ちょっと雑かも。
「なあ、永琳。蓬莱山って分かるか?ついでに綿月と、稀神って言う姓も」
もしかしたら、永琳ならこの四人について何か知っているかもしれない。
そんな淡い望みを抱えて俺は永琳に質問をしてみる。
すると、永琳はあいまいに頷き、こう答えた。
「幾つかは、心当たりがある」と。
「まず、蓬莱山家。この家系は確か高天原に住んでいたはずよ。ただ……ちょっと面白いことがあってね」
永琳は、一つずつ、まず蓬莱山家について語り始めた……が、面白いことってなんだ?
「蓬莱山は元より高天原に生まれ落ちた天津神ではないのよ。かといって地上から上がってきたわけでもない」
「へ?それじゃあどうやって存在できたんだ?生まれる術がないじゃないか」
今のこの時代は、基本的に神が全てを生み出し操っていく時代だ。
つまり、出所が全く不明な家など怪しくてならない。
と、言うことは、宇宙人だな。
………冗談だ。いや、割かし冗談でもない。
少なくとも、神様でも人間でもないことは決まっているから、もしかするとまた
『なんかって………そんなに大したことやってなかったはずですが?そもそもいろいろとやらかしていたのは貴方でしょうに』
あーあー聞こえなー。
「次に稀神ね。これは簡単よ。高天原に住んでいる『天探女』が別の名前として使っているだけ。分かりやすい理由ね」
ほうほう……なら、なぜ東方世界じゃ『稀神』という名前を使っていたのだろう?
なんか理由があるのかな?まあいいや。
「綿月……という姓については知らないわ、役に立てなくてごめんなさい」
「いや、ありがとう。おかげで大体の目途がついたぜ」
まずは、都市を建てたらサグメと輝夜を連れてくるんだ。そうしたら………そうしたら、本当に『東方project』の世界が始まるだろうから!
「さあ、行こう、永琳!まずはこの時代を生き抜くんだ!」
「いきなりどうしたのよ?……まあ、生き抜くのには反対じゃないわ」
永琳が呆れた声で、しかし元気な声で返事をしてくれた。
やる気は十分、ならば良し!
神代の夜を、始めてやろうか。
さっき、ツクヨミは何人か手伝ってくれる人に心当たりがあると言っていた。
それは間違いだ。これは何人か、ではなく何百人か、だ。
俺とツクヨミと永琳があたりを見渡すと、俺が転生してからこんなに人が集まっているのを見たことが無いぐらいに、神様の大集会が開かれていた。
俺は不安なことがあるのでツクヨミに小声で質問する。
「おい!こんなに人集めてアマテラスの方には怒られないのか?」
ツクヨミは苦笑いを浮かべてこんなことを言う。
「今の高天原に不満を持っている者たちは少なくないのです。別に多いわけでもないですし、基本的には平和なのですが。束縛されている、と言ってもいいかもしれません。そういうものが嫌いな人たちの中でも、行動的な方々が今ここにいるのではないでしょうか。そして………その通りならもっと移住者も増えるでしょう」
俺はもう一度だけ周りを見回す。
老若男女、ありとあらゆる姿が俺たちを囲んでいた。
「なあ、お前ら」
俺は、周りを囲むそいつらに話しかけた。覚悟を問うために。
「今、ここに集まった奴らはさあ。大きかれ少なかれ、高天原より今から俺らが無から作る夜の国が、いいと思ったんだろ?もし……今、高天原のほうがいいと思ったなら、さっさと戻った方がいい。こっちによい未来があるなんて保証はできないからな。それでも……もしかすると二度と戻れないかもしれない。それでも………こっちをとるなら。夜の国を皆で創っていくというなら。俺は笑って歓迎してやろう!」
俺がそういうと……誰も動かなかった。覚悟は十分。
いや、皆の口角が上がった。笑みを浮かべた。
………ふむ、分かったぜ。ここにいるのは………。
みんな創りたいやつらなんだな。
上等だァ!高天原が、霞むほどの都市を創ってやろうぜ!
そこからの動きはとても速かった。まずツクヨミが人を集め、都市……というよりはまだ集落か。集落を創らせた。人の住む家はもちろんのこと、都市に必要ないくつかの機能。それに夜を治めるのに必要な星を動かす『星詠機』や夜の長さを決める『暗光之蝶伝』も作られていった。それらの作成には永琳の知識が総導入された。
しかも、やってきた神の中に、錬金術のような力を使うことの出来るものがいた。………木を、なんだかよくわからない丈夫な物質に変えるのは、錬金術ではないよな?たぶん違うよな!?まぁ、そういう技術者や、能力者が多かったおかげで、発展することは時間の問題だった。
少しづつ、少しづつ、『夜の都』は出来上がっていっていた。あれから、まだ百年もたっていない。ツクヨミは、姿や、俺に見せる内面こそ変わっていなかったが、夜とこの都市を治めるモノの風格は出来上がっていた。
永琳は、夜の都を治めるのに必要不可欠な存在になり、ツクヨミの右腕として、夜の都の指導役として、そして腕の良い薬師としても、活躍していた。
で、俺は。特に重要な立ち位置にいるわけでは無く、しいて言うならば、最も高天原に近いところの統治と、必要だと思った人材を引っ張りこむ役目を担っている。
要するに高天原からの引き抜きだ。まあ、そんなことをした覚えはなく、それっぽいことで移民の管理をしているだけだ。気楽にやっているよ、ということで。
「ふぁぁあ………割と暇だぁ……」
俺は、自分の書斎で一つあくびをした。
勿論さっきの言い方で理解できたと思うが、何もすることが無い。要するに暇だ。俺の気楽は、暇という意味に直結するからな。平穏もいいが、それにずっと浸かりっぱなしってのも無為だ。
そういえば。
綿月の家が、夜の都へやってきた。まだ姉妹は生まれていなかったが。
『今は』特に重要な一族でもないので、接点は無い。だが、あの二人が生まれたら、機会はできそうだ。
その時までおとなしくしておこう。表面上は。
俺は、書斎を出て、ツクヨミのところへ行く。
理由は都市の建設の進み具合を、詳しく聞きに行くためだ。
ちなみに、自動ドアではなく手動で開けるタイプだ。
どうやら、電気を操る能力者はいないようだ。俺が知識を与えたりとか能力を使ってあげたっていいのだが、それだとつまらないことになってしまう。
と、もうツクヨミの部屋の前だ。
俺は扉をノックして、ツクヨミに話しかける。
「よう、俺だ」
「父さんですか、入ってください」
俺は許可を得たので、扉を開ける。
すると、何か困った様子のツクヨミが渋い顔で椅子に座って、あるものをじっと見ていた。
「どうした、ツクヨミ。なんかあったのか?」
俺が部屋に入り、聞くと、ツクヨミは顔をその何かから上げてこちらに頭を向け話し始めた。どうやらそのなにかは、この都市に住んでいる人物と、そのうちのいくらかが持つ能力についての書類だった。
「そいつは永琳がこの前まとめてたやつだな。それがどうかしたのか?」
俺はそれに見覚えがあった。
その書類は永琳が、ツクヨミに提出するといって必死に仕上げていたものだ。
「いえ………これを見ていますと、夜を治めるのに一番必要な能力を操れる者がいないんです」
夜に必要な能力?
ツクヨミに書類を渡してもらい、じっと眺める。
人物の名前と、能力がある場合はその右隣に概要と能力の強さが書かれている。
ざっと見ただけでも能力者は五十人以上いた。中には、『方向を操る程度の能力』や『言葉を操る程度の能力』などの強力そうな能力を保持する者もいた。俺と永琳の名前も入っていた。
それでも、一番必要な能力は無いとなるとだ。
「一体何の能力を求めているんだ?この書類に書かれてあるものだけでも、十分に夜の都は機能しているはずだが………」
俺がそういうと、ツクヨミは笑って答えた。
「夜の都、それは名の通り夜を治めるためにあるのです。
そして、夜というのは太陽が沈んでいる間、つまり概念です。極端に言ってしまえば、太陽が昇らなければずっと夜。本当は太陽を操れる能力者がいてもよかったのですが………。それはアマテラス姉さんですしね。まあ夜は概念の中でも『時間』に属するものですので……」
なるほど。
つまり
生憎、同じこと考えてたんだよなぁ。
「もしかしたら、心当たりがあるかもしれないな、そいつ」
俺がそういうとツクヨミは座っていた椅子から立ち、目をぎらつかせて聞いてきた。
「本当ですか?どこにいますか?誰ですか?」
正直がっつきすぎで怖い。やめろ。
てか、なんでそんなに時間能力者を求めているんだ?
「……まず、落ち着け。そんで、まだそいつは生まれていない」
「すみません………。では生まれていないとはどういうことですか?
そのうち生まれるということですか?そもそも、なぜ生まれると言い切れるのですか?」
質問は、一つずつにしろよ。まあ、いいや。
「お前は、高天原に住む蓬莱山、という家を知っているか………?」
月の都の、密かな物語が始まろうとしていた。
同時に、原作への歩みも。
「くすくす………夜の都、ね。面白そうではあるじゃない」
黒髪が、夜空に靡いた。
最後のは輝夜じゃないです。でも、重要なキャラでもありません。
すこし、更新できない日が続きますが待っててくれると嬉しいです。
詳しくは活動報告で。
では、また。