new record   作:朱月望

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決戦まであと―――3日

「なんと!? ローマと敵対するですと!!?」

 デュトットリジズ族長は(あたし)の発言に目を剥いて驚く。

「ええ、これ以上ヤツらの好き勝手にさせる訳にはいきませんから」

 (あたし)はローマに苦しめられている周辺国の族長を集め、ローマに蜂起することを持ち掛けた。

「勝算はあるのですか? あらゆる土地を侵略し、各国に覇権を唱えるローマの歴戦の兵隊を前に、我ら辺境の民族が太刀打ち出来ると?」

 トリノヴァンテス族長が訊ねる。

「勝算などありません」

「なに?」

 トリノヴァンテス族長が不快そうに眉を顰める。

「だが、勝算がないなどという言い訳で泣き寝入りする理由もない!」

 (あたし)は言葉を続ける。

「デュトットリジズ族長、貴方の娘はローマに連れ去らわれて辱めを受けて、挙句の果てに殺された」

「うっ!?」

「トリノヴァンテス族長、貴方の先代族長はローマに逆らったとして民の目前で惨たらしく処刑され、晒し者になった」

「…………」

「ここにいる他の者も、ローマから大事なモノを奪われた筈だ」

「「「「…………」」」」

 この場に集まった族長たちは皆、辛い記憶を思い出して目を伏せる。

「このままだといずれローマに全てを奪われる。そうなる前に戦おう!」

 (あたし)は剣を鞘から抜き、それを掲げて、心に誓った言葉を口にする。

(あたし)たちの家族を護るために、これ以上なにも奪われないために!」

 そして、憎きローマに復讐するために――

 

 

 

「お兄ちゃん、見つけた!」

 廊下でありすが白野に声をかける。

「ありすちゃん、どうかしたの?」」

「うん。ママから、あたらしいウサギの穴(アリーナ)で待ってるってつたえるようにって」

「そうか……セイバーに言っておくよ」

「それでね、えっと……」

「ん?」

「お兄ちゃん、あたしとともだちになってくれる?」

「いいけど、何かあったの?」

「さいきんママがいっしょに遊んでくれなくて、お兄ちゃんたちも『てき』だから近づくなって言われてるの」

「…………」

「でも、お兄ちゃんとは『てき』じゃなくて『ともだち』がいいなって思ったの」

「俺はありすの友達だよ」

「じゃあ、またありすと遊んでくれる?」

「うん。遊ぼう」

「やったー。やくそくだよ、お兄ちゃん!」

 ありすは笑って、ブーディカのいるアリーナへ向かう。

 

「やっと来たか。待ちくたびれたよ」

 二つ目のアリーナでネロとブーディカが向かい合う。

「さあ、始めようか!」

 ブーディカは剣を抜き、ネロに迫る。

「話すこともままならぬか」

 ネロも剣を構え、それに応じる。

「話にならなかったのはローマ(おまえ)の方だろ! 旦那(あのひと)亡き後、王族は私と娘達しかいなかったのに、女王は認められないと国を奪ったじゃないか!」

「あの時は、ああするしか……」

ローマの事情(そんなこと)は聞いていない!」

 ブーディカの重い斬撃がネロを押し出す。

「お前たちの罪を復讐の炎で焼き払う」

 ブーディカは剣を高く上げる。

「『復讐に燃える女神の車輪(チャリオット・オブ・アンドラスタ)』!」

 ブーディカが叫ぶと、彼女の周囲に炎を纏った八つの車輪が出現する。

「行けーーーッ!」

 八つの車輪のうち、四つの車輪はブーディカの周りを旋回し、残りの車輪はネロに向かって回転する。

「仕方あるまい」

 初めて見る彼女の宝具に戸惑うものの、ネロは回避を選択する。

 一つ、二つと紙一重に車輪を躱す。だが、三つ目の車輪は前の車輪の真後ろに位置し、ネロの死角となっていた。

「ッ!?」

 気付いた時には既に遅く、回避は不可能。

 咄嗟に剣でこれを防ぐ。

 衝撃で後ろに吹き飛ばされるが、態勢を崩すことなく車輪を弾いた。

「触れたな」

 ブーディカがそう呟くとネロは異変に気付く。

「これは!?」

 ネロの剣――原初の火(アエストゥス エストゥス)が燃えていた。

 この剣はネロの意思で炎を纏うことが出来るのだが、それとは違う。

 光を呑むような漆黒の炎が原初の火を侵食していたのだ。

「ッ……このッ!」

 漆黒の炎がネロの手に移ろうとしたため、思わず剣を手放す。

「それは恩讐の炎。私が憎んだモノを燃やし尽くす……我が憎悪の火が消えない限り、その炎は消えはしない」

 床に落ちた剣は漆黒の炎に焼かれ、消滅する。

「もう身を守る手段はなくなった」

 ブーディカは剣をネロに向ける。

「死ねーーーッ!」

 残りの四つの車輪がネロに進行する。

「やめてーーーッ!」

 ありすはブーディカに飛び掛かる。

 突然のことにブーディカは宝具の操作を誤り、ネロに向かっていた恩讐の車輪が逸れる。 

「もうやめようよ」

 ありすは悲痛な顔でブーディカに抱き着く。

「どう……して……」

 そしてSE.RA.PHからの介入で戦闘が終了する。

「どうして私の邪魔をするのッ!」

「うっく…ひっく…ママこわいよ」

「ッ!……帰るよ、ありす」

 ブーディカはありすの手を取り、引き摺るようにしてアリーナを後にする。

 

 

 

 つづく

 




※オリジナル宝具詳細

復讐に燃える女神の車輪(チャリオット・オブ・アンドラスタ)
 ランク:A
 種別:対軍宝具
 レンジ:2~50
 最大補足:100
 本来はブリタニア守護を象徴した宝具である『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』がアヴェンジャーとして変質した際に、保有スキルである『女神への誓い』と『アンドラスタの加護』が組み込まれた宝具。
 反乱によりローマの支配する都市を焼き払った逸話から、ローマに縁のある人物・物体に対して威力が上昇する。
 また、ローマに縁のあるものが車輪に触れると、憎悪の分だけ持続する漆黒の炎を燃え移らせる。

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