アクセル。RPGのゲーム風に言うならば冒険者にとっての始まりの町に当たる町だ。
ここは魔王が君臨する魔王城から最も離れた町で周辺には初心者冒険者でも倒せれる様なレベルの敵しかいない町らしい。
そして、この世界に転生してきた日本人らしき人物達はそのほとんどが冒険者として登録するらしい。
色々と話を聞かせてくれたおじさん冒険者の話では冒険者のトップクラスはこちらの世界の人達からしたら変な名前で黒髪黒眼が多いらしいのでほぼ間違えないのかな。
「とりあえず……先達達に習って手っ取り早く地盤を固めるにはやっぱり冒険者になるしかないよね、うん」
とりあえず一文無しなこの状況を打破しなくてはならない。
まぁ、元の世界でも魔術師としては小聖杯の機能に頼りきりで半人前だったがそれでも戦闘能力は凛並みには有るつもりだし、どんな内容かは未だ判らないがエリス様から貰ったチートのクラスカードもある。
何とかなる……と思うよ……うん。イリヤは出来る子だもん……。
「あ、おばあちゃん。私、この街に来たばかりだからこの街の冒険者ギルドが何処にあるか解らないんです。できれば教えてほしいんですけど……」
「おやおや、可愛らしい娘さんだね。冒険者ギルドはねこの道を……」
とりあえず、迷わずギルドにたどり着ければ!
だ、大丈夫。
ここ冬木よりも圧倒的に田舎だし迷うことなんて無いんだからねっ!(※このイリヤは重度の方向音痴で冬木で何度も迷子になってます)
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おばあちゃんにギルドまでの行き方通りに道を進んだ結果……私は迷った。(一番最初の曲がり角を曲がった時点で間違っている)
そして何故か、アクセルの正門に出てしまったのだ。既に夕暮れになっているので一刻も早く、ギルドにたどり着き稼がねば寝床を確保することも出来ないのだ。
「自分の不甲斐なさに泣きたい…」
思わず涙目になって地面に四つん這いになってしまった私。こればっかりは前世から引き継いだ欠点で私自身どうしようも無いのだ……。
前世ならスマホのナビアプリでフォロー出来たのだがこの世界は中世レベルの文化しかない。スマホなんて科学の結晶なんて物は無いのだ……。
「お、昼間のお嬢ちゃんじゃないか。どうしたんだ、こんなアクセルの外で?」
「おじさん……」
そんな私に声を掛けてくれたのは昼間、この世界の事を聞いた冒険者のおじさんだった。
「えっと……ギルドに行くはずが道に迷って……」
「お、おう……。しかし、嬢ちゃん、ギルドに行きたいって冒険者になりたいのか?」
「そうなんですよねー……。私、一文無しで……」
「すまない……なにやら重い事情が有るようだな……ま、まぁ、ギルド位なら俺が連れていってやるよ」
「ほんとに!ありがとう、おじさん!」
という訳でやって来ました、アクセルの冒険者ギルド。
と言うよりね……ここ私がこの世界に来たばかりの頃にいた場所の直ぐ側じゃん。
あはは……とんだ無駄足立ったわけだ。
「ほら、お嬢ちゃん。ここがアクセルのギルドさ。俺は晩飯食ってるから早く冒険者登録してきな」
「色々とありがとうね、おじさん」
私はおじさんに頭を下げて、感謝を言う。そして、受付嬢らしきお姉さんがいる場所に行こうとするとおじさんが呼び止めてきた。
「嬢ちゃん。ほらよ。1000エリスだ。見たところ、お嬢ちゃんは本当に一文無しなんだろ?冒険者登録は金が必要なのさ」
「おじさん……ありがとう……。でもどうして、赤の他人の私にそこまでしてくれるの?」
「あぁ、俺も駆け出しの頃は色んな先達に世話になったからな。
どうしても駆け出しのボウズや嬢ちゃん達を見ると世話を妬きたくなるんだよ。
なぁに嬢ちゃんが一人前の冒険者になったら駆け出しを同じ様に助けてくれるだけでいいさ」
そう言いながらおじさんはギルドの中に入っていく。私はおじさんに感謝しながら続いてギルドに入る。
そして、おじさんと別れギルドの受付嬢らしきお姉さんの元に行く。
「こんばんは。今日はどうされましたか?」
「冒険者の登録をお願いします」
「はい、わかりました。では。冒険者になりたいと仰るのですから、ある程度理解しているとは思いますが、改めて簡単な説明を。
まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター討伐、雑務、力仕事等々を主な仕事にしています
いわば戦う何でも屋ですね。そして、冒険者には各職業というものがございます」
成る程。ゲームで言うところの魔法使いや戦士と言った物のようね。
そして、次にお姉さんは普通自動車の免許証位のカードを取り出しカウンターに置きこちらに差し出し、カードのある一覧を指差して説明をしてくれる。
そして、そのカードに書かれた見覚えのない言語を私は何故か読むことができた。恐らくエリス様がサービスしてくれたのだろう。とてもありがたいです。
「こちらに、レベルという項目があります。ご存知かと思いますが、この世のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めています。どの様な存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺す事で、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値、と呼ばれるものです。それらは普通、目で見る事などはできません」
そこでお姉さんは一旦言葉を区切り、再びカードを示す。
「しかしこのカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値が表示されます。それに応じ、レベルというものも同じく表示されるのです。これが冒険者の強さの目安になり、どれだけの討伐を行ったかもここに記録されます。また、経験値を貯めていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。俗に言うレベルアップと呼ばれていますね。まあ要約すると、このレベルが上がると新スキルを覚えるためのポイント、ステータスの上昇様々な特典が与えられるので、是非頑張ってレベル上げをして下さい」
お姉さんの話を聞き、私が思った事はこの世界は正にゲームの様な世界だと言うことだ。前世の私はゲームが大好きで、趣味はネトゲやマンガだった。ゲーマーな前世を持つ私にとってこの世界はまさに夢の様な世界だ。
「では、まずはこちらに身長、年齢、身体的特徴等を記入してください」
お姉さんが渡してきた書類に必要事項を書いて行く。年齢18歳、身長133cm、体重34キロ、銀髪に紅眼と事実を記入しお姉さんに渡す。
年齢の18歳を見たお姉さんがえっ?って顔をしていたが私は全て事実しか書いてないのだ。そんな顔されてもね……。
私が合法ロリなのはアインツベルンのジジィ共老害が無茶な調整を繰り返したせいなんだ……。全うに成長していたらアイリお母様位の抜群のスタイルになっているはずだったのに……。
おのれ、アインツベルンの老害共。異世界でさえ私に危害を与えるのか……。
「は、はい。結構です。こほんっ。それでは、こちらのカードに触れてくださいね。それであなた方のステータスが分かります。その数値に応じてなりたい職業を選んでください。経験を積む事により、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでくださいね」
お姉さんに促されるまま私はカードに手を触れる。
「はい、ありがとうございます。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンさんですね……。えっ?!凄い!!筋力、生命力、敏捷性は普通の人並みですが魔力に器用度、知力が普通の人の5倍近い値なんて!!これならアークウィザードやその他の上級魔法職になら何だってなれますよ!!あと……名前とかも貴族ぽいのでもしかして貴族の方だったりしませんか……?」
「いいえ、違います。私は他国のそれも没落した貴族の末裔なだけです。だから、私はただの一般人です。
過去の栄光を忘れられないお祖父様にこんな仰々しい名前を付けられたんですよ……出来ればイリヤと呼んでください……」
やはり私は魔術師なので魔力その他諸々の魔法職に必要なステータスは通常よりも高かった。
あと、予想はしていたがやはり私の名前に突っ込んできた。
この中世の文化レベルしかない世界は恐らく貴族社会のはず。
そして、私は元の世界ではドイツの古い貴族。フルネームで《イリヤスフィール・フォン・アインツベルン》なんて仰々しい名前、貴族しかいないだろうしね。
だからweb小説御用達の設定、没落した元貴族と言う設定と事実をほんの少し使わせてもらった。これならばこんな仰々しい名前を持っている私を誰も怪しまないだろう。
事実の部分?過去の栄光を忘れられない祖父の部分だよ。簡単に言えばアインツベルンから失われた第三魔法を求めていたはずが聖杯を取得することに妄信的になったジジイだね。バーサーカーに文字通り八つ裂きにしてもらいましたけどねー。
「そうですか……。では、イリヤさんとお呼びしますね。それではイリヤさん、あなたは魔法職ならば上級職になれます。私たちは強制しませんが是非とも魔法職に成ってほしいです」
その言葉にちょっとドキッとした私がいた。ゲーマーしてた頃は私はレベルを上げて物理で殴るを地で行く近接戦闘職しか使わなかった。だから、ちょっと近接戦闘職も良いかなぁなんて思っていたが、今の私は小聖杯で魔術師なイリヤスフィール。これまでの経験上、私は魔法職になるのが最適なのだ。
「はぁ……我ながらバカね」
「はい?」
「あ、いやいやこっちの話です」
私は最後のアインツベルン。自分でアインツベルンを滅ぼした私だが一応第三魔法を再び手にしたいとは思っている。魔法職についていたらその内第三魔法も取得出来るチャンスが来るかもしれない
そして、お姉さんに手渡された職業の解説付きの一覧表を眺めて、自分に合った職を決めた。
「お姉さん、私はアークウィザードになろうと思います」
「はい!アークウィザードですね!では、アークウィザード……っと。冒険者ギルドにようこそ、イリヤ様!スタッフ一同今後の活躍に期待しています!」
そう、笑顔で送り出され私は晴れて冒険者になったのだった。
「あっ……今日どこで寝ればいいんだろう……」
そこで再びお姉さんの元に戻り、閉店までの間食堂の手伝いをすることで宿代を稼いだのだった……。