new record   作:朱月望

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決戦まであと―――2日

「ほほう。賑やかになったものよ」

 団子だけではなく、様々なモノを模したモニュメントが乱立している。

「興味深い話を聞かせてもらったからな」

 前日に影が興味を持ちそうな食べ物、衣服、玩具などを見せた。

 とりわけ、料理に興味を持っているようだ。試しに自分で料理してはどうかと門司が訊ねてみたことがあるが、『私が手にしたモノは私の意思と反するモノになる』と作ることはしない。だが、それでも新たに知るモノには好き嫌いあれど興味を示している。

 ただ、門司が一番伝えたい独自の宗教は歯牙にもかからなかった。

「今日はこんなものを持ってきた」

 腕一杯に雑貨を抱える。どういう理屈か解らないが、所持品をこの世界に持ち込めるらしい。なので門司は寝る前に購買で色々なものを買っていた。

「それでおぬしはこの中で……」

「なんだ?」

 門司は何かに気が付いたように、ハッと固まる。

「そういえば、聞くのを忘れておったのだが……おぬしの名前を聞いていなかった」

 門司は頭を掻きながら、照れくさく言う。

「いつまでも『おぬし』とか『おまえ』とか呼びにくいからな。

 教えてはくれないか?」

「…………」

 影は困ったように俯く。

「いや、いやならいいのだ……」

「……ッル」

「む?」

「エッツェル……今はそう呼べ」

 俯きながら言う。

「この名は……悪くない……から」

 消え入りそうな声で影――エッツェルはそう言った。

 

 

 

「どうやらこの勝負、余たちの勝利だな」

 アリーナの入り口すぐのところで、四人が向き合う中、ネロが狩猟数勝負(ハンティング)の勝利を宣言する。

 実際、門司たちにも勝利の目がないこともないのだが、それにはこのアリーナにいるエネミーをネロたちに撃破される前に全てを倒さなければならない。

「下がれ」

 アルテラはただ一言で門司を後ろに下がらせる

「?」

 ネロは自分たちに挑んでくるのかと身構えたが、アルテラはアリーナを見据えている。

「目標、破壊する」

 機械的に呟く。

 アルテラの虚ろな瞳がアリーナの全てを捉える。

「命は壊さない。その文明を粉砕する――」

 剣を構えると、三条の光が辺りを塗り潰す。

 そして

「『軍神の剣(フォトン・レイ)』!」

 世界は光に包まれる。

 

「あ、ありえん!?」

 ネロは驚きの声を上げる。

 それもそうだろう。アルテラがアリーナに向けて放った一撃は

「エネミーごとアリーナを消し去った、だと!?」

 アリーナを何もない更地に変えていたのだから。

「これはこれは、また面倒なことを」

 四人の後ろから言峰が現れる。

「あまりNPC(わたしたち)に仕事を増やさないで貰いたいものだが」

「目標は全て撃破した。私の勝利で間違いないな」

「まったく、マスター共々(ともども)人の言うことを聞かない……

 ああ、君たちの勝ちだ。とりあえずはおめでとう、と言っておこう」

 言峰は疲れたように言う。

「では後日、相手の情報を渡そう」

 しかし、今度は悦に入った顔で言った――白野たちを見ながら。

 

「それにしてもあの宝具……」

 門司とアルテラが去ったあと、ネロは腕を組み考える。

「『軍神の剣』と言っておったか」

 先程の光景を思い出し、ネロは苦々しく呟く。

「果たして、あの宝具を防ぐことが出来るのか……」

「大丈夫だよ、セイバー」

 ネロが弱気な声をあげるが、対して白野は心配の色を見せずに言う。

「向こうは俺たちにない力を持ってるかもしれない。でも、俺たちは向こうには無い力があるだろ」

 その言葉にネロはハンティング一日目を思い出す。

「それもそうだな。らしくなく弱気になっておった」

 ネロは改めて立ち上がる。

「それでは奏者よ。鍛練に付き合ってくれるな」

「ああ!」

「青春の一ページ、といったところかな」

「「!!?」」

 突然後ろから言峰が声をかける。

「いつから、そこにいたのだ!?」

「元々、立ち去ってはいなかったのだがね」

 気配は消していたが、と厭らしく笑う。

「それで、なんの用だ」

「ふふふ、アリーナがこの様では鍛練もままならないだろうと思ってね。

 特別に新しいアリーナを用意した。君たちの望みも汲んでエネミーのレベルも上げておいた」

「いやに親切だな。らしくもない」

「審判役として公平性を保っているだけに過ぎないのだが、嫌われたものだ」

 言峰は傷ついた様子もなく、そう言った。

「でも、なんでエネミーのレベルも上げたの?」

 白野は言峰の言葉に引っ掛かりを覚え、疑問を口にする。

「NPCとしては逸脱行為かもしれんがね……」

 言峰はあまり気乗りがしないようだが、観念して言う。

「私としては是非とも君たちに勝ち進んでもらいたい。そう思ったまでだ」

 言峰がどういった意図でその言葉をかけたのかは分からない。

 ただ、AIは嘘を()かないことだけは確かだ。

 

 

 

 つづく


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