今日も今日とてジャイアントトード狩りに精を出す私は朝イチでアクセルから出て草原に出た。
魔法と弓矢で遠距離から安全にジャイアントトードを駆除していたら、昼過ぎには依頼を終えてアクセルに戻って来れた。
「さてと、今日は何を食べようかなー?……ん?カズマじゃない……。それに知らない子だけど……何してるのかな?」
依頼の報酬と遅めの昼食を取るために私はギルドに向かう。すると、ギルドの近くの裏路地でカズマと白髪の美少女が二人で居た。
「じゃあ、使ってみるからね。いってみよう!『スティール』っ!」
私は気になったのでそっと覗いているとカズマに向かって手のひらを向けた白髪の少女が何らかのスキルを発動する。
それと同時に少女の手にはカズマの財布と思わしき物が有ったのだ。
スティール……名前からして窃盗スキルね。何となくだけどカズマにかなり合ったスキルじゃないかしら。
カズマのステータスや性格からして前衛より後方で指揮をしながら補佐をするのが向いてそうだもの。
「あ、俺の財布!?」
「おっ、当たりだね。スティールはこんな感じで使うんだよ……これをただで返すのも面白くないなぁ……。そうだ、私と勝負しない?私にスティールで何か1つ奪っていいよ。君の財布の中身よりは私の武器や財布の方が価値が有りそうだからね」
その白髪の少女の一言でカズマは少しばかり考える仕草をする。そして、意を決した様な表情をして冒険者カードを操作して窃盗スキルを習得したようだ。
「早速覚えたぞ!その勝負乗った!大事なもの取られても泣くんじゃねーぞ!」
「良いね!君みたいなノリの良い人好きだよ!魔法が掛かったダガーや君の薄っぺらいよりもかなりの額が入った財布なら当たりだよ!外れは拾ったそこら辺の石ころだよ!」
そう言って少女は予め集めていたらしい石ころの山を腕一杯に抱える。
「そんなのアリかよ!きたねえぞ!」
「あははは、これは授業料だよ。どんなスキルでも対抗策が有るんだよ。1つ勉強になったね。じゃあ、行ってみようか!」
成る程ね、私も勉強になったわ。カズマの犠牲は有ったけどね……。今日の夜にでも一品奢ろうかしら。
「やってやる!俺は昔から運だけはいいんだ!『スティール』っ!」
そして、カズマが窃盗スキルを少女に発動した。すると、一見不発の様に見えるがカズマの手には白い布切れが握られていた。
「あ、あれって……御愁傷様……」
私は直ぐにカズマがスティールした物の正体を理解してしまう。そして、顔をしかめてしまう。
そして、カズマがスティールした物を太陽に透かし両手で広げて確認するやいなや歓喜の声をあげた。
「当たりも当たり!!大当たりだあああああああ!!!」
「い、いやあああああああああああ!!!パンツ返してええええええ!!!!」
そう、白い布切れは彼女の下着だったのだ。パンツを盗まれた彼女は丈の短いスカートを抑え、涙目になっている。そして、満面の笑みを浮かべながらパンツを振り回わす。
「うわー………ないわー……カズマ、ないわー……」
ドン引きする私の中に有ったカズマに対する申し訳無さは一気に霧散し、変わりに後でシバこうという意志が芽生える。
レディーの下着を盗むなんて言語道断。更に歓喜の声をあげながら下着を振り回すなんてね……。
彼女の仇は私が取ろうと思いながらもその場を後にするのだった。
30分後、私はギルドで鉢合わせたアクア、めぐみん達と共にカズマ、盗賊の彼女を待っていた。
乙女のパンツを偶然とは言え盗みあんなことをしていた、カズマの事だ。どうせ、あの娘にゲスい事をしたに違いない。
「成る程。イリヤはカズマと同じ国出身のアークウィザードの父親と別の国の元貴族令嬢との間に産まれたから黒髪黒目じゃないんですね」
「えぇ、私の容姿はほとんどお母様から受け継いだものなの」
暇だった私達は他愛のない話から私の身の上話になっていた。そこで私はこの世界であり得そうな身の上をでっち上げ話したのだ。真っ赤な嘘だけどある程度の事実は織り混ぜているので、そこまで違和感はない筈だ。
事情を知っているはずのアクアを除き、実際に賢そうなめぐみんや仕草や雰囲気からして恐らく貴族令嬢であろう白髪の彼女の連れなダクネスでさえも納得と言った様子なので上手くいったようだ。
「イリヤのご両親の話がまるで物語の様で聞き入ってしまったよ。ところで、イリヤ。話を聞くと君はある程度裕福な家庭で育ったようだが……なぜ冒険者になったんだ?」
「冒険者になった理由?」
私は考える振りをしているが実際は、割と焦っていた。私が考えていなかった想定外の振りでそれの答えは用意していなかったからだ。
だが、懐にしまってあるクラスカードの存在を感じると名案が浮かんだのだ。
「色々と理由は有るよ。だけど私が冒険者になった一番の理由は勇者エミヤに憧れたからよ」
そう、私の義弟ことシロウはこの世界で正義の味方の代名詞である勇者として後生に名を残していたのだ。それこそ語り継がれるレベルで。
エリス様からシロウは転生者の少女のサーヴァントとして召喚され魔王を倒したと聞いた。
それで情報を集めてみると何とシロウは過去に存在した勇者として認識されていたのだ。
「勇者エミヤか。歴代の勇者のなかでも合理的かつ確実に魔王を撃破した剣と弓の勇者だな。
彼は他の歴代勇者とは違い目立った部分は確かに少ない。
魔王軍との戦闘だって奇襲、闇討ち、狙撃等従来の正々堂々と正面から戦う勇者の戦い方とは大分違っていたりする。
だが、それは軍の兵士や騎士達が無駄に死なないように必要最低限の戦闘で戦いを終わらせるためのものだ。
それに……彼の剣術は才能こそ無かったが実戦で磨かれた剣術は他を圧倒したとも言われている。
やろうと思えば勇者らしい戦いかたも出来たはずだ。それをしなかったのはやはり無駄な犠牲を出したくなかった……もしくは彼の伴侶たるエンチャンターの少女の身を案じていたからとも言われているがな。
これは流石に今でも真偽は解っていないが……私は事実はどっちらもだと思っているよ」
「それに今、私達が摘まんでいるジャイアントトードの唐揚げだって勇者エミヤの考案した物だと言われています。
彼が居なかったら食文化は今よりも数段下だった筈だと言われていますね」
「そうだな。勇者エミヤは些細な事でも困っている民に救いの手を差し出す正義の味方として、または食文化の発展に貢献したりしている今尚、知名度の高い勇者だ」
そっか……シロウ。あなたはこの世界で本物になれたんだね。
私は二人の話を聞き、私達の世界では叶うことの無かったシロウの夢が叶ったことを聞き感極まってしまう。まぁ、料理云々はシロウらしいとしか言いようがないけどね。
「それにしても……ダクネスは勇者エミヤに詳しいんだね」
「あぁ、幼い頃から常々父上に立場は違えど勇者エミヤの様になりなさいと言われていてな。
それに……それにっ!人助けをしていて捕らわれの身になりあんな事やこんな事をされるのが女騎士の常識ではないか!拘束され自由を奪われた必死に抵抗する私を余所に無理矢理襲ってくる悪党共……あぁ……良い……」
「え、えぇ……。私が知っている騎士とは全然違うわよ……。」
何せ私が知っているのは騎士の中の騎士、騎士王アーサー・ペンドラゴンことアルトリアだ。
清廉潔白、そんな言葉が擬人化したような彼女がそんな目に遭うことは先ず無いだろうし、そんなへまはしない筈だ。
まぁ、今じゃあ受肉してシロウとイチャイチャしてた恋する女の子だったけどね。
全くあの騎士足らんとしていた昔の彼女は何処にいったやら……。
そしてダクネスの様子を見る限り、その展開を望んでいる様だった。彼女は要するにドMと呼ばれる人種の様だ。
全くカズマの周りには面白い人種寄り付くようだね。
「おーい。盗賊スキル教えて貰ったぜ」
カズマが涙目の白髪の少女と共に私達の元に向かってくる。それを見て私はおもむろに席を立ちカズマの元に歩み寄る。
「お、イリヤもいたのk「乙女の仇!!」がはっ?!」
渾身のストレートがカズマのボディに入り、カズマは崩れ落ちる。勿論、何もして無い状態でだが。強化をして殴っていたらカズマの腹に穴が開くしね。それに金的しなかっただけでも有り難く思いなさい。
「あら、乙女のパンツをスティールで盗み凄く喜んでいた変態のカズマじゃないの」
「な……なんでイリヤがそれを……」
私は踞るカズマをニコニコと笑って見下ろす。
「たまたま、通り掛かって一部を確りと見させてもらったわ。勿論、カズマがこの娘のパンツを振り回した所もね」
「ちょ、おまっ?!間違ってないけど、待ってください」
その言葉でカズマの顔色は一気に青ざめる。この時点でカズマを見る私と同様に女性冒険者の目が冷たいものに変わっていく。
「公の場でパンツ脱がされて、自分のパンツの値段は自分で決めろ何て言われたらねぇ……。
それに君が満足出来ない値段なら家宝にするなんて言われたら嫌でも財布の中身ぜんぶ渡しちゃうよね。お陰で私は金欠だよ!
という訳でダンジョンに潜るパーティーが臨時で盗賊を雇いたいみたいだから行ってくるね!」
と、この彼女の言葉で周囲の女性冒険者からの視線は絶対零度レベルに冷え込んでしまう。
「おい、待てよ。お願いだから待ってください。アクアとめぐみん、それに物欲しそうな目で見つめてくるダクネスを除いた女性冒険者達の視線がすごい冷たい物になってるから」
「あはは、これぐらいの復讐はさせてよね!じゃあ、いって来るよ!」
そう言って彼女は奥でこちらを伺っていたパーティーに合流した。
余りにも直ぐ様に行ってしまった為に私は彼女に声を掛ける事が出来ずに見送る形になってしまう。
そんな彼女に対して私は心の中で激しく突っ込みを入れていた。
それにしても……何をしているのですかっ!……エリス様!!
神秘に敏感な魔術師でさえ神性を帯びた存在と常に居ないと気が付かないレベルで隠蔽していたが彼女は非常に濃い神性、しかもエリス様と同質の物を発していたのだ。
それこそ私でさえ、近くに寄らないと感じられないレベルの隠蔽だ。
さらに髪型が違い、頬に傷が有ったが彼女はエリス様と瓜二つの容姿をしていたのだから間違えないだろう。
「あれダクネスさんは一緒に行かないのか?」
「あぁ。クリスはダンジョンでも必修な盗賊、しかも優秀だ。
だから引く手数多なんだよ。それに比べ私は
ふむ……エリス様があの姿で此方に来ている際はクリスと言うのか……。今度、あったら釜かけてみましょうか。
それにしてもあれね。MMORPG系の常識がそのまま生かされる世界よね、ここ。
「それで話は変わりますが、カズマはどんなスキルを覚えてきたのですか?」
私が考え事で周囲の状況を確認していなかった間に話題が変わっていたのかめぐみんがカズマが覚えてきたスキルに興味を示した。
「ふふん。まぁ、見てろよ。『スティール』!」
そして、カズマは得意気に覚えたての盗賊スキル、スティールをめぐみんに発動した。すると、カズマの手に黒い布が合った。そう、パンツだった。
「あの……レベルが上がって変態にジョブチェンジしたのですか。……スースーするのでパンツ返してください……」
「あ、あれぇ……ランダムで物を奪うはずなのにおかしいなぁ……なぁ、イリヤ」
「絶対いや」
「だよな」
何とこの男、めぐみんにパンツを返したあと実験台に私にスティールしてもいいかと聞いて来たのだ。
直ぐ側に頬を高揚させて物欲しそうにしているドMクルセイダーを置いといて。
「やはり私の目に狂いは無かった!こんな幼い少女からパンツを剥ぎ取るその鬼畜具合!是非とも私をパーティーに加えてくれ!」
そして、ダクネスは目を爛々と輝かせながらカズマにそう申し出る。
「いらない」
だが、カズマはビックリするぐらい真面目な顔でダクネスの申し出を断る。
「んんっ……?!……っ」
そんなカズマの扱いに琴線に触れたのかなんか快感を感じている
なんかもう既に混沌していた。そして、これ以上厄介者を増やさんとカズマは身の丈に合わない魔王討伐が目的だと言い、パーティーに入らない方がいいと忠告する。しかし
「昔から魔王に捕まりエロい事をされるのは女騎士と相場が決まっている!やはり是非ともパーティーに入れてくれ!」
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の
と、まぁ凄く乗り気でいた。あと、ダクネス。あなたは世界は違うけど騎士王たるアルトリアが居たら助走を着けて殴られるわよ。
カズマは凄くげんなりしている。まぁ、気持ちも解ら無いでもないんだけどね。こればっかりはカズマとアクアの問題だ。私がでしゃばるつもりはないよ。
「ねぇ……カズマ、カズマ……私ね、カズマの話を聞いてたら腰が引けてきたの……。何か手っ取り早く魔王を倒す方法ないかしら……」
アクア……あなたが一番の当事者でしょうに……。あなたが一番やる気出さないといけないのよ……やっぱり堕女神ね……この子……。
カズマも何とも言えない表情をしているから多分私と同じような事を考えているに違いない……。
『緊急クエスト!緊急クエスト!町に居る冒険者の各員は至急冒険者ギルドまで集合してください!!繰り返します!町に居る冒険者の各員は至急冒険者ギルドまで集合してください!!』
その時、緊急クエストを知らせる一斉放送がアクセル中に鳴り響いた。
ども、前回の投稿で好評価を頂いた事やお気に入りの総数が800を超え、日刊ランキング50圏内にランクインして恐々としていた影使いです。
あと今回はこの世界での勇者エミヤの認識も書いてみました。エミヤを召喚した少女の話題はまたの機会にでも書いてみたいと思います。
投稿が遅れた理由は色々とありますが……ぐだぐだ本能寺周回していたりPSO2のバトルアリーナに入り浸っていたのが主な原因です……。更新速度が減速気味ですが時間の合間を見付けてはチマチマと執筆していくので温かく見守ってください。
PS.今年の型月のエイプリルフール企画、FGOGOのアプデでロマンが手を振っていたのを見てから、竹箒日記の一言を読んで泣きかけた影使いでした。
あと、グラブルは良い意味でカオスでしたね。いいぞ、もっとやれ両運営。