元島国人の短編   作:屍原

7 / 8
アーリル少将殿の報告である、心して閲覧するように。



いや、寛いで閲覧して頂いて結構ですよ?
ただ報告を閲覧するだけですから、大丈夫ですって。


友軍 記録及び報告
彼(か)の魔導師らにつき


  フランソワ共和国との交戦は、ライン戦線のみならず、幾度も小さな紛争が発生している。その度に、我々は観測手を送り、戦線の情報を手に入れ、未だ不足している魔導師を送らなければならない。日に日に減っていく、我が帝国の兵を見て、重いため息しか出ないのだ。戦争が長引けば、こちらにも影響が出る。資源は減り、人口が減り、民が我が国に対する忠誠心も減る。

 

  ああ、悩ましいものだ。

 

  軍人なのだが、本音を言うならば、戦争など望んでおらん。私とて、自ら望んで戦いに参加したくはない、この世の中で、戦い()を望む者もあるまい。

 

  それに、私にも家族がある。彼らを残して、戦場で命を散らしたくない、という紛れもない願望が存在してる。できれば、戦争など起きて欲しくはない。国のためにも、家族のためにも、私は生き残らなければならない。

 

 

 

「アーリル少将、最新の報告によると、屍原少佐とデグレチャフ少佐、両名、共に西南方向の戦線に参戦してるとの事」

 

  他国では『ネームド』とされてる、我が国のエース両名が、あの戦線にいる。想像するまでもなく、無残に蹴散らされ、情けなく泣き喚く敵兵の姿が、脳内で再生してる。

 

 

 

  ターニャ・デグレチャフ少佐、幼き少女であれど、ライン戦線での活躍にて『ラインの悪魔』という称号を得た。彼女の働きは他の同僚から、渡された報告で知っている。あれ程正確に動き、確実に命令を遂行し、且つ敵を一人残らず殲滅する軍人は、おそらくあのデグレチャフ少佐以外にないだろう。加えて、幼き身であれど、国に忠誠を尽くす姿勢は、まさに我々軍人の誉れ高き姿だ。

 

  シハラカンザキ少佐、デグレチャフ少佐と同じ孤児院の出身、初戦で敵国魔導中隊を殲滅した戦果で、銀翼突撃章を受章した人材と知られている。子供でありながら、尋常でない程完璧な殲滅、狂気すら感じる殺伐に対する執着。我が国の魔導師と言えど、我々は、彼を恐怖の対象として見ている。

 

  あの二人が、我が国の敵でない事を、酷く安堵してる。もし、あの優秀な人材(狂人)が敵国の者であれば、我が帝国の技術をもってしても、敵う相手ではなかっただろう。

 

「……まったく、恐ろしい」

 

  報告に書かれた一節を読み流し、それを机に置く。本当に、我が国の敵でないことを、心の底から感謝せねばなるまい。

 

 

 

『シハラ少佐、1300(ひとさんまるまる)にて敵魔導中隊2個殲滅。死亡人数22、2人の遺体のみ損傷が激しく、顔を識別するのは不可能。』

 

 

 

  血塗れた死神とは、似合いすぎる『ネームド』だったかもしれん。

 

 




結論:ターニャも屍原も、タダモノじゃない。
敵軍だけならず、友軍にも化け物扱いされてはいるが、両人とも気にせず軍人の務めを果たしている。

強いて言うならば、二人ともおいしいこーひーを追求してる。切実に。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。