new record   作:朱月望

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決戦まであと―――2日

「なぜですか兄よ! 私の祭壇の方が先に鷲が降り立ったのに」

「しかし、私の祭壇の方が舞い降りた鷲の数が多いであろう。つまり、より多くの神がお選びになったということだ」

 双子は新たな国をどこに造るかについて口論を続け、次第に険悪な雰囲気となっていた。

「しかし……」

「いや、議論の余地はない。私が選んだ地で建国を行う」

 議論はここで終了し、建国が始まった。

 ある日、国境戦を兼ねた城壁の堀を双子の弟が飛び越えた。

「兄よ! 貴方の造る国はこんなものなのですか? 誰でも飛び越えることができる守りでどうやって臣民を護れるのか!」

 弟は兄を挑発した。

「弟よ、お前の挑戦を受け取ろう。さあ、剣を持て」

 そして二人は決闘を行った。

 

 

 

「…………」

 慎二は目を覚ます。

「おい、ランサー……ちっ」

 部屋を見渡すとロムルスの姿が見えない。また、単独行動をしているのだろう。

「まぁ、いいや。今日はこないだの続きを読もう」

 慎二はマイルームを出て屋上へ向かう。

 

 新しい王国を作り上げるために、双子はどのような土地が相応しいか議論を交わした。ロムスはアウェンティヌスの丘に城壁を築くべきだと進言したが、ロムルスはパラティノの丘が適切であると考えていた。

 二人は神の啓示で決めようと話し合い、二つの丘にそれぞれ祭壇を用意した。先にロムスの祭壇には神の僕である鷲が6羽舞い降りたが、少し後にロームルスの祭壇には12羽の鷲が舞い降りた。

 ロムルスはより多い鷹が使わされた事から啓示は自らに下されたと考え、パラティノ丘に街の建設を始めた。兵士達は丘の周りに城壁と国境線を兼ねた溝を掘り、住居や農地を切り開いていった。

 だがロムスは数は少なくとも、先に鷲が舞い降りた自らの方こそ神の啓示を受けたのだと譲らなかった。

 いつしかロムルスはロムスと口論を重ねる様になり、兄弟仲は非常に悪くなっていった。

 そしてある時、ロムスは兄に対する侮辱として国境の堀を飛び越えて見せた。弟の挑発にロムルスは激怒し、ロムスと決闘を行う事になった。

 共に武勇で知られる兄弟であったがこの戦いではロムルスの方が勝り、ロムスは命を落とした。

 ロムスの没後、ロムルスは都市を完成させるとその街をローマと名付た。

 国造りにあたって、ロムルスはレギオー、元老院を作り、 周辺にある他のラテン人都市から次々と移住者を迎え入れ、7つの丘に新しい居住区を築いた。

 そしてこれらを囲む城壁が建設し、今日のローマの基礎を生み出した。

 ロムルスはローマを順調に栄えさせていたが、

 ある日、ロムルスは豪雨の中にその姿を隠した。

 誰かに暗殺されたのではないかと噂になったが、元老院のユリウスがロムルスは神として天に戻ったのだと民衆に伝えた。

 これにより、ロムルスはローマの建国の王となり神祖となった。

 

「はぁ? ワケわかんないね」

 慎二は本を閉じ、不満の声を上げる。

「なんで王様になったのにその地位を捨てるのさ。どうせ暗殺されたんでしょ。それなのに神格化とか綺麗事すぎて、吐き気がするんですけど」

 慎二は本をそのままにして屋上を出る。

 

「あら、どうしたの浮かない顔して岸波君にやられたとか?」

 廊下を歩いていると凛に出会った。

「遠坂か。ふん、あんな素人に僕が負けるわけないだろ! あいつならせこせこ雑魚エネミーを狩ってるよ」

「ふぅん。慎二は行かないの?」

「はぁ? あんな無駄なことして何になるのさ。マスターのレベルは上がるかもしれないけど、サーヴァントには意味ないだろ」

「あきれた。いい、確かにエネミーを倒してもサーヴァントには影響はない。でもねサーヴァントに魔力を与えることで、サーヴァントは強くなる。そのためにマスターも強くなくっちゃいけないの」

「サーヴァントに魔力を?」

「そう。魔術師はね、足りないものは余所から持ってくるの。この場合、サーヴァント自体は成長しないけどマスターが強くなることでより多くの魔力を回し、サーヴァントを今以上に強くできるの」

「足りないものは余所から持ってくる……でも、僕に足りないものなんてないから関係ないね!」

「……相変わらずね、あなた。ここまで教え甲斐がないと怒りを通り越して呆れるわ。じゃあね」

 凛は慎二の前から去ろうとする。

「なぁ、遠坂」

「なに? もう一度、喋れなんて言わないでよね」

 凛は呆れたような声で返事する。

「……夢見るか?」

「夢? そんなもの見るわけないでしょ、常識で考えたら。それとも間桐くんはそんな事も分からないの?」

 電脳の世界では夢は見ない。情報そのものである霊子ダイブでは情報整理のための夢は見れないのである。

「そんなのは僕も知ってるよ! でも、全く身に覚えのない夢を見るんだ……毎日」

「ふぅん。それはきっと、あなたより強い想いがある誰かの夢なんじゃない?」

「誰かの夢?」

「夢と言うよりは人生、生涯って言った方がいいかも。その記憶があなたに流れ込んでるんじゃないかしら」

「誰なんだよ!」

「そんなこと私は解らないわ……でも、面白い噂なら知ってるわ」

「?」

「昔あった聖杯戦争ではね……サーヴァントの夢を見たそうよ」

「それ、ほんとか!?」

「噂だって言ってるじゃない。でも、もしかしたらって思って」

「…………」

 慎二は考えるように下を向く。

「そろそろ時間か……ふふ、じゃあね慎二。また、会えたら会いましょう」

 凛はアリーナに向かう。

「……ああ、もう!」

 残された慎二はモヤモヤした気持ちのままマイルームへ戻る。

 

 

 つづく


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