テイルズオブザワールド レディアントマイソロジー3 ─そして、僕の伝説─   作:夕影

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第八話

 

 

――あのジョアンさんの依頼から数日がたった。

 

僕の体も今では完治し、普通に以前と同じように依頼をこなせるようになっていた。

 

 

ただ、現在……一つの問題が発生していた。

 

 

 

「――また来たんだ、この依頼」

 

 

「――えぇ。本当、どうにかならないかしら」

 

 

僕が手にした一枚の依頼書。それに書かれている内容に一緒に見ているアンジュと共にそんな言葉が出た。

依頼の内容は一つ。

『赤い煙の発生場所までの護衛』

今現在、この護衛の依頼が殺到しているのだ。

仕事が増えた事は確かに良いことだが、あの赤い煙の正体はいまだに不明なのだ。依頼者の事も考え、今この手の依頼は全て断っているのだ。

だがいくら断ってもこの依頼は止まる所か、増える一方なのである。

しかも、先日アドリビトムに入った『イノセンス』のスパーダの情報では『赤い煙は見るものによって姿が違う』らしいのだ。そして街の大衆は赤い煙に対する認識が『病気を治す』から、『願いを叶える』というものに変わっているらしい。

 

はっきり言って、それはどう考えても『危険』としか言いようがない。だが、それでも依頼は増える一方なのが現実である。

 

 

「……はぁ、本当どうにかならないかなぁ」

 

 

「……どうにもならないのが現実よ」

 

 

二人して思わず深い溜め息を吐いてしまう。

――そんな時だった。

 

 

 

『ギニャアァアァアァアァァっ!?』

 

 

 

「うおぅっ!?」

 

「えっ!?」

 

 

突然艦内に響き渡るやけに聞き覚えのある悲鳴。

今のは……多分イリアの声だ!

 

 

「…研究室の方から聞こえてきたわね。どうしたのかしら…」

 

 

「分からないけど…とりあえず様子を見てくるよ」

 

 

研究室への扉の方を見てそう言うアンジュに言うと、僕は恐る恐る研究室の扉へと歩み寄る。

どうしたんだろ…。……またハロルドが何かやらかしたんだろうか……。

そんな事を考えると余計に入りたくなくなってしまうが、見て見ぬ振りもあれなのでとりあえず研究室の扉を開ける。

 

 

「あのー、なんかさっき此処からイリアの悲鳴g――「イヤアァアァァアァァッ!!」―げぶるぅあぁっ!!!?」

 

 

扉を開けて中を見ようとした瞬間、素晴らしい速度と悲鳴で『人間弾丸X』と化したイリアがタイミングよく僕の鳩尾向けて突撃した。

あまりの痛感に当たった鳩尾を両手で抑えて悶える僕。

うん、復帰早々これはないだろ…?

 

 

「――ぁ、ごめん…」

 

 

「――いや、うん、いいよ。気にしないで…」

 

 

当たった事に気付いたイリアが悶えている僕を上から覗き込むような形で言ってきたので、現在できる精一杯の作り笑顔でそう答える。

うん。正直、かなり気にしている。

 

 

 

 

 

 

「――あら。イリアが静かになったと思ったらアンタだったの。で、そこで鳩尾抑えて何かあったの?」

 

 

未だ悶えて居るところに上から聞こえてきた声に見上げると、やけに嫌な笑みを浮かべるハロルドが居た。

 

「……その笑みの通りこの現状の原因は十中八九ハロルドのせいとしかいいようが無いんだけど」

 

 

「あら、酷い言いがかりね。私はあくまで『コレ』を見せただけで、ぶつかったのはイリアなんだから」

 

 

そう言いながらハロルドは『ソレ』が入った入れ物を此方に見せてきた。後ろでイリアが再び変な悲鳴を上げて僕の後ろに隠れる。

……何故に僕。

……それにしても……

 

 

「……ハロルド。『コレ』って一体…」

 

 

「ウィルが持って帰ってきた赤い煙に包まれてたコクヨウ玉虫よ」

 

ハロルドのその返答に、嘘だと思ってしまう。何故なら、当初僕がウィルに見せてもらったコクヨウ玉虫は、まるでてんとう虫を思わせるような色合いの虫であったが、今ハロルドが見せているソレは、その色合いは無く、虫とは思えない程の岩のような甲殻に身を包まれたモノだったからだ。

 

 

「あぁ。先に言っとくけど、嘘じゃないわよ。ちゃんとウィルやリタも見てるし。それに面白いわよね。この虫、目や耳、口や鼻とか元々あった生物にあるべき物が無くなってるもの。まるで別の世界の生物みたいに」

 

本当にさも楽しげな表情を浮かべるハロルド。……本当にある意味マッドサイエンティストというか何というか……。

 

それにしても…『生物にあるべき物がない』、『別の世界の生物』…か。

……待てよ。このコクヨウ玉虫にそんな特性がある訳ない。あるとすれば……『赤い煙』!?

 

 

「ねぇ、ハロルド!この特性ってさ……もし人間に起こったら――」

 

 

「アンタが思ってる事はコッチも現在調査中よ。でも、もし発生すれば…害があるのは確実ね」

 

 

そう言った後「んじゃ、まだ観察は続けるから何か分かり次第言うわ」と言って鼻歌混じりに研究室に戻っていくハロルド。

 

 

コクヨウ玉虫に起こった謎の現象……もし本当に『赤い煙』が関連してるなら…ジョアンさん、大丈夫だといいんだけど…。

 

 

「………ところでさ、イリア。そろそろ離れてくんない?」

 

 

「行った!?あの虫とハロルド、本当に行ったのっ!?」

 

 

「行ったからさ、マジ離れて下さい」

 

 

別に嫌って訳じゃないけど……そろそろ爪が食い込んで痛いんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

「――では、宜しくお願いします」

 

 

 

「――はい、分かりました」

 

 

ホールに戻って見るとやけに髭が特徴的な老人が依頼を頼んで出て行っていた。

――あれ、なんかジョアンさんの時とデジャヴ…?

 

 

「えっと、アンジュ……さっきの老人は?」

 

「あら、衛司。さっきの人はモラード村の村長のトマスさんといって、何でも村で捕まえた魔物をカダイフ砂漠のオアシスまで搬送して逃がして欲しいらしいのよ」

 

 

「捕まえた魔物を……?……そう言えばモラード村って確か……」

 

 

「えぇ。ご想像の通り、ジョアンさんの住んでる村よ。さっき聞いておいたけどジョアンさん、元気に村の仕事を手伝ってるみたいよ」

 

 

僕の問いにそう答えて、どこか安心した笑顔を浮かべるアンジュ。確かに、あの煙で本当に元気になったか不安だったが、元気だと分かれば安心するだろう。

…………あくまで村長の話が『本当であれば』だが。

 

 

「……アンジュ。その魔物の搬送依頼、僕も受けるよ」

 

 

「あら、本当?…でも、大丈夫?あなた、一応病み上がりでしょ?」

 

 

「うん。でも病み上がりだからこそ、リハビリ感覚で依頼をやっていかないと体が動かなくなるからね。それに……気になる事も出来たし」

 

 

アンジュにそう答えた後、先程トマスさんが出て行った方を見る。本来ならジョアンさんの無事は聞いたら普通に頷いていたが……流石に先程のコクヨウ玉虫の例を見た後じゃどうにも上手く頷けなかった。

それに……気のせいか何か嫌な予感がした。

 

 

 

――その後、まさかこの嫌な予感が本当に的中するとは僕は思ってもいなかった……。

 

 

 

 




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