ばす。それは。

 

「腕!? 『4本腕』だと!?」

 

 グレイズの腕をそのまま流用したサブアーム。阿頼耶識搭載機ならではの有機的な動きで、シールドの裏に備えられていたショートライフルを取り背面に向かって牽制射撃を行う。慌てて距離を取ったMS部隊の面々は、動揺を隠せない。

 

「あれが阿頼耶識の力か。まるで阿修羅だ」

 

 その姿、その気迫。確かにそう称されても違和感がない。一瞬気圧されたグレイズリッターの群れに、グシオンは一歩踏み出す。

 

「悪いがそう簡単に倒されてやるわけにゃあいかないんでな。もう少し付き合ってもらおうか!」

 

 こうして少年達がそれぞれ敵と相対している中、ランディもまた激戦に身を投じていた。

 

「乱舞の陣! 電光石火のごとく参る!」

『了解!』

 

 ランディに挑むのは1個小隊。統制統合艦隊の中でもえり抜きの『決死隊』だ。一斉にではなく1機ずつ斬りかかってくる。

 しかしながらその速度が並ではない。基本的には一撃離脱を繰り返されているだけだが、それが間髪入れず四方八方から襲いかかってくるのだ。まかり間違って何か一つタイミングが狂えば味方を斬りかねないほどの猛攻であった。

 ランディの超絶とすら言える反応速度に対する答え。彼らが見出したのは綱の上を走るようなぎりぎりのラインで成り立つ連携だ。ランディはそれに、いつもの幅広剣とマチェットの二刀流で立ち向かう。

 激しく火花が散る中、それでもランディは余裕の表情を崩さない。

 

「は、良い感じで手下鍛えてんじゃねえか麿眉」

 

 正直ここまで鍛え上げているとは思わなかったが、カルタの完璧主義者な部分を考えればなるほど分かる。僅かでも勝率を上げるため知恵を絞り鍛練を積んだのがこの結果なのだろう。ここまで骨のあるものたちが今のGHにどれだけいるやら。

 惜しいとすら思う。が、勝負はまた別な話だ。

 

「んじゃちょっと、本気でいくぜ」

 

 激しく火花が散る戦場。その上を横切る影があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無線封鎖解除! 第三段階に移行します!」

「降下開始! 着地と同時に展開、急げよ!」

「ハッチ、開けろ!」

 

 レーダーに囚われぬよう低空で飛来した大型輸送機から、歩兵と走行車、MWの混成地上部隊が飛び降りていく。パラシュートではなくグライダーやジェットパック、ロケットモーターなどを用いて着地までの速度を稼ぐ強襲降下。増援の陸戦隊であった。

 蒔苗の屋敷の裏手に強引に降下し、海岸から上陸する部隊とで挟み撃ちにする。確実に蒔苗とクーデリアの身柄を押さえるためにカルタが用意した策だ。

 これまでにない規模の陸戦隊で鉄華団を圧倒する。言ってみればそれだけのことだがこと歩兵同士の戦いともなれば数の優位は絶対に近い。その上屋敷の周辺を囲むように隊を展開すれば逃げ場も潰せる。そう目論んでのことだ。

 しかしながらどうにも様子がおかしい。海岸と裏手の森林に部隊が展開しているというのは分かっているだろうに、何の抵抗もないどころか人っ子一人の気配もなかった。

 

「逃げた? だが逃げ場などないだろうに」

「空港は現在カルタ様率いるMS部隊が戦闘をしております。あちらに身を潜めているとは考えにくいのですが」

 

 ふむ、と陸戦隊を率いる司令官は考える。この様子だと屋敷を放棄しどこかへ身を隠した可能性が高い。しかしどこに潜んでいるのか分からないのであれば、部隊を分散するのは悪手だ。ゲリラ戦を仕掛けられて各個撃破などとなったら目も当てられない。それに気配がないからと言って屋敷に潜んでいる可能性がないわけではない。

 暫く考えた後、司令官は判断を下した。

 

「……海岸側の歩兵部隊とMWを1個中隊突入させろ。あるいは屋敷内に抜け道の類があるのかも知れん。徹底的に探れ」

「は!」

 

 手を出して様子を見る。あるいは突入させたものたちを犠牲にすることになるかも知れないが、このまま手をこまねいているわけにも行かない。こちらが動けば何らかの反応を引きずり出せると、そう考えてのことだ。

 果たして突入した部隊は、がらんとした屋敷の様子に空振りかと落胆していたようだが。

 どん、と言う破裂音。そして火の手が上がる。屋敷に仕掛けられた爆薬が一斉に起爆したのだ。炎を纏って吹き飛ばされる歩兵。後退するが焼け落ちた桟橋と共に水中に没するMW。業火に包まれる屋敷は一瞬にして地獄絵図と化した。

 そして。

 再びの破裂音。そして瞬時に広がる炎。それが生じたのは、『屋敷の周囲の森林』。つまり現在『大規模の陸戦隊が展開している森のまっただ中』である。

 

「ばかな!? やつら正気か!?」

 

 確かにこれなら一網打尽にできるであろうが、南方の湿気った樹林とは言えこれほどの規模の火災が広がれば島全体に被害が及ぶ可能性がある。下手をすれば自分たちも巻き込みかねない暴挙だ。

 あまりのことに訓練を受けた兵達がパニックを起こす。それでも何とか押さえつけて動ける者だけでも海岸線に脱出してと司令官は動こうとしたが、それよりも先に次なる手が打たれた。

 

「よっしゃあ! 行くぞお前ら!」

 

 屋敷から少し離れた海岸沿いの岩場。そこから暗い色のシートが剥がされ次々と鉄華団のMWと少年達が飛び出してくる。上陸予定地点を予測し強襲できるよう潜んでいたのだ。悟られぬようライトも使えない暗がりの中苦労した甲斐があったぜと、MWの上で指揮を執りつつオルガはほくそ笑む。

 

「鴨撃ちだ! 片っ端から仕留めるぞ!」

 

 予想外の場所からの襲撃に、まともに反応も出来ないで打ち倒されていくGHの兵達。燃え盛る森の中から逃げ出してくる兵達も、パニックが収まりきれず統率が取れていないため、組織だった反撃は出来なかった。

 かてて加えて。

 

「あんたらの相手はこっちだ!」

「じゃんじゃんかかってらっしゃい!」

 

 陸戦隊を支援しようとした海上の艦に、アジーとラフタの漏影が襲いかかる。このために彼女らは離れていたのだ。

 海上と屋敷周辺。虚を突いた襲撃はGH陸戦部隊を削り取っていく。

 形勢は、一気に傾いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音を立ててグレイズリッターが地に伏せる。バルバトスと激しく競り合いながら状況を確認しているカルタは、舌を打った。

 

「半数が喰われたか。覚悟はしていたけれど」

 

 ランディ以外の戦力を低く見積もりすぎた。だがまだ引くわけにはいかない。

 

「陸戦隊が目的を果たすまでは!」

 

 今回自分たちは『時間稼ぎのための囮』だ。ランディを倒せるなどと非現実的なことは考えない。ただ奴の目的を打ち崩すことが出来ればそれが勝利だ。そのために彼女は命を賭ける覚悟で挑んだのだった。

 しかしそれは叶わない。

 

「か、カルタ様! 陸戦隊が壊滅! 海上の艦も襲撃を受け、戦闘の継続は困難です!」

 

 緊急の通信が、カルタの意志を一瞬逸らす。

 

「そこ」

 

 ばがんとレンチメイスの先端が開く。内側に並ぶチェーンソーじみたクラッシャーが放つ耳障りな音が、カルタを現実に引き戻した。

 ブレードが挟み込まれ、砕かれる。が、咄嗟にそれを手放して後退するカルタ機は無傷。下がりながら地面に突き刺さっていた味方機のブレードを回収し、構え直す。

 その間にも。

 

「足下がお留守ですよ、ってなあ!」

 

 僅かな隙を突いて射出されたシュヴァルベ・グレイズのワイヤーアンカー。それは一撃打ち込み離脱しようとしたグレイズリッターの足下を掬う。

 

「しまっ!」

 

 転倒する機体。咄嗟の判断で巻き込まれじと飛び退く残りの機体に損傷はない。が、連係攻撃は完全に中断せざるを得ない。そして。

 

「まず一つ!」

 

 起きあがろうとしたグレイズリッターのコクピットは、無慈悲に潰される。これで絶妙なところで保たれていた均衡が完全に崩れた。

 乾坤一擲の作戦は、失敗に終わったと判断せざるを得ない。しかし、ここまで来て下がれるのか。玉砕してでも一矢報いるべきではないのかと、プライドと負けん気がこの場を逃げ出すという選択を否定する。

 その迷いは粉砕された。

 

「おおおおおお!」

「カルタ様! ここはおさがり下さい!」

 

 ぼろぼろのグレイズリッター数機が、ランディの機体に挑みかかる。シノや昭弘の相手をしていたものたちだ。無茶苦茶とも言える動きでブレードを振り回し、死に物狂いで打ち込み続けながら、彼らは口々に訴える。

 

「この場から離脱を! お急ぎ下さい!」

「殿は我等が! カルタ様は生き残りの兵を!」

「お前達! しかし!」

「貴女様がご無事であれば、地球外縁軌道統制統合艦隊は持ち直せます!」

「ここは恥を忍んで、後の挽回を!」

 

 命を賭けてカルタを逃がそうとする男達。言葉に詰まるカルタであったが、そうしている間にも状況は動く。ランディと戦っていた小隊の残りがカルタ機を護るように位置し、バルバトスを牽制する。先の戦闘で疲弊し肩で息をしているような有り様だが、彼らの目は全く闘志を欠いていない。

 

「カルタ司令、ご決断を」

 

 小隊長に促され、カルタは唇を噛む。

 一瞬の迷い。そして。

 

「……撤退だ! 状況を破棄しこの場を離脱する!」

 

 悲鳴のように吠え宣言する。それに応え周囲の機体はカルタ機を護りながらスモーク弾と信号弾を放ち後退を開始する。

 同時に前触れもなく雨が降り出す。南国特有のスコールだ。それに打たれながら、カルタ達は島を離脱した。

 無様だ。俯くカルタは唇を噛む。レーダー上では部下の反応が一つ、また一つと消えていく。

 グレイズリッターの頭部を雨が流れ落ちる。それはまるで、泣けぬ主の代わりに涙しているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「なんだ、いいのあるじゃん」

 

 ゴルディ●ンハンマー。

 

「回答権が佐藤さんに移ります」

「だれだ今の」

 

 なんか色々混ざりすぎ。

 

 

 

 

 

 

 しーゆーあげいん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 バルバトスが来ないデュナメス2機も3機もいらんのじゃあああ!
 課金割りに合わねえしようどうしてくれよう捻れ骨子です。

 はいミレニアム島死闘編でしたが、あっさりと何のドラマもなくフラグをへし折る男ランディ。酷すぎるぞ物語的に。
 そんなわけでさくっとビスケット生き残っちゃいました。カルタ様のヘイト稼ぎもなくなってファンはにっこり……か? その分地球外縁軌道統制統合艦隊はボッコボコ。折角格好良くなってもやられ役は変わらずです。これもみんなランディール・マーカスってやつのせいなんだ。マジだから質が悪い。

 そんなこんなで今回はこんな所ですが、次回は帰省とかする関係上更新が遅くなると思います。気長に待って頂けたらありがたく思います。
 では暑い最中、皆様体にお気を付けて。

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