カズマ達のパーティーを助けた私は、彼らのアクセルまでの護衛を申し出た。
体力的に限界なカズマ、ジャイアントトードの粘液まみれで満身創痍なカズマ曰く駄女神アクアとMP切れで身動きが一切できない魔法使いの少女。そんな彼等を見ていると無事にアクセルにさえ戻れないかもと不安になったのだ。
そして、私達一行はアクセルに着きギルドに向かっている。
「うっ……うぐっ……ぐすっ……。生臭いよう……生臭いよう…………」
「カエルの体内って、臭いけどいい感じに温かいんですよね……。知りたくもない知識が増えました……」
そんな、粘液でネチョネチョになりながらぐずるアクアとカズマにそんな事をボヤく魔法使いの少女を引き連れる私達は注目の的になっていた。
「まぁ、これからは身の丈に合った依頼から受けていこう……。このままじゃいつか死ぬ」
「そうね。それが懸命よ」
「えー……と言うかそこの子誰よ?まさか、カズマさん……」
と、駄女神アクアが私を指差しカズマにそう問い詰める。その際に粘液が飛び散ったので私は一歩距離をとる。
「違うよ!イリヤは俺達を助けてくれたんだ」
「こんな女の子が?」
「あぁ。アクアには伝わるだろうが、イリヤは俺と同郷だ」
「え?まじ?」
流石、転生者を送り出す役割を担っていた女神だけあってアクアはそれだけで私が転生者だと理解したようだ。
私はカズマ以外のメンバーと自己紹介をしていた。
「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。元貴族でアークウィザードをやってるわ」
「私は水の女神、アクアよ。さぁ、私を崇め奉り、アクシズ教団に入信しない」
「ごめんなさい。私、特定の宗教を信仰する気は無いので勘弁してください」
「私、女神なのに速攻で断られた?!」
と、カズマのチートとして連れてこられた駄女神ことアクアは自己紹介して直ぐに彼女を主神として崇めているアクシズ教団に入信を迫ってきた。それに粘液でネチョネチョになっている今の彼女はどう足掻いても女神には見えない。
カズマからの証言や今の彼女の様子を見るとぶっちゃけアクシズ教団とやらには関わらない方が良いと判断し即お断りした。
それにこの世界で信仰する神なら断然エリス様を信仰するわね、私は。
「我が名はめぐみん!紅魔族随一のアークウィザードにして爆裂魔法を操る者!そして、何れは世界一の魔法使いに成る者!」
「えぇっと……その同じアークウィザードとしてよろしくね、めぐみん?」
「おい、私の名前と自己紹介に文句があるなら聞こうじゃないか」
とまぁ、反応に困る自己紹介と少女の名前に私は戸惑ってしまう。だが、そんな様子を見てアクアが解説をしてくれた。
「めぐみんはね、紅魔族って言う凄腕のアークウィザードを数多く排出してる独特のセンスを持った一族出身なのよ」
「そうなんだ……」
「そう、私はその紅魔族でも随一の天才と呼ばれています」
「じゃあなんで身の丈に合わない魔法使ってぶっ倒れてるのよ……。そんな魔法使わないで別の魔法を使いなさい。そう言うのは奥の手として取っておきなさい」
「そうだな。爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ」
と、私の指摘とカズマの言葉にめぐみんは狼狽えながら
ポツリと呟いた。
「使えません………」
「えっ?何が使えないんだ?」
そう、カズマは素で聞き返す。
「…………私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません」
「「…………マジか」」
「…………マジです」
と、彼女の答えに私とカズマとめぐみんが静まり返る。
そんな中、私を勧誘した時のテンションが何処かに行ってしまい再びぐずっていたアクアが会話に入ってくる。
「爆裂魔法以外使えないってどういう事なの?爆裂魔法を習得できる程のスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得していない訳がないでしょう?」
そう、アクアの言うとおり爆裂魔法を覚えられるレベルのスキルポイントを持っているならば普通は他の魔法も覚えれるはずなのだ。
そして、アクアがカズマにスキルポイントの説明をし終わる。
しかし、アクアの言う宴会芸スキルは何処で使うのだろうか……。
「成る程。スキルポイントはスキルを覚える際に必要な物で最初から持っている。そして、才能がない場合や難易度が高いスキルはスキルポイントの消費がデカいってことか」
「えぇ、その通りよ。それに職業によって覚えれるスキルが変わってくるわね。ただし、例外は全てのスキルを覚えれるカズマの冒険者だけってことね」
「成る程……。で、宴会芸スキルは何処で使うんだ?」
「………」
ふむ、私がギルドのお姉さんから聞いた説明と変わりがないな。あと、カズマも気になっていたんだ。宴会芸スキルの使いどころ。
「成る程な。上級の爆裂魔法を使えるならその他の魔法を使えないわけがないって言いたいのか?で、宴会芸スキルは何処で使うんだ?」
カズマが納得しアクアも満足そうだったが、再三に渡る宴会芸スキルに対する突っ込みはノーコメントを貫くアクアだった。
そして、めぐみんがカズマの背中でポツリと呟いた。
「私は爆裂魔法を誰よりも愛するアークウィザード。炸裂魔法等の爆発系統の魔法が好きなのではなく爆裂魔法が好きなのです」
私には爆裂魔法と他の爆発系統の魔法の違いが理解できない。カズマも微妙な表情でめぐみんを見ていることから私と同じなのだろう。
だが、アクアだけは真剣な面持ちで聞いていた。
「確かに……他の魔法スキルを覚えるだけで冒険は楽に出来るようになっていくはずです。でも、だめなのです!私は爆裂魔法しか愛せない!爆裂魔法を使うためにアークウィザードになったのだから!」
「素晴らしい!素晴らしいわ!その非効率極まりないながらもロマンを追い求めるその姿に私は感動したわ!」
あー……これは御愁傷様ね、カズマ。残念ながらめぐみんが正式にパーティー加入する流れね……これは。
なんか、巻き込まれそうだから逃げましょうか……。
「じゃ、じゃあ。私は一旦宿に戻るわね」
「あ、おい。俺を見捨てるな!」
「またねー」
カズマの声が聞こえるが私はそれを無視する。だって面倒だもん。そんなカズマを見捨てて私はギルドに向かう。
もう、迷子になったりはしないからね!だって、ギルドの側までカズマ達と来てたし!
そして、私はジャイアントトードの死体代金含め報酬を受け取りちょっと早めの夕食を摂ることにする。
「ジャイアントトードの唐揚げねぇ……。美味しいのかしら……周りのみんなは美味しそうに食べてるし……すみませんー、ジャイアントトードの唐揚げとコーンスープ、パンをくださーい」
意を決して注文してから20分が過ぎた頃、テーブルに注文した品が届けられる。見た目はどう見ても普通の唐揚げでしかないし、フォークで指してみても感触も普通の鶏肉でしかない。
「普通に美味しそうね……。ま、まぁ、ゲテモノ程美味しいって言うし……。い、いただきます」
私はジャイアントトードの唐揚げを恐る恐る口に運ぶ。すると、鶏肉を少し淡白にしたような味と感触がした。
「なんだ……普通に美味しいじゃない。心配して損したわ」
私は士郎の鶏の唐揚げに敵わないものの意外に美味なカエルの唐揚げを食べながら、辺りの様子を伺うとギルドのカウンター前にカズマが居た。
アクアとめぐみんの二人が居ないが風呂屋にでも放り込まれたのだろう。
そして、カズマはパーティーに参加したいと言っているまさに騎士といった格好の女の子と会話していた。と言ってもカズマは顔を引きつった笑みを浮かべながらだが。カズマの様子を見るにあの騎士の女の子もアクア達と同様、優秀だが何かが決定的に外れているタイプなのだろう。
「あはは、カズマの周りは本当に話題がつきないね。よし、これからも絡んでいこうかな。面白そうだしねー」
そう、私は決意して食事に意識を戻すのだった。