「あらあなた、また畑仕事を手伝っているの?」
「仕方ないだろ、オレの国民が困ってるんだから」
彼は汗を拭いながら、爽やかに答える。
「もーまたそんなこと言って、まだ執務が残っているのに……」
「いや~すまんすまん。次は気をつけるよ」
そんなこと言って、その癖を直すつもりはないのだろう。
彼はいつも城を抜け出しては畑仕事や土木作業を手伝っていて、
政治については
何故、仕事を抜け出すのかといえば、民のため。
なんて表現したらいいか分からないけど、彼は生来のお人好しなのだろう。
「も~仕方ないな」
「えーっと、どこ行くんだい? まさか怒ってる?」
彼は慌てて声をかける。
「そんなの決まってるでしょ……」
「そこの民家に行って、台所を借りに行くのさ。ここにいる皆が畑仕事に力が入るように、うんと大量の料理を作るためにね」
彼の
「ママ、ただいま!」
ありすはマイルームに戻ってくるなり、ブーディカに抱き着く。
初めは『お姉さん』と呼んでいたありすだったが、最近は母親の面影を重ねて『ママ』と呼ぶようになった。
ブーディカも初めは『ママ』と呼ばれるのに困惑していたが、今では快く受け入れている。
「ん。どうだった~次の
これで三回戦になるが、ありすは未だに聖杯戦争が死闘であることを理解していない。
しかし、幼いありすにその真実を伝えるのは酷だと思い、ブーディカは誤解させている。
「それがね、お兄ちゃんだったの!」
「お兄ちゃん……って、あの?」
それは以前に聞いたことなのだが、その少年は予選会場で誰にも認識されなかったありすを見つけてくれたらしい。
それ以来、ありすは少年に懐いている。
「うん! それでね、今おにごっこしてるんだ~」
ありすは屈託なく笑う。
「(
ブーディカは表情を曇らせる。
「どうしたの?」
「ううん。それじゃ、
「うん!」
ありすは走ってマイルームを出る。
「……どんなことがあっても、守ってみせるから」
そう呟いてありすを追いかける。
「あ、お兄ちゃん!」
アリーナで待っているとお兄ちゃん――岸波白野が現れた。
「ああ、君がありすの……ッ!!」
白野に声をかけようとしたが、その後ろにいる赤い衣装の人物に目を大きく見開く。
「そなたは!?」
「……ネロ」
そう呟くとブーディカは背を向ける。
「ありす、今日は帰ろ」
「えっ、でもお兄ちゃんと……」
「ごめんね。お母さん、ちょっと疲れちゃって……お願い聞いてくれる?」
「……うん、わかった。ばいばい、お兄ちゃん」
「待ってくれ、ブーディカ」
ネロの静止の声を聞かずに二人は帰還する。
帰り道のブーディカの顔は今までにない暗いものだった。
つづく