東方始天神   作:永夜 報

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 お久しぶりです!お待たせしました、活動再開です!

 これからも不定期で小説を投稿させていただきます!




18話  動き出す時間

「なるほど………須臾と永遠ですか………」

 

 神琉が自分の知っている蓬莱山の情報を全てツクヨミに話すと、何やらツクヨミは頷いて笑った。

 

「個人的には時間の遅延、加速、停止の全てを操れる人材のほうが欲しかったのですが、十分です。まあ、なんでそれを父さんが知っているのかがもっと気になったりはしますが………須臾と永遠ならほとんど同じ……いや、おそらくそれ以上のことが出来るはずです。例えば………」

 

「………何だよ?」

 

 彼がそういうと、ツクヨミの笑いは不敵なものから、苦笑いなようなものに変わった。

 

 考えてないのかよ。やっぱりちょっとおバカなツクヨミだった。てか、そもそもまだ生まれてないってのに気が早いんじゃないか?二人が机を挟んで互いに話していると、扉にノックの音、そして永琳の声がした。

 

「失礼します、先日の書類の件についての修正がありました。訂正の書類をお渡しします」

 

 どうやら、今ツクヨミが持っている書類にミスがあったようだ。彼女がミスするのは珍しい。

しかし、そういって書類を交換しようとする永琳をツクヨミは片手をあげて止めた。

永琳は少し目を丸くして驚く、がツクヨミはもっと永琳が驚くようなことを言った。

 

「大丈夫です、永琳。一番欲しい情報は今、受け取ることができました。それで、ひとつ頼みが出来たのですが………」

 

 頼み?今度は、何を思いついたんだと神琉が訝しむ。

 

 ツクヨミは一応、『頼み』と言っているがまったく有無を言わせぬ口調で断ることなど許さない。ただ、永琳だし断るという選択肢はないだろう。

 

 事実永琳は膝をつき、すでに命令を聞く姿勢、ひいては実行する姿勢に移っている。

 

「ツクヨミ様、頼みとは?」

 

 ツクヨミは頬杖をついて答える。永琳との差が浮き彫りだ。勿論無駄に生真面目なのが永琳。自分から頼んでおいて適当なのがツクヨミ。

 

「あ、高天原に行ってきてください。そこの父さんと一緒に。目的は父さんから聞いておいてください」

 

 …………ふーむ。俺も行くことになっているのか?別に忙しいわけでもないし、むしろ行きたいとは思っていたのだが。許可も何も取らないのはどうかと思うんだぜ?神琉がそういうと、ツクヨミは口をとがらせて、

 

「……すみませんね、父さん。でもどうせ行くつもりだったでしょう?行くなって言っても」

 

 と言った。よく分かってるじゃないか。俺は何にも縛られないのだよ、と神琉は内心で笑った。

神琉は立ち上がって、永琳に話しかける。

 

「じゃ、永琳。行こうぜ」

 

「ええ、高天原なんて数百年ぶりかしら……」

 

 永琳の表情は、何かを懐かしむようなものだ。でも、永琳が高天原で過ごしていた時間なんて大したもんじゃないと思うが……。いや。俺の時間感覚がおかしいのかな?彼はそう考える。彼の時間感覚がおかしいのは事実である。

 

 しかし永琳は何を勘違いしているのか?

 

「おいおい、なんで高天原に行くことになってるんだ?」

 

 永琳は彼のその発言に首をかしげる。

 

「え?なら他にどこに行くの?」

 

 永琳、お前は天才じゃあないのか!?なんで気づかないんだよ、おい!今から高天原に『遠足』に行くんだぞ、

と神琉が叫んでいる。

 

「いえ、遠足じゃないです……」

 

 ツクヨミが小さな声で反論するが神琉の耳には届かない。今の彼に言葉を届かせるのは不可能に通じるだろう。端的に彼の耳は今、「都合のいい耳」である。

 

「遠足、だ!で、遠足と言えばなんだ、永琳!?」

 

 彼はおそらく永琳には意図の読めない問いを掛ける。永琳は、曖昧に「さあ……」と笑った。同じ問いをツクヨミにも投げかけたが、同じような反応だった。

 

 神琉は肩をすくめて言う。

 

「お前らがそこまで馬鹿だったなんてな……こんな簡単なことにも気づかないなんて……」

 

 大げさに芝居がかった動きは、見ている二人の精神を苛立たせた。まあ、もはや嘲笑と言っても過言ではない笑みをその顔に浮かべて、ついでにジェスチャーまでつけているので当たり前と言えば当たり前だが。

 

 そして彼は口を開いた。

 

「遠足だぞ!?遠足だぞ!?遠足にはおやつが必須だろ!?」

 

 数秒後、そこには永琳に爆薬を投げられまるでぼろ雑巾になった始神と、いえ、だから遠足じゃないですって、とつぶやく月神がそこにいた。

 

 

 

 

 何かに横たわっている感覚。目を開けると灰色のコンクリート……のような何かが目に入った。つまり俺は地面に寝っ転がってるってわけだ。

 

「ああ、痛ぇ……何も、よく分からない爆発する薬物を投げつけることはないじゃないか」

 

 あの後、俺の意識は数分刈り取られたのだろう。で、気づいたら建物の外に放り出されていた。爆弾の所為で身体の節々が痛い。俺をこんな状態にした張本人を探すため体を起こし、辺りを見回す。

 

「調子はどう?いえ、体の方じゃなくておかしなことを抜かすあなたの頭の方ね」

 

 後ろから声がかかる。振り向くとそこには超危険薬剤師こと、八意永琳が立っていた。失礼な!俺の頭は全くもって正常だ!

 永琳は俺の身体を見回して言う。

 

「ふむ……身体に異常は無し、精神面は言わずもがな、ね。良好かしら?」

 

「俺は健康について全く無縁なので知らん……って、言わずもがなってなんだよ!馬鹿にしてるだろ!」 

 

 俺の叫びを聞いて、永琳は鼻で笑ってこう言った。

 

「馬鹿にはしてないわ、ただ貶しただけよ」

 

 もっと酷いじゃないか!俺は心の中で全力で叫ぶ。しかし、永琳に心を読む能力は無いので聞き取ることはできない。なので、彼女は俺にこう言った。

 

「で。さっさと高天原に行ってやることを済ませてしまった方がいいような気がするのだけど?私はこんなところで無駄話をすることが有益だとは思わないわ」

 

 永琳の冷たく、そしてまるっきり正論なその言葉。俺はそれを聞いて少し考え込む。いや、考え込むまでもないか。

 

「……じゃ、行くか。高天原。お前の言うとおりだ」

 

 俺には……違う。俺たちには今、目的がある。それを蹴飛ばしてまでこんなところで止まっている理由がない。

まあ、これはそれっぽい建前だ。本音は勿論、高天原に行った方が面白いだろ?ということだ。

 

 なんたって、神様がたくさんいるんだからさ!

 

 

 そう叫んで俺はチョコレートを口に放り込む。現代のものを持ってくることは終ぞ叶わなかったが、現代の複雑でない食物のようなものなら作り出せるようになったのは大きな進歩だろう。

 俺は永琳にチョコレートを差し出して聞く。

 

「食べる?」

 

 永琳は少し戸惑った後、俺の手の上にあるチョコレートをつまんで口に入れた。

そして数秒の咀嚼の後、感想を口にする。

 

「……甘いわね」

 

「おう!チョコレートだからな!」

 

 砂糖はたくさん入れた。

でも、神様でもチョコレートを食べることが分かってよかった。今度は別の菓子でも作ってみようかな?

 

 俺がそう考えていると、永琳が手を差し出して言う。

 

「もう一つ頂戴」

 

 俺はその手にチョコレートを置いてやる。まあ、二つ名「月の頭脳」だし糖分が必要なのかもね?

そして、永琳がチョコレートを口に入れようとする……が。

 

 ふと、何かに気づいたようでその手を止めて疑問の言葉を放つ。

 

「ねえ。高天原行くんじゃなかったっけ?」

 

「そういや、そうだったな」

 

 すっかり忘れていた。砂糖菓子はこういうことが起こるからあまり食べたくない。

 

 

 

 で。高天原についた。過程は省略させていただくが、別に面白いことはなかった。ていうか、ただ俺の能力で隙間開けて飛んでくるだけなんだけどね。

 

 今俺たちの前には、俺が最後に見た時と何も変わらない草原が広がっている。草原のその向こう側には何軒かの家も見えることからどうやら、かなり多くの神様が住んでいるようだ。ただ、今回探している奴は何処にいるのかさっぱり見当もつかない。そもそも存在しているのかな……?

 

 まあ、ここで二人で悩んでいたって何か有意義なことがあるわけでもないのでちらほらと家の見える方へと歩いていく。そっちの方ならたぶん適当な神様に話を聞くことが出来るだろう。

 

 居たら居た、居なかったら居なかったで俺はどうだっていいが、早く輝夜には会いたいし、もし輝夜じゃなくても輝夜の親とかならあってみたい。輝夜の親ってどういう能力なんだろうか?

 

 歩いていくと、一人の青年の神様が立っていた。かなりモブキャラっぽい見た目の。かなり暇してそうだ。彼に永琳は話しかける。

 

「ねえ、貴方?」

 

「はあ?」

 

 青年はいかにも暇している、という表情と気だるげな声でこちらを向く。が、永琳を見た瞬間真面目な表情になった。そして、一瞬で顔が赤くなり眼を瞬かせる。

 

 あ。こいつ、永琳に惚れたな。

 

 永琳は、俺たちの目的である蓬莱山家について質問しようとする。

 

「『蓬莱山』と、いう名前に心当たりは無……」

 

 だが、その答えは返ってこず。

 返ってきたのは、

 

「結婚してください!」

 

 そう、彼の好みど真ん中で無意識に契りをかわそうと言ってしまう、簡単にいうと一目惚れした彼の求婚の言葉だった。

 

 俺は、こみ上げてくる笑いをこらえて彼に言葉を投げかける。

 

「落ち着けよ、ほらまず深呼吸だ」

 

「一生ついていきます!どうか、結婚してください!」

 

 彼は、落ち着かないようだ。

 

「ね、ねぇ貴方? 私と……その……け、結婚したいって」

 

「マジです!」

 

「え……っと……あのぉ……」

 

 ダメだ笑いが止まらねぇ。いつも冷静な永琳がここまで狼狽えているのは本当におもしろい……ククッ。

面白いが話が進まないので、彼を小突いて説明させる。割と鈍い音がした気がするがあくまで小突いただけだ。

 

 どうやら彼によると、高天原の一番端っこにある丘の上の屋敷がソレだそうだ。

彼に感謝を言って別れることにする……が、彼はここに留まらず都市にむかうらしい。人が増えるのは良いことだが、永琳とお付き合いするのはかなりハードルが高いと思うぞ?

 

 さて、一段落したところでその屋敷に向かうとするか。そう思って俺は永琳に声をかけるが、なぜかむちゃくちゃ疲れた様子だ。

 

「どうした? なんでそんなに疲れてるんだ?」

 

「わざわざ説明させるの?」

 

 ……そうか。心の中で謝っておく。

 

 

 

「さぁ、行くか。お屋敷とやらに」

 

「ええ」

 

 そうして俺たちは、その屋敷目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 目的の屋敷にたどり着くころには日が暮れかけていた。

 

「なかなか……はぁ、遠かったわね……」

 

 別に普段から体を鍛えているわけでもないが、疲労しない体質である俺は特にどうともない。

だが、永琳は肉体派ではなく勿論頭脳派である。知識の神様だしね。

 いや、虚弱と言うわけではないんだろうけども。

 もはや息も絶え絶え、とでもいった感じだ。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ……大丈夫……よ……」

 

 全然平気そうではないが……。

ま、本人がいいと言っているから別にいいだろう。

 

 しかし、遠目で見た通りのデカイ家だ。

夜の都にもここまでデカイ家はそうそう無い。

かなりの高待遇を準備しないと、移住には同意してくれないかも知れないな。

 

 さて……勿論この世界の住宅にドアホンなどというものはついていない。

なので、そのままドアをノックしなくてはいけないのだ。

 

 永琳の方を見て、準備は良いかと目で問う。

先ほどの疲れは何処へやら、すでに緊張した表情だ。

 

 俺は恐る恐るドアを二回叩いた。

 

 コンコン。

 

 

「? お客さんかしら? はい、今出ます!」

 

 

 

 数秒の後、返事が聞こえ玄関のドアが開いた。

 

 ドアを開け、出て来たのは 黒髪に桃色の着物を着た女性だった。

彼女はその黒髪と同じ黒い瞳を瞬きさせ、

 

「どちら様ですか?」

 

と聞いた。

 

 永琳がその質問に対し説明を始めた。

要約すると、私たちは夜を治める神様の持つ都市の住人だ。貴方のご主人を我らが都市に招待したいと考えている。

ご主人にお目にかかることはできないだろうか……、と言うことだ。

 

 そして、この家の使用人だと思われる少女はもう一度目を瞬かせたあと、

 

「主人に聞いてまいります」

 

と言って、廊下を駆けていった。

 

 ふむ。着てまだ数分しかないが、実に怪しいな。

 

 そもそも、家の中からはさっぱり人の気配を感じない。この時点でも怪しいがもう一つ。

 

 あの少女は、俺たちがノックして数秒の後に返事をして出てきた。

つまり、玄関にとても近い場所にいたと言うことに他ならない。この広い館の中で。人っ子一人もいなさそうな雰囲気であるのに。

 

 俺は永琳に、警戒しろ、と目でで合図を送った。永琳は小さく頷いた。

 

 その時、その少女が再び現れ、こう告げた。

 

「主人がお会いになられるそうです。こちらへどうぞ」

 

 そういって、付いて来いと仕草で表した。

 

 俺たちは、若干警戒しながらも彼女に付いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……廊下が長い。

もうかなりの時間歩き続けているような気がする。

 

 流石に豪邸とはいえ直線を十分以上歩き続けるってのは明らかにおかしいよな。

永琳は、ここまで来るのにも体力をかなり使っているのでもう限界、といった感じだ。

しびれを切らして、永琳は前を行く使用人の少女に話しかけた。

 

「ねえ……その主人の部屋って言うのは……あと……どのくらいなのかしらぁ……?」

 

 彼女は少し考えた後こう答えた。

 

「後少しです。かなり長いでしょうがもう少しですので頑張ってください」

 

 永琳はその答えを聞いてため息をついた。

 

 しかし、その時。

 

「こちらが主人の部屋です。どうぞお入りください」

 

 少女が急に立ち止まり、ある方向を手で差した。

そこには、襖が現れていた。

 

 ……もうおかしい。さっきまでそんなところに襖はなかったはずだ。

 

 これは彼女の能力か、それともこの家の主の能力なのか?

もしくはその両方、とか。

 

 これは罠である可能性が非常に高い。

 

 いや、でも行くけど。

俺は再度、永琳に小さな声で「覚悟を決めろ」と囁いた。

 

「いったいここの主……どんな能力なの?それともこの少女の能力なのかしら?

廊下を引き伸ばしたり、襖を現れさせたり……まるで能力に統一性がない……」

 

 永琳は少し不安があるようだ。それでも、覚悟を決めて俺たちはその部屋に入り込んだ。

 

 

 部屋に入り、最初に目についたものは小さな物書き机。

と、言うより他には何もなかった。ここで待っているはずのこの館の主も。

 

「チッ……! 最悪の予想通りだッ……!」

 

 罠だ。

 

 それに気づいた瞬間部屋が暗闇に染まった。

 

 

 

 

 






 さぁ、この館の主はいったい誰なんでしょうね?

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