『緊急クエスト!緊急クエスト!町に居る冒険者の各員は至急冒険者ギルドまで集合してください!!繰り返します!町に居る冒険者の各員は至急冒険者ギルドまで集合してください!!』
その一斉放送がアクセルに鳴り響くと共に酒と共に世間話や冒険談で盛り上がっていた冒険者達が目の色を変えて装備の準備を始めた。
「ねぇ、緊急クエストって何?みんな内容を理解していそうなんだけど……」
「だな。まさか、モンスターが襲撃してきたのか?」
「ん……恐らくキャベツの収穫だろう。ちょうど収穫の時期だしな」
「「は?」」
嬉々とした様子で私達の疑問に答えてくれたダクネスの言葉にカズマと共に唖然としてしまう。
「キャベツ?キャベツって……。まさかキャベツってモンスターの名前かなんかなのか?」
「そ、そうよ……。私達の知るキャベツとはきっと別の何かななのよね」
呆然としながらそんな感想を告げる私達、異世界組に対してめぐみんとダクネスから可愛そうな人を見る目で見られてしまう。
なんか、悔しい。
「キャベツはキャベツですよ。ほら、緑色の丸い奴で
す」
「キャベツは食べるとシャキシャキとした美味しい野菜のことだ」
「「そんなこと解ってるわ(よ)!!」」
「じゃあ、あれか!緊急クエストって騒いでるのは俺たちは農家の皆様の手伝いでもするのか、このギルドの冒険者は……」
と、カズマが私の言いたいことを全て代弁してくれたのでカズマの横でうんうんと頷き同意する。
「あー……カズマとイリヤは知らないでしょうけど……」
アクアが私達になんだか申し訳なさそうな雰囲気を醸しながら何かを言いかけるがそれを遮るように職員が大声で俺達冒険者に向かって大声で説明を始めた。
「冒険者の皆さん、突然の呼び出しすみません!もう既に皆さん気がついていると思いでしょうが、キャベツの収穫時期がやって来ました!
特に今年のキャベツは特に出来が良いので1玉につき1万エリスで引き取らせてもらいます!住民の方々は既に避難を完了し終えています。くれぐれもキャベツに逆襲され負傷をされないように各人が最大限の注意をしてください!
捕獲したキャベツはギルドにて引き取られていただきます!なお、額が額なので支払いは後日とさせていただきます!」
あの職員……今なんて言ったのっ!?1玉、1万エリス?!
その時、ギルド内外から冒険者達の歓声が沸き上がる。すし詰め状態のギルドを人を掻き分けるように出てみると、アクセルの町にはみずみずしい新鮮なキャベツがいくつも浮いていた。
「なぁにこれ?」
訳のわからない光景にカズマと共に呆然としているとアクアがいつの間にか私達の隣に居て厳かに
「この世界のキャベツは飛ぶわ……。味が濃縮されて収穫時期を迎えると食べられてなるものかっ!と言った感じに。そして、彼らは人知れぬ秘境まで飛んで生きひっそりと息を引き取るとされているわ。だったら、その前に私たちが美味しく頂こうって訳ね」
と説明をしてきた。それを聞いたカズマは
「俺……お家帰っていいかな……。それよりも日本に帰りたい……」
とカズマが呆然と呟く。その横を多くの冒険者達が駆けて通りすぎていく。
私はいち早く状況を飲み込み、カズマを放置して他の冒険者と共に街にくり出した。
その後、アクセルの町の中に飛んでいたキャベツ達は金の亡者と化した冒険者によって狩り尽くされた。
聞けばこれが第一波目のキャベツの襲来らしいので次の第2派目の本格的な襲来を一網打尽にするためにアクセルの町の外に冒険者達と共に出向き、かなりの額を稼いだのだ。
私の手持ちでキャベツを捕獲するのに相性が良いのが
私としては、まだ扱いに慣れていない魔法よりも使い慣れた魔術、ガンドの方が使いやすいので今回はこちらを使用した。ガンドで撃ち落とし、アイリ母様の魔術である針金を使用し使役する魔術を応用し、網を作り捕獲する。そんな方法で収穫をしていったのだ。
まぁ、途中からになって数が多くなって凍結魔法で動きを奪う方向に変えたけどね。
そうそう、収穫していた際に確認できたのだがやはりカズマ達は彼ららしい方法で収穫をしていたのだ。
カズマはクリスもといエリス様から教わり習得した盗賊スキルを駆使し、
そして……極めつけはダクネスだ。彼女は自らの体を囮にしてキャベツからの攻撃を一身に受けていた。
鎧が壊れようが服が裂けようが関係なしにキャベツ達の攻撃をとても恍惚とした表情で受け入れていた……。
そして、そんなダクネスに群がるキャベツを
アクア?アクアはそこら辺中を網を持ってキャベツを追っかけ回してたわ。余りにも普通すぎてそれしか言えないわね。
キャベツ狩りが終わった後は、キャベツをギルドに納品して夕食を食べてから宿に戻り一日が終わった。
私がギルドに行く時間をずらしたせいもありカズマ達とは合流できなかった。
あと、ギルドの食堂のお勧めはキャベツの野菜炒めだった。一玉1万エリスで買われているだけあって非常に美味しかった。
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私が捕獲したキャベツの集計が終わり何と400万エリスもの大金が私に入金される事となったのだ。
「さてさて、装備どうしようかしらね。これまでの実験で魔術回路が最上級と言っても過言じゃないレベルで魔法の補正が入るのは解ったけど……流石にアークウィザードぽい格好してないとボロが出そうなのよねぇ」
現にめぐみんにあれほどの魔法を杖がない状態で扱うのは異常だと指摘されたしね……。
魔術回路を開けない時や英霊化している時以外のことを考えると短杖ぐらいは持っておいて良いと思うのだ。
ウキウキとした気持ちで目的の店まで移動していると私にしては珍しく何事もなく到着できた。
「……ギルドの職員が商品の質はアクセルでは随一って言ってたウィズ魔道具店は此処ね……」
この店を紹介してくれたギルドの男性職員いわく元凄腕の美人アークウィザードが経営しているらしいのだ。
美人店長って所は置いといて、ギルドの職員が言うのだ。間違ってはいないのだろう。
「さて、魔法の媒体で良いものないか」
今の私は英霊化している状態だ。理由としてはシロウの扱うたった1つのだけの大禁呪である魔術から零れ落ちた解析の力を使えるためだ。
私も驚いたわよ。まさか流れ込んできた情報でシロウが魔術の最奥に手が届いていたなんて。
だけど、逆に納得もできた。
本来の投影魔術とは魔力で失われた物を形だけでも再現し、儀式等に用いるそんな魔術だ。
そして、それは既に世界に存在しないものとして世界からの修正を受け直ぐに消失してしまうのだ。
しかしシロウの投影品は劣化しない。それどころか宝具までも投影してしまう規格外のものだ。
だが、あの大禁呪から零れ落ちた物ならば説明がつく。
「まぁ……逆に魔術使いのシロウには都合の良い魔術よね。そのせいで英霊に至ったシロウは封印指定受けてたみたいだけども……」
そんな事を呟きながら私は店に入る。店の中は掃除が行き届いており美人店長さんとやらの几帳面さが出ていた。
そして、陳列物を覗いていると何やら物騒な物や発想や技術は素晴らしいのだが……明らかに設計段階で重大なミスがある物が多く陳列されていた。
……一応、製作者の名誉のために弁解しておくが商品の出来栄えは素晴らしく、相当の技術を用いて製作されている。
だが、なんと言うか……問題点を解決していないのだ……。
だが、そんな廃産の中にも稀少な魔道具だと思われる物も有るので店長の目利きは確かだ。
だけども……それに駆け出しの冒険者しかいないアクセルで高級品を扱うのは中々に厳しいものがあると思うんだよね……。
「ま、まぁ……その用途では廃産でも別の使い方をすれば凄いアイテムかもしれないし……」
ちょっと残念で高額な商品の山を前に私はちょっと困惑しながら店内を回っていく。
「ようこそウィズ魔道具店に。本日はどのような物をお探しに?」
「あぁ、貴女が店主さんね。今日はアークウィザードの魔法でも耐えれる発動媒体を探しに来たの。予算はだいたい100万エリスを考えてるわ」
そして、カウンターから姿が見える位置まで移動したら店主さんが私に声を掛けてきた。その店主さんは確かに美人だった。
栗色の長髪と同性の私でさえも羨む大きな胸。そして柔和な印象を持ち、穏和な表情を浮かべている20代前半の美女だ。
ただ……彼女には濃厚な負の気配が漂っていた。まるで……そう、元の世界の死徒のような……。
「そうですか……ならこのマナタイトはどうですか?これであれば、封じ込まれた高濃度の魔力でアークウィザードの魔法でも充分に強化してくれると思いますよ」
「へぇ……確かに凄まじい魔力ね。ならそれをくださいな」
「あ、ありがとうございます!」
私は即決で代金を支払いマナタイトを受け取る。そして、店主さんの手が私の手に触れたことによりそれが確信に変わった。
即座に聖剣を何振りか投影して空中に留まらせながら剣先を店主さんに向ける。
「あと……貴女が何者か教えてくれないかしら?人外の気配を持つ店主さん?」
私はニッコリ笑いながらそう言ってみる。これだけでも充分に心理的に来るものはあるのだ。
「何時から私が普通の人ではないと気が付いていたのですか……?」
「うーん……最初は間違えかなって思ったけど支払いした時に手が触れたでしょ?その時かな」
「そうですか……あの……差し出がましいこととは思いますけど……どうか見逃してください……私にはまだ消えるわけにはいかないのです」
「うん?私はそんなつもりないけどなー……。私は貴女がそこまで至った方法とか知りたいだけだし。もちろん抵抗するなら徹底的に抗戦するよ?」
店主さんはその言葉にびっくりした表情になる。まぁ、死を覚悟してたのに相手が殺意がなく脅しのためだけだったなんて驚くよね。
そして、私は店主さんに戦意はないと判断し剣を消す。
「えっと……そのありがとうございます。私みたいなリッチーを見逃してもらって……。あ、私はウィズと申します……。元アークウィザードでリッチーやってます」
「ふぅん……。リッチーねぇ……。確か優秀な魔法使いが生を捨てて至るアンデットの王だったかしら。私はイリヤスフィール。イリヤで構わないわ」
ギルドのモンスターのガイドラインではそう記されていた気がする。そんな曖昧な情報をウィズは肯定した。
「えぇ……。とある禁呪を使うことでリッチーに成ることができるんです。あの……イリヤさんもリッチーになりたいのですか……?」
「いいえ。でも、私が追い求める物に少しでも近付けるなら何でも利用するまでよ。人様に迷惑の掛からないようにね」
人様に迷惑を掛けないのは私が魔術を学んだ時に自分に課した誓約だ。まぁ、魔術師としてが甘い考えかもしれないが私は人を辞めるつもりはない。冷酷な魔術師なんて真っ平後免だ。
「そうですか……。あ、あの……私が教えても良いのですが……教えてくれた友人に許可を貰えるまで待っていただけませんか?この禁呪は既に失われたものです。無闇に拡散させるは私としても……」
「良いわよ。でも意外ね。ウィズ、貴女達リッチーは人間の敵でしょ?でも、人を心配するなんてね」
「そうですね……。私は確かに人では無いですが……心は人のままのつもりですから……」
ウィズは苦笑しながら私にそう告げる。
「そう……なら私からはなにもしないわ。少なくとも私の目の前にはちょっと変わった体質持ちの美人店長さんしかいないものね。
じゃあ、目的の物も手にいれたし、思わぬ収穫もできたし帰るわね」
「あ、はい。あ、あのこれからもウィズ魔道具店をご贔屓にお願いします!」
そして、私はウィズ魔道具店をあとにして武器屋に直行するのだった。
最後、駆け足過ぎましたかね?まぁ、ともあれキャベツ襲来とウィズとの邂逅は終了です。
アニメ版基準ではなく小説基準でやってるのでアニメにはあったキャベツとの死闘はダイジェスト版にしました。