new record   作:朱月望

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決戦まであと―――6日

 オレは昔から独りだった。

 母親が地元で有名な山姥というのもあるだろうが、なにより金髪碧眼という見た目が人から忌み嫌われる最大の理由だろう。

 人は自分と違うもの、いや異質なものを排除しようとするものだからな。

 オレを対等に見てくれるのは、いつだって動物たちだった。

 オレを一個の生命として向かい合い、寄り添い、時には命のやり取りもあった。まぁ、どんな猛獣も相撲をとればすぐにダチになれたが。

 独りだからって別に辛いとか寂しいと感じたことはなかったが、なんというか言葉にはできねぇが、何かが欠けている気がした。

 誰かオレと対等な――いや、オレ以上のヤツと巡り逢うことが出来たら、何かが変わるのだろうか?

 はっ、らしくなく難しいことを考えちまった。そんなことより、今日はこの山の(ぬし)に会いに行ってみるか!

 動物たちはすっげーでけー熊だって言ってたな。楽しみだぜ!

 

 

 

「ん……夢?」

慎二は目を覚ます。

「えーっと、昨日は予選を通過して割り当てられたマイルームについたら急に眠気がして……そのまま眠ったのか」

「でも他にもなんかあったような……」

「よう、シンジ! ゴールデンな朝だな」

「あー忘れてた。いや、忘れておきたかった」

慎二は金時の顔を見てうんざりした顔をする。

昨日、金時を召喚した後に本戦会場である月海原学園に入ったのだが、ゴールデン、ゴールデンと初めてみる学校に子供のように目を輝かし、慎二を連れ回したのだ。結果、疲れ果てた慎二はマイルームに着くなりベッドに寝入ったのだ。

「いいかバーサーカー。昨日みたいに……」

「おっと、そいつはいただけねぇ。昨日も言ったはずだぜ」

「?」

昨日の連れ回しの件を忠言しようとしたのだが、その前に金時が口を挟む。

「オレっちのことはゴールデンと呼んでくれってな。バーサーカーって響きはなんか黒っぽいイメージでよ、全然ゴールデンじゃあねぇからな」

「はぁ、全然意味が分からないんですけど……」

 慎二はため息をつく。

「あ、そうだ。たしか2Fの掲示板に対戦相手が公開されてるんだっけ。

 ちょっと見てくるから、お前はそこで待っとけよ」

「おう」

「意外だな。ついてくるかと思ったけど」

「なぁに、ちっとやりたいことがあってな」

「ふーん。余計なことするなよ」

「任せとけって」

 いたずら小僧のような笑みを漏らしていたのだが、慎二は見逃してしまった。

そして、慎二はマイルームを出て掲示板に向かう。

「さ~て、僕の初陣を飾る映えある犠牲者は誰かな~」

掲示板を見る。

しかし、そこには慎二の名前はあったが対戦相手の名前がない。

「あれ? おかしいな。名前の部分を(デリート)したり塗り潰(クラッキング)したような形跡はないし……」

「ん? どうかしたかね?」

振り向くと神父服(カソック)を着た男が立っていた。

「私は言峰。この聖杯戦争の監督役として機能しているNPCだ」

「お前、昨日の予選でアナウンスしてたやつか。

 どうもこうもないよ。対戦相手が割り振られてないんだからさ!」

「ふむ……少々待ちたまえ……」

言峰は考えるような姿勢になる。

「――妙な話だが、システムにエラーがあったようだ」

「はぁ!? しっかりしてくれよ」

「すまない。君の対戦相手は予選をギリギリのところで通過した為に登録が済んでいないようなのだ。

 対戦の組合せは明日にはなんとかしよう」

「予選もまともに通過できない弱小魔術師(ウィザード)が相手なんて締まらないな~」

残念そうに言いながらも口元は厭らしく歪める。

「それなら、まぁいいや。明日、存分に間抜け面を拝んでやるとするか」

慎二は笑いながらマイルームに戻る。

「な!?」

マイルームに戻るとその様子が一変していた。

 革張りのソファ、下から上に光が漏れるブラケット。金時の姿も相まって、特定の団体の事務所のような雰囲気を醸し出していた。

「どうだいマスター。最高にCOOLだろ」

 驚いていると、得意満面の金時が横から声をかける。

「初めて来たときから、この部屋にはゴールデンさが足りないと思ってたのよ」

「お前、これどうやったんだよ……まさか!?」

 陣地作成を持つキャスターでもない金時にこのような真似ができるわけがない。

「嘘だろ!?」

 慎二が聖杯戦争に参加する上で、持ってきた膨大なリソースが三割ほど無くなっていたのだ。

「いや~ちょびっと借りるつもりだったけど、凝り始めたらつい、な」

「つい、じゃないよ!? なに勝手にやってるんだよ!」

「まぁいいじゃねえか、細かいことは」

「なにを……」

「使っちまった分もオレが頑張ったらいいだけだろ?」

「ん……まぁ」

「なら、アリーナに行こうぜ。オレの“力”見せてやるよ」

 金時はマイルームを出る。

「お、おい! 待てよ」

 慌てて慎二は追いかける。

 

「吹き飛べ……必殺! 黄金衝撃(ゴールデンスパーーク)』!!」

 周囲の敵性プログラム(エネミー)が一掃される。

「どうだい。オレっちのゴールデンな宝具は」

「……スゴイじゃないか! なんだよ、こんな力があるなら楽勝じゃないか!」

 目を輝かせ、柄にもない声を出す。

「そうだろ。最っ高にゴールデンだろ」

 慎二の顔を見て、金時も得意になる。

「はは、これなら僕の優勝は確実だね。皆には少しくらい楽しんで貰いたいけど、これじゃ圧倒的過ぎて文句言われちゃうな~」

まだ見ぬ敵の姿を想像して慎二は笑う。

「あ~決戦の日が待ち遠しいな~」

 

 

 つづく


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