英雄伝説 魂の軌跡   作:天狼レイン

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さて、皆さまお待たせしました。魂の軌跡 第五話となります。
ここ数日、この話の調整とPSO2しつつ閃の軌跡3二週目ハードでやってます。
ナイトメアはまだ無理だわうん。一章のクモ地獄やカエルの鬼畜はめ殺し受けた後だと下手にナイトメアなんかすれば詰みゲーになるのが察しつけた。アサルトアタック重要だと本気で思った瞬間が多々ある作品と判断しましたよ、ええ。

さて、この作品はその閃の軌跡3の舞台どころか閃の軌跡最初に当たるところですが、投稿ペース上がりそうです。ぶっちゃけモチベがすごいある。ゲーマー夫婦はTwitterに書いたのが主な理由で心の余裕持ちたいので遅れそうです。失踪はしませんし放棄もしません。時間はかかりますが悪しからず。

それでは、時間かけましたが、本文をどうぞ。ぶっちゃけ俺の技量じゃこの程度なので指摘などよろしくです。感想とか評価ください。
多分Twitterで叫ぶか吠えるかしてしまうだろうけど。多分アルティナに関して色々と忙しく考えてますがね。


特科クラスVII組、結成

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……その……アルティナさん? なんで機嫌が悪いんですかねぇー。俺、全く心当たりがないんだけど」

 

「……自分で考えてください」

 

 突然だが、現在進行形でアルティナが機嫌悪い。本当に突然すぎるが、俺もどうしてこうなったのか分からない。

 急に機嫌を悪くしたアルティナに、ソラはいつも以上に困惑しながら首を傾げていた。

 果たして、俺は何かアルティナの機嫌を悪くさせるような行動を取っただろうか?と。

 

「いやホント自分で考えて分からないんだが……いやほら? 自分で自虐するのもなんだが、俺って馬鹿だろ? 他ならぬお前が言っただろ? だから理由教えてくれないとどうしようもないんだが……」

 

「………………」

 

「ねぇアルティナさん? 黙り込むのやめてくれませんかね? 俺、無視されると結構精神的にツライんだけど? お前以外にホント頼れる奴いないからお前に見放されると詰むんだけど? おーい、アルティナさん? そろそろ泣くよ? 泣いちゃうよ?」

 

「……貴方は子供ですか」

 

「あーまぁーそうだな、まだ齢16とかいう餓鬼だよチクショウ。ホントどうなってんだ間違ってるぞ世界」

 

「間違ってるのは貴方の考え方です。戦闘以外は能無しですか」

 

「ウワーイ、モウナンカ罵倒サレルノニ慣レテル自分ガイルゾォー?」

 

「……アップルパイ一個追k———」

 

「————すみませんでしたッ!」

 

 お願いしますこれ以上疲労の元を作らせないでくださいとばかりに懇願し土下座するソラに、アルティナは溜息を吐きながら、今の間だけ床に寝かせられている少女に目を向けた。

 

 フィー・クラウゼル。大陸最強の猟兵団の一角《西風の旅団》に()()()()()()少女で、《西風の妖精(シルフィード)》の異名を持つ若き元猟兵。

 七耀歴1203年、今より一年前。《赤い星座》団長バルドル・オルランドとの一騎討ちにより、団長ルドガー・クラウゼル死亡。それにより《西風の旅団》は活動休止、行方を眩ませた。

 恐らく、彼女はその際に置いていかれた、或いははぐれた元猟兵。

 

 しかし、それはソラを狙う口実にはならない。活動休止とソラには関係はない。とはいえ、無関係という訳ではないのも事実。

 そこにアルティナも関わっていたからこそ、フィー・クラウゼル———彼女の殺意は理解できるが、それが原因なのかは分からない。少なくとも、ソラには自分に非がないはずだった。

 

「全く、ソラさんは敵ばかり作りますね……」

 

「そいつに関しては作る気は無かったっての。偶然()()()()()、ただそれだけだ。置いていったことを恨まれてんなら仕方ねぇさ」

 

 素っ気なく、しかし、何処か後悔があるような声音でソラは切り捨てた。

 

「そうですね。貴方は本当に“運”がありませんから」

 

「マジでそう思うわ。ホント神様ファッキュー。殺せるなら腹掻っ捌いて殺してやりてぇよ」

 

「それ以上はやめておきましょう。《星杯騎士団》直々に殺しに来られても困りますから」

 

 小さな休憩代わりの会話をここで切ると、ソラはもう一度フィーを両手に抱える。すると、漸く機嫌を直してくれたはずのアルティナが、また複雑そうな顔をした後、そそくさと先へ進み始めた。

 どうしてそんなに機嫌悪いんですかねぇーと内心どう対応しようか考えあぐねていた。

 

「……なぁ、アルティナ」

 

「……なんですか?」

 

「お前、ひょっとしてさ……」

 

 ふと、その時とある考えが過った。

 流石にアルティナはそんなはずないだろうと思いつつも、内心ではそのまさかを望みながら、ソラはそれを躊躇うことなく口にした。

 

「……焼き餅を焼いてる訳じゃないよな?」

 

「………………」

 

 思えば、ここでこの言葉を言わなければよかったと思うのは後の話。

 現在進行形でアルティナの顔に不快感が現れると、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「ソラさん、彼女を一度下ろして貰えますか?」

 

「は? あー、うん?」

 

 困惑しかないソラは、念のためフィーを遠くに下ろして床に寝かせると、アルティナに向き直る。

 

「それでどうかし———ッ!?」

 

 言い切る前に、反射的に身体が少し動く。直後には弾丸が頬を掠って迷宮の壁に弾痕を残した。一瞬の殺気。ああ、正しくこれがフィー・クラウゼルに足りないもの。常に殺気立つ彼女に一番必要なもの。

 とはいえ、突然殺すつもりに近い一撃をしてきたら、流石のソラでも唖然とする。

 

「えっと……アルティナ、さん? 俺、何か余計なこと言ったっけ?」

 

「ええ、言いましたね。堂々と。盛大に。私が焼き餅を焼いている、ですか。面白いことを言いますね?」

 

「いや……それは……うん、なんつーか、その……すみませんでした」

 

「あとで餅を焼きましょうか? ソラさんはお腹が空いているようですし」

 

「お腹一杯ですホントすみませんでした許してくださいお願いします」

 

 いつ、側に控えさせている《クラウ=ソラス》からブリューナグ(ビーム)されるかと考えた結果、ソラは即座に折れることを選ぶ。よくよく思えば、こういう時に悪いのは自分なんだよなぁーという思考も片隅から顔を覗かせており、存外スッと謝罪が口から出た。勿論誠心誠意、心は込めていると断言する。

 

「……はぁ。もう分かりました。反省してくれているのなら問題ありません。ですが、次はないですからね?」

 

「心得ておきます……」

 

「それでは、早く行きましょう。これ以上何度も足を止める訳にも行きませんから。恐らく他の方々は終点に近いと思われます」

 

「おう、そうだな。ところで、実はこいつ起きてたりしないよな? 俺そろそろ心配になって来たんだが……」

 

 一度視線を抱えているフィーに向けた後、アルティナに本当に大丈夫か?と目配せする。対して、彼女は大きく溜息を吐く。

 

「そういう呼吸や気配察知に特化しているのは貴方でしょう。確かに私もある程度分かりますが、《クラウ=ソラス》も今は感知していません」

 

「うーん、《クラウ=ソラス》が感知してないなら大丈夫……なのか? やっぱ気絶してる奴と因縁あると全く安心できねぇなぁー。なぁ、アルティナ。お前の予想通りなら暫くあいつらと会わねぇんだろ? 少し変わってくれねぇか?」

 

「……仕方ありませんね。今だけは《クラウ=ソラス》に運んでもらいましょう。代わりに私を運んでもらっても———」

 

「————だが、断る。お前は自分で歩け。あとでアップルパイ食べるなら余計にだ」

 

「ソラさんのケチ」

 

「おー言い方変えても無駄だぞー、俺は()()()()で対応するからなぁー」

 

「成程、()()()()()ですか。それは大層な精神ですね」

 

「おいコラちょっと待て。今さっき思いっきり食い違ったぞ。つーか食い違わせたの分かってるぞアルティナテメェ」

 

「冗談ですよ」

 

「全く以て冗談に聞こえねぇんだよなぁー」

 

 アルティナとの付き合いの経験上、ああいう時の考えが手に取るように分かる。あれは絶対俺を上手く言い包める時の構えだ。

 などと考えるソラに対し、アルティナは更にその上をいって、単純だが効果的な行動を示す。

 

「ソラさん」

 

「ん? 言っとくが、俺は鋼の精神だからな? 絶対背負ったりしねぇからな。絶対だぞ! 絶対! ネタじゃねぇからな!」

 

「ええ、分かってますよ。もう運んでもらうつもりはありません」

 

「へ? そうなの?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「んじゃ、何を?」

 

「手を繋いで貰ってもいいですか?」

 

「ん? 手? そんなもんでいいのか? てっきり俺は運んでもらうのがベストなんだと思ってたんだが」

 

「確かにベストですが、断られたのならこちらがベストです。ソラさんは手を繋ぐことすら拒むんですか? まさか潔癖症————」

 

「絶対違ぇから。潔癖症なら返り血纏うような戦い方しねぇよ。ほら、手を繋ぐんだろ?」

 

 そっと差し伸べられるソラの左手。堂々としている所はいつもと変わらないが、少しだけ気恥ずかしそうにしているのがよく分かった。

 その姿に少し可笑しそうにクスリと小さく笑って、アルティナはその左手を自分の右手でそっと握る。少し身長差はあるが、誤差だろうと考えつつも今は無粋として忘れることにして。

 

「ソラさんは暖かいですね」

 

「ま、そいつ(フィー)や魔獣の群れと殺りあった後だからな」

 

「わざと誤魔化してますね」

 

「さて、どうだろうな? まだ身体が暖まって動きやすいってのも無い訳じゃねぇからな。そういうお前も十分暖かいぞ」

 

「そうですね。《心》からそう思います」

 

 他愛もない会話を互いに交わす。

 特別久しぶりにその手の会話をした訳ではない。それでも、他愛もない会話をしてみたかった自分達がいるのは確かだと二人はそれぞれ断言できる。

 アルティナの背後で《クラウ=ソラス》が何度か訊ねるように機械音をあげる度、ほんの少し頰が緩む彼女を見るとソラも嬉しそうに笑う。

 とても暖かく微笑ましい、けれど、何処か酷く切ない。不思議とそう思わせる光景は、誰にも知られることなく過ぎていった。

 

「もう大丈夫ですよ。手を繋いでくれてありがとうございます」

 

「ん、そうか? 大したことじゃねぇよ。繋ぎたかったら言ってくれ。別に減るもんでもねぇんだし」

 

「そうですね。また甘えさせて貰います」

 

「んにゃ、俺も信頼できる誰かと手を繋ぐのも悪く……ん? 甘える? お前今さっき———」

 

「————はい、そこまでです。それ以上は先程と同じ対応させて貰いますが、よろしいですか?」

 

「うっわぁー、貴重なツンデレを無駄にしちまったァッ!」

 

「ツンデレではありません。ちょっとした気紛れです」

 

「さっき写真撮ればよかったなぁー。そしたら七徹明けのクレアにこっちの言い値で売れたのになぁー」

 

「クレアさんがたまに写真を眺めているのはそのせいですか……! ……ソラさんにはあとで少しお灸を据えないといけませんね?」

 

「ハッハッハ、俺は全力で逃げ「《クラウ=ソラス》!」———グボァッ!?」

 

 先回りしていた《クラウ=ソラス》のアームによる強烈な一撃を鳩尾に受け、ソラは迷宮の床を芋虫の如くのたうち回る。

 のたうち回る最中、よくよく見れば、いつの間にかアルティナがフィーを何とか背負っていることに気がつき、仕組まれていたことを理解。上手く逃げられないか模索する。

 

詰み(チェック)ですよ、ソラさん」

 

「かもなぁ……———いや、もう問答無用(バーリ・トゥード・ルール)だな」

 

「————そうですね」

 

 直後、アルティナを蹴り飛ばさんばかりの勢いで気絶していたはずのフィーが素早く蹴りを放つ。それを(すんで)の所で躱し、彼女の両足を容赦なく掴み、アルティナはソラですら呆れる行動へと移る。

 

「蹴ろうとした罰です」

 

「ッ!? う、わぁ!?」

 

 相手の両足首を掴んだまま、自分を起点にブンブンと振り回す技———ジャイアントスイングを容赦なくフィーへと与えた。

 平衡感覚を失わせてダメージを与える技であるこれを今ここで選んだ真意はよくわからないが、それでもソラには何となくわかったような気がしていた。

 

「……ちょっとキレてるなアレ」

 

 遠目から見てもアルティナが怒っているのが分かったソラは、現在進行系でジャイアントスイングを受けているフィーに少しの憐れみと呆れを向けていた。

 それから気持ち長めに振り回した後、ゆっくりと速度を落とし、フィーを床に寝かせた。腕を組み、少々機嫌を悪そうにして———

 

「何か言いたいことはありますか?」

 

「…………ない」

 

「反省してますか?」

 

「………………」

 

「私をソラさん同様に敵と判断するのは構いません。———ですが、蹴るならソラさんだけにしてください」

 

「おいコラちょっと待て! 何かおかしいだろ!」

 

「ん、分かった「分かってんじゃねぇ!」うるさい」

 

「一応補足しますが、ソラさんを殺すことには反対です。あんなのでも私にとっては大切な人です。とはいえ、悪戯程度なら黙認もしますし、私にできるところまで手伝いますよ」

 

「あのーアルティナさん? せっかく俺ジーンと涙腺にきてたのに、すぐに落とすの何なんですかねぇー? 俺なんか悪いことしましたっけ? 流石に今のだけはかなり頂けない答えだと思うんだけどなぁー?」

 

「元はと言えば、ソラさんが加減せずに吹っ飛ばしたことが原因です。それが遠因で私が蹴られかけたのなら少しは恨みますよ」

 

「ウッワァー、俺ノ味方ハ何処ニモイネェー」

 

「いつものことです」

 

「ん、いつものこと」

 

「おうアルティナ、テメェマジで折檻してやろうかッ!? つーかテメェはそっち関係ねぇだろうが!」

 

 一応こっち側のアルティナも恐らくフィーに恨まれているはずだが、今の様子からして、どうやらそこまで憎んでいないのだろう。逆に何故俺だけがここまで恨まれてるのやらとソラは溜息を吐きたかった。

 とはいえ、このタイミングでそのような行動へと移るとまた殺しにかかってきそうだとも思い、溜息は吐かないことにする。

 

「———それで、また殺しに来るのか?」

 

「そのつもり「即答かよ」でも、今は無理そう。()()()()()()()()()

 

「……アルティナ? お前まさか剥いだ?」

 

「ええ、念のために。貴女の武装ならこちらです」

 

 指をパチンと鳴らすと、いつの間にかまた姿を眩ましていた《クラウ=ソラス》がその両腕に抱え込んだ物騒なものを見せた。得物である双銃剣(ダブルガンソード)を筆頭に催涙手榴弾や閃光手榴弾、爆薬、投げナイフ、毒が入ってる小さな小瓶などエトセエトセ。本気で殺しに来ていたことがよく分かる品揃えにソラはホッと胸を撫で下ろす。

 

「……だから今は殺しにいきたくてもいけない。そもそも背中痛い」

 

「あーうん、そのー……悪い」

 

「謝罪の気持ちあるなら自害して」

 

「見返りが直球過ぎるじゃねぇか! こっちだって今死のうものなら確実にアルティナに墓荒らされてアップルパイ大量生産コースだチクショウ!」

 

「約束の不履行ほどクソ野郎———失礼、酷いものはありませんからね」

 

「もうホントアルティナの口が悪くなってきて泣ける」

 

「一応原因を列挙しましょうか?」

 

「いいえ結構です」

 

 反論できない時点で基本的に俺の勝利は有り得ない。今日も今日とて、ソラはアルティナにまた黒星を飾らされることになった。

勝ったと少し嬉しそうにしているようなしてないような様子を見せるアルティナや弱点を探そうとしているフィーとは裏腹に、ソラは日課の如く、いつになったら口喧嘩で勝てるようになるのだろうかと真剣に考える。

 

 暫くして考えるのを諦める。

それと同じタイミングで更に奥の方———恐らく終着地点の方向から盛大に鳴り響いた破壊音が三人の耳に届いた。

 

「へぇ、あいつら何か始めやがったな?」

 

「そのようですね。貴女はどうしますか? フィー・クラウゼル」

 

「ん、行かなきゃあとでサラに怒られるから行く。めんどいけど」

 

「そうかいそうかい。途中で背中狙ってきたら今度はあの程度じゃ済ませねぇからな」

 

 武装を全部返してやれ、それを表すサインをアルティナにだけ分かるように送り、《クラウ=ソラス》は彼女の命に従い、没収したそれらをフィーに返す。三人の準備が完了するまで僅か十数秒。

完了と同時に三人は、迷宮を思い切り駆け抜けた。壁を走り、床を蹴り、出来る限りショートカット可能な地点は全て流れ作業の如く踏破する。その道筋を阻む魔獣の群れを、容赦なくバラバラに解体し葬り去る。

 

 

 

 そして————

 

 

 

 

 

「おーおー、楽しそうなことやってんじゃねぇか。俺達も混ぜてくれよ?」

 

 

 

 

 

 新たな獲物を貪り喰らう為に、貪欲な獣が不敵に笑う。

 

 

 

 

 

 ———*———*———

 

 

 

 

 

「おーおー、楽しそうなことやってんじゃねぇか。俺達も混ぜてくれよ?」

 

「君達は……」

 

「救援に来ました」

 

「た、助かったぁ……」

 

「ん、意外と元気そう?」

 

「あー元気なのか、じゃあ帰るかメンドクセェ」

 

「ま、待ちなさい!? 何処が元気なのよ、この状態で!」

 

 元気そうだから帰ろうとしたソラに対し、金髪の女子生徒の悲痛な声をあげる。今把握できる状況を確認する為に、周囲を軽く見渡し、冷静に判断。すぐさま指示を出す。

 

「アルティナ、支援と牽制を頼む。テメェはアレ(ガーゴイル)を少し怒らせてこい。ヘイト向いたら俺が引き受ける。他の奴らは回復するなり、態勢整えるなりしていろ!」

 

「了解しました」

 

「ん、問題ない」

 

『りょ、了解!』

 

 ホルスターから二丁拳銃をドロウ・トリガー。引き金を連続で引き続け、放たれた無数の弾丸は容赦なく『石の守護者(ガーゴイル)』に着弾する。向こうからすれば、豆鉄砲が当たったようなものかもしれないが、鬱陶しいことには鬱陶しい。だからすぐさまヘイトはアルティナへ向く。

 

 だが、そうはさせない為に身軽かつ俊敏なフィーが意識から外れた直後に、使い慣れた得物を以て奇襲する。細かく、しかし、的確に既に()()()()()()()()()左脚を斬り、退避と同時に銃弾を叩き込んだ。

 

 咆哮。激昂する様子を側から見ても分かるほどに怒り心頭を伝える『石の守護者(ガーゴイル)』はフィーを今すぐ狙うべき敵と定め、妨害されにくいように一度高く飛び立つ。

確かに高く飛べば、こちらに向かってくる敵や攻撃を捌きやすくなるだろう。

 しかし、それは唯一翼を持つ『石の守護者(ガーゴイル)』だけに言えることでは決してない。

 

 

 

 

「———おいテメェ。先に()()()だろうがッ!」

 

 

 

 

 

 怒号にも似た喝破が誰よりも高い位置から響き、直後、仄かに輝くブレードライフルが幹竹割りの要領で飛び立ったはずの『石の守護者(ガーゴイル)』を容赦なく叩き落とした。

衝撃的なまでの光景に、先程までソラがいたはずの位置を確認する。

 

「いったいどうなっている……」

 

 金髪の男子生徒が有り得んと驚愕するのにも理由がある。

 

 先程までソラ達がいたのは大広間の入り口。叩き落とされた『石の守護者』の位置は大広間の中央で、その周囲を三人を除く全員が囲って戦っていたのだ。そこまでの距離を誰も姿を見ていないはずがない。

あまりにも速すぎたのか、或いは本当に見えていなかったのか……。

 

 加えて、あの高さまで跳んだとは考えられにくい。考えられるとすれば、出口である階段から中央まで跳んだぐらいだろうか?

当然それもまた常人には有り得ないということも然り。

 

 だが、今しがたアレを叩き落としたのは彼に他ならない。どうやったのかは分からない。

 ————しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

 

「行くぞ! 全員攻撃態勢!」

 

「各々自分に出来る最大限の行動してください!」

 

 ソラとアルティナ、二人の合図を切っ掛けとして攻防は好転した。『石の守護者(ガーゴイル)』は未だに地を這っている。決着をつけるなら今この時か最善だろう。

回復を優先していた者達も万全の状態となり、皆それぞれが攻撃へと転身。一度距離を取ったソラの隙を埋めようと黒髪の男子生徒が位置を入れ替わった所で、何かが始まっていた。

 

 まるで以心伝心とすら言い表すに相応しい軍人涙目の完璧な連携。隙を互いに埋め合い、弱点を誰ともぶつかることなく確実に習い続ける狩りの如く。まるで統率された存在のようなそれに、ソラとアルティナは舌を巻いた。

恐らく初めて顔を合わせたはずの者達がここまでの連携を可能としたのは、全員に配給された『ARUCS』の真価なのだろう。エプスタイン財団もラインフォルト社も大した技術力だと惜しみなく称賛できる。

 

 しかし、その称賛はソラにもその影響が出た瞬間、即座に唾棄すべきものへと変わってしまう。

何がどう不満なのかを一言で語るとするならば、それはソラが最もよく知る感覚であり、しかし、それは同時にソラが例外を除いて最も嫌う感覚であったことだ。それぐらい我慢できる気が少しはしていたのだが、誰かの声が聞こえ、その奥の考えも分かり、そして———

 

 

「————()()()()()ッ!」

 

 

 半ば反射的に放った一言が、最適化していたそれを拒絶・破砕し、その衝撃は既に()()()()()()他の者達のそれすら纏めて破砕し尽くした。

 

「うぇえぇぇぇ!?」

 

 最早言語にすらなっていないような橙髪の男子生徒の驚愕が大広間に響くと同時に、他の者達もまた驚愕に彩られた。

二転三転もする現状は慣れているはずもない彼らには油断も隙も晒してはならないなどと言える訳もなければ、これに関してはソラの責任であることは彼自身やアルティナが最も理解していた。

 

 同時にそれは当然撃墜され袋叩きされていた『石の守護者(ガーゴイル)』からすれば、絶好の反撃タイミング。逆襲しないはずがなかった。

 

 トドメを刺そうとしていた青髪の女子生徒の一撃を自らの尻尾で受け、そちらを断ち切らせた。首を断つために注がれる威力を削いだことで、首を断とうとした一撃は本願を叶えることが叶わず、亀裂を入れた程度で止まってしまい、『石の守護者(ガーゴイル)』は青髪の女子生徒を右前脚で吹き飛ばす。

 

「なんだと……!? ぐぅっ!?」

 

 前線を張っていた青髪の女子生徒が吹き飛ばされたことは、当然包囲網に穴が生じることに繋がっていた。前線の層が厚いとなれば、それを崩すには支援を担当する後方に限る。

ラウラが抜けた穴から飛び出した『石の守護者(ガーゴイル)』は、近くにいた橙髪の男子生徒を標的に定め———この状況をひっくり返そうと動き出す。

 

「う、うわあああああああっ!?」

 

 絶体絶命の瞬間。吹き飛ばされた青髪の男子生徒は勿論、距離の関係も含めて殆どの者は阻止どころか救援すら叶わない。フィーも急ぎつつヘイトをこちらに向けさせようとするが、銃弾程度では気にすることもなく、狙いはそのまま変わらない。

 

 

 

 あわや必殺———

 

 

 

「チッ、あーあー俺のせいだし仕方ねぇか。アルティナ」

 

「ええ、貴方のせいですね。あとで謝罪しておいてください」

 

「ああ、そうだな。じゃあ本人にも無傷でいてもらわねぇとなァ!」

 

『《憑纏(まとい)》———無冠天墜・双黒』

 

 

 

 ———皆の視線から消えた一瞬。

 

 起こしておきながら事をそこまで重大と見てないらしい二人は他愛もなく会話し、ソラは凶悪なまでの笑みを浮かべて、ブレードライフルを本来の用途とは違う構え方へと変更。

 少しもズレることなく、何かの合図のように同じ言葉を告げた。

 

 そして———

 

 

 

 

 

 盛大な破壊音と共に、黒銀の極光が彼らよりも先に『石の守護者(ガーゴイル)』の進撃を押し留めた。

 

 

 

「……え?」

 

 黒髪の男子生徒は気配を察知するのに長けていたのか、今しがた起きた現象に誰よりも信じられないという顔をしていた。

先程ソラが『石の守護者(ガーゴイル)』を叩き落とした光景も相当なものだったが、今回ばかりは流石に驚きを通り越していた。

大広間の対角線上に位置していたソラと橙髪の男子生徒。その距離は一直線であるとはいえ、かなりの距離だ。とてもとある流派をそこそこ修めている黒髪の男子生徒でも、その距離はどうしても埋めようがなかった。

 

 だが、今のはなんだ?

半ば一瞬のうちに距離は詰まり、彼は今間違いなくそこにいる。

どうなっているという言葉が声にすら出ない中で、誰もがその光景を眺めるしかできなかった。

 

 

 一方で、()()は大胆不敵に笑っていた。

 

「おーおー、どいつもこいつもポカーンと口開けやがって、そんなに珍しいか?」

 

『私が言うのも難ですが、こんなものは知っている必要ありませんよ。むしろ知っている人がここにいることが珍しいと言うべきです』

 

「だろうな。それじゃあ———こいつ喰い殺そうか、アルティナ」

 

『ええ、喰い殺しましょう』

 

 獰猛なまでの笑みを浮かべたのは、一人の少年。二人の声が聞こえていたはずなのに、そこに立っているのはただ一人。その少年もまた、本当にソラなのかを疑問視させる容貌をしていた。

 

 まず初めに目が向いたのは彼の髪だ。

長い黒の長髪を後ろに流して紐か何かで適当に縛っていた彼の髪は、アルティナのような銀色の長髪へと変わり、紐で縛られた長髪は解かれていた。僅かな風などで煽られた長髪は舞い上がり、何処か中性的にも思わせる。

 

 次に変化を見受けられたのは、彼の瞳だ。

元々備わっていた紅い瞳は、これもアルティナのような黄緑色の瞳へと変わっていた。

 

 他にもいくつか微細な変化があったが、髪と瞳は著しく変化している。それはまるで、ソラがアルティナになったような……或いは、アルティナがソラになったような……。推測も説明も、マトモに出来ようもないが、一つだけ確定している事実はあった。

 

「彼女は何処へ……」

 

 驚愕の色は未だ残ってはいたが、緑髪の男子生徒は冷静に姿を消したアルティナを探そうとするが、何処にも見当たらない。先程聞こえた彼女の声はいったい何処から……

 

 果たして、考えを巡らせる一同の集中を搔き乱したのは、『石の守護者(ガーゴイル)』の悲痛な絶叫だった。

大きな両翼の片割れは千切れ、飛び立とうとも虚しく残った片翼では僅かに浮くことすら叶わない。全身は既に亀裂が広がり血煙を噴き、青髪の女子生徒を払い除けた右前脚は斬り落とされている。

次々と襲い掛かる激痛を何とか堪え、『石の守護者(ガーゴイル)』は残っている右前脚を大振りに振るう。

 

 だが、それは容易く受け流され、逆に斬り落とされた。

今も駆け回り躱し噛み千切らんと牙を持ち襲い掛かる一匹の獣は獰猛な笑みを崩さず、次は何処を狙おうかと虎視眈々と隙を伺い続ける。

銀色の長髪は激しく動き回る彼に追随するように大きく靡き、黄緑色の眼光が薄暗い大広間で残光を残す。

 

 その姿に誰もが目を奪われた。

感じたのは畏怖。獰猛な獣への純粋な恐怖に他ならない。

 

 しかし、その反面、彼らはその姿に何か別のものを感じていた。

とはいえ、今の彼らにそれが理解できるはずもなく、ただひたすらその光景を見つめるだけしか出来なかった。

 

「さて、と。流石は『石の守護者(ガーゴイル)』だ。生命力に満ち溢れてやがる。かなり上物なんだろうが、いかんせんしぶとすぎるな」

 

『それなら必死に守っている首級(くび)を取りましょう。流石にそこを断たれれば終わるかと』

 

「ああ、そうだな。そうするか」

 

終いだと宣告し、彼はブレードライフルを上段に構えた。

 

「あれは————」

 

 その構えに黒髪の男子生徒が何かに気がついた。

 だが、その答えを出すより速く、彼は駆けた。重い得物であるブレードライフルを片手で持ち、フィーを上回る程の速度で駆ける。

その姿はやはり獰猛な獣なのだろう。彼自身もよく理解しているし、彼女自身もよく理解していた。

 

 だからこそだろうか、その姿は獰猛な獣であって———そうではない。

 

「死ぬ気でついてこいよ、ボロ雑巾。死にたくねぇならなァッ!」

 

 殺意。フィーのものとは比較にならない濃密で凍えるようなそれは瞬時に放たれ、周囲一帯の気温を一瞬で下げたかのように感じさせた。誰もがその場に縫い付けられ、ただ恐怖が呼吸を忘れさせた。

 本能が叫ぶ。ここにいるのは危険だ。そこに立っている奴は本当にただの人間ではないと告げている。アレが人外というわけではない。

 

 

 

 

 だが———本当に、あそこにいるのは齢通りの人間なのか?

 

 

 

 

 

「おいおい足が止まってるぜ? その程度で墜ちるか? なら———精々ド派手に死に晒せぇぇぇえええッ!」

 

 狂気狂乱。歓喜の咆哮をあげる獰猛な獣。それは縦横無尽に大広間を駆け回り、僅かな隙を着実に狙う暗殺者のようでもあった。

僅かに遅れた『石の守護者(エモノ)』の死角から攻め上がり、防御せんと動いた部位を噛み千切るが如く斬り落とし、次々と防御手段を減らし弱らせていく。

 

 僅かな交錯。片手で数えられる程度のうちに『石の守護者(ガーゴイル)』は両翼を失い、全ての脚を失い、地を這うだけの芋虫と化していた。

 

「暇潰しにはよかったぜ? ただこの程度じゃ足りねぇな。邂逅()があるなら期待してやる」

 

 告げるや否やブレードライフルは躊躇いもなく、地に伏したそれの首を斬り落とした。ゴロリと落ちた首は少しの間そこにあったが、その後すぐに、残った身体と共に爆散し消え去った。

 

 沈黙が広がる。それは驚愕からくるものか恐怖からくるものか。とはいえ、相手の心境を理解してしまえる訳ではない。本当の答えは分からないだろうがしかし。確実に言えることは接し方が最初とは違うことになるだろう。

 ———ああ、それを俺達は待っていた。残るはあと一石を投じるだけ。それで今後は楽に進めることが出来るに違いないのだから。

 

 

「———はいそこまで。各々課題はあるでしょうが、お疲れ様。特別オリエンテーリングはこれにて終了よ」

 

 

 そう、最後の一石は自分達の思惑とは違う場所から投じられてしまった。夢を見ているような心地でいた一同は、この一言で現実へと帰還する。いや、元から現実ではあった。ただ常識なんのそのという光景を見ていたことで現実なのかを認識しにくくなっていただけなのだ。

 だからこそ、この瞬間を好機と捉えていたソラ達からすれば、今の行動は布石を全て踏み躙られたに等しくあった。

 

「サラ・バレスタイン、テメェ……」

 

「何よ。生徒達に終了を知らせちゃダメな理由なんてないでしょう。文句あるなら請け負うわよ?」

 

「———いや、もういい。まだ手はある」

 

 ここで突っかかるほど愚かじゃないとソラは大人しく引き下がる。向こうがこちらの思惑を知っているかはさておくとして、邪魔の一つはしておきたかったのかもしれない。

 わざとらしく溜息を大きく吐くと、そっと瞳を伏せ、小さく呟く。

 

「アルティナ、もう大丈夫だ。出てくれても構わない」

 

『そのようですね』

 

 姿見えぬアルティナからの返答が大広間にいる全員へと伝わり、唯一事情を知るソラ以外にまた疑問符を浮かばせた。

 しかし、その疑問はすぐに確かな答えへと変わる。ソラの背中辺りだろうか? その辺りから亡霊のような何かが姿を見せ、少しずつ形作っている。完成した形は———人間そのもの。そこから半透明なそれに色と質感が戻り、漸くそこでそれがアルティナ・オライオンだと気がついた。実体を取り戻したように見える彼女が、ソラの背中から切り離されたように近くの地面に着地し、伏せた瞳を開く。

 

「お騒がせしました、皆さん」

 

『今のなに!?』

 

 何がどうしてそうなったのか分からないと本心から疑問に思う一同に、ソラ達二人はその対応こそが分からないと首を傾げる。二人との認識の違いに戸惑いつつも、何とか教えてもらえないだろうかと考えていた数名に対し、それを先読みしたのか、或いは忠告するつもりなのかは不明だがソラは告げた。

 

「さっきのヤツについては教えねぇぞ。漏れる口は少ない方がいいしな。正直な話すれば、テメェら纏めて信用ならねぇんだよ」

 

『なっ……!?』

 

 驚愕、そして怒りが湧き上がる数名。

 だが、告げた本人は何の後悔も謝罪もなく、遠慮なく続けた。

 

「俺達は遊びに来た訳でもお友達ごっこしに来た訳じゃねぇんでな。用事でもなけりゃあこんな所に日向ぼっこしに来る訳ねぇよ」

 

「あ、貴方ね……!」

 

「あーはいはい。そういうのはあとにしなさい。こっちにもやらなきゃいけないことあるんだから」

 

 金髪の女子生徒がソラの挑発に受けて立とうとした所で、サラがその場を一度諌めた。一度引き下がった様子からして、教官である彼女の前で荒事を立てるのは控えたいのだと分かると、ここからすぐに退散する算段だけは整えることにした。

 

「んじゃ、さっさとこのクラス分けの説明とかしろよ教官。こっちはもう眠いんだよ。一眠りする前にアルティナと試合っておきたいんだが」

 

「言われなくてもやるわよ。

 ……まず途中まで効力を発揮していたあの感覚———それが『ARUCS』の真価、〝戦術リンク〟よ。尤も、今回は何らかの()()()()で途中までになってしまったみたいだけど」

 

 原因をわかっていて敢えて言及しない。

 だが、次同じことはしないようにと釘を刺していることは明白だ。事故を引き起こす前まで来てしまったのは自分のせいであることぐらい、ソラ自身が分かっていた。二度とする訳ねぇだろ、とサラにだけ分かるように軽くハンドサインで示し、向こうが理解したのか、話は次に進む。

 

「そこの馬鹿の都合も考えて「おいコラちょっと待てや。アル中に言われたくねぇよ」うっさいわね、それぐらい無視しなさい! ……コホン、本来長めに取るはずだった話を巻くけど、このクラスは強制ではないわ。勿論、本来入るはずだったクラスに編入もできる。今からなら問題なく馴染めるはずよ。

 その上で———この場で答えを聞かせて欲しいの。この《特科クラスVII組》でやっていくのか、元々振り分けられるはずだったクラスにいくのか。選択権は君達にある」

 

 投げかけられた問いに半ば呆れつつも、ソラとアルティナは先陣を切る。元々ここに入ることがアイツからの———《鉄血宰相(ギリアス・オズボーン)》からの要請(オーダー)なのだから。

 

 

 

「ソラスハルト・アナテマコード。一身上の都合で参加する」

 

「同じく、アルティナ・オライオン。参加を表明します」

 

 

 

 二人の参加表明に周囲に困惑の波紋が広がった。先程日向ぼっこしに来た訳ではないと告げたばかりではないかと。

 しかし、それに対し、ソラはいつのまにか会得していた技量で一同に一言添えた。

 

「お? まさか俺達と一緒のクラスだと嫌だとか醜態晒すの隠せないとかそんなこと考えてたりしてたのか? おいおい冗談だろ。どうせどいつもこいつも得物持てばそれなりの面構えしてんのに、まさかこの程度でビビってたりしねぇよなぁ? ……おっとすまない失言だった」

 

『こいつ、かなり嫌なヤツだァァァァァ!』

 

 何の躊躇いもなく煽られた一同がソラに向けて堂々と叫ぶ中、当の本人はケラケラと笑いながら各々の反応を楽しもうと続けて煽ろうと口を開く。

 

「そんなことにすら気付け———」

 

「———ソラさん」

 

「ごめんなさい許してください」

 

 その最中、ピシャリとアルティナはソラの言葉を切る。普段よりも低音で微かに洩らしたアルティナの殺気に、覚えがあるソラは反射的に土下座へ移行する。

 その光景に煽られた一同はキョトンとし、喉元まで来ていた罵倒の一つや二つが霧散した。

 

「サラ教官、続きを。私達は話があるのでここで失礼します」

 

「本来なら認めないんだけど……いいわ。()()()()()()()()

 

「ええ、()()()()()()()()()()()()

 

 お互いに何処か引っかかりのある言い方を残し、サラがその場に残り続けているのを確認したのち、アルティナはソラの手を握り強引に引き摺っていく。少しわざとなのか力が強い気がしたが、変に口を挟むとロクなことがないと分かっているソラはなされるがままにしていた。

 

 それから少し経ち、旧校舎を出たところで漸くアルティナは手を離し、ソラの方へと向き直る。

 

「ソラさん。私が何を言いたいか、分かりますか?」

 

「無駄に喧嘩売るな、だろ?」

 

「それも言いたいことの一つです。ですが、それ以上に言いたいことが二つほどあります」

 

「……ああ、何となくだが察しはついてる。言わなくてもいい。俺自身が分かっていて避けようとしているのは」

 

 いつも元気そうな表情にいつか見た仄暗いまでの影が差す。その顔を見る度にアルティナもまた《心》の何処かで痛みを抱える。

 馬鹿な話だ。彼にそういう顔をさせてしまうのは常に誰のせいなのか。いつもこうやってその手の話を振ってしまい、彼の触れられたなくない一端に触れてしまうのは誰か。彼の気持ちを他ならぬアルティナ・オライオンが最も知っているはずなのに、と。

 いつもそうして失言し、今もこうして気不味くしてしまう。今日も朝早くからそうしてしまったのを忘れたのかと自身に刻み付けるように繰り返す。

 

「……すみません。度重なる失言をしてしまいました」

 

「……いや、お前は悪くない。悪いのは常に俺だ。だから謝らなくていい。正直な話、朝もお前に謝らせてしまったのは俺のせいだ。気にしないでくれ」

 

「……分かりました。では、もう一つの方———本題の話をさせてください」

 

 先程までの話を終了し、アルティナはもう一つの話———曰く本題について語ろうとする。対してソラはまた同じような話をされるのではないかと内心何処かで声にならない痛みを覚えていた。

 

「……おいおいまさかまたそういう話するんじゃねぇよなお前。流石にそれされると精神的に「アップルパイの方、キチンと守ってください」は? ああ成程———そっちかよテメェ! 突然の爆弾投下はあの人だけで十分だいい加減にしろ!」

 

 結論、アルティナはやはりアルティナだった。

 精神的に疲れる話は何度もしないと笑い話の一つを投げ込んでくる辺りは流石なのだろうが、こちらは肉体的に疲れる話であることには違いない。ジャブがどちらから放たれるかの違いでしかない。

 とはいえ———

 

「アップルパイ三個ですよ。忘れないでください」

 

「あーそー俺の話は無視って訳だな分かったよチクショウ! いつものことだな了解した! あーもう暗い顔してても楽しくねぇよな全くだ! アップルパイ三個、日を分けてキチンと作ってやるから安心しろ」

 

 半ばヤケクソ気味に吠えるソラに、アルティナは少し可笑しそうに頬を少し緩めて小さく微笑む。校内を歩くのには流石に物騒すぎるか、アルティナの軽口と毒舌に付き合いつつも、ソラは得物を黒塗りの大きなケースにしまい込んだ。

 

「それじゃ、取り敢えず先に学生寮帰っておくか。アルティナ、針金持ってるか?」

 

「はい、これですね」

 

「準備万端だな。んじゃまぁ、勝手に踏み込んでアップルパイ作るか。怒られたらお前も道連れなアルティナ」

 

「アップルパイ四個にしましょうか?」

 

「いやホントマジで勘弁してください少し冗談言いたかっただけなんですが。あのアルティナさん? マジで追加しないよね? ね?」

 

「手を抜いたら追加ですからね」

 

「よぉし! ソラさん死ぬ気で頑張っちゃうぞー!」

 

 

 

 

 

 こうして、漸く二人の学生生活は幕を開けた。

 しかし、それは同時に新たな時代の幕開けであることを、彼らは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 




前書きでかなり語り尽くしたのでこちらで書くことは少ないですが、一言だけ述べておきましょう。
現在プロットは閃の軌跡II前まで完成してます。これはIIIが出る前に基盤できてます。なので後出しとか辻褄合わせとか言われるのだけは我慢ならないので悪しからず。ぶっちゃけた話、二次創作って基本辻褄合わせよくあることだと思います。それを限界までそう思わせないのが技量なのですが、私はこの程度の素人なのでご助力賜りたいです助けてください

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