「酒吞、遊びに来たぞ……む? そこの金色の髪に碧い瞳の者は誰ぞ?」
酒吞との何度目かの戦いが終わり、少し休んでいると、黄色の着物を着た少女が現れる。
「もしや、異国の者か? かかっ、異邦人の贄を用意するとは京の都も捨てたものではないな」
「なんや茨木、相変わらず知らんもんの前では威勢がええな。
この小僧はエサやのうて、遊び相手や。なぁ金時」
「だーかーら、遊びじゃねぇ。ガチの戦いだ」
「金、時……金時って、あの怪異殺し――頼光の四天王ではないのか!?
ま、まさか吾らを退治しに……」
「ん? ああ、大将に言われてるのは酒吞だけだが……そういやお前も鬼だな。ならサクッと地獄に送るか」
「にゃんと!?」
「こら金時、あんま茨木脅さんとってや。こう見えて小心者やさかい。
それにうちという女を前にして、浮気とか赦しませんえ」
「そんなんじゃねぇよ。初めに殺すのはお前だからな」
「初めてはうちにくれるやなんて嬉しいことゆうてくれるやないの」
「るせぇ、休憩は終わりだ。次、いくぞオラッ!!」
その後、もう一度酒吞とやり合った。
最近、こんな日々も悪くないと思ってる自分がいる。
だが、オレは忘れていた……楽しい時間は長く続かないのだということを
「……あれ?」
慎二は起きるとすぐに金時を探したのだが、見当たらない。
「ん?」
机の上に置手紙がある」
「なになに……『まだまだ走り足りねぇから、アリーナ行ってくる!』だって!?」
金時は昨日走った二つ目のアリーナではなく、初めのアリーナに行ったそうだ。
慎二は怒りのあまり、手紙をくしゃくしゃに丸め放り投げる。
「行くなら僕も連れてけよ」
ぼそりと呟き、慎二はマイルームを出る。
「あら、どうしたの浮かない顔して岸波君にやられたとか?」
廊下を歩いていると凛に出会った。
「遠坂か。ふん、あんな素人に僕が負けるわけないだろ! あいつならせこせこ雑魚エネミーを狩ってるだろうよ」
「ふぅん。慎二は行かないの?」
「はぁ? あんな無駄なことして何になるのさ。マスターのレベルは上がるかもしれないけど、サーヴァントには意味ないだろ」
「あきれた。いい、確かにエネミーを倒してもサーヴァントには影響はない。でもねサーヴァントに魔力を与えることで、サーヴァントは強くなる。そのためにマスターも強くなくっちゃいけないの」
「サーヴァントに魔力を?」
「そう。魔術師はね、足りないものは余所から持ってくるの。この場合、サーヴァント自体は成長しないけどマスターが強くなることでより多くの魔力を回し、サーヴァントを今以上に強くできるの」
「足りないものは余所から持ってくる……でも、僕に足りないものなんてないから関係ないね!」
「……相変わらずね、あなた。ここまで教え甲斐がないと怒りを通り越して呆れるわ。じゃあね」
凛は慎二の前から去ろうとする。
「なぁ、遠坂」
「なに? もう一度、喋れなんて言わないでよね」
凛は呆れたような声で返事する。
「……夢見るか?」
「夢? そんなもの見るわけないでしょ、常識で考えたら。それとも間桐くんはそんな事も分からないの?」
電脳の世界では夢は見ない。情報そのものである霊子ダイブでは情報整理のための夢は見れないのである。
「そんなのは僕も知ってるよ! でも、全く身に覚えのない夢を見るんだ……毎日」
「ふぅん。それはきっと、あなたより強い想いがある誰かの夢なんじゃない?」
「誰かの夢?」
「夢と言うよりは人生、生涯って言った方がいいかも。その記憶があなたに流れ込んでるんじゃないかしら」
「誰の記憶なんだよ」
「そんなこと私は解らないわ……でも、面白い噂なら知ってるわ」
「?」
「昔あった聖杯戦争ではね……サーヴァントの夢を見たそうよ」
「それ、ほんとか!?」
「噂だって言ってるじゃない。でも、もしかしたらって思って」
「…………」
慎二は考えるように下を向く。
「そろそろ時間か……ふふ、じゃあね慎二。また、会えたら会いましょう」
凛は立ち去る。
「……ああ、もう!」
慎二はアリーナへ向かう。
一人で楽しんでいるであろう相方の元へ。
つづく