俺の高校には、『放課後 殺人クラブ』がある件   作:ウソツキ・ジャンマルコ

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けるべろ2

 

「あの…あたしも、最初は信じられなくて。

 でも、弟はそれから夜になると、怖がるんです。

 だから、私もなんとかしようと思って、一度、夜に三丁目に調べに行った事があるんです。

 そしたら、23時頃に、確かにそのバケモノらしきものを見ました。

 でも、怖くて逃げてきちゃって……

 だけど、弟が塾に行かないと、パパもママも機嫌が悪くて、ケンカしたりするんです。

 だから、家の中の雰囲気も険悪になったままなんです。

 ですから、なんとか退治して欲しいんですけど……お願いできませんか?」

 

「うん!大丈夫!

 私たち、ロダン部におまかせあれ!」

 

蘭子は、胸を叩く。

胸が、プルっと弾む。

 

サンクス。

 

「本当ですか!?

 ありがとうございます。

 ああ、ロダン部に相談して良かった」

 

京子は喜んでいる。

蘭子も誇らしげだ。

 

まだ、何も解決していないのに。

 

蘭子はどうするつもりなんだろう。

まぁ、あれだけ自信満々に引き受けたんだから、何か考えがあるのかも。

 

「では、私はコレで失礼しますね」

 

京子は、お辞儀をして、帰って行った。

ケルベロスの動画は、俺たちのケータイにも送ってもらった。

 

「さぁ、樹隊員!どうしよっか?」

 

ないのかよ。

 

「なんだよ、樹隊員って…。

 どうするかを俺に聞くな。

 蘭子が考えろよ。

 簡単に、安請け合いしちゃったんだから」

 

「えー?

 だって、自信ありげにしなきゃ、京子ちゃんが不安がって可哀想じゃん」

 

「そうかもしれないけど……。

 でも、どうやってケルベロスを退治するんだよ」

 

「そうだなぁ……勇者の剣とか?」

 

「持ってきてみろ」

 

「もう……冷たくしないでよ〜。

 樹も考えて?」

 

「えぇ?

 そんなの、俺にもどうすりゃいいか、わかんないよ」

 

「う〜ん……じゃあとりあえず、ミヤビに連絡してみよう」

 

蘭子はケータイをいじる。

 

「……あ、ミヤビ隊長?

 あのね、今ね………」

 

……なんか、蘭子のこういう誰とでも話せる性格、ちょっと羨ましいな。

躊躇とかしたりしないんだろうな、蘭子は。

メンタル、鉄だな。

俺は、どうして異性と話す時、あんなに緊張してしまうんだろう。

かっこつけ過ぎなんだろうか。

 

「……ラジャッ!」

 

電話が終わったようだ。

 

「樹隊員!今夜は、張り込みだーっ!」

 

「はぁ?」

 

「だから、張り込み!

 ミヤビがね、動画に写ってる場所を探して、そこで見張って、調査しろって」

 

「え〜、張り込みって……」

 

メンドーな事言うなよな、みやび様。

 

「夜に、二人で張り込みなんて、ドキドキするね、樹!」

 

「…二人でって……」

 

夜に女の子と、二人っきり……。

イ……イベント発生だ!

これは、どんなハプニングが起こっても、不思議じゃない。

しかも、今日は金曜日だから、明日の事は気にせずにいられる。

夜中まで、ケルベロスが出なくて、蘭子が眠くなって、そのまま二人でお泊まりってパターンが、ありうる!

よし!準備だ!

 

「……そうか、仕方ないな〜。

 じゃあ、ひとまず一度家に帰って、ゴムを…」

 

「ゴム?」

 

「いや、ちっ違くて……ゴ……ゴミを捨てて、食事なんかも済ませてから、集合しないか?」

 

「OK!じゃあ、今19時過ぎだから、21時30分に三丁目の公園に集合ね!」

 

良かった、ごまかせた。

 

「わかったよ」

 

 

£ £ £ £ £ £ £

 

 

俺は、家に戻ると、急いでご飯を食べ、風呂に直行した。

 

さあ、俺の伝説の剣を、念入りに研いでおこう。

今夜は、ドッキューンと、ズッキューンと活躍するかもしれないからな。

 

そして、スタンドを擦り切れるほど洗って、部屋に戻った。

確か、引き出しの奥深くに、あの伝説の鎧をしまっていたはずだ。

中学の頃に使っていたペンケースの中に、その鎧は入っていた。

俺は、その鎧を握りしめ、しばし思い出に浸る。

 

中二の頃に、夜中にコンビニで、この鎧『うすうす0,01』を購入してから、一度も日の目をみる事なく、今日まで過ごしてきた。

戦いに出る事なく、なんの危険もなく、ひっそりと過ごしてきたこの二年間。

いつか、自分の剣を振るう時がくるはずだと信じ、何度素振りをした事だろう。

雨の日も風の日も、1日も素振りを欠かした事はない。

しかし、冒険の出番はおとずれずに、素振りばかりが上手くなっていった。

 

素振りを終えるたびに、賢者が訪れて、俺をさげすんだ。

本当に、クソ野郎だと思えた。

生きる意味も見失った。

そして、もしかしたら、俺は一生このまま、村人なんじゃないかと思って、不安になったものだ。

そんな、上からも下からも、涙を流した夜を、何度乗り越えてきただろうか?

 

だが、今夜、俺は冒険に出ようとしている!

…モンスター……いや、マンスターを倒す冒険に!

 

しかし、ちょっと待てよ。

 

どうやって、戦闘まで持ち込めばいいんだ?

すんなりいくとは、思えないぞ?

 

よし、シュミレートしておこう。

 

まず、

ケルベロスが出ない → 蘭子が24時頃に眠くなる → 背負ってホテルに入る……

……いや、これはマズイだろ、なんか拾ってきたみたいだ。

 

蘭子を起こす → ホテルに行くか聞く……

うーん、行くと素直に言わせる自信がないし、言うとも思えない。

つーか、本当に蘭子は眠くなるかなぁ…不安だから……

 

睡眠薬を飲み物に入れて飲ませる → 背負ってホテルに入る……

なんか、犯罪じみてきたな。

 

あれ?どうしよう。

けるべろから、エッチに持って行く方法が全然わからん。

 

その時にケータイが鳴る。

 

「ちょっと、イツキー!

 待ってるんだけど、来てくんないの?」

 

「ああ、ごめん!もう行くから!」

 

やばい、肝心の冒険の時間が過ぎてしまっている。

マンスターの機嫌をそこねたら、逃げてしまうかもしれない。

 

俺は、鎧をポケットにねじこんで、急いで家を飛び出した。

そして、伝説へ……。

 

 


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