城内で王族と騎士が見守る中、叙任式が行われる。
「そなたを騎士に任命する。これより私の剣となり盾となりこの国を護ってほしい」
「はっ!」
頭を上げ、自身の新たな主を見る。
その立ち居振る舞いは初めて会った時より力強く、凛々しかった。
そのまま王の姿を目に焼き付けたかったが、そうはならなかった。
視線の向こうには生涯一度も目にしたことがない絶世の美女がいたのだ。彼女もこちらを見つめており、視線が絡まりあったまま互いに離れなかった。
「いかがした?」
王の言葉に現実に引き戻される。
「い、いえ」
今思えばこれこそが悲劇の始まりだったのかもしれない。
「はじめまして。サー・ダン=ブラックモア。高名な騎士にお目にかかれて光栄です」
廊下でレオがダンに声をかけてきた。
背後にはガウェインが不動で直立している。
「こちらこそ。ハーウェイの次期党首殿にこのような場所でお会いするとは……」
「そう驚くこともないでしょう。僕はただ、我々の手に在るべき物を回収するために来ただけです」
レオはさも当然のように語る。
「万能の杯……聖杯はあなたの者であると?」
「ええ。あれは
「人の手に余る奇跡は人の手に渡すべきではありません。その管理は王の手にあるべきでしょうし」
「王は人にあらず、超越者であると。……なるほど。貴方なら口にする資格がある」
「だが、それ故に貴方は理想の王にはなれない」
最後の言葉はダンのものではない。
「貴方には絶対的に不足しているものがある」
ダンの背後に現界したランスロットが現れる。
「貴方は!? ……また会えるとは思いませんでした」
誰よりも反応したのはガウェインだった。
「これまた懐かしい姿ですね。貴方のことですから狂気に堕ちていると思いましたが」
「そういうお前も何も変わっていないな。王に妄信し、考えることを放棄した剣」
「私の侮辱は赦しましょう。ですが、先程の言葉は訂正していただきましょうか……レオこそ理想の王だ」
ガウェインはランスロットに静かな闘志を向ける。
「本当は分かっているんじゃないのか。私と同じ王に仕えたお前なら」
「黙りなさい! 王を裏切った貴方に言われたくはない!」
ガウェインは激情を抑えきれずに怒鳴る。
「ガウェイン止めなさい。貴方らしくないですよ」
「ッ! すみません。取り乱しました」
レオがガウェインを誅する。
「ダン、そろそろ行きましょう。これ以上ここにいる理由はない」
ダンとランスロットはその場を離れようとする。
「最後に……少年王、貴方は常に勝利を収めてきたのだろう。故に貴方は敗北を知らない」
「それは完全ではなく、無欠でもない……そのような者に理想の王の資格などない」
そのままランスロットは立ち去る。
「聞いたか。奏者よ」
物陰から彼らの会話を聞いていた者たちがいた。
「ガウェインと同じ王に仕えていたということは、あのサーヴァントは円卓の騎士なのかもしれん」
「円卓の騎士?」
「ああ、アーサー王を主軸とした12人の騎士たちのことだ。その誰もが伝説的英雄であり、その実力は並のサーヴァントを凌ぐだろうな」
「つまり今回も強敵という訳か」
「それにもう一つ気になっていることがある」
「それは?」
「そなたは奴の顔を覚えておるか?」
「さっき見たばっかりなんだから、勿論……あれ? どうしてだろう、思い出せない」
「そなたもか……恐らくは奴は姿を認識させない宝具かスキルを使って、正体を隠しているのだろうな」
「正体を隠す……」
「真名を探る手がかりになる。よく覚えておくのだぞ」
月の聖杯戦争の定石を確認し、二人はその場を後にする。
つづく