new record   作:朱月望

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決戦開幕

「今までありがとう」

「どうしたのだ、いきなり」

 エッツェルは門司に向き合う。

「私は旅に出ようと思う。

 お前のお陰で、世界の見方が分かったからな。

 お前に会えなくなるのは、少し、寂しいが……」

 エッツェルの顔は未だによく見えないが悲しそうにしているのが分かる。

「二度と会えないこともあるまい! おぬしの旅先で小生が修行してるかもしれん、我が神の行く先がおぬしの滞在地であるかもしれん。

 なんにせよエッツェルと小生には縁があったのだ。きっとまた逢える」

「そうか」

 よかった、と彼女は笑った。

 

 

 

「来たか小僧!

 聖戦たるこの地に赴いてきた勇気だけは賞賛に値する!」

 闘技場(コロッセオ)に先に来ていた門司が、エレベーターから降りた白野に声をかける。

「しかし哀れなことよ。

 神からの天命を持つ小生とさえ当たらなければその寿命、少しは永らえたかも知れぬというのに……」

 門司は白野の憐みの表情が見えないのか、そのまま続ける。

「が、しかし!

 だからといって、生に対する執着を捨てることはまかり通らぬ!

 なぜならば! 最後まで希望を抱いて死した魂は必ず輪廻転生の輪に……」

「黙れ」

 ヒートアップし続ける門司をアルテラが鎮める。

「その暑苦しい男を黙らしたことを感謝するぞ、セイバー……いや、フンヌの大王アッティラよ」

「私を知るか」

「ヒントこそ少なかったが、貴様は有名すぎるからな」

 大陸を蹂躙した文明の破壊者、軍神マルスの剣、今までにあった情報を照らし合わせ、その真名に行き着いた。

「だが、我が真名はアルテラだ、アッティラではない」

「む?」

「アルテラ……そう呼べと言った」

「なぜだ?」

「……可愛い響きでは……ない、から……」

「ッ!! 機械的でつまらぬ奴だと思うていたが、なかなか()いヤツではないか!

 胸がキュンと来た。奏者よ、これが“萌え”というやつか!」

「う、うるさい。戦闘を開始する」

 アルテラは頬を紅潮させながら剣を執る。

「ふ、早くも弱点を見つけたの。戦いが終わったら、からかってやろう」

 以前とは異なり、余裕を取り戻したネロも剣を構える。

 そうして戦闘が開始された。

 

「貴様の文明を見せるがいい」

 先に剣を執ったアルテラは仕掛けることもなく、ネロに言い放つ。

「敵の言うことに従うのは気に食わんが、

 まあ、初めからそのつもりだったしの」

 ネロは左手を掲げる。

「我が才を見よ……万雷の喝采を聞け……座して称えるがよい! 黄金の劇場を!!」

 闘技場(コロッセオ)が赤と金を基調とした劇場―――招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)を顕現させる。

「『gain_str』! 『move_speed』!」

 黄金劇場の展開と同時に、白野は筋力と移動速度を上昇させるコードキャストをネロにかける。

「はぁ!」

 さらに皇帝特権で身体能力を底上げする。

「いくぞッ!!」

「ッ!?」

 コードキャスト、皇帝特権によるネロの身体強化。そして黄金劇場によるネロの強化とアルテラの弱体化により、ネロはアルテラを上回る。

「いいぞ。その調子だ!!」

 ネロと白野の作戦は極めてシンプル。宝具には一定のタメがある以上、その隙を与えぬよう連撃を加える。限界まで強化し、圧倒し続けることだった。

 黄金劇場は長時間発動できないため、短期決戦が余儀なくされるが、そうでもしない限りアルテラは倒せない。

「……ッ」

 現状、その作戦は順調である。アルテラとネロの力量は逆転しており、更に白野とネロの言葉を重ねなくとも伝わるコミュニケーションにより、ネロ単体の実力以上の力が出ている。

 このままいくとネロが勝利を収めるだろう。

「軍神の力、我が手にあり」

 アルテラの身体に刻まれた紋様が輝きだす。

「星の声が……私を、満たす」

「なっ!?」

 先程よりも速く、そして重い斬撃がネロを襲う。

 ネロと白野は誤解していた。初戦でアルテラが使っていなかったのは宝具だけではなかったのだ。

 星の紋章――身体能力を格段に上げるEXランクのスキルの存在を予想していなかった。

「くうッ!」

 アルテラは剣を払い、ネロは防ぐものの体勢を崩す。

「少し、期待したが……」

 軍神の剣に三条の光が溢れる。

「しまった!?」

「なにか、防ぐ手段を……」

 ネロと白野が考える間もなく、破壊の力が満ちる。

 それは『神の懲罰』、『神の鞭』と畏怖された武勇と恐怖そのもの。

 数多の文明がこの力により滅亡した。

「滅びろローマ皇帝……貴様の文明はここで終わりだ……」

 その破壊(おわり)を告げる剣の切っ先がネロに向けられる。

「『軍神の剣(フォトン・レイ)』!」

 三色の極光が辺りを包む。

 人類の文明(こんせき)を跡形もなく消し去る無慈悲な一撃。

 その破壊の光が、黄金劇場の装飾を呑み込みながらネロと白野に向かう。

「ダメか……」

 ネロは防御を、白野はアイテムで回復をしたが、光を目を前にしてムダだと悟る。

 例え三度、落陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)で復活しても、あの光の前では復活している間に何度でもその肉体を破壊するだろう。

 ネロはあまりの絶望に剣を落としそうになる。

「(もう、なに弱気になってんのさ)」

 声が聴こえる。

「ブーディカ?」

「(あんたにはまだ護らなくちゃいけないモノがあるんだろ? なら、諦めたらダメ!

 大丈夫。(あたし)も手伝うから)」

 離しかけていた剣を力強く握り直す。

「余は、まだ、諦めぬ!」

 軍神の剣(フォトン・レイ)が当たる直前、八つの車輪がネロの前に現れる。

「!!?」

 突然現れた車輪(たて)にアルテラは目を(みは)る。

 一つ、二つと車輪がガラスが割れるように砕ける。

「何だ、それは」

 三つ、四つ、ネロを護らんと車輪は廻る。

「貴様の文明にそんなものは、なかったはずだ」

 五つ、六つ、次第に光の威力は弱まる。

「ああ、これは余だけの力ではない」

 最後の八つ目が破壊されたところで、三色の光は消滅した。

「余にもよく分からないのだが、これは貴様にも破壊できないモノなのだろう」

 そして硬直したアルテラに『童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)』を叩き込む。

「そうか……私にも破壊できないモノが、あったのだな」

 霊核が破壊されたアルテラの身体が次第に消えていく。

「よかった……」

 敗れたというのにアルテラは喜びの言葉を紡ぐ。

 そして安らかな顔で完全に消滅した。

 

「終わったね」

 決戦の緊張感から解き放たれた白野はネロに語りかける。

「うむ。手強い相手だった」

 アルテラのことを思い返しながらネロは呟く。

「しかし、最後にあのような顔をするとは……もっと早く知っておれば愛でたものを」

「はは……あれ?」

 そこで白野は気付く。

「ガトーはどうしたんだ?」

 あの(やかま)しい男が黙って消えるはずがない、と白野は言う。

「さてな。サーヴァントが消えたのだ。マスターも消えただろう」

 ネロは興味なさ気に言う。

「ただ……」

 と、ネロは続ける。

「黙って消える男でないなら、どこか余の知らぬ場所で(やかま)しくしておるのかもしれんな」

「…………」

「ふっ、戯言よな」

 そう言ってネロは闘技場(コロッセオ)を後にする。

 

 

 




エピローグ




「ふがっ! こ、ここは!?」
 門司が目を覚ますと、そこは別世界だった。
 見渡してみると、黄金の摩天楼の上に立っており、眼下には輝く海を思わせる文明の光が灯っていた。
 どこまでも続く黄金の都市。
 空を行き交う霊子のバイパス。
 自分はいま、光あふれる未知の世界にいることを理解する。
「はて、小生は確か闘技場で神の威光を知らしめていたはず……」
 門司は決戦の行方がどうなったのか、思い出せない。
「はっ!! 我が神は何処(いずこ)へ!?
 ついでにここはどこ!?」
「ここはSE.RA.PHとは別の霊子虚構世界。別の天体(ほし)の霊子ネットワークだ」
「その声はエッツェルか。しかし、なぜ小生はここに?」
「……貴様の言う神がムーンセルからここに移ったのだ」
「なんと!? つまり小生は神を追ってここまで来たのだな!」
「そうだ」
「こうしてはおれん! 我が神を探しに……
 そういえばエッツェルは何故ここに?」
「貴様が言っただろ、色々な文明を見ろと」
「ああ、ではここでお別れ……」
「だが、一人では少し不安……なのだ。
 だから、一緒に居てほしい……ダメか?」
「ふむ、よかろう! 神を探す道程と、良き文明を求める旅路、そう違うものでもあるまい!
 新たな宗教に触れるのもまた修行! 神ともはぐれてしまったが、二度あることは三度ある。直ぐに見つかるだろう!」
「では行こう。馬は用意してある。私の後ろに乗れ、ガトー」
 どこからか馬を出し、鞍にまたがる。
「おう! よろしく頼む、エッツェル」
 門司も彼女の後ろに乗る。
「(あれ? そういえば小生、名乗った覚えがないような……)」
 門司は疑問に思ったが、馬が(そら)を駆けると、そんなこと忘れてしまう。



 こうして、自らが定める神を欲した求道者と、良き文明(こわれぬモノ)を探す少女は共に旅立つ。
 その旅路(ゆめ)の果てに何が待ち受けているかは、神にも分からない――


 おわり

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