イントルード・デイモン   作:捻れ骨子

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1・タイミングが良いのか悪いのか

 

 

 CGS(クリュセ・ガード・セキュリティ)。火星の一民間警備会社であるその組織は、現在大幅な転換期を迎えていた。

 火星独立運動の中心人物である【クーデリア・藍那・バーンスタイン】を護衛する依頼。それを受けた直後に行われた治安維持組織【ギャラルホルン】火星支部による襲撃。混乱の中社長である【マルバ・アーケイ】は社内の金品を持って逃走し、同じく逃走したが戦闘が一段落したため戻ってきた実働部隊は、配下である非正規の少年兵達――通称【参番組】に反旗を翻される。

 実働部隊の大人達のほとんどを放逐、あるいは『排除』しCGSの実権を握った参番組。その彼らがこれからどうしようかと頭を付き合わせているところから物語は始まる。

 

「オルガさーん! 客です!」

「あ? こんな時になんだ?」

 

 ドアをノックし年少組の少年が告げる。参番組のリーダーで現在暫定的にCGSの代表を務める【オルガ・イツカ】は怪訝そうな表情を見せた。

 現在CGSはオルガの元再編成を始めたばかりで、客を迎える予定などあるはずもない。であれば。

 

「壱番組(実働部隊)か、マルバのおっさん目当ての奴か。……適当にあしらうってわけにもいかねえな」

「あん? 追い返したらいいだろ?」

 

 今後の方策をオルガと相談していた参番組の中心人物が一人、【ユージン・セブンスターク】はそう言うが、オルガは「いや」と首を振る。

 

「もしかしたら仕事関係かも知れねえ。流石に受けるってわけにはいかないだろうが、コネの端っこくらいは掴めるかもだ。……で、どういう相手だ」

 

 席を立って問うオルガの言葉に、少年は困ったような顔でこう告げる。

 

「それが……なんか『ガンダムフレームを買いに来た』、とか言ってます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はァ!? 社長(マルバ)が逃げたァ!?」

 

 怪しみ疑念を持つ少年達の視線が刺さる中、その男は素っ頓狂な声を上げた。

 それほど長くない髪を適度に逆立てた、二十代後半から三十代前半ぐらいの男。軍用ジャンパーにタンクトップ、カーゴパンツにブーツというその出で立ちはいかにも傭兵といった風情だが、オルガは何か違和感を覚えている。

 

(壱番組の連中とは、どっか違うなこの男)

 

「くっそあのおっさん」とか言いながらあたまをぼりぼり掻く男には緊張感の欠片もない。流石に銃器こそ向けられていないが半ば殺気じみた視線の集中砲火を浴びていながら、だ。子供だと思って舐めているのかそれとも……。

 

「それでアンタ、ウチにあるガンダムフレームを買いに来たって話だが……」

 

「ん? ああ、お前さんが代表かい。とんずらぶっこいた社長とそういう話をしていてな。具体的なところはまだだったんだが襲撃を受けたって話を聞いたんで、慌てて飛んできたって寸法さ」

 

 少年(オルガ)が交渉相手と言うことを気にした風もなく、男は応対している。どうにも読めないなと思いながら、オルガはちらりと視線を男の背後に向けた。

 さりげなく男にいつでも襲いかかれる位置に陣取っているのは、オルガの相棒である少年兵【三日月・オーガス】。戦闘センスの塊と言っても良い少年であり、先日は急ごしらえで仕上げたCGS所有のガンダムフレームMS(モビルスーツ)【バルバトス】を駆り、ギャラルホルンMS部隊を退けた人物だ。

 その彼が『最大限の警戒』を男に対し見せている。その事実に、三日月に全幅の信頼を寄せているオルガは内心肝を冷やす思いであった。

 

(ただモンじゃねえってことだよな。さてどうするかね)

 

 ギャラルホルンに目を付けられている以上、現在CGSの最大戦力であるバルバトスを手放すわけにはいかない。が、この男が強引に持ち出そうとした場合止められるのかどうか。正直その自信が持てなかった。

 しかしオルガの不安を余所に、男はあっけなく諦める姿勢を見せる。

 

「……しゃあねえ。予備機が欲しかったところだが、今回は縁がなかったと諦めるさ」

 

 溜息を吐きながらそう言う男を、オルガ以下参番組の少年達は目を丸くして見る。

 

「あ、その……いいのか?」

「社長が逃げてお前さんらが所有権握っちまった以上、アレはお前さんらのモンだ。どこのどいつが相手だか知らねえが、喧嘩にゃ要る得物だろう。餓鬼からオモチャぶんどるほど大人げねえ真似する気はねえよ」

 

 呆然とするオルガ。肩をすくめる目の前の男、あまりにも自分たちの知る大人とは違いすぎた。茶化すような言い方だが子供だからと言って舐めているわけではない。その気になればこの男、人手を雇うなりなんなりして強引にバルバトスを手中に収めることだって出来たはずだ。しかしこの様子では演技でもなく本気でバルバトスを諦めたように見える。

 自分たちに対して筋を通す大人。予想もしなかった存在に面食らってしまうのは仕方のない事だったかも知れない。

 少年達が懸念したような混乱もなく、男との話は終わりを迎えようとしていたが……この世界軸では妙な縁が繋がってしまったようである。

 再度の襲撃。それが男をこの場につなぎ止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そちらの代表と、一対一の決闘を申し込む!」

 

 左手に持つシールドに赤い布を巻き付けた一機のギャラルホルン量産型MS【グレイズ】を駆る男、【クランク・ゼント】二尉が宣う。

 決闘。古き時代に揉め事を解決するため行われたというそれを、少年達に対し申し込んだ彼の要求は、クーデリアの身柄と先日撃破されCGSに回収されたグレイズの返還であった。

 それに対し渦中にあるクーデリアは投降を望んだがオルガに止められた。彼が決闘を受けようとしたその時、話はねじ曲がる。

 

「ギャラホが相手たあな……しゃあねえ、おい兄さん」

 

 声をかけてきたのは件の男。こんな時になんだと鋭い眼差しを向けるオルガに向かって、彼はこう言い放った。

 

「時間を稼いでやる。その間にやりあうでも逃げ出すでも、準備しな」

 

 言うだけ言うと、止める間もなく男は傍らの戦車もどき――MW(モビルワーカー)によじ登り、ハッチを開いて通信機器をいじってマイクを引きずり出した。

 

「あー、あー、そこのグレイズ、聞こえるか」

 

 目を丸くする少年達を余所に、男はグレイズに向かって語りかける。

 

「ゼント二尉と言ったな? 貴官の行動は、明らかにギャラルホルンの規律に反しているが、それを理解した上でのことか?」

「……無論だ。処罰も非難も覚悟の上で、私はここに参った」

 

 その返事を受けて、男の口元が意地悪く歪む。

 

「ほう、つまり貴官は法と秩序の守護者たるギャラルホルンの一員でありながら、場末の無法者のような真似を是とするのだな?」

「ぐっ!?」

 

 男の言葉にクランクは呻いた。そして男の『口撃』が怒濤のごとく放たれていく。

 

「そもそも貴官の要求するバーンスタイン嬢の身柄だが、一体どういった理屈で要求している。彼女に何かの罪があるのであれば、正式に逮捕状を出して身柄を拘束すればすむだけのこと。わざわざMSを持ち出してまで襲撃する必要性はどこにもないはずだが?」

「うっ!」

「さらに言えば先程の要求に対し、貴官からはCGS側に差し出す利益が呈示されていない。これは決闘の作法にすら反している。その程度のことすら頭になかったとか言うのではなかろうな?」

「ぬうっ!」

「まさかとは思うが彼女の身柄と引き替えにCGSを見逃す、などと言い出すなよ? 言っちゃなんだがたかだか二尉ごときにそんなことを決定する権限はないだろうが」

「あぐっ!」

「第一民間組織に襲撃をかけるなんて言う暴走を止められなかった貴官程度が、これから先も火星支部を押さえられるとはとても思えないのだがどうよ」

「むはっ!」

「まあもっとも、これで貴官が勝ったとしても帰れば独断専行の咎で良くて謹慎。その間に口封じとかでCGSが壊滅してもなーんも出来ないわな。口約束守れないこと確実じゃねえか」

「ほうっ!」

「これで逆上して襲いかかったりなんかしたら、恥の上塗りどころじゃ済まないんじゃねえか? ま、目的は果たせるから良いかも知れん。プライドもクソもないご立派な法と秩序の守護者のやりかただ。すげえな。ん?」

「はうァっ!」

 

 なにかがグレイズのコクピットにざくざく刺さっているような気がする。オルガを筆頭とする少年達とクーデリアの後頭部に、一筋の汗が流れた。

 

「え、えげつねえ。……いやそうじゃなかった。ミカ、頼めるか?」

「いいけど受けるの? アレそのまま倒れそうな雰囲気なんだけど」

 

 三日月の言葉に、オルガは溜息を吐く。

 

「さすがになんか気の毒になってきた。あのまま言葉責めされるより決闘でぶったおしてやったほうがマシなんじゃねえかなあ」

 

 こうして、オルガたちは決闘を受けることと相成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャラルホルン火星支部、実動部隊、クランク・ゼント!」

「あ? ええっと……CGS参番組、三日月・オーガス」

 

 グレイズとバルバトスが対峙し互いが名乗りを上げ、決闘が始まる。クランクが敗北したときの条件は、己が機体を譲渡すること。さすがに最初は渋ったが、男の「あ? 貴官他になんか差し出すものあんの?」という至極もっともで無慈悲な横槍に、同意せざるを得なかった形だ。

 重厚な鋼と鋼が唸りを上げ、巨大なメイスとマチェットが激しくぶつかり合い火花を散らす。

 一見互角。しかし戦いを見守るオルガは、グレイズの動きが精彩を欠いていることに気付いていた。

 恐らくは先程の会話により、相手のパイロットは僅かながらも戦意を削がれているのだろう。これを計算してやったのだとすれば、とんだ狸だ。

 

(この男、何者だ?)

 

 さりげなく横目で見やるオルガの視線を知ってか知らずか、戦いを見物しながら男はのんきな口調で言う。

 

「今時決闘って発想が出てくんのはギャラホくらいだが……まさか本気でやる奴がまだ残ってたたあな」

 

 口元は笑っているようだが、戦場を見守るその目つきは鋭い。オルガは探るように問うた。

 

「……詳しいな?」

「そりゃそうさ、何しろ『前の職場』だ」

 

 あっさりと応える男の言葉に、オルガ以下参番組一同はぎょっとした表情を見せる。気にした風もなく男は続けた。

 

「上司に楯突いてね、首になったのさ。まあ物理的に命(くび)狙われたが、上手いこと逃げ出して傭兵稼業に転職ってわけよ」

 

 なにをやった。いや本当に何をやった。ものすごく気になるが、深く突っこむとなんだかろくでもないような気がして、少年達は押し黙るしかない。

 まあそれはおいておきましょうと、いち早く気を取り直したクーデリアが、オルガに問う。

 

「これからどうするのです? あなた達、CGSは……」

「いや、もうCGSじゃねえ」

 

 彼女の問いにオルガは応える。同時に斬り飛ばされたメイスの柄が宙に舞い少年達のすぐ傍に勢いよく突き刺さるが、誰も戦き下がったりはしない。衝撃の風に煽られながらもオルガは戦いから、いや自分たちの先に待ち受けるものから目を反らさず、強い眼差しで告げた。

 

「【鉄華団】。そう、俺たちは鉄華団だ」

「てっか……鉄の火、ということですか?」

「違うな、鉄の華。決して枯れず、散ることのない鉄の華さ」

 

 思いを込めたオルガの言葉に、男が「ほう」と声を上げる。

 

「なかなか詩的だな。いい名じゃねえか」

 

 確かにと、クーデリアも思う。粗野に見えるこの少年が口にするには不似合いとも思えるが、しかしそれは存外にしっくりと馴染む。

 この少年達なら、もしかしたら。希望に似た何かを胸に、クーデリアはオルガに向き直った。

 

「では改めて鉄華団に依頼致します。私を、クーデリア・藍那・バーンスタインを地球に連れて行ってはもらえないでしょうか?」

 

 彼女の言葉に少し驚くオルガであったが、すぐさまその表情を不敵な笑みに変えた。

 

「変わらぬご愛顧、誠にありがとうございます」

 

 そう答え、気取った一礼。芝居がかったその背後で、バルバトスがメイスの頭をグレイズの胸部に叩き付け、先端のパイルバンカーを作動。コクピットを貫きそのまま地面に押し倒す。

 完膚無きまでの勝利に、少年達が歓声を上げる。そんな中、男が「くく」と笑い声を上げた。

 嫌味のない楽しげな笑い。ひとしきり笑った後、男はオルガに声をかける。

 

「気に入った。……おい兄さん、いや大将。俺を雇わないか? ギャラホでそれなりにならしたパイロットにMS一機。格安にしとくぜ?」

 

 オルガは眉を寄せる。これからのことを考えると、確かに戦力はあればあるほどいい。だがこの男を信用して良いのかどうか。それに何より……。

 

「そういや、アンタの名を聞いていなかったな」

 

 その言葉に、男はにかりと笑みを浮かべた。

 

「ランディール。【ランディール・マーカス】だ。【リボン付きの悪魔】と呼ぶ奴もいるがね」

 

 イレギュラーは、物語にねじ込まれた。

 

 

 

 

 

 つづくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※今回のえぬじい

 

「ギャラルホルン火星支部、実動部隊、クランク・ゼント」

「え~っと、睦月型駆逐艦十番艦、三日月です」

「少年兵どころか可愛いおにゃのこ出てきた!?」

 

 特に意味のない艦これとのコラボがクランクを襲う!

 

 

 

 

 

 本当に終われ。

 

 

 

 

 




 ドーモ、ハジメマシテドクシャノミナ=サン。捻れ骨子デス。ドゾヨロシク。
 鉄血見てるうちに久々に二次創作製造の欲望がセルメダルと化し気が付けばこんなものが生まれていました。新たなる駄作の誕生だよはぴばすでい。
 そういやマルバってバルバトスうっぱらうつもりだったんだよなってところから妄想が膨らんだ、原作にオリキャラぶっこんでみるよくある話。煽りを受けてクランクさんが酷い目に。交換条件決められちゃったので三日月さんに遺言聞かすイベントもなしで即死。ショギョムッジョ。戦闘シーンがないのは書き手の技量不足にござる誠にすまぬ。
 なおオリキャラの人のかつてのコールサインはメビウス1だったかも知れず。アリアンロッド詰んだかコレ。

 万が一気が向いたら続くかもしれません。




 ……と言ってる間に連載になってしまいました。

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