new record   作:朱月望

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決戦まであと―――1日

「あれ? 大将じゃねぇか。どうしたんだ、こんなところで?」

 拠点にしている宿屋に戻ると、頼光の大将が待っていた。

「私の方は片が付いたので、あなたを手伝いにね。

 なかなか苦戦しているようだから」

「いらねぇよ。あんな女、一人でなんとかなるぜ」

「女?」

 大将の目が鋭くなる。

「酒吞童子は女だったのですね」

「お、おう」

 思わず気圧される。

「はぁ、遊びは終わりです。これを使いなさい」

 大将は徳利(とっくり)を出す。

「これは?」

「『神便鬼毒酒(しんぺんきどくしゅ)』、神より授かりし鬼の力を封じる神酒です。これを呑ませた後に首を刎ねなさい」

「なっ、それはないだろ大将!」

「鬼あいてに卑怯もなにもありません。いいからやりなさい。失敗は赦しません」

「ちっ、分かった、よ」

 あの目をした頼光に逆らうことはできない。今までの経験上、失敗すると死ぬよりも質が悪い目に遭う。

 ったく、面白くねぇ。

 

 

 

「なあ金時」

「だから、オレのことはゴールデンって呼べって……なんだ?」

 マイルームでハーレーのメンテをしている金時に慎二は訊ねる。

「お前は聖杯に何を願うの?」

「あん? 別にねぇよそんなもん。まぁ、あるにはあるんだが大したことじゃねぇしな。

 ま、この先の戦いで会えりゃ儲けもんって感じのつまらねぇ願いさ」

「なら、戦う理由はないってこと?」

「はっ、戦うのに理由なんて必要ねぇよ。肉と肉がぶつかり、血を撒き散らす、そんな血沸き肉躍るバトルが出来りゃあ十分なわけよ」

「じゃあ、記録(レコード)には興味ないのかよ? 一番になりたくないのかよ?」

「一番になったてな、一緒に居てくれるヤツがいなきゃ、つまらねぇよ。頂点ってヤツは孤高――いや、孤独っつーことだからな」

 何かを思い出すように金時は告げる。

「分かんないよ」

 慎二は泣きそうな声で叫ぶ。

「分かんないよ……僕はいつも一人だったんだから、誰かと一緒になんて……」

「今までオレと一緒に生活してて、本当にそう思ってんのか?」

「…………」

「悩むっつーことは、ほんとは分かってんだろ?

 どうすればいいかなんてよ」

「…………」

「シンジ、つまらねぇ生き方だけはすんじゃねぇぞ。

 人生は短ぇんだから、楽しまなくっちゃな。ゴールデンによ」

 金時はにかっと笑う。

「ふん。なんだよ、ゴールデンって。

 あーあー、つまんない話しちゃったな……なあ金時、気晴らしにハーレー(それ)乗っけてよ」

 慎二も笑って、立ち上がる。

「ああ、いいぜ。ゴールデンだ!」

 

 

 つづく


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