new record   作:朱月望

25 / 54
サイバーゴーストは優しい母の夢を見るか(三回戦)
プロローグ


「あーあ、こわれちゃった」

 白いゴスロリ衣装の人形のような幼女が敵性プログラム(エネミー)を撃破し、呟く。

「お兄ちゃんどこ行っちゃったのかな……」

 何か目的があってこの場所にいるのではない。幼女は予選会場であった校舎から、ある少年を追い、気が付いたらこの場所までやってきた。

「おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。とりあえずはここがゴールだ」

 どこからともなく男の声が聞こえる。

「あなたはだあれ?」

「私のことはどうでもいい。君の……

 む? これは変わったパーソナルデータだな。ふむ、これは……いや、参加させるのも面白い」

「?」

「ふふ、こちらの話だ気にするな。ではお聖杯戦争の本戦に進む前に君にはその資格と力を授けよう」

 男がそう言うと幼女の右手が紅く輝く。

「きゃっ!?」

 右手には王冠の載ったハートのような紋様が浮かび上がっていた。

「それは令呪。聖杯戦争の参加者である資格であり、サーヴァントの力を強め、あるいは束縛する、3つの絶対命令権。まあ使い捨ての強化装置とでも思えばいい。

 ただし、先程も言ったがそれは聖杯戦争本戦の参加証でもある。したがって令呪を全て失えば、マスターは死ぬ。注意することだ」

「さーばんと?」

「これから君に召喚してもらう英霊のことだ」

「よくわかんない」

「まあ、理屈はいい。君はただ自身の望む人物を思い浮かべればいい」

「あたしののぞみ……」

 幼女は目を閉じ、考える。

「あたしといっしょに遊んでくれる友達をちょうだい」

 ある少年を思い浮かべ、声に出す。

 すると、令呪が 紅く輝く。その輝きが頂点に達したとき、周りのステンドグラスが割れて、この空間の中央に光が差す。

「(そういえば、パパとママはどこに行っちゃったのかな……会いたいな)」

 不意にそんなことを考えながら、光が収まるのを待つ。

「サーヴァント、ライダー。女神アンドラスタの名に誓って貴女を勝利に……って、あれ?」

 光の中から、凛として現れた女性は頓狂な声を上げる。

「あははは、ごめんね。マスターが思っていたより小さかったから、お姉さんびっくりしっちゃった」

 女性は照れるように笑う。

(あたし)の名前はブーディカ。貴女の名前は?」

「あたしはありす。マ……お姉さん、あたしとずっと遊んでくれる?」

「ん? もちろん! 好きなだけ遊ぼ」

「ほんと! ありがと、お姉さん!」

 

 こうして、不正データとして消去されるはずだったサイバーゴーストと勝利を誓う女王は出会った。

 

 

 

 つづく

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。