アルティナが可愛すぎて吐血しそうな天狼レインです。
いやホント、ミリアムよくやった。お前のお陰でアルティナの可愛い衣装を拝めた。
などとこれ以上語るとアルティナのことしか言えなくなりそうなので、ここで切るとしまして。
さて、まだ今さらな感じはしますが、特別オリエンテーリング編です。恐らく次回ぐらいでオリエンテーリングが終わると思います。
早く主人公の過去や大事なエピソード触りたい。
それでは、本編をどうぞ。
「んじゃ、行くか。アルティナ」
「はい。正直な話、朝が早かったので早く済ませましょう」
「そうだな。マジで眠い。あと、さっきお前を含む三人に止められたんで、軽く暴れたかった所なんだよ」
「丁度良かったですね。ついでに私を背負って貰ってもいいですか?」
「婉曲にオチる気だなテメェ。オチさせねぇぞ!? お前も自分の足で歩け」
「……チッ」
「おいコラしっかり舌打ち聞こえたぞ。テメェどうせ後でアップルパイ作らせる腹積もりだろうが。どうせなら腹減らしてから食った方が美味ぇだろ」
「仕方ありませんね。ソラさんだけに任せると後で目覚めが悪くなりますから」
「備品とか何もぶっ壊さねぇから安心しろ。あの人災共じゃねぇんだし」
片手で支える所か、16歳の体躯では持つことすら難しいだろうブレードライフル。それを何も苦もなく、軽く数回振り回し、風を切る感覚を何度か確かめた後、ソラは問題なさそうに担ぐ。
一方、その隣に立つアルティナもまた、二丁拳銃のマガジンを確認。同時に射撃機構に問題ないかをしっかり確認し、それをホルスターへとしまう。
この一連の動作は会話中に為されていたことだが、隣に立っているアルティナの位置は当然ブレードライフルが振り回されていた辺りにあった。
つまり、彼女はソラと会話しながら得物を確認し躱していたことに他ならない。
加えて、ソラもまた遠慮なく振り回していた為に、かなりの速度であったのは間違いないはずなのに、二人してさも当然かのようだった。
その光景にあんぐりと口を開けていた一同と、すでに知っていた者が一人。
しかし、二人が迷宮へと足を運び始めたことで、唖然としていた一同のうち一人が慌てて二人に声をかけた。
「ま、待ってくれ! まさか二人で行くつもりなのか!?」
「ん? そのつもりだが、どうかしたか?」
「この奥には魔獣がいると教官が言っていただろう。君や彼女の腕前なら苦でもないのかもしれないが、〝一応〟は考えないのか?」
「〝一応〟ですか? ……ソラさん、判断は任せますよ」
「お前絶対面倒臭くなっただろ。ったく仕方ねぇな……」
緑髪の男子生徒———何処かで見覚えのあるような気がするが、それは一先ず置いておこう。決して、口論に至るまでの経緯もどうでもいいから完全に無視していた訳ではない。
話を戻そう。彼が言っているのはつまるところ、『二人では心配だからみんなで行かないか?』と言うことだ。勝手な解釈かもしれないし、本当にそうなのかもしれない。
ただ、どちらにせよ、ソラからすれば、心底どうでも良い。ならば、返すべき答えはこれ以外に考えられなかった。
「悪いが、その〝一応〟を考えて、これが
成る可く面倒事を起こさず、且つ確実性があるだろう一答。これを以て、ソラは彼らと別行動を取ろうと動く。
「———待て」
————はずだったのだ。
「……何かまだ言いたいことがあるのか?」
面倒臭そうに視線を向けた先にいたのは、金髪の男子生徒。旧校舎一階で、先程善意の誘いをしてくれたであろう緑髪の男子生徒と何らかの口論をしていた片割れだということはソラにでも理解できた。
だが、問題はそこではなく、彼が声をかけたタイミング。気がつかれたか、とソラは内心で少し適当だったかと反省し、言いたいことは何かと訊ねた。
「貴様、先程こう言ったな。これが最適解だと判断したと。二人で行動することが、か?」
「ああ、それがどうかしたか?」
「フン、では聞こう。そこの男が少数だと心許ないと誘ったとはいえ、そこの男も加えた三人以上と二人の行動では最適解が後者だと?」
そう、思わぬ伏兵と言うべきか。ソラはのちによく知ることとなるユーシス・アルバレアの慧眼を少し舐めていた。
この言葉が、少しずつ気がついていなかった者達にある確信を抱かせ、まさかと思考に浮かんだ、たった一つの答えを抱かせた。
「貴様ーーよもや俺達
『なッ———!?』
決定的な一言に、ユーシスと三人を除いた一同の驚愕の声が重なった。
確かに俺達は一生徒でしかないだろう。
だが、特別オリエンテーリングという企画内で用意された魔獣如きに遅れを取るはずがない。そうだというのにそれすら足手纏いと判断したであろう一言を洩らしたソラは何を考えているのか。
一方、おおよそ考えも読めていたユーシスは、先程の一言でソラを囲み切ったと確信した。
あとは如何なる返答だろうと、隠せない一面が僅かでも見えてしまうだろう。
「……悪い、アルティナ。ドジった」
「ええ、見てましたよ。しっかりと。見事に足元掬われましたね。あとであの人に伝えておきます」
「おい馬鹿やめろ。あいつがそれ知ったらナチュラルに煽ってくるだろうが。おうお前何してんの? お前足元掬われやすいなプギャーって」
「助け舟出しませんよ?」
「アップルパイもう一個追加「報告しないであげます」よぉしッ!」
詰めに行ったユーシスを待っていたのは、ほのぼのとした交渉。恐らく自分達の知らない人物のことで話し合っているのだろうが、それに報告するかしないかをアップルパイで決めている光景には、流石のユーシスとはいえ、唖然としていた。
一方、交渉成立した二人は満足げに追い詰められた現実へと帰還。どうすっかなぁーと考えあぐねているソラに対して、アルティナはサービスですよと小さく呟き、状況をひっくり返すべく口火を切った。
「先程の問いを答える前に一言質問宜しいですか?」
「なんだ」
「先程二人で行くことが最適解と判断したこちらですが、貴方自身は一体
「フン、そんなことか。愚問だな」
「ええ、そうですね。何故なら貴方は———
「——————」
《心》の底まで読まれた不快感が全身を貫き、微かながらもユーシスは反応した。眉が少し動く程の反応ではあったため、本来なら気付きにくいはずだろう。
だが、それはアルティナ・オライオンには通じない。いくら僅かとは言え、反応したことが彼女にとっては状況を覆す手段と変わる。
「今少し眉が動きましたね? 私自身あまりこのような腹の探り合いは不得意なのですが、先程のような
手加減無用。だから全力で腹の底探ってこい。
口には出ない威圧感が少女から伝わり、余裕外の対応に少しばかり滅入ったものを覚えたユーシスは、このまま言葉を交えるという手段を一時的に放棄する。
「……成程。その男の代理という訳か」
「はい、そうなりますね。質問の方はどうされますか?」
「また後で聞かせてもらおう。今は優先して片付けなければならない用事が互いにある」
「分かりました。私達は自分達なりの手段で踏破させて頂きます」
「ああ。俺も俺なりの手段を取らせてもらおう」
いくらか満足したのか、手に握っていた騎士剣を腰に下げると、既に迷宮前に立っていた二人の横を通り過ぎる。
「———貴様のこともいずれ話してもらうぞ」
ソラの横を通り過ぎる数瞬。ユーシスは互いにのみ、聞こえる程度の声で確かにその言葉を口にした。
後々面倒な事になりそうだと溜息を吐きながらも、面白くなってきたと頰は緩んでいて
「———ああ。でも、口じゃなくて腕で吐かせてみろ。期待してやる」
凶悪な笑みを浮かべ、挑戦してこいと挑発し返した。彼がその場から立ち去ったのを見送った後、アルティナは他の者達の方へと向き直ると————
「私達は以前からツーマンセルでの行動をし続けていたので、人数を増やす訳にはいきません。決して、足手纏いだから……といった理由ではありませんよ」
それだけ補足すると一礼し、ソラの方へと向いた。
「さて。それじゃ、今度こそ行くとするか」
「はい。正直、そろそろ仮眠を取りたいのですが仕方ありません」
「おうそうだなオチるんじゃねぇぞ。お前オチられたら主に俺が大変でな。前にそれで後悔したの分かってんだろ」
「ソラさん」
「ん? どした?」
「後頭部に気をつけてくださいね」
「おいコラちょっと待て! お前何言ってんの? オチたい時にオチれないからって流石に腹癒せにしては酷すぎねぇか!?」
「腹いせではありませんよ。日頃の恨みです」
「ウッワァースッゴクウラマレテルゥー」
本日二度目だろう片言を口にして、ブレードライフルを担ぎ直す。先程は足を止めざるを得なかったが、流石にもう止める者はいない。漸く、自由に動けると安心したのも束の間、背後を振り返り、自分達を除いたメンバーの人数を数え直す。
「……アルティナ、警戒態勢」
「分かりました。迎撃は?」
「俺がする。手を出すなよ」
小さく頷き意思を読み取ったアルティナは、取り出しかけた二丁拳銃をホルスターへとしまい、ソラの隣を立つ。
「それじゃ、お前らも適当に頑張れよ」
「ああ、そっちも怪我だけは気をつけてくれ」
黒髪の男子生徒の忠告を一応聞き届け、二人は迷宮へと足を運んだ。
最初の曲がり角を曲がり、後方に彼らが見当たらなくなったのを感じ取ると、二人はまず予想外の動きを取る。
「行くぞ、アルティナ」
「はい」
助走もなく、いきなり壁へと二人は駆け出す。
本来ならば、回り込む必要があった場所を壁を駆けることで省き、次々に要所要所を踏破する。途中ユーシスらしき人物が見えたが、彼はこの異常な光景に気がつくことなく、自らの歩みを進めているのだろう。
そんなことを微かに考えながら、二人は漸く足を止めた。
「中々広い場所があったもんだ。ここなら問題ねぇな」
「完全に用意されたルートからは離れたのは言うまでもありませんね」
「破天荒だからな」
「馬鹿なだけですね」
「相棒が辛辣すぎて涙が出そうなんだが」
「ハンカチも貸しませんよ?」
「〝も〟って言ってる辺り、ホント容赦ねぇ。何も貸さねぇつってるのと変わんねぇって分かって言ってるよなお前」
「これでも手加減していますよ」
「いやホントもうどうしてこうなった」
「原因を列挙できますが、最初から挙げていきましょうか?」
「どうせ大半が俺なんだろ分かってますよーだ」
そんなに俺が原因なことあったっけなぁーと思考を巡らせる。該当項目が少ない訳ではない。むしろ多いと自分でも思うのだが、内容がそこまで大したことではない為に、もっと洒落にならないことをしでかしたあの人災共の方が傍迷惑なのではないかと責任転嫁する。
もっともそれが身内である為に関係ないとは言い切れないのが玉に瑕であり、ここ数年では何故あれと身内のような関係なのかを考える度に溜息しか出なくなってきた。今にでも胃腸薬を飲みたい。
「……アルティナ、
「分かっています」
直後、周囲一帯を眩い閃光が蹂躙する。
各国軍隊及び猟兵団が基本として扱う、時に制圧用、時に逆転の切り札となる代物———〝閃光手榴弾〟。俗にフラッシュグレネードなどと呼ばれるそれが突然炸裂した。
本来ならばこの時点で目を派手に焼かれ、暫く地面に蹲り悶絶でもしていただろう。魔獣ですら時に気絶しかねない程の閃光など、何処までフォローしようが有害でしかない。
閃光が炸裂し誤差数秒、その辺りで襲撃者は二人を———いや、ソラだけに襲いかかっていた。あくまで狙いはお前だとばかりに真っ直ぐな動き。本来ならば見切れるであろう一撃も、閃光で目を焼かれていれば確かに見切れまい。第六感とかいう反則級の感覚があれば、当然ながら話は別だ。ソラにそれがあるか無いかは兎も角として。
しかし、悲しいかな。それはあくまで目にしてしまった場合に限る話でしかないのだ。
「甘ぇよ。その程度で俺を仕留められるとでも思ってんのか?」
「———カハッ!?」
呆れたような声とは別に、声にもならない短い悲鳴が、弱まったとはいえ周囲一帯を明るくしていた閃光の中から響いた。
恐らくボールのように転がっているだろう襲撃者を蹴り飛ばした感覚はキチンと足にあった。あの様子からだとあそこまでの反撃を返されることを予想していなかったなと相手の未熟さを覚え、ソラは背中に背負ったブレードライフルを構えた。
「さあ、かかってこい《
「……言われ、なくてもッ!」
短く、しっかりとした殺意の返答。瞬いた閃光は既に弱り切り、周囲一帯に色が戻る。薄暗く地下に相応しい景色が戻りつつある中、襲撃者の姿は認識が及ぶ程にハッキリした。
特別髪に気を使った訳ではないだろうが、それでも猟兵にしては丁寧な銀色の短髪。今は殺気に満ち溢れ、眠気
「世間ってのは狭ぇな。どうしてこうも見慣れた顔が多いのやら……」
「……お陰で今度こそ殺しに行けることには感謝してる」
「ハッ! 腹抱えて笑ってもいいか? そのジョーク」
「冗談のつもりは……ないッ!」
「いいや、冗談だ。テメェじゃまだ俺の
迫り来るのは致命傷狙いの斬撃。耐えず隙を伺って振るわれる
だが、その斬撃は未だに一つ足りとも届いていなかった。
「攻めが単調だ。気をつけてるつもりだろうがパターン化してきている。ンなもんで殺せると思ってんのか? 笑わせんな!」
「ッ!? ———ぐぅっ!?」
銀髪の少女が繰り出していた致命傷狙いの斬撃。それらは本来なら懐に入り込まれやすい筈の大振りの得物であるブレードライフルによって、苦もなく受け止めいなされ弾かれていた。
何処までも防がれた斬撃は当然隙を生み続け、それを見逃すソラではなく、反撃とばかりに鳩尾を含めた数カ所をその度に蹴り飛ばされる。
「馬鹿かテメェ。致命傷与えればそれで私の勝ちとでも思ってんのか? 阿呆が。最初の閃光しくじった時点でその手が効かねぇと何故理解できねぇ」
「……うる、さいッ……!」
痛みを無理矢理無視して、少女は強く得物を握り締めた。殺意は鋭く研ぎ澄まされ、殺したいという気持ちはよく伝わってくる。
だが、殺意だけで相手を殺せる訳ではない。むしろ殺意は例外を除いて隠した方が確実性が高いのだ。殺されると思っていない時ほど、殺害対象は隙だらけなのだから。
そんな思惑とは裏腹に、悲しいかな。
当の少女は懲りずに真っ直ぐ突っ込んできていた。あれでは躱してくれ、受け止めてくれと言わんばかりに隙が多すぎる。致命傷狙いの一撃を弾き返せば、隙だらけの懐をこれでもかと叩き斬れるだろう。
刻一刻と致命傷狙いの刃が迫る。殺意塗れにしては、武器の構え方から振るい方まで真っ直ぐで、とてもそうには見えない。全くもって惜しいと思う。殺意を隠す技能さえあれば、更に磨きがかかることだろう。とはいえ、そうなってくると暗殺者の領域がすぐそこまで来ているのだが、その辺りは本職に任せるしかない。
とはいえ、今するべきことは———
「なあ、それさ———わざとだろ?」
「———ッ!?」
直後、僅かに少女の意識が反れた。鋭く尖っていた殺気が僅かに霞み、それに比例するように致命傷狙いの一撃が僅かに揺らいだ。コンマ数秒の誤差でしか無かった回避のタイミングが、先程の行為により一秒より多くは長くなった。
つまり、それは当然ながら回避が容易くなったことを表していて————
「———青いな。だからお前は俺にも勝てない」
僅かに下がり、ブレードライフルを大振りに振っても直撃する位置へ。決して
「
ブレードライフルの側面部。叩き斬る訳ではなく防御する際に使う側が不意に不思議な光を纏って、少女に直撃した。巨大な得物に叩きつけられれば、当然、吹き飛ばされる。それは間違ってもいないし、変わっていない。
ただ、変わっているのは————
「ガッ———ごふッ!?」
直撃の直後、吹き飛ばされた少女は先程までいた所から、全力で投げられたボールのように吹き飛び、かなり後ろにあったはずの壁に衝突。衝突した壁は円形に凹み、その衝撃を背中から全身に伝え、血を吐いて冷たい地面に沈んだ。
「……ったく。あんまり使いたくねぇんだよ加減できねぇから」
嘆息。そして呆れたようにソラは倒れた少女を見た。
確かに執念や殺気は凄いものだ。今後も狙われる可能性も高い。しかし、取り敢えず今だけはこれ以上余計なことはしないだろう。流石に壁に思いっきり衝突して血を吐いたのに立ち上がって殺しに来られたら手加減もクソもない。
今起きているかさえ確認するのが億劫なのか、最後の抵抗で斬られたくないのか。兎も角、ソラは少女に繰り返し告げた。
「重ねて言うぞ。お前じゃ俺にすら勝てない。一人で飛び立てない雛の分際で弁えろ。その翼じゃ何処にも行けねぇよ」
残酷に、底冷えするような声音で現実を突きつける。あくまで自分は登竜門の一角でしかない。だから俺すら超えられないお前では、これから先を勝てはしないと。
それを聞いているか聞いていないかはさておくとして、ソラは毒を吐いた後、ブレードライフルを背負った。
それからアルティナの側にまで足を運ぶーー最中、少し気絶した少女を一瞥し、少し気を散らしていた。
「……さて、行くかアルティナ」
「ええ。ですが、一言忠告です」
「ん?」
「先程の一撃で背中を強く打ち付けてます。打撲はしていると見てもよろしいのでは?」
「………………マジで? いやまぁそんな気はしてたんだが……マジで?」
「今嘘つく必要ありますか?」
「………………アルティナさん、手当てお願いします」
「……貴方は本当に馬鹿ですね」
「そんな目で見ないで貰えませんかねぇ……」
「ん」
「へ? 指一本立ててどうした? 《クラウ=ソラス》みたくビームでも出るようにな———ぎィやァァァァァァ目がァァァァァァ!!!」
「アップルパイ一個追加と言っているんです」
「いやそれで通じる訳ねぇだろ! 普通金品請求かビーム準備にしか思えねぇよ! あと目潰しはヤメロォッ!? マジで失明するわ!」
「普通はビーム準備なんて考えませんよ馬鹿ですか。金品請求ではなくアップルパイ一個追加で済ませる時点で手加減しているとは思わないんですか?」
「テメェあれどれだけ苦労して作ってんのか知ってんのかアァン!?」
「それで済むなら安上がりでしょう。何ならあと一個さらに追加しましょうか?」
「すみませんマジすみません許してつかあさい」
無慈悲にもアップルパイ一個追加で合計二個。本来ならそれで済むなら安上がりだろうと思うだろうが、アルティナが好物のそれは当然腕に縒りをかけて作った逸品であるため、一個作るだけで結構な時間をかけたりしているため、二個ともなれば、同時進行でもかなりの時間が予想された。ハッキリ言ってかなり大変である。
気絶しているだろう少女の手当てをするため、彼女の制服を緩めていくアルティナに、ソラは背を向けながら懇願する。
「なぁ……一個減らして———「却下」デスヨネェー」
「そもそもソラさんがあそこで
「ほら、起きてたら何度も襲撃してくるだろ? どう考えても邪魔だと思うんだが……」
「それで何度も怪我させていたらキリがないでしょう。特に今回みたいに背中を強く強打していれば、最悪脊髄に影響を及ぼす可能性がないとは言えません。自重してください」
「アッハイ」
「今は『ARUCS』に対応するクォーツがないんです。『ティア』すら使えないことを理解してください」
「……分かった。それで、そいつの怪我はどの程度だ?」
「本人も途中で軽減しようと動いたのか軽い打撲で済んでいます。とはいえ、万全の状態ではないので目が覚めたら余計に恨まれると思いますよ。本来の機動力を損なっていますから」
「なぁ……学院生活してる最中に襲撃とかされねぇよな?」
「表向きは殺気を向けられる程度で済むと思います。当然、人目がつかなくなれば……」
「そりゃ襲ってくるに決まってるな。俺ならもう少し気を使ったりして油断させるが」
「貴方のは、あの人仕込みの容赦のない暗殺技術なので比べないであげますか?」
「分かってて言った。反省もしないし後悔もしない」
「アップルパイさらに一個追加」
「テメェここぞとばかりに増やすんじゃねぇ! 糖分取りすぎだ太るぞ!」
「普段貴方の代わりに頭を動かしたり、事後処理を担当してストレス溜まってるんですから少しぐらい融通利かせて悪いですか?」
「だぁー! 分かった分かった! 三個ぐらい作ってやらァッ! でも日は分けろ! 一日に三個は流石に糖分取りすぎだ! それだけは断じて認めねぇからな!」
半ばヤケクソ気味にやる気を出したソラに、手当てをしながらアルティナは無意識のうちに小さく口角があがった。
「……ソラさんが本当は優しい人なのは分かってますよ」
小さく彼には聞こえないようにそっと呟く。
アップルパイを三個作ってくれることではない。それを日に分けて食べろと言ったことはただ甘いだけ。
彼が優しいというのは、手当てをしてやってほしいと心の底から言えたことだ。半ば誘導した形ではあったにせよ、それでも本来なら自分の命を狙う敵の手当てなど望むはずもない。
いくらそこに実力差があり、相手が万全でも勝てると言えども、不安要素は取り除くに限るはずだ。
けれど、彼は放置するどころか手当てをすることを許した。彼は自分は優しいという言葉から縁遠く、烏滸がましい人間だと告げた。
私はそうは思わないとアルティナは心の中で思う。今ここに私がいることも、全て彼の優しさが招いた結果なのも分かっているから———
「手当て終わりましたよ、ソラさん」
「そうか。それじゃ今度こそ行くか。出口から結構遠い場所まで来ちまったからなぁー」
「考えなしですか貴方は」
「考えなしじゃねぇよ! お陰で乱入してくる奴いなかっただろうが!」
「じゃあ、あれは何ですか?」
「ん? あれってどれのこ……と?」
チラリとそちらに視線を向ける。
そこにいたのは、これでもかと所狭しと集った魔獣の群れ。コインビートルだのドローメだの、何やらたくさんいるのが目に見えた。
あまり洩らしていたつもりはなかったのだが、闘気や殺気に当てられて集まってきたのだろうか。前者は兎も角、後者は俺の責任ではないとソラは責任転嫁する。
「なぁ、もしかしてアイツら襲いかかる気満々じゃねぇよな?」
「むしろそれ以外に何かあると思いますか?」
「……魔獣達の集い?」
「魔獣達もパーティーすると思っているんですか?」
「ちょっと思いかけてる」
「馬鹿ですか」
「デスヨネェー。うわーメンドクセェ」
小うるさい程に囀るコインビートル。
周囲一帯に自らの体液や仲間を集わせ距離を詰めるドローメ。
ふわふわと浮きつつも攻撃する意思が垣間見える飛び猫。
エトセエトセと他にも何種かいるが、詰まる所、烏合の衆が徒党を組んでかかってきそうだということに他ならない。別にこれらを撃退、或いは殺戮し尽くすのにソラ一人で事足りるには相違ない。とはいえ、一応はとアルティナに向き直る。
「援護とかしてくれたりは———」
「全くしませんよ。大軍相手に無双したかったんですよね? 丁度良いじゃないですか。今がその時ですよ、ソラさん」
「………………アルティナが冷たい」
「そう思うなら少しは言動を改めてください。今もそうです。私は冷たくありません。貴方の言動を尊重しているだけです」
「じゃあ援護してくださいって頼んだらしてくれたりするのか?」
「言葉より行動ですね。アップルパイを一個でも食べた訳ではありませんから」
「結局援護すらしてくれない訳ね。分かった分かった……取り敢えず———
獰猛なまでに飢餓感に蝕まれた“何か”が鎌首を擡げた。周囲一帯を凍りつかせるような殺気が一瞬放たれ、僅かな時間、有象無象を縫い付けた。ほんの僅かな時間だ。
だが、それは魔獣達の運命を決めた。
「——————
底冷えするような低い声音と共に魔獣達の大半が宙を舞う。舞ったそれらは頭部、胴体、脚部エトセエトセとバラバラに千切れ跳び、吹き出した体液が周囲を汚す。これで大半。残り大半は即死を免れた。
そう、即死を免れただけだ。小さく切り傷がついていたらしき魔獣は遅れて体液を全身から噴き出しながら絶命する。
次々と断末魔をあげ絶命していく同類、或いは徒党を組んだ同胞。それらを見て魔獣が逃げ出さずにいられるだろうか? 突然の絶命が連鎖すれば、人間ですら流石に正気を保てはしない。
結果、それらは次々と逃亡を開始して———
「———何処へ行く?」
気がつけば回り込んでいた死神の声に全身を硬直させ、その隙が仇となり、首が飛んだ。
そして、残り大半であったその数も、最早残り数匹というところまで減り続け———束ねた糸がプチンと切れたように全滅した。
大きく一振りしたブレードライフルを地面に突き立て、静かに殺気と闘気を解く。
「……ふぅ。そこそこ楽しめたかな。とはいえ、こうも大したことがない奴ばかりと腕が鈍りそうだな。アルティナ、あとで軽く試合って貰えるか?」
「分かりました。東トリスタ街道でどうでしょうか?」
「ああ、助かる。ところで、そいつはそこに寝かせておくのか?」
「その予定でしたが、先程のを見る限り、そうする訳にもいきませんね。ソラさん、背負ってあげてください」
「……は? 俺が? いやいやなんで俺なんだよ。俺さっきも命狙われてんのに背中晒すとか馬鹿のすることだろうが!」
「手加減できない貴方も大概馬鹿ですよ」
「は、反論できねぇ……」
「ほら、早く背負って……いや抱えてあげてください。流石にブレードライフルを背負った背中は寝心地が悪いでしょう」
「分かったよ。意識戻ったらすぐに教えろよ。狸寝入りされて急所なんざ刺されたくねぇからな」
「ええ、流石に教えますよ。アップルパイの約束ありますからね」
「俺の価値はアップルパイと同等ですかそうですか」
わざとらしく大きめに溜息を吐き、ソラは襲撃者の少女を抱きかかえた。殺意や憎悪に歪んだ顔ではなく、年相応の少女の顔に勿体無いと思いながら。
「それじゃ、今度こそ行くぞ。早く外出て試合たいからな」
「そうですね。私もアップルパイ食べる前に運動しておきたいので」
スタートの落下地点から正規ルートを離れた現在地。開始数十分ほどの遅れを以て、漸く二人の特別オリエンテーリングが開始した。
さて、存分に語るとしますね。
アルティナ可愛いです(直球)。声優が種田さんでなくなったので違和感を感じていますが。
とはいえ、前書きで語ったようにゲオ特典のアレの破壊力は凄まじいです。
リモートvita機能のお陰で自室でやれてますが、流石に親や友人の前ではキツいですね。まぁ開き直るのも悪くはないですが。
兎も角、この作品はアルティナ可愛いよ人という同士を募ってしまう感じですが、これからもよろしくお願いします。それでは、次回。